特集 2014年11月28日

ある意味大切に扱われている古墳を見に行く

古墳が高速道路の高架下に!
古墳が高速道路の高架下に!
子供の頃は歴史の授業が好きではなかった。でも古墳の話はおもしろいと思った。だって偉い人が自分の墓作るために人民に盛大に土盛らせるんだよ?

なんだそれ。と思うと同時にちょっとわくわくしたのも覚えている。しかし、いままで実際古墳を見たことはなかった。

大人になってちょっと歴史に興味を持つようになったいま、見に行こう。高架下の古墳を。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:上に避けてるのが島根、横に避けてるのが鳥取

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そういえばぼくにも心当たりがあるぞ

古墳を鉄道が横切っちゃう
古墳を鉄道が横切っちゃう
先日当サイトで地主さんが「雑に扱われている古墳を見に行く」という記事を書いていた。おもしろかった。小学生の頃、こういう事例を見せてくれればもっと歴史に興味を持ったかもしれない。

っていうことを大人はよく言うけど、たぶん先生は見せてたと思うんだよね。忘れてるだけで。

ともあれこの記事を読んで、鉄道が古墳を横切っちゃうだなんて!と興奮して、そういえばぼくも雑に扱われてる古墳に心当たりがあるぞ、と思い出した。で、見に行った。
それがこの高架下古墳。このとうてい古墳的雰囲気ではない佇まいにぐっとくる。
それがこの高架下古墳。このとうてい古墳的雰囲気ではない佇まいにぐっとくる。
それは大阪府藤井寺市にある赤面山古墳という古墳だ。なんでこの古墳を知っていたのかというと、高架下にあるから。ぼくは「高架下建築を鑑賞する」という記事を書き、勢いで『高架下建築』という写真集も出したぐらいの高架下好きなのだ。だからだ。(以上、宣伝を兼ねました。よろしくお願いいたします)
きっかけは高速道路の脇の道がぷっくりしているのに気がついたこと。
ある日「おもしろい高架はないか」と地図を見ていたら(そういう動機で見るんです。地図を)、高速道路の脇に奇妙な側道をを見つけた。それが赤面山古墳を避けている道だった。
このように古墳を避けて道路がふくらんでいる。
このように古墳を避けて道路がふくらんでいる。
「カーブ注意」の原因は、古墳。楽しい。楽しいよね。楽しいんです。

それにしてもこの雑草の生え具合はどうだ。
言われなきゃただの雑草が生えた小山だ。
言われなきゃただの雑草が生えた小山だ。
地主さんの記事にもあったが、多くの古墳は雑に扱われている。この古墳もあまり手入れされていない感じだ。
高架から外れた部分だけ雨が当たって草ぼうぼうなのが、大事なんだか大事じゃないんだか分からない感じでいい。たぶん管轄的に高速道路会社も手入れできないんだと思う。
高架から外れた部分だけ雨が当たって草ぼうぼうなのが、大事なんだか大事じゃないんだか分からない感じでいい。たぶん管轄的に高速道路会社も手入れできないんだと思う。
いやー、ほんといいなこの高架下古墳。
いやー、ほんといいなこの高架下古墳。
さて、この高架下古墳、どうして高架下古墳になっちゃったのだろうか。そしてこれのどこが「ある意味大切に扱われている」のか。
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古墳界の渋谷駅前交差点

前ページまでの写真だと、まるで傍若無人に高速道路が古墳をまたいだように見えるがそうではない。

実はこのまわり、古墳だらけで避けようがないのだ。
ちょっと引いてみるとこの通り。
ここらへんは「古市古墳群」といわれる古墳密集地帯で、4世紀から6世紀に作られた古墳がひしめき合っている。古墳界の渋谷駅前交差点である。藤井寺市自身もこの古墳群を世界文化遺産にすべくPRしているぐらいだ。
上の現在の様子と同じ範囲の1961年の様子。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・MKK613/コース番号・C11/写真番号・210/撮影年月日1961/05/30(昭36)に加筆)
上の現在の様子と同じ範囲の1961年の様子。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・MKK613/コース番号・C11/写真番号・210/撮影年月日1961/05/30(昭36)に加筆)
この高架下古墳こと赤面山古墳のすぐ南には前方後円墳としてはその体積が日本一という誉田御廟山古墳が控えている。これは応神天皇の墓だ。

高速道路を通すにあたって、こういった有名どころの古墳を慎重に避けていった結果、どうしても避けきれなくて犠牲になったのが、規模としては弱小の赤面山古墳というわけだ。
北側にはすぐ小室山古墳というものがある。
北側にはすぐ小室山古墳というものがある。
そして南側には古墳界の強者誉田御廟山古墳。
そして南側には古墳界の強者誉田御廟山古墳。
こういった経緯を知れば、ぼくはもうがぜん赤面山派である。身長が高いというだけで女性にもてていた同級生たちを横目にテーブルトークRPGにいそしんだ160cmの青春。いま思えば「高いというだけ」でもてていたのではないということが分かるが、それはそれとして赤面山にシンパシー。やさぐれるな赤面山くん!もはや「赤面」がニキビを表現したものにすら思えてくる。

古墳界の渋谷駅前交差点

それにしてもなんでこんなに古墳が密集するのか。死んでも寂しがりやか。

そう思ってちょっと調べたら面白いことが分かった。
地形図で見るととても特徴的な場所に古墳地帯はある(国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」5mメッシュをSimpleDEMViewerで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
地形図で見るととても特徴的な場所に古墳地帯はある(国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」5mメッシュSimpleDEMViewerで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
上は地形図でこの古墳交差点の位置を見たものだが、こうやってみると、真っ平らな場所に一生懸命土盛った、って感じではない。
当該場所の拡大。古墳が列となっているところにうっすらと崖が見える。(同様に国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」5mメッシュをSimpleDEMViewerで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
当該場所の拡大。古墳が列となっているところにうっすらと崖が見える。(同様に国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」5mメッシュSimpleDEMViewerで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
高速道路が突っ切るのを阻むように列をなしている古墳群は、誉田(こんだ)断層という断層の上に位置している。これらの古墳は、どうやら断層によって隆起した小山を利用して作ったらしいのだ(参考→「前方後円墳研究会・活断層と古墳-2」など)。冒頭で「人民に土盛らせた」と書いたが、やっぱりそういう作業ってたいへんなので、なるべく楽な方法をとったということだ。

ものすごく神聖なものだと思っていた古墳が、まさかなるべく手を抜こうとした結果のものだったとは。急に古墳が身近に思えてきた。

ある意味大切に扱われている

で、タイトルの「ある意味大切」とはどういう意味か。
高架だっていっしょうけんめいなのだ。
高架だっていっしょうけんめいなのだ。
高架が覆い被さっちゃっているとはいえ、その高架も必死だ。上の写真を見ると、向かって右側の車線にはある柱が、古墳側のほうにはない。見れば古墳の上だけ桁がやんわりアーチになっている。

つまり、古墳を飛び越えるために柱と柱の間の間隔をここだけ長くしているのだ。これって決して簡単じゃない。お金もかかる。でもせっかくの古墳だからがんばったのだ。

ある意味これほど大事にされている古墳もないんじゃないか。高架下ファンからするとそういう風に思える。赤面山古墳がだれのお墓かは分からないが、あの世からこの見て「なんか、すまん」って思っているはずだ。彼はそういう男だ。たぶん。きっと。

そしてこのそばには別の「ある意味大切にされている」古墳がある。
この奇妙な円形の交差点。これ、真ん中実は古墳です。
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こちらも見に行った。住宅街の道路の正面に、いきなりこんもりと。
こちらも見に行った。住宅街の道路の正面に、いきなりこんもりと。
ほんらい十字路になるべきところが、古墳をよけてぐるりとラウンドアバウト。
ほんらい十字路になるべきところが、古墳をよけてぐるりとラウンドアバウト。
ぼくは何回か「鉄ラ」について記事を書いている。鉄塔しか立っていなかった場所が宅地開発されると「鉄塔ラウンドアバウト」ができあがる、というもののこと。この「古墳ラウンドアバウト」も発生のメカニズムは全く一緒だ。
宅地開発される前の様子。1948年(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・コース番号・M18-1/写真番号・47/撮影年月日・1948/02/20(昭23)に加筆)
宅地開発される前の様子。1948年(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・コース番号・M18-1/写真番号・47/撮影年月日・1948/02/20(昭23)に加筆)
高架ほどではないが、わざわざ道路を避けるための措置はたいへんだったろうと思う。
とはいえ近づいて見ると、なんというか、ふつうにいろいろ生い茂っちゃって古墳感はまったくない。まあほとんどの古墳はこんなもんなんでしょうねー。
とはいえ近づいて見ると、なんというか、ふつうにいろいろ生い茂っちゃって古墳感はまったくない。まあほとんどの古墳はこんなもんなんでしょうねー。
この古墳には碑が立っていた。内容は「周辺は宅地開発されちゃったし、調査満足にできてないので、分からないことだらけです!でも残ってるだけマシです!」というもの。担当者の歯ぎしりが聞こえてくる。
この古墳には碑が立っていた。内容は「周辺は宅地開発されちゃったし、調査満足にできてないので、分からないことだらけです!でも残ってるだけマシです!」というもの。担当者の歯ぎしりが聞こえてくる。
上の看板の解説にもあるように、先ほどの高架下古墳やこの蕃所山古墳ぐらいの規模のものは消えてなくなっているものが多いとのこと。高架にまたがれていたり、なんだか道路に囲まれちゃったりしているものの、やはりこのふたつは大切にされている方なんだと思う。

復活した古墳

さて、さらにもうひとつ。こちらは大切にされてるというか、なんというか。
これも赤面山古墳のすぐそば。断層利用組のひとつだ。
上の写真がそれ。これまで2つと違ってずいぶんとすっきりしている。
この古墳は団地の中に。期待が高まる。
この古墳は団地の中に。期待が高まる。
地図看板には公園として図示されている。
地図看板には公園として図示されている。
で、行ってみるとやはりいままでにないすっきり具合。ほんとに古墳かこれ。
で、行ってみるとやはりいままでにないすっきり具合。ほんとに古墳かこれ。
ほんとか、と思いながら近づくと確かに「古墳公園」の看板。ただしよけいな偏を入れて字を間違っちゃたらしい。
ほんとか、と思いながら近づくと確かに「古墳公園」の看板。ただしよけいな偏を入れて字を間違っちゃたらしい。
しかも登れるではないか。
しかも登れるではないか。
のぼった!古墳に!
のぼった!古墳に!
古墳にのぼれちゃっていいのか。いや、くだんの地主さんの記事でものぼってたのでいいのだと思うけど。でもなあ。

と思ったら。
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と思ったら、この古墳はレプリカだった。
現在の様子をあらためて。
同じ範囲の1948年の様子。たしかに同じ位置に古墳があるが……(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・コース番号・M85-1/写真番号・38/撮影年月日・1948/09/01(昭23)に加筆)
同じ範囲の1948年の様子。たしかに同じ位置に古墳があるが……(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・コース番号・M85-1/写真番号・38/撮影年月日・1948/09/01(昭23)に加筆)
同じ範囲の1975年。なくなってる!(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・整理番号・CKK748/コース番号・C26/写真番号・28/撮影年月日・1975/01/24(昭50))
同じ範囲の1975年。なくなってる!(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・整理番号・CKK748/コース番号・C26/写真番号・28/撮影年月日・1975/01/24(昭50))
なんといちどなくなっているではないか。

他のこれぐらいの規模の古墳の例と同じように、宅地開発で消滅してしまったものが、集合住宅として再開発され敷地に余裕ができたところで復活させたのだ。そういう例もあるのか!

わざわざ復活させるというのは、大事にされているというべきかそうではないと思うべきか。

日常の中の古墳

以上が藤井寺市の3大「ある意味大切に扱われている古墳」だ。

ただ、こういう再開発と先行する事情とのせめぎあいと折り合い、というのはぼくの大好物なので非常に楽しかった。が、同時に「保存ってなんだろう?」と思わされたよ。

と、思いながら駅に向かう道すがら、この街の「平常心で古墳」が目についておもしろかった。
地図にふつうに「古墳」って描いてて、ぼくとしてはけっこう衝撃。
地図にふつうに「古墳」って描いてて、ぼくとしてはけっこう衝撃。
駅にある地図ももっぱら古墳だし。
駅にある地図ももっぱら古墳だし。
関係ないけどこの警告味わい深かった。「大」「小」の表記もいいし、関東の人間としては「さすな」っていう言葉にぐっとくる。
関係ないけどこの警告味わい深かった。「大」「小」の表記もいいし、関東の人間としては「さすな」っていう言葉にぐっとくる。
あと駅前にあった歯医者に、歯に歯が生えている「歯の無限後退問題」の歯医者キャラがいた。そしてこの街では歯の形すら前方後円墳に見えてくる。
あと駅前にあった歯医者に、歯に歯が生えている「歯の無限後退問題」の歯医者キャラがいた。そしてこの街では歯の形すら前方後円墳に見えてくる。
そして駅に着いてみれば、ホームの後ろに古墳がどーん!
そして駅に着いてみれば、ホームの後ろに古墳がどーん!
古墳と住宅と線路のせめぎあい。つくづくすごい。
古墳と住宅と線路のせめぎあい。つくづくすごい。
この古墳の説明看板にあった周辺の古墳分布マップ。こうして見ると、道路や鉄道などのインフラがどうにかこうにか苦労して古墳の間をすり抜けて通されているのがわかる。ほんと面白いな、藤井寺市。
この古墳の説明看板にあった周辺の古墳分布マップ。こうして見ると、道路や鉄道などのインフラがどうにかこうにか苦労して古墳の間をすり抜けて通されているのがわかる。ほんと面白いな、藤井寺市。
ぼくにとって古墳の面白さは古墳それ自体じゃなくて古墳があることによって生じちゃう苦労や工夫のほうだった。子供の時歴史の授業で聞いた時は思いもしなかったが「街に古墳がある」というのはこういうことなのだなあ、と気づいた次第だ。

ほかの事例も見てみたい

実はこれら古墳の近くには有名な参道を鉄道が横切る神社もある。これについてはまた別途。
実はこれら古墳の近くには有名な参道を鉄道が横切る神社もある。これについてはまた別途。

肝心の古墳が作られた時代のことについては何も分からないままだが、高度成長期における古墳については分かってきた。ぼくにとっておもしろい「歴史」は結局これだな。

藤井寺市にはまた行きたいし、他の事例も見てみたい。あとここで生まれ育った方の古墳に対する感じ方を聞いてみたいです。「古墳あるある」とかあるんだろうか。
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