隙があるのを見て見ぬふりをする
賢い読者はお気づきだろうが、隙がありすぎて取ろうと思えば取れる。しかし、この妖精さんの可愛さにたちまちノックアウトされて戦意を喪失するはずなのだ。
それでも横から取ろうとする人もいるかもしれない。……いや、そんな人はいない。ということにして、今日はもう疲れたので寝ます。
冷蔵庫に置いてあるプリンを誰かに食べられてしまう。古典的なシチュエーションだけれど、似たような経験をしたことがある人は多いのではないだろうか。
幼稚園の頃、姉の遠足のお菓子を前日に私が全て食べてしまい、姉が泣き叫んでいた光景は今でも忘れられない。逆に、食べようとしていたハーゲンダッツを姉に食べられていたときの心の傷は今でも癒えない。
我々人間は、人の食べ物を奪って悲しませたり、奪われて悲しんだりする生き物なのだ。
先ほどの私的な思い出からもそうだが、名ドラマである「北の国から」からもそれは読み取れる。閉店間際のラーメン屋で重めの告白をしている純とそれを聞く妹の蛍と田中邦衛が演じる五郎。閉店時間が過ぎ、「重めの告白してるなー」という雰囲気を察知できない店員は、純の食べかけのラーメンを下げようとする。
すると、五郎が「子供がまだ食ってる途中でしょうが!」と、怒るのだ。
店員がそれに驚いて持っていた器を落とし、そのまま厨房に戻ってしまう。割れた食器を蛍と吾郎で何も言わずに拾い集める。このせつなさよ。
確かに、いくら閉店時間であろうが、食べかけのラーメンを何も言わずに下げられたら誰でもキレるだろう。私だってキレるし、「先日、悲しいことがありました」と、漫画にしてツイッターにアップするくらいのことはするかもしれない。
冷蔵庫にレンジに圧力鍋だとか、うまい飯を作ることは発展しているけれど、ご飯を守ることに対してはどうだろうか。全く進化していない。だから、冷蔵庫に入れておいたプリンも、遠足のお菓子もハーゲンダッツもラーメンも、他人によって、いとも簡単に奪われてしまうのだ。
そこで私は考えた。ご飯を守るデバイスを作ろうと。
またかっこつけて倒置法をつかってしまった。いい加減やめたい、倒置法をかっこいいと思うのを。
それはさておき、どうやって飯を守ればいいのか。いろいろ考えてみた。例えば、ご飯を取ろうとすると包丁が落ちてくるとか、針山がせり上がってきて手に刺さるとか。
……しかし、これを現実にしてしまったら、ただの殺人未遂である。逮捕されて、食べることになる、臭い飯を。
もっと平和的な解決策を考えてみると、自分の代わりにご飯を見守ってくれるガードマンのようなロボット作ればいいじゃないか、と思いついた。
使うのは、この光センサーだ。すごく小さいものだが、明るさを検知することができるとても便利なやつだ。
ちょっと詳しく話すと、明るさによって抵抗値が変わる。その数値を「Arduino」というマイコンを使って読み取ることで、モーターなどを制御することができるのだ。
マシーンの仕組みとしては、敵がご飯を取ろうとしたとき、光が遮られて影になる。その影の部分に光センサーを配置し、明るさの変化を検知して、ロボットを動かすことを考えている。
光センサーとArduino、そして角度を制御できるサーボモーターを繋げ、プログラムを入れてみた。
センサーの抵抗値とモーターの角度が連動する仕組みなので、手を近づけるとじわじわモーターが動いていく。
ご飯を守ってくれるガードマンには、ダイソーで売っていたかわいい人形にすることにした。なぜなら、めちゃくちゃかわいかったからだ。
これが、「飯を守ってくれるデバイス」だ。どうだ。可愛いだろう。キュート中のキュートだろう。りゅうちぇるとぺこの家にあってもおかしくないだろう。きゃりーぱみゅぱみゅのPVにでてきそうだろう。
足にくくりつけた結束バンドによって、生贄にされている感が出てしまった気もする。ピーターパンにこういうシーンあったよね。
一見、無防備に見えるかもしれない。しかし、冷蔵庫に置いて、プリンを守ってみよう。
冒頭でも話したけれど、冷蔵庫に入れたプリンというのは誰かに取られてしまう危険性を常に孕んでいる。しかし、そのプリンをこのキュートなデバイスはきっちり守ってくれる。刮目してください。
プリンを取ろうとすると……。
ギュイーンというマシーンの駆動音と共に、必死にディフェンスしてくれるのだ。
はい、もう一度見てください。プリンを取ろうとすると……。
必死にディフェンスをしてくれます。
私はなんてキュートなデバイスを作ってしまったのだろうか。癒される。
先にYouTubeにアップしたのだが、「厚着をさせてあげてください」「寒そうです」といった人形目線のコメントがたくさんついた。世の中は優しい人だらけで嬉しいし、私は全く人形の気持ちを考えていなかったなと反省もした。
このデバイスさえあれば、純はラーメンを完食することができたのに……。そう思うと心が痛む。もしタイムマシンが開発されたら、私はこのデバイスを持って北の国からの撮影に飛んでいこうと思う。いや、やっぱり宝くじを買いに行こう……。
賢い読者はお気づきだろうが、隙がありすぎて取ろうと思えば取れる。しかし、この妖精さんの可愛さにたちまちノックアウトされて戦意を喪失するはずなのだ。
それでも横から取ろうとする人もいるかもしれない。……いや、そんな人はいない。ということにして、今日はもう疲れたので寝ます。
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