揚げればいいってものじゃない
学生時代、夏休みにたっぷり日焼けをしてカッコよくなって二学期を迎えた人と、肌が赤くなってつらい思いをしただけの人がいただろう。ぼくは後者だ。
パンを揚げるとはそういうことだ。その味を大きく変えることができるが、日焼けが似合う人と似合わない人がいるように、揚げたパンがいつもおいしいとは限らない。
なかなかおもしろい実験だったので、これからは酔っぱらった席で「揚げておいしいパンって、なんだと思う?」と、隣の人に尋ねるようになると思います。
千葉の道の駅で、ロールパンを揚げて砂糖をまぶしたものが売られていて驚いた。ロールパンの揚げパンだ。これが食べたらうまかった。
揚げパンといえば、小学校の給食でたまーに登場した、砂糖ときな粉のかかったコッペパンの揚げパンが大好きだったのだが、それ以外の揚げパンの存在を考えたこともなかった。
ロールパンの揚げパンに、本当の「自由」を教えられた気分になったところで、いろいろなパンを揚げてみたいと思います。
※2010年1月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。
「揚げておいしいパンって、なんだと思う?」
こんなことを、宴会の席で隣に座ったちょっとした知り合いの酔っぱらいに問われたら面倒臭いなあなんて、一人で自問自答しつつ大量のパンを購入。
パンであふれた買い物かごをレジの人に差し出す。パンが大好きな人と思われたか、面倒くさい注文をされたパシリの人と思われたか。
揚げていく順番は、揚げ油が悪くならないように、プレーンなパンから試していく。
このなかにきっと、「ここではないどこか」ならぬ、「コッペパンではないなにか」があるはずだ。
今、自分の家にあるパンを下の一覧から選んで読むか、右下から順番に読んで、油まみれの追体験をしてください。
最初は冷蔵庫に常備されている食パンから。もしこれが抜群においしかったら、朝の台所の音が、トースターのチーンから、揚げ油のジューに一変するかもしれない。
コッペパン以外の揚げパンなんて考えたこともないとか書いたけれど、揚げた食パンを一口食べて、すぐに子供のころ、食パンの耳を揚げて砂糖をかけたものを母親が作ってくれたことを思い出した。
大人になって食べる揚げ食パンは、外はサクッと、中はモチっとしていた。それは白い部分があるからだ。
おいしいけれど、30過ぎにはやっぱり少し油っこいなと思った。でも昭和の子供ならきっと大好きな味だ。
おすすめテキスト度:★★★★(5つが満点)
油っこさ度:☆☆☆(5つが満点)
この企画の発端となったロールパン(うちではバターロールって呼んでいました)の進化形である、中にマーガリンが入ったネオバターロールを試してみる。バターロールなのにマーガリン入りとはこれいかに。
このパンは、もともと表面がキツネ色なので、揚げても見た目は表面のテカリくらいしかないが、持ってみると吸った油の分だけ確実に重くなっている。この企画が終わるころには、私の顔もこれくらいテカっているのかなと思った。
やはり砂糖はたっぷりとかけ、中のマーガリンまで一口で届けとばかりに大口開けてかぶりつくと、外からは揚げ油がジュワー、中からは溶けたマーガリンがジュワワーと、二種類の異なる油による挟み撃ちだ。これはいい。パッケージに「揚げて食べてね!」と書いておくべきだ。
揚げることでマーガリンが溶けて全部出てしまうのではと危惧していたのだが、よくできた小籠包の肉汁のように収まっていてくれた。これってどうやってマーガリンを入れたのだろう。
おすすめ度:★★★★★(5つが満点)
油っこさ度:☆☆(5つが満点)
今日用意したパンの中で、ぼくの中では一番ブルジョア度が高いのがクロワッサン。しかもハイクロワッサンだ。ハイオクマンタンでもハイクノオッサン(松尾芭蕉とか)ではない。
揚げても見た目の変化はほとんどなし。お酒に強い人みたいだ。
揚げたてを食べてみると、クロワッサンの生地に練りこまれているバターの香りが活性化され、これがなかなかよかった。ただ、食感が軽い分だけ、油っぽさとのバランスが悪いか。いっそ溶かしたバターで揚げてみたい気もする。
おすすめ度:★★★(5つが満点)
油っこさ度:☆☆☆(5つが満点)
Pascoは敷島製パンっていう会社名なんですね。
このイングリッシュマフィンというやつは、つい最近はじめて食べたばかりなのだが、こんがりと焼いたところにたっぷりとバターを塗って食べると、とてもうまいのだ。
バターとの相性がいいのなら、揚げて食べてもおいしいはずと思ったのだが、油をぜんぜん吸わなかったためか、物足りなさがすごい。
しかし、揚げることでモチっとした独特の食感になるので、砂糖をかけるよりも、ハムとかチーズを挟んで楊枝で止めて揚げればばっちりだと思う。想像するだけで、どっかの国にありそうな料理だ。
おすすめ度:★★★★(5つが満点)
油っこさ度:☆(5つが満点)
この商品はチーズ蒸しケーキとなっているが、いわゆるチーズ蒸しパンである。いつのころだかすっかり忘れたけれど、これが大流行をした記憶がある。もしかしたらクラス内とか家庭内でのトレンドだったかもしれないが、今でも好きなパンである。
チーズと油は相性がいいと思うので、かなり自信を持って油に投入したのだが、他のパンではほとんど出なかった泡がブクブクと大量に出て驚いた。
泡が落ち着き、北海道らしくきつね色に揚がったところで油から揚げようとしたら、イメージとは違うずっしりとした重量が箸から伝わってきた。水銀のように重い。
重さが1.5倍になったチーズ蒸しパンは、油で揚げたというよりも、油を吸わせたという表現がしっくりとくる味だった。どうやら泡の出る量と油の吸収量は比例するらしい。深夜のテレビショッピングではないけれど、なんて驚異の吸収力!
もうすぐ相撲の新弟子検査があるけれど、体重がまだ足りないとか、そういう特別な理由がない限り、これを試すべきではないだろう。
おすすめ度:★(5つが満点)
油っこさ度:☆☆☆☆☆(5つが満点)
ランチパックはちょっと他の菓子パンに比べて値段が高いので、大人になってから買うようになったパンである。
ご存知のように種類が豊富で、どの味にするか迷ったのだが、売上No.1と書いてあったピーナッツにしてみた。ほどよく溶けたアツアツのピーナッツクリームは、やっぱりうまかったが、期待したハードルを超えるほどではなかったか。
揚げた場合、ピーナッツクリームに対して、パンがバランス的に少なすぎるかなと、贅沢なことを思ったのだ。この揚げたランチパックを、熱いうちにさらに別の食パンで挟んで食べると、きっとちょうどいい感じ。
おそらく「富士宮焼きそば」とか「ピザソースアンドチーズ」などの、おかず的なランチパックも揚げたらうまいと思うので、ぜひランチパックの揚げパン比べをやってみたい、と思った方はぜひどうぞ。
おすすめ度:★★★★(5つが満点)
油っこさ度:☆☆☆(5つが満点)
アンパンを揚げるなんて、我ながらナイスアイデアと思ったが、たぶん高校生のころに売店で売っていたあんドーナツがアイデアのもとになっているなと、今書きながら思った。
あんドーナツは焼かずに生地を揚げて作るが、今回食べるのは焼いてあるあんパンを揚げたもの。結論をいうと、あんドーナツのほうがおいしい。
砂糖をかけた揚げアンパンは、そこそこあんドーナツに近い味なのだが、焼いたものを揚げるという手間が、味の上積みに貢献していないところが悲しい。
考えるに、アンパンを揚げてみた人は過去に何人もいたのだが、淘汰の結果、アンパンとあんドーナツが生き残り、揚げアンパンが歴史から消えたのだと思う。そういう味。
おすすめ度:★★(5つが満点)
油っこさ度:☆☆(5つが満点)
肉まんはパンではないけれど、揚げたらうまそうだったので、助っ人外人みたいな位置づけで加えさせていただいた。
肉まんの皮は揚げると色がきれいに変わってくれるので、あんパンとかに比べて、揚げがいのある素材である。
これは間違いないうまさだろうと思ったのだが、皮の表面がパリッと適度に油っこく、高速道路のサービスエリアなどでぜひ売ってほしい完成度。これは砂糖がいらないタイプの揚げパンだ。たぶんピロシキに似た味なのだと思うが、そういえばピロシキを食べたことがない気がする。
これを作る時に大切なのは、肉まんの下に付いている薄い紙を外すのを忘れないことである。
おすすめ度:★★★★★(5つが満点)
油っこさ度:☆☆(5つが満点)
セブンイレブンで買ってきたポテトサラダのサンドウィッチ。サンドイッチではなくサンドウィッチって書くと、なんだか髭の男爵にでもなった気分になりますね。
材料の組み合わせでいくと、ジャガイモとパンなので、コロッケみたいになるかなと思ったが、温かいポテトサラダを揚げた食パンで挟んだものの味だ。そのままだ。でもけっこう好きな味。
コンビニで買ったお弁当を温めてもらうと、付け合わせのポテトサラダも温まってしまうが、それが別に嫌ではないタイプなら、おいしく食べられると思う。
おすすめ度:★★★★(5つが満点)
油っこさ度:☆☆☆(5つが満点)
最後は初心に帰って、コッペパンの揚げパンで締めたいと思う。ただ、普通のコッペパンだとつまらないので、間につぶあんとマーガリンが挟まったものをチョイスしてみた。ジャムとかピーナッツが挟まっているものもあるけれど、昔からこれが一番好きだ。
コッペパンの揚げパンは間違いのないうまさだが、これには不安要素が二点あった。そのままだと天麩羅鍋に入らないため、半分に切る必要がある点、そして挟まっているマーガリンが溶けださないかという点だ。
このように不安はあるが、そこは野球でいったら先発ダルビッシュくらいに信頼を寄せているコッペパンだ。多少の問題があってもうまくまとめてくれるだろうと思って揚げたら、不安要素がそのまま表れる結果に。
二つにした切り口からは油がしみこみまくり、逆に挟まっていたマーガリンは熱で溶けて全部出て行ってしまった。マーガリンが出て、揚げ油が入ったので、計算上はイーブン、いってこい、というやつか。
恐る恐る食べてみると、揚げ油を吸いまくったパンは確かに油っこいのだが、それにあんこが加わると、中華料理の揚げ団子みたいで、味はそんなに悪くなかった。
おすすめ度:★★(5つが満点)
油っこさ度:☆☆☆☆(5つが満点)
学生時代、夏休みにたっぷり日焼けをしてカッコよくなって二学期を迎えた人と、肌が赤くなってつらい思いをしただけの人がいただろう。ぼくは後者だ。
パンを揚げるとはそういうことだ。その味を大きく変えることができるが、日焼けが似合う人と似合わない人がいるように、揚げたパンがいつもおいしいとは限らない。
なかなかおもしろい実験だったので、これからは酔っぱらった席で「揚げておいしいパンって、なんだと思う?」と、隣の人に尋ねるようになると思います。
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