点Pを動かすことが、人生の豊かさなのか
「点Pが実際に動いた。そ、それで…?」と思わずにはいられない、今まで作ってきた何にもならない工作の中でも上位に入るものが出来て満足だ。
「点Pが動いたー!」と夜中に1人で喜んでいたが、こういう何にもならない工作が出来た瞬間が人生で一番嬉しいときなのかもしれない。
算数や数学の問題では様々なシチュエーションが存在する。
池の周りを歩く兄とあとから自転車で追いかける弟や、蛇口から水を注ぎつつ底から水を抜く容器などだ。
そんな中でもひときわ印象に残るものがある。それが、「図形の周りを動く点P」だ。
図形の、周りを、点が、動くのだ。どういう状況かよくわからない。
それなら、その状況を作ってみれば何かわかるかもしれない。点Pを実際に動かしてみたい。
こういう問題が数学に出てくる。
これは問題集も見ずに僕が記憶を頼りに作った問題だが、見覚えのある人はたくさんいるのではないだろうか。
とにかくPという点が長方形や三角形や円の周りを動くのである。点Pと点Qが同時に動く場合もまれにある。
りんごを等分することで割り算をイメージしやすくするように、抽象化した数式を具体的な例で説明するのは算数や数学の常套手段であるが、これは点が動くのだ。
点が動く様子なんて見たことがない。
見たことがないので、見てみたい。動かしたいのだ、点Pを。
その思いが結実した様子を見てほしい。
完全に点Pを動かすことに成功した。問題を解いたとき以上に晴れやかな気分である。
結果をお伝えすることが出来たので、今度は点Pを動かすまでの過程をお伝えしたい。数学でいうところの証明問題である。
動く点Pを作るにあたって、このようなポイントが求められた。
1つ目のポイントをクリアするために用意したのが、「Sphero(スフィロ)」というボール型のロボットだ。
中にモーターが入っていて、スマホで自由自在に動かせるのだ。
まさに点Pになるために生まれてきたようなロボットではないか。
これを手に入れた時点で動く点Pは9割がた完成のように思われるが、2つ目のポイントが問題だ。
この点がPであることがすぐにわかるようにしないといけない。
元のSpheroは外側のプラスチックが白く中のLEDが光るようになっている。
きれいだが、これは数学の点らしくないだろう。
黒く塗ってしまおう。
黒く塗ったら急に点らしさが増した。
ただかわいいロゴを削って上塗りしたので心が痛んだ。
動きをプログラミングすることも出来る教育用ロボットのはずが、急に「数学の問題に出てくる点」として人生を歩むとは思わなかっただろう。
しかし、ここまででは「数学の問題に出てくる点」のままだ。
点Pにするために、そばに「P」と表示しておこう。
Spheroは中にあるモーターがタイヤを回し、外側の殻を回転させて走る。全方向に回転するハムスターの回し車のようなイメージだ。
そして「P」を外側の殻に磁石でくっつけることで、回転を妨げないようにしているのである。
スターウォーズに出てくるBB-8というキャラクターがまさに同じような仕組みで、Spheroからもおもちゃが出ている。
このBB-8のおもちゃを黒く塗って点Pに転生させるという手もあったのだが、スター・ウォーズファンから怒りのフォース攻撃を受けそうなので自作することにしたのだった。
余談だが中に入れたネオジム磁石が強力すぎて、Pがうまいこと付くように針金の形を調整するのに苦労した。
針金を大きくすると磁力が付きすぎて殻が回らなくなるし、小さくするとすぐに針金が落ちてしまう。
点PのPはピーキーの頭文字だったのかもしれない。
ともあれこれで動く点Pが出来たので、あとは動かして楽しむだけである。
自由自在に点Pが動いていて笑ってしまう。
もう図形の周りに縛られる必要なんてない。これからは自由に動いてほしい。
「点Pが実際に動いた。そ、それで…?」と思わずにはいられない、今まで作ってきた何にもならない工作の中でも上位に入るものが出来て満足だ。
「点Pが動いたー!」と夜中に1人で喜んでいたが、こういう何にもならない工作が出来た瞬間が人生で一番嬉しいときなのかもしれない。
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