岐阜の記憶
岐阜には岐阜タンメンというラーメンがあるらしい。
僕は子どもの頃に愛知に住んでいたので、隣県の岐阜には親に連れられて何度か遊びに来たことがある。
その時は五平餅を食べさせてもらった記憶があるのだけれど、岐阜タンメンは大人になるまで聞いたことがなかった。
そういえば岐阜といえば菊人形である。これは子どもの頃にも見たのを覚えている。
子どもの行動範囲は狭いので、近くに住んでいたといっても記憶にあることなんてたかが知れているのだ。大人になってから改めて訪れると、とぎれとぎれだった記憶の間を補完していくみたいでおもしろい。
岐阜タンメンを食べに行く
岐阜タンメンの本店は、岐阜駅からは少し離れた場所にあるらしかった。最寄り駅は名鉄の手力(てぢから)駅というかっこいい名前の駅である。
岐阜タンメンまでは手力駅からさらに30分ほど歩く。
住宅街を抜けると突然ド広い幹線道路が走っているのも、東海地方で育った身としては懐かしい風景だった。
この幹線道路沿いに岐阜タンメンのお店があるというので、遠くから見えていたでかい看板のあたりなのでは、とあたりを付けて歩いて行った。
そうしたら看板はタンメンではなくタムタムという模型屋さんだった。
模型屋TamTamの、道を挟んだ向かいくらいに目指す岐阜タンメン屋さんはあった。
看板にも「岐阜といえば…」と書かれている。現場ではエバンゲリオンみたいだなと思ったが、こうして冷静に眺めるとそんなこともない。
混むかと思って昼時を避けて到着したのだけれど、駐車場は絶賛満車中だった。お店の外まで列ができている。
案内にしたがって列に並ぶ。
横浜の豚骨ラーメンとか家系みたいに、お店から数百メートル離れても香りが堪能できる、みたいなことはまったくなく、店の前でもラーメン屋さんとは思えないほど無臭だった。
20分ほど並んだだろうか、僕は一人だったのでわりと早いタイミングでカウンター席に通してもらえた。活気のある厨房が眺められる一等席である。
カウンターには岐阜タンメンの説明書きが掲示されていた。
説明によると、愛知県で始めたお店だったが、あまりお客さんが来ずに岐阜に移転したとたん人気店になったのだとか。だから「岐阜の人に感謝タンメン」を略して「岐阜タンメン」としたのだという。愛知県出身者として反省するところが多い。
岐阜タンメンはトッピングと辛さを選べるようだった。まずはお店のおすすめに習い、野菜増量と味玉を選択。半チャーハンの付く「半チャンセット」にしてもらった。
厨房で力強く中華鍋を振りながら野菜を炒める店員さんの姿を見ながらラーメンを待つことしばし。僕の前に岐阜タンメンが運ばれてきた。
岐阜タンメンの正体は、豚ガラ塩味スープの細麺のラーメンだった。ニンニクがほどよく効いたスープに野菜と豚肉がたっぷりと沈んでいる。
スープが素直に美味しいのに加えて、具の豚野菜炒めもキャベツが甘くて存在感がある。これに柔らかめの細麺が混然一体となって、美味い鍋をシメまで独り占めしているみたいなぜいたくな気持ちになった。
一方、半チャンセットについてきたチャーハンは優しい味で、岐阜タンメンをがっちりと底支えしてくれていた。
この麺とスープならば、確かに何をトッピングしても合わないことはないのだろう。次来たらプロテインもいってみたい。
うっとりしながら食べ終えると、丼に「ストップ・ザ・交通事故」と書かれていて現実に引き戻された。
ここまでが岐阜タンメンの思い出だが、岐阜にはもう一つ忘れてはいけないラーメンがある。
そう、ベトコンラーメンである。