特集 2015年1月17日

自動販売機に行く手をはばまれ続ける二宮金治郎の像

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「横浜市西区の西平沼の交差点の近くに、とってもかわいそうな二宮金治郎さんがいるんです。どうしてこんなことになったのか、調べていただけないでしょうか?」はまれぽ.comへ、読者のいひでさんからこんな投稿が届いた。


調べてみると金次郎像が建てられた後、店の前を通る国道の拡張計画が決定したため、国道寄りにあった自販機が今の位置に移動されたから、ということがわかったのだった。

はまれぽ.com 河野 哲弥
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二宮金次郎像が存在しない!?

幕末の農政家、二宮尊徳(にのみやそんとく・たかのり)は、1787(天明7)年、農家の長男として現在の小田原市で生まれた。
幼少の頃の名前を金治郎(金次郎)といい、後に名字帯刀が許されたときに二宮姓を名乗る。従って、二宮尊徳、もしくは単に金治郎という表記が正しいのだろう。

しかし、ここでは一般的な「二宮金次郎」で統一させていただく。
小田原市の「二宮尊徳記念館」に立つ、二宮金次郎の像
小田原市の「二宮尊徳記念館」に立つ、二宮金次郎の像
さて、今回の依頼は、そんな二宮金次郎像についてのもの。

まずは、取材に先立って、この渡辺ビルの管理会社に確認の電話をしてみた。
すると、「うちにはそんな像はないよ、別の場所じゃないの」と言われてしまった。

しかし、現地へ行ってみると、自動販売機に行く手を阻まれ、行き場を失ってしまったかのような像があった。設置してある場所は、「渡邊直治商店」という瀬戸物店の一角。
問題の二宮金次郎像
問題の二宮金次郎像
自販機に隠れ、目立たない所にポツンと存在している。
なぜこんなところにあるのだろう。町の人は、この像のことを知っているのだろうか。

知っていたのは、3件隣の中華屋さんのみ

現地近くの、西平沼交差点を行き来する人に、像のことを聞いてみた。
しかし、全くと言っていいほど、その存在を知らないようだ。

最寄りの京浜急行戸部駅側(店舗向かって右側)から来ると、全く視界には入らないこの像。
同ビルに勤める人でさえ、その存在に気づかないのも、無理はない話なのかもしれない。
同店外観、左隅に金次郎像がある
同店外観、左隅に金次郎像がある
すぐそばの中華屋にも聞いてみた
すぐそばの中華屋にも聞いてみた
中華料理来々軒のオカミさんによれば、ご自身は、例の自動販売機でジュースを買うので、像のことは知っていたという。戸部駅は道の反対側にあるので、こちら側は人通りが少ないから、意外と町の人は気づかないのではないかと話していた。

そんな状況が分かったところで、いよいよ「渡邊直治商店」のご主人に、事情を伺ってみることにした。

実は、かつては売り物だった二宮金次郎像

対応いただいたのは、3代目となる同店のご主人、渡邊広光さん。
店は、主に陶器やガラス製品の卸(おろし)を行っており、一般客への小売りは扱っていないそうだ。
広光さんと金次郎さん、広光さんは左の方
広光さんと金次郎さん、広光さんは左の方
問題の像について話を伺ったところ、2代目の父親が30年以上も前に仕入れてきたもので、詳細は分からないそうだ。唯一分かっているのは、父親が同店で取り扱う信楽焼を仕入れに行ったついでに、小便小僧などと一緒に買い付けをしてきたということ。

当時はバブルで景気が良かったので、もしかしたら売れるかも知れないと、考えたそうだ。
実は、陶器の金次郎像なのである
実は、陶器の金次郎像なのである
粘土ならではの細かい造作も、各所に見受けられる
粘土ならではの細かい造作も、各所に見受けられる
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実は、かつては売り物だった二宮金次郎像

ところが、意に反して買い手は現われなかったようだ。

そこで倉庫にしまっていたのだが、1989(平成元)年、現在のビルに建て替えたのを記念して、今の位置へ設置したとのこと。店舗に対して像を横向きにした理由は、特にないそうだ。

だが皮肉にも同年、店舗の前を通る国道一号線の拡張計画が、横浜市より広光さんの元に知らされた。それまでは、問題の自動販売機は国道寄りに設置していたのだが、他に移せる場所もなく、やむなく同年に今の位置へ移動。こうして、金次郎は、行く手を阻まれてしまったのである。
国道拡張工事後の姿、ここに自販機を置くことはできない
国道拡張工事後の姿、ここに自販機を置くことはできない
お店の看板も、自販機に隠れてしまう結果になった
お店の看板も、自販機に隠れてしまう結果になった
なお、一部の地権者の反対などにより、当初5年で完成する予定だった国道の拡張工事は、いまだ終わっていないらしい。「どういうことなんですかねぇ」と、広光さんは眉を寄せていた。

像の向きを変えることはできないのか

では、金次郎像を別の場所に移動したり、正面に向けてあげたりすることはできないのだろうか。
広光さんに聞いてみると、「土台にしっかり固定してしまったんですよね」とのお答え。

これを崩すには、基礎の土台ごと壊さないといけないそうだ。
そのとき、瀬戸物で中が空洞の金次郎像は、破損してしまう可能性があるらしい。
セメントと金具で土台にしっかり固定されている
セメントと金具で土台にしっかり固定されている
細かな表現ができる反面、壊れやすいのが陶器の難点
細かな表現ができる反面、壊れやすいのが陶器の難点
しかし、自販機の陰で目立たなくなったことで、逆にイタズラや落書きなどはほとんどないという。
壊れやすい陶器製であるにも関わらず、約23年間無事な姿を残しているのも、このことが原因なのかもしれない。

従って、自動販売機を撤去する予定も、今のところないそうだ。

この像の希少性について

最後に、この像が持つ希少性について、簡単に触れておきたい。

一部の例外はあるものの、よく見かける金次郎像は、「着物を着て裾を出しているものは右足前、はかまの一種をはいて裾を入れているものは左足前」の意匠が多い。
着物の例(左)、はかまの例(右)
着物の例(左)、はかまの例(右)
この像は、着物なのに左足前である
この像は、着物なのに左足前である
ところが、この陶器製の金次郎像は逆なのである。同じ例は、小学校に残る最古の二宮金次郎像、「愛知県豊橋市立前芝小学校像」他数体しかない。もちろん、陶器製ということ自体が、大変に珍しい。

どうかイタズラなどをすることのないよう、日本で無二と思われる同像を、末永く見守ってほしいと願う。
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