特集 2024年11月25日

日本にここだけ!鍵盤ハーモニカ工場を見学してきた

小学校のとき、音楽の授業で鍵盤ハーモニカを吹いたじゃないですか。あれ、なに使ってました?

僕の通っていた小学校、メロディオンだったと思うのだ。たぶん。確かめる術がないのだけど。メロディオンという響きにすごく覚えがあって。

あのメロディオンがどうやって作られているのか知りたい。その工場は、静岡県にあるという。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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小学校で使う鍵盤ハーモニカは「アルト」

訪れたのは静岡県浜松市にある鈴木楽器製作所。昨年創業70周年を迎えた、老舗楽器メーカーである。

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営業部の青山さん(左)、開発部の古庄さん(右)にお話を伺いました。

失礼します……と会議室に入ったら、既に歴代メロディオンがたくさん並べられていました。わぁ……と、ちいかわみたいな声が漏れる我々。

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歴代メロディオンがズラリ。一番左にあるのは、記念すべきメロディオン初号機「スーパー34」(1961~1966年ごろまで製造)

青山さん 昨年の創業70周年のとき、社内で「スーパー34」を探したんですが見つからなくて。「どなたかお持ちではないですか」と広く呼びかけたら、「このモデルならあります」と、たくさんお寄せいただいたんです。

メロディオンの歴史を感じさせるエピソードである。で、結局「スーパー34」は関連会社の倉庫から見つかったそう。やっぱり青い鳥って近くにいるんですね。

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お客様から送られたモデルのひとつ。ケースの裏には名前も書いてありました。実際に使われていたんだなぁと、しみじみ。

現在のメロディオンのラインナップは、主に「教育用」と「一般用」の2種類。学校で使われるものと、大人やプロが使うものに分かれている。

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教育用メロディオンのひとつ「MXA-32G」。そうそう、小学校で使っていたのこんな感じでしたよね。
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一般用の「PRO-44HPv2」を持たせてもらう。ピックアップマイク内蔵でアンプにもつなげられる、プロユースのエレアコモデル。かっこいい~。

どれくらい種類があるんですかと聞くと、教育用と大人用でトータル17モデルあり、カラバリを入れるともっとあるそう。そんなに。

青山さん モデルによって、鍵盤の数や音域がそれぞれ異なるので。小学校では32鍵のアルトが圧倒的に多く、幼稚園では27鍵盤の小型で軽いモデルも使われています。

リコーダーだと小学校はソプラノ、中学校はアルトだったけど、鍵盤ハーモニカは小学校からアルトなのだ。全然知らなかった。

そして鈴木楽器製作所では、ソプラノ(高音)と、バス(低音)のメロディオンもある。バスは他社にはない音域らしい。

青山さん 音楽教育の一環として「学校でメロディオンのアンサンブルをぜひ」と提案しています。バスのメロディオンが誕生したのが1972年なので、結構歴史があるんですよ。

バス B-24Cと、ソプラノS-32Cによるアンサンブル。バスの低さ!

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ハーモニカから鍵盤ハーモニカへ

そもそもどうして、鍵盤ハーモニカが学校教育で使われるようになったのか。話は1950年代までさかのぼる。

当時、音楽の授業で使われていたのは鍵盤ハーモニカではなく、普通のハーモニカだったそう。

戦後に制定された学習指導要領に器楽教育(楽器を使った音楽教育)が組み込まれ、1人1台楽器を持つことになり、なんやかんやあって「そんならハーモニカじゃない?」となったのである。

ハーモニカは小さいし、大量生産もできる。鈴木楽器製作所も、1953年(昭和28年)にハーモニカ製造業として産声を上げた。

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本社エントランスにある創業者・鈴木萬司氏の銅像。メロディオンを持っている……!

しかし、だんだん教育現場からお悩みが聞こえてくるようになった。ハーモニカ、教えるのが難しいのだ。児童がどこ吹いているか見えないし、先生も「ここ吹いてます」って見せられない。

そんなの最初に気付くのでは?と思うが、しょうがない。鈴木さんも現場からの声を聞き、代わりの楽器はないかと考えた。

そこで着目したのが、ちょうどそのころ日本に入ってきたドイツ製のボタン式ハーモニカ。これをヒントに開発に着手し、1961年にメロディオン第一号となる「スーパー34」が誕生する。

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改めてこちらが「スーパー34」。ボディは木製だったので「温湿度の変化で割れたり変形したりして、最初は返品も多かったらしいです」(青山さん)

とはいえ、「これ使ってよ!」と叫んでも、すぐに学校教育に採用されるわけではない。文部省に働きかけるなど、地道な普及活動が続いた。

青山さん 学校向けにセミナーを開催したり、先生方の意見を聞いて改良を繰り返したりしたみたいですね。1967年に、文部省の「教材基準」に鍵盤ハーモニカが採用されて、そこから全国的に普及した形です。

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蛇腹のホースを日本で最初に作った会社

で、この鍵盤ハーモニカ、実はほぼ同時期に競合他社も開発しているのである。国産鍵盤ハーモニカがたくさん生まれたのだ。

でも、どの会社の鍵盤ハーモニカにもこれがありましたよね……?

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これこれ、蛇腹式のホース。男子がブンブン振り回していたやつ。(写真提供:鈴木楽器製作所)

この蛇腹式のホース(卓奏唄口)、実は鈴木楽器製作所が日本で初めて開発したものなのだ。

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1966年製造の「M-25ジャバラ式唄口」が最初(写真提供:鈴木楽器製作所)

じゃぁなぜ、どの会社の鍵盤ハーモニカにも付いているかというと……。

青山さん 聞いた話によると、他社さんが直々に「この蛇腹のマウスピースを使わせてほしい」とお願いに来たそうなんです。でも前会長(※鈴木萬司氏)は、鍵盤ハーモニカが普及することを優先して、他社への利用を自由にしたみたいで。いい人なんです(笑)

古庄さん 古株の先輩方も、ほうぼうでそういう話をしていて、もはや伝説として残っているんですよ(笑)。愛を感じる話ですよね。

蛇腹だと曲げやすくて吹きやすいから、みんな欲しかったんだろうな……と思ったら、さらに大きなメリットがあるという。蛇腹だと「機器に水分が入りこみにくい」のだ。

えっ水分? 唾液……ですか……?

古庄さん いえいえ(笑) 息に含まれる水蒸気が、ホースの中で冷えて水になってしまうんですよ。水分が楽器の中に入ると傷んでしまうんですが、蛇腹にすれば溝に水分が溜まるんですね。

あの蛇腹には楽器を守る意味があったのか……! そんな大事な機能をもつものを自由に使っていいなんて、伝説になるわけである。

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ちなみに蛇腹式ができる前は、普通のストレートなホースをつなげて吹いていたらしい。当時の広告にもそんな写真が残っている。『日本の音楽教育』1963年版,音楽之友社,1963. 国立国会図書館デジタルコレクシン https://dl.ndl.go.jp/pid/9544546

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