技術はまだまだだ
納豆を自動でかき混ぜるマシーンが作ることができれば、人間とテクノロジーの関係が新しい境地に達すると思っていたのだが、それを作るのはなかなかの技術が必要ということがわかった。私はまだまだだ。くそー。
あと醤油を入れるのを忘れたので1時間かき混ぜた味のない納豆を食べることになってしまった。くそー。
朝ごはんはいつも納豆を食べている。「なんか健康に良さそう」という、とてもぼんやりした理由でだ。
納豆というのは、「かきまぜる」という行為が必須になってくるけれど、それに対して自らあまり深く考えたことがない。何回かき混ぜるのがベストなのか、かき混ぜないで食べるのはアリなのか。きっと混ぜる回数によって味が大きく変わるのに、今まで深く考えてこなかったし、回数を意識して混ぜることもなかった。
この世には、納豆を一万回混ぜた人がいる。「この世には」と、かなり大きく出てしまったが、その人は用賀にいる。用賀にあるイッツコムのデイリーポータルZ編集部の中にいる。古賀さんだ。
この記事はデイリーポータルZ開設17周年企画「名作カバーまつり」のうちの1本です。カバー元:納豆を一万回混ぜる(古賀及子)
古賀さんは、2005年に納豆を一万回かき混ぜたことがあり、その記事はインターネット史に残るほどのインパクトだった。
納豆を一万回混ぜたことの顛末が書いてある記事はこれだ。
記事が公開された14年前、私は11歳だった。
あまり友達がいなかったので、放課後は家につくなり、パソコンを開いて、おもしろフラッシュ倉庫とふみコミュニティとデイリーを何周も巡回していたのを覚えている。
新学期が始まる前の春休み。誰とも遊ばずに自室のパソコンでデイリーを開いたら「納豆を一万回混ぜる」というタイトルの記事が更新されていた。納豆を、1万回、混ぜる。大人になってもこんなことをやっていいのか、と、小学生の私はなんだかすごく励まされた気がしたのだ。
私も納豆を一万回混ぜてみようと挑戦したりもした。けれど、小学生の集中力である。100回目くらいで「めんどくせえ」と思ってやめた。
しかし、納豆を一万回混ぜた大人を画面越しに見たことで、人生の基盤に、なにか大きな衝撃を受けたのは確かだ。
大人の顔色を伺って「警察官になりたい」と言っていた将来の夢を「平日にプラプラできる大人になりたい」に変更し、それから時が経って、私はフリーランスのクリエイターとして平日の昼間に好きなところをほっつき歩ける生活を送れている。
夢が叶った。しかも、こうしてデイリーポータルZのライターにもなっている。すごいことだ。因果だ。
ただ、もし、14年前の私に会えるとしたら「平日にプラプラしていると、とてつもない不安と焦燥感に襲われるよ」ということを伝えたい。
そんな私の人生を左右した、一万回混ぜた納豆。画像がそれだが、見たことのない何かになっていて衝撃を受けた。きっと、私以外にもこの衝撃が忘れられない人も多いはずだろう。
そして、ある時、ふと思った。14年の月日が経ち、モーターやらなんやらを使ってマシーンを作ることがライフワークになっている今、「納豆を一万回混ぜるマシーン」を作ることができるかもしれない。
古賀さんのあの努力をかき消すマシーンを作れるはずなのだ。今の私なら、作れるのだ!
どうやって一万回かきまぜるか。考えたところ、モーターを使うのが一番近そうだった。
しかし、モーターをどう固定するか。それを考え始めたら壁によく分かんなくなってきたので、一回寝た。
もう一度起きて考え、ああ、あれをこうすれば、そしてあれをこうすれば……と、頭の中で完成してきたので100円ショップなどに行き材料を揃えた。
モーターの先端にいい感じにお箸を固定したら完成だ。
これが私の技術(スキル)を集結して作った「納豆を一万回かき混ぜるマシーン」だ。電源を入れてみよう。
どうだ。かっこいいだろう。アベンジャーズみたいだろう。
今の所、「これでかき混ぜられるのか?」という不安は80パーセントくらいある。
この発明品は、「一万回」ということがミソになってくる。どうやって一万回かき混ぜるのか。9999回でもダメだし、10001回でもダメだ。1万回ピッタリかき混ぜるために、センサーを使って回数をカウントし……なんて技術が私にあるわけない。
タイマーを使って測ったところ、このモーターは一秒間に2.5回の回転をする。10000÷ 2.5 =4000。4000秒回せば、1万回納豆をかき混ぜたことになるということだ。……そうですよね?
こういうのはなんていうのだろう。円弧のストロークが長すぎて、まったく納豆がかき混ぜられない。
むしろ、納豆パックの周りの虚無をかき混ぜている。時空を、かき混ぜている。現代アートか?
調整をし、やっと納豆をかき混ぜることができた。4000秒ということは、66分。1時間6分かき混ぜればいいのだ。
先ほどはモーターを手の甲に付けていたけれど、滑り落ちてくるので、手のひらで掴むことにした。
始まる前からボロボロである。ここで、ちゃんとかき混ぜられるのか、不安が90パーセントにまで上がってくる。
あとはもう修行のようなもので、タイマーが鳴るまで心を無にするのだ。
「いやこれ、あんまりかき混ぜられてないな」「なぜグローブ型にしたんだろう」という思いがどんどんこみ上げてくるけれど、そういうことも気にせずにとにかく1時間混ぜます。手が疲れてきました。
いい感じに混ざるように、手首を動かすチートをしながら1時間。とにかく納豆と自分の技術不足と向き合った。
頼むから、驚きのある姿になってくれよ……。
ふ、普通の姿だ。いつもてきとうに手でかき混ぜている納豆と、寸分の狂いもないものが1時間後現れた。
正直に告白すると、私は混ぜている間に悟ったのだ。ああ、設計を間違えたな、と。
泡立て器のように点で回すのではなく、軸を作って円を描くように回さなくては、納豆は綺麗に混ざらない。
そして、手の力加減もたいへん重要だ。つまり、納豆はモーターを使わずに手でかき混ぜるのが一番ということなのだ。
ということで、14年後のライターに全てを託すことにします。
納豆を自動でかき混ぜるマシーンが作ることができれば、人間とテクノロジーの関係が新しい境地に達すると思っていたのだが、それを作るのはなかなかの技術が必要ということがわかった。私はまだまだだ。くそー。
あと醤油を入れるのを忘れたので1時間かき混ぜた味のない納豆を食べることになってしまった。くそー。
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