ようやく目的の茶屋が見えてきた
気合を入れ直して再び歩いていくと、湧き水を汲めるスポットがあった。
案内板によれば、これは「弘法の水」と呼ばれる湧き水で、古くからここを歩く人々が水を飲む場所になってきたとのこと。よし、私も、と思ったら……。
仕方なくあきらめ、手だけ洗わせてもらった。
さらに頑張って登っていくと、道の脇に民家がちらほら見え出した。
と、前方に赤い旗が見える。どうやら目的の茶屋に着いたらしい!
だが、その前に、茶屋の手前が大阪府東大阪市と奈良県生駒市の境らしいぞ。
こんな風にはっきりとした県境を自分の足で行ったり来たりするのは初めてのことかも。なんだかうれしい。
ちなみに、デイリーポータルZの過去の記事で、県境に詳しいライターの西村まさゆきさんがまさにこの道をバイクで越えられていた(記事「大阪、京都、奈良のおすすめ県境とおすすめしない県境」)。
今読み返すと記事内の写真に私が行こうとする「峠の茶屋 すえひろ」もチラッと映っている。
西村さんは県境を確かめに来て、私は茶屋に飲みに来た。不真面目で申し訳ない。
「峠の茶屋 すえひろ」は高齢のご夫婦がやっているお店だった
さて、「峠の茶屋 すえひろ」に入ってみよう。
建物の中にテーブル席があり、庭のようになったスペースに露天の席も用意されているようだ。
しかし、まずは店内の方に座らせてもらい、いきなりという感じで缶ビールをいただいた。
グビグビと飲んで生き返ったような気持ちになり、テーブルの上に置かれたメニューを拝見。軽食や甘味など、色々あるようだ。
しかし、私が来たのは平日で、どうやら平日は限られたメニューだけを提供しているらしい。この店はご高齢のご夫婦でやっていて、週末や祝日は他にもスタッフの方が手伝いに来ているようだ。つまり、今日はあんまり手のかかるものは遠慮した方がよさそうだ。
というかそもそも、私が着いたのがちょうどお昼時ど真ん中という時間帯で、店内は割と混んでいた。後から来るグループもいる。私は時間がいくらでもあったので、気長にピークタイムが過ぎるのを待つことにした。
そんな私に、先に来ていたご常連さんが色々とこの辺りのことを教えてくれた。暗峠の名は、馬の鞍のような形をした峰だったからとか、昼でも暗いほどに鬱蒼とした道だったからとか、諸説あるらしい。ちなみに大阪側からこっちに登ってくる道はすごく急でしんどくて、反対に生駒側は傾斜がなだらかなんだそうだ。
缶ビールの2缶目をもらってしばらく飲んでいると、ようやくお店が空いてきた。この店の名物は野菜が16種類も入った「野菜カレー」らしいのだが、平日はご飯を炊いてないのだそう。そのかわり、カレーうどんならできるという。それをいただき、露天の席で食べることにした。
本当だ。野菜やキノコが色々入っているぞ。じゃがいもがホクホクして美味しい。これは沁みるな。
ああ、うまい。と食べ終えてあたりを見回したら、さっきまでの賑わいが嘘のようにお客さんは私だけになっていて、食器返却コーナーにたくさんの空の器がたまっていた。「食器を下げるのをお手伝ししてもいいでしょうか」と声をかけ、台所まで運ばせてもらう。
「あら、助かるわー」とお店の方が言ってくれて、こんな私でもお役に立てたことがうれしくなった。「これでひと息つけるわ」と、ご夫婦がさっきのお土産コーナーの椅子に座って、しばらくお話を聞かせてくれた。ライターをしていることをお伝えして、図々しくもいきなりのインタビューをお願いした。
お客さんが来るまで、お店のお二人にお話を聞く
お話を聞かせてくれたのは、「峠の茶屋 すえひろ」を営まれている山田末広さんと山田三佐子さんのご夫婦である。