沖縄の方言で「ゆーふるやー」と呼ばれる沖縄の銭湯。昭和40年のピーク時には沖縄に300軒あったそうだが、自宅風呂の普及によるお客の減少や建物や設備の建物老朽化、道路拡張による立ち退きで閉業が続き、現在は最後の1軒が営業するのみになった。
最後の1軒であり、本土の銭湯と比べてみるとひと味もふた味もちがう、これぞ沖縄ゆーふるやーである中乃湯(なかのゆ)が最高なのでぜひ紹介させてほしい。
中乃湯の顔シゲさん
沖縄本島中部の沖縄市にある中乃湯にやってきた。
壁に直接ペンキで店名を書くのも沖縄スタイルだろう。
一見すると普通の家のような佇まいだが、昔から沖縄の銭湯はこんなふうに小規模なものが多かったらしい。
中乃湯は入り口やベンチに塗られた水色のペンキとのコントラストがかわいらしい。
こちらが最後の銭湯を守っている店主の仲村シゲさん。シゲさんは先日90歳の誕生日を迎えたそう!
もともとは旦那様が1960年に創業されたが、亡くなられたあとはひとりでお店を切り盛りされている。この商売で息子さんを大学まで行かせたとか。
最近は少しお耳が遠くなられてはいるが、シゲさんは誰にでも優しく、おしゃべり好き。
お客さんたちがお風呂の後にシゲさんを囲んで湯上り後のクールダウンしていることも多く、旅行中に初めて来ました!みたいな人から、30年以上通っている人まで、常連さんだけでなく、だれでもウェルカムな雰囲気が居心地いい。
ちなみに何回通ってもシゲさんは「はじめまして」と挨拶してくれる。
入浴料は大人370円、6歳以上170円、6歳未満100円。
中に入ると番台というか受付があるが、使われているのを見たことはなく、だいたい入り口のベンチあたりにいるシゲさんに直接お金を払えばいい。
それでは、のれんをくぐって中に入ってみよう。
お風呂に入る
中に入ったら受付がある(使われているのを見たことはないが)。
右が女湯で左が男湯。
「わ」と書かれた板がかかっているが、銭湯芸術家ウエハラヨシハルさんの作品で、板ををひっくり返すと「ぬ」が書かれていて、銭湯の軒先に掲げられる「わ板」(沸いた=営業中)「ぬ板」(抜いた=営業終了)の意味があるらしい。
中にはいると、こうなっている。
写真では誰もいないからあまり違和感がないかもしれないが、通常は開けたらすぐ体を洗ったりしている人が目に飛び込んでくるので初めてゆーふるやーを訪れたときはびっくりした。
そう、沖縄の銭湯は脱衣所と浴場に仕切りがなくつながっているのだ。
ロッカーには一部扉が付いているけど鍵はない。でもすぐ隣で体を洗ったり、お湯に浸かったりしているので、泥棒される心配もないのかもしれない。
ちなみに女湯の脱衣所の真ん中にはベビーベッドが置かれているので、赤ちゃん連れでも安心である。
大人が5人も入ると膝がふれあいそうなぐらいの大きさで、満員になったときは少し恥ずかしいが、ここから居合わせた人同士で世間話に花が咲いたりする。
もちろん湯船は身体を洗ってからとルールがあるが、石鹸やシャンプーなどは設置されていないし販売もないので、自分で持ってこなければいけない。忘れたときは見かねた常連さんが貸してくれたりもするけど、忘れぬように。ちなみに筆者はタオルを忘れたことがある。夏だったので扇風機で乾かして事なきを得たが、冬は風を引いてしまうのでタオルも忘れてはいけない。
※追記)
設置も販売もないと思っていたアメニティだが、タオルと石鹸は貸し出しがあり、シャンプー/リンス/石鹸/剃刀/タオル(ないときもある)は販売しているそう。知らなかった!手ぶらで行けるの嬉しい!
シャワーはなく、蛇口からホースでお湯と水をミックスさせる。
お湯がけっこう熱いので冷水で薄めるのだが、出しっぱなしももったいないので使っては止めてまた調整して、とちょっと忙しい。
蛇口は座った時に頭ぐらいの位置にあるので、シャワーホースから直接頭を洗う人もいる。
お湯はうすい緑色。 中の湯のお湯は地下300mから汲み上げていて、シゲさんの旦那さんが掘り当てたる鉱泉だそう。
さわってみると滑らかで、お肌がツルツルになる感じがする。
湯船に浸かりながら。至福の時間すぎる。
最後の銭湯という不安
沖縄最後の銭湯として中乃湯を紹介しているが、シゲさんも90歳。
銭湯の仕事は掃除やボイラーの調整など重労働だと聞くし、いつか終わりが来るのではないかと、口には出さないけれど頭にはよぎってしまう。
しかし2023年秋に中乃湯は新たな展開を迎えた。
なんといままでシゲさんの体力的に14時〜18時までの4時間営業だったのが、約15年ぶりに夜営業として22時まで時間が延長されるという。
夜の部の立役者がシゲさんの後ろにいる鈴木花奈さん。
お孫さんでも親族でもなく、県外出身らしい。仕事で訪れた沖縄で、シゲさんと中乃湯に魅せられ「ここを残したい」という思いで、一念発起して仕事を退職したそう!その後、奈良で銭湯修行をした後に沖縄に戻ってシゲさんを説得してスタッフになったそうだ。湯を沸かすほどの熱い愛か。
花奈さんがスタッフに加わって、SNSも始まった。急に最新だ。
これからも最後の沖縄銭湯は続いていくのだ
ちなみに花奈さん。スタッフになって毎日顔を合わせているはずのシゲさんに「はじめまして」と挨拶されていた。
毎日たくさんの人が訪れる場所なのでもう顔は覚えないことにしたのかもしれない。シゲさんに夜の営業がはじまったそうですねと言うと「ふたりでやりはじめたからすごく助かっているし、楽しい」とおっしゃっていた。
いつまでもはじめまして、と挨拶して、懐かしい気持ちになれるお風呂に入る。
沖縄にはそんな最後の銭湯がある。
中乃湯
住所:沖縄県沖縄市安慶田1-5−2
定休日:木曜・日曜
営業時間:14:00〜18:00(昼の部)、18:00〜22:00(夜の部)
写真提供:カルマだん吉さん