約束された珍道中
自宅で藁束子作りの練習を続けて、そして迎えた出発の日。手配してもらったチケットによると、成田からカタール航空で22時30分に離陸、ドーハにあるハマド国際空港を経由して、イタリアのミラノ・マルペンサ空港に13時55分到着予定。
これを私は約15時間半の大移動だと勘違いしていたのだが、チケットに書かれた時間は現地時間。日本とイタリアは時差が7時間(サマータイム)もあるため、実際はほぼ丸一日という超大移動だった。イタリアって遠いんですね。
佐渡の友人は別の飛行機。現地までの同行者は、イベントに出演する、まったく面識のないチンドン屋さんの二人だった。チンドンだけに珍道中ですねと思った。
旅の日程はナポリ二週間、ペルージャ―二週間の合計一か月。
ミラノ・マルペンサ空港駅からマルペンサ・エクスプレスに乗り込んで、ミラノ中央駅へと移動。そこからイタロという真っ赤な特急列車に乗り換えて、縦に長いイタリアを延々と南下してナポリを目指す。これがまた遠かった。
かっこいいホームに並ぶかっこいい電車、犬連れの乗客、有料のトイレ、バラバラの形をしたペットボトル、おもちゃみたいに思えるユーロ札とユーロコイン、買い方がわからないカッフェの自動販売機、、トランクの置き場に困っていたら「テツダワセテクダサイ」と日本語で話しかけてくれた優しいイタリア人、まったく聞き取れないイタリア語と英語のアナウンス。
移動疲れでぐったりしつつも、五感から伝わってくるすべての情報が新鮮なので、ずっとうっすら浮かれていた。
イタリアでの仕事内容
ナポリ会場は『Mostra d'Oltremare』という巨大展示場で、日本で言えばコミケとタイフェスを同時開催できてしまうくらいの規模感。
イベント全体の名前が『NAPOLI INCONTRA IL MONDO(ナポリ、世界と出会う)』で、その中に『FESTIVAL DELL'ORIENTE(東洋の祭り)』という括りの催しがあり、これが参加するイベント。その一角にある『AREA MOCHI』が、餅つき&藁細工ステージの場所となる。こういう情報は現地に行ってからすべて知った。
木曜夜中にナポリへついて、金曜日に設営をして、土曜日と日曜日がイベント本番。翌週の仕事は土日だけで、平日は全部お休み。ペルージャも同じスケジュールなので、仕事の日よりもオフの日のほうが多かった。
イベント当日、藁細工ステージの衣装である浴衣に着替え、なんやかんや大慌てで準備をして開場時間を迎えた。
すぐに入り口側からたくさんの人が流れ込んできて、その中にチンドン屋の二人が見えた。
飴細工職人が見事な手さばきで動物や花などを作り上げる。独楽職人は轆轤(ろくろ)を使って木を削るところから実演している。日本人でもなかなか見る機会のない日本の伝統技術だ。その間でイタリア語のおみくじを売っているというのもおもしろい。
この豪華パッケージをよくぞイタリアで実現させましたねと、心の中で拍手を送らせていただく。これぞ大人の文化祭。
藁細工のステージは一日三回。それ以外の時間はグッズの物販を手伝うのだが、言葉がまったくわからないのだから大変だ。数字の呼び方すらカンペを見ないとわからない。
偽札を掴まされることがあるので専用ペンでチェックするとか、鬼滅の刃や東京リベンジャーズがこっちでも流行っているとか、知らないことがたくさんあった。こういう体験を一度でもすると、膨大な種類の業務が発生する日本のコンビニで働いている外国人のすごさがよくわかる。
異国の地で働くのは大変だが、日本に興味を持ってもらうことが、こんなにも嬉しいことだとは知らなかった。そんな彼らにとって、この場にいる私は日本人代表の一人。精一杯の笑顔で「チャオ」「グラッチェ」とイタリア語で伝えて、さらに「こんにちは」「ありがとう」と日本語でも重ねた。