持ち帰ったフレーバーあんこを使ってみた
かぼちゃあん乗せフランスパン。
パンによってあんこの甘みが引き立ってよりおいしかった。
珍しい味のあんこを製造・販売している企業を見つけた。
ラインナップは果物や野菜のフレーバーにはじまり、ラムネや乳酸菌飲料をモチーフにした変わり種まで多種多様。
なぜ、色んな味のあんこを作っているのか?珍しいあんは、どんなレシピに使われるのか?製造元である老舗あんこメーカー・茜丸に突撃して聞いてきました。
※記事中ではフレーバーつきあんこを「フレーバーあんこ」と表記します。
※茜丸では 2020年10月現在、あんこ66種類、鹿の子11種類の合計77種を販売中。
愛知県出身の筆者は、名古屋のソウルフード「小倉トースト」が好きだ。
小倉トーストは、カリッと焼いたトーストにバターを塗り、その上に小倉あんを塗り広げた食べ物である。ベースがあんこなので、小倉トーストの味に変化をつけたいと思ったら、生クリームやクリームチーズを一緒に乗せたりと、あん以外の食材を使うことになる。
もっと他のアレンジの可能性はないか。いろいろ考える中で、「メインの材料であるあんこ自体に変化をつけられれば、アレンジの可能性が無限に広がるのでは」と思った。
バラエティ豊かなあんこを作ってるメーカーはないかな、と探してみたら、フレーバーあんこを作っている茜丸さんにたどりついたのだ。
茜丸さんは、今年で創業80年を迎える老舗のあんこメーカー。伝統的なあんこの世界で、なぜ斬新なフレーバーあんこを作ろうと思ったのか。とても気になる。
小倉トーストに心を支配された筆者は、埼玉県三郷市にある茜丸さんの工場に飛んだ。
まさか役員の方から直接話を聞けるとは。
さらに、茜丸さんが販売しているたくさんのフレーバーあんこも試食させてもらった。ユニークなフレーバーあんこの味を楽しみながら、茜丸さんとあんこについて根掘り葉掘り聞いてみた。
米田:そもそも、なぜフレーバーあんこを作ろうと思ったんですか?
北條:一つは、「他社に無いものを作りたかったから」です。
小倉あんを取り扱っている企業はたくさんあります。和菓子屋さんやパン屋さんなどあんこを使っているお店は、既に他の企業と取引されています。そういったお店は、取引先を変えることがほとんどありませんから。
米田:使っている製品に不満があるとか、特別理由がなければ変えないでしょうね。
北條:競合が多い中で勝とうと思うと価格競争になりがちです。そこで我々は、製品そのもの種類を増やすことにしたのです。
原材料として使うあんこが、うちにしかない味なら、かならず依頼がきます。お客様にも提案しやすいんですね。
米田:フレーバーあんこは競合に勝つために生まれたものだったんですね。
北條:あん自体のフレーバーがたくさんあれば、例えばあんパンだと中のあんこの種類を変えるだけでも別の商品になります。
他にも、「フレーバーあんは商品に取り入れやすい」という面があります。例えば、和菓子やパンでフルーツの味の商品を作ろうと思った時、生のフルーツを使うと足が早かったり加工が大変だったりしますが、フルーツのフレーバーあんを使えば扱いやすくなります。
フレーバーあんこを取り入れるだけで今までは難しかった味の商品を作れるのだ。
北條:あとは、商品に「視覚重視」が求められる時代になってきている中、カラフルでインパクトのあるフレーバーあんは、お客様にも喜ばれます。
米田:一石三鳥だ!
ユニークなフレーバーあんこは、苛烈なあんこ業界の競争を勝ち抜くために誕生したのだ。ここからは茜丸さんが開発した色とりどりのフレーバーあんこをお見せしよう。
見たことも食べたこともないあんこがどんどん出てくる。ここで紹介したのはごく一部で、茜丸さんで販売しているあんこは77種類もある。あんこのフレーバーや活用方法は、どのように編み出されているのだろうか。
米田:新しいフレーバーは、どこから生まれるのですか?
北條:問屋さんから要望をいただいてから作ることが多いですね。
例えば「トマトあん」。あんこは夏に売り上げが落ちるので、問屋さんから「夏でも売れるあんこを作ってほしい」と言われたことがきっかけです。
この「トマトあん」は茜丸創業80周年を記念して開発した商品でもあります。
できあがったあんこの取引は、問屋さんから和菓子屋さんなどに提案する、という流れが多いとのこと。
ちなみに、問屋さんからの依頼だけでなく、自社で自発的に開発したフレーバーあんこもある。例えばクリームソーダあんは、たいやき屋さんから依頼を受けて作った「ラムネあん」が大ヒットしたことを受けて、オリジナルで開発されたフレーバーだそうだ。
米田:作るのが難しいあんこはありますか?
北條:お客さんから依頼をいただいた場合は、お客さんの頭のなかに味のイメージがあって、そのイメージを再現するのが難しいです。ラムネあんも難しかったですね。フルーツのあんこみたいに、味が想像しやすいものではないので。
米田:依頼する側も理想の味を伝えるのにやきもきしてそう。
北條:一番難しいのは、海外からの依頼です。たとえば、香港のお店で売られている月餅に使用するあんこも弊社で作っていますが、香港の人の味覚は日本人とはかなり違うので、向こうの食文化に合う味を実現するのに苦労しました。
茜丸さんは、オリジナルのフレーバーあんこを作るサービスも展開している。基本的には業務用に作られるそうだが、どれくらいの量から依頼できるのだろうか。
米田:公式サイトに「オリジナルあんこ作ります」ってありますよね。個人でも頼めるんでしょうか?
北條:個人でも作れるけど量が多いからね(笑)。
最低ロットが150kgからです。ひとつの釜で250kgぶんのあんこが作れるので、150kgなら釜の半分くらい。あんこの量が少ないと、釜の中でうまく混ざりません。十分にかくはんできる最低量が150kgなんです。
米田:150kg…家庭用冷蔵庫には入りますかね?
北條:ちょっと入らないですね(笑)。ひとパック1kgで、これが150個分ですから。常温保存はできますが、賞味期限はあるので個人宅だとなかなか厳しいかと思います。
米田:150kgでいくらくらいの値段になるんですか?
北條:大体10万円くらいですかね。
10万円!!!がんばれば買えそう!!!
しかし、保存方法のハードルの高さを考えると、個人でフレーバーあんこを作るのはあまり現実的でなさそうだ。無念。
それでも、茜丸さんは業界の中でもかなり少ない量からあんこ作りを頼める珍しいメーカーだという。
米田:お店は、どれくらいの単位であんこを買うことが多いのですか?
北條:150kgは、お店にとってはそう大きな量ではありません。
例えば、一般的なたいやきやさんだとあんこを一日20kg、30kg使うんですよ。特殊なあんこでも一日3kgくらいは使うから、一ヶ月くらいで使っちゃう量じゃないでしょうか。
メーカーとしては150kgは小さいロットなので、単発で引き受けているところは少ないと思います。我々は単発でもあんこを作ることができるので、小ロットの依頼がたくさんあります。
個人でオリジナルあんこを作ることは難しそうだが、茜丸さんでは個人向けの500gサイズのフレーバーあんこも販売している。個人でパン作りを趣味にしているお客さんなどから人気なんだとか。
米田:茜丸さんは公式サイトでフレーバーあんこを使ったレシピを多数紹介していますよね。あのレシピは誰が考えているのですか?
北條:主に、個人でパン教室をやっている先生が考えています。
パン教室の先生は、パン屋さんのように、短時間でどれだけたくさん作れるかという生産性を重視する必要がない分、手の込んだレシピも提案してくれるんですね。パンの中に入れる、といったオーソドックスな使い方だけでなく、クリエイティブなレシピになるよう意識しています。
米田:これからもフレーバーあんこの種類は増えていく?
北條:増えていくでしょうね。年数品ずつは新しいフレーバーが出ます。今年の新商品はほうじ茶、トマト、和栗です。ちょうど今、新たに作っているのもあります。
現在進行形で新しいフレーバー作られているということにびっくりした。すでにあんぱん専門のパン屋さんができそうなほどの種類があるというのに、あんこという存在がなんなのかわからなくなりそうだ。
北條:パン教室の先生があつまるイベントをうちでやってて、そのとき一気にレシピを作っています。生徒さんも呼んでわいわい。楽しいですよ。
仕入れカタログはプロ向けに作っていますが、それでも誰が見ても楽しめる、作ってみようかなと思ってもらえるようなレシピを載せています。
種類豊富なあんこに、多彩なレシピ。組み合わせを考えるだけで、どこまでも活用の幅が広がりそうだ。最後に、一番聞きたかった質問をぶつけてみたい。
米田:小倉トーストにあうフレーバーあんこを教えてください!
北條:おすすめなのは夏みかんですかね。酸味があっておいしいんです。
弊社はバターとあんこを組み合わせた食品「あんバター」も商品として出してて、柚子味もあるんですよ。トーストを焼いたあとに塗ります。あんバターは定番の小倉あん、いちご、いちじく味などもあります。なんでも合うと思いますよ。
夏みかん!意外だがめっちゃ美味しそう!あんバターなんて商品があるなら既に勝ちが決まっている。
ただ、すべてのフレーバーあんこを試したわけではないそうなので、試し甲斐がありそうだ。小倉トーストの未来は明るい。
今回取材に対応してくださった北條さん、ありがとうございました!
取材協力:株式会社茜丸 https://www.akanemaru.co.jp/
かぼちゃあん乗せフランスパン。
パンによってあんこの甘みが引き立ってよりおいしかった。
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