冷やしたぬきそばが食べられない
冷やしたぬきそばが岐阜の名物らしい。
「たぬきそば」というのはお揚げの入った「きつねそば」からお揚げを抜いたものだろう。それが岐阜の名物なの?ほんとに?
これまで何度か岐阜に来る機会があったのだけれど、そのたびに冷やしたぬきそばを食べそびれていたのだ。


冷やしたぬきそばを出しているお店と僕の動ける時間とが合わずに、これまで何度も食べ損ねてきたのだった。はじめのうちはそれほど気にしていなかったのだけれど、食べられないとなると無性に食べたくなる。
冷やしたぬきそばについて、現在岐阜に住む友人と岐阜出身の友人、二人にそれぞれ聞いてみた。
「ありますね、冷やしたぬき。あれって名物なんですか?」
「冷やしたぬきですか、はい、食べますけど、珍しい?」
どちらも同じような反応だった。知ってはいるけど名物だとは認識していなかった、と。名物とは、その土地に暮らしていると見えなくなるものなのかもしれない。
そんな冷やしたぬきそばに焦がれる期間を経て、ようやく僕にもそれを食べるチャンスがめぐってきた。


お店の入口には天ぷら中華がおすすめ!と書かれていたが、天ぷら中華については前にライター江ノ島さんが食べ歩いていたのでそちらを読んでもらいたい。
あれも確かに美味そうだったが、僕は長いこと冷やしたぬきそばにフラれ続けてきたのだ。まずはその夢を叶えたい。
夕方だったからか、鼻息荒く入店する僕をよそに、お店にはまだ混む手前の落ち着きがあった。

味噌おでんも名物
注文した冷やしたぬきそばがやってくるまでに味噌おでんをつまんで待つことにした。これも岐阜の名物らしい。


五平餅を紹介した時にも書いたが、中部地方の人たちはどうもこういった木の棒にささった茶色いものを好んで食べているように思う。理由は知らない。美味しいからいいんだけど。
これが岐阜名物「冷やしたぬきそば」だ
僕がTシャツなので季節感がなくて恐縮だが、今は1月、寒い時期である。
本当だったら温かいうどんかなにか食べたいところだったが、運ばれてきた冷やしたぬきそばを見て腹の前で小さくガッツポーズをした。


ものすごく美味しそうなのだ。
まず目を引くのが色の黒いそばである。そういえば僕の生まれ育った愛知のそばも黒かったように思う。これはそばの実を挽くときに殻のまま挽くからなのだとか。子どもの頃はそばとはこういうものだと思っていたのだけど、そばの色も地域によって違うのだ。
それから玉子の黄身が乗っているのもめずらしい。名古屋だと鍋焼きうどんに玉子を落として食べるので、これもやはりこのあたりの好みなのかもしれない。


黄身を絡めてすすると、冷たいそばからふんわりといい香りが漂う。
温かいそばとかうどんだと、どうしても出汁に注目しがちではないか。冷やしたぬきそばは、美味いそば自体をダイレクトに味わうことができる食べ方なんだと思う。
天かすが軽くてつゆを絡めても最後までサクサクだったのもよかった。きっとこれ用に硬く揚げられているんだろう。


岐阜の冷やしたぬきそばは、たぬきのお揚げ抜きという枠を超え、独自に進化した逆にぜいたくな食べ物だった。けっして華があるわけではないけど、毎日食べても飽きない名物があるっていいなと思う。
柳ケ瀬アーケード街
ところでこの冷やしたぬきそばを食べた「大福屋」が位置するアーケードについてである。
岐阜には柳ケ瀬という巨大で迷路みたいなアーケード街がある。
柳ケ瀬のアーケード街は他県の商店街と同様、シャッターをおろしたお店も多いのだけれど、少しずつ再生しながら面白さを深めているように思った。
僕は地元ではなく何度か通っただけの印象なので間違っていたら申し訳ないが、歩いていても悲壮感というよりどこか期待感を感じるのだ。





柳ケ瀬を歩いていると、こういう街に小さなお店を持つのっていいな、と妄想してしまう。



岐阜、まだまだおもしろい名物が見つかりそうです。
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