特集 2023年8月8日

スズランテープを作る会社に「なぜスズラン?」を聞きにいったら60年目の新展開を迎えていた

運動会や体育祭の準備で、色とりどりのテープを細かく割き、ポンポンを作った記憶がある人も多いんじゃないだろうか。

そして「そのテープの名前は?」と聞かれたら、「スズランテープ」と答える人も多いだろう。

そういえば、あれってなんで「スズラン」なのか。そして、なんであんなに縦に割けるようにできているのか。

作っている会社に直接聞きにいったら、いま大変なことになっていました。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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スズランテープ売上ランキング

スズランテープ、なんとなく通称っぽい響きがあるけど、実はちゃんとした商品名である。製造販売を手がけるのはタキロンシーアイ株式会社。品川の東京本社におじゃましました。

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お話を聞いた長井さん(右)と大野さん(左)。大野さんが持っているのは、アグリ事業部の公式キャラクター「あぐ郎」くん。
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こちらがスズランテープのカラーバリエーション16色。おなじみの赤や青をはじめ、「若草」や「空色」といった中間色や、「金」「銀」まである。
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この日のためにポンポンを作ってくれていた大野さん。「2色を贅沢使いしちゃいました」と、ツートンカラーのポンポンを取り出す。

思わず「うわぁ」と声が出た。同行した編集部の橋田さんも「ポンポンの1本1本をクシで細かく割いたりしてね」と懐かしがっている。そうそう、静電気が起きると大変なことになるんですよね。

長井さん スズランテープの売上は、約6割が文具向けのものですね。毎年、運動会シーズン前の7月8月によく売れるんです。

完全にポンポンを作るための発注である。ここ数年はコロナ禍で運動会が中止になり、スズランテープの売上にも影響が出ていたそう。ポンポンがなびかない秋は寂しい

ちなみに売上ランキングは1位が白、2位が青、3位が赤。ワーストは下から茶、金、黒。

白が1位の理由について、長井さんからは「紐っぽいからですかね……」とのコメント。確かに、一番汎用性は高そう。

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売上ランキング上位3色と下位3色。上位はこのあと黄、緑、紫と続く。金がワースト2位だけど、銀は健闘しているのすごい。

スズランテープはもともと「普通の紐」

ところで、さっきの長井さんと大野さんの写真の後ろに、グループ企業がずらりと並んでいたのにお気づきだろうか。タキロンシーアイさん、めちゃくちゃ老舗&大企業なのだ。

スズランテープのあまりの身近さから我々はすっかり油断して当日を迎えており、受付で「大きな会社だ……」と正直うろたえたくらいである。

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最初はうろたえましたが、スズランテープ純正ポンポンを持たせてもらってニッコリ。

ここで改めて。タキロンシーアイ株式会社は、大正8年に創立された合成樹脂製品の大手総合メーカー。建築、土木、農業関連の資材や、樹脂板、包装資材などさまざまな事業を展開しており、従業員数は約3200名(連結)。

とはいえ、約3200名が総出でスズランテープを作っているわけではない。

スズランテープは農業関連の製品を扱う「アグリ事業部」にて、結束資材のひとつとしてラインナップされている。

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いただいたカタログは「農業生産資材 総合カタログ」。大地の恵みを感じる表紙。
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ビニールハウスに張る「農業用ビニルフィルム」などが並ぶなか、「結束資材」としてスズランテープがある。

ということはスズランテープって、もともと農業用に作られたものなんですか……?

長井さん そうですね。当初は、農業用のわら稲の代わりとして開発されたものでした。その後、一般的な紐として扱われるようになったようです。

でも今は6割が文具向けである。それはもはやアグリ事業部ではなくステイショナリー事業部ではないかと一瞬思うが、これには長い歴史がある。

スズランテープが発売されたのは、今から60年近く前の1962年のこと。当時は伊藤忠サンプラスという会社が、包装資材のひとつとして製造していた。

その伊藤忠サンプラスは、2005年にシーアイ化成と合併。さらに2017年、タキロンとシーアイ化成が経営統合して「タキロンシーアイ株式会社」が誕生した。

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つまりこういうことです。スズランテープ史の試験に出ます。

子会社化や経営統合があると、それぞれが扱う事業分野を整理することになる。

「普通の紐」として使われてきたスズランテープだったが、農業系に強いシーアイ化成のアグリ事業部に移されたタイミングで、「農業用途」として扱われることになったのだ。原点に返った形である。

長井さん アグリ事業部では、農園芸用の結束紐や、野菜結束用のテープも扱っています。一方で、タキロンシーアイには文具を扱う事業部はありません。なので、スズランテープは一番収まりのいい「アグリ事業部」で扱っているんです。

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ちなみにスズランテープの箱には、テープの色と同じ色で商品名が書いてあるそう。これは赤のスズランテープの箱だから赤い文字。
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白や青のスズランテープの箱もちゃんとあります(画像提供:タキロンシーアイ)
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「スズラン」と名付けられた理由

そういえば、スズランテープはなぜ縦にペリペリと簡単に割けるようになっているのだろう。あんなに割けるのはスズランテープかチーズくらいである。

もともと農業用に開発されたものですし、なんらかの目的があってこうしてるんですか……?

長井さん これは別に、割けやすく作っているわけじゃないんです。長さ方向の引っ張りに強くしようとすると、製法上こうなってしまうんですね。

「あえて割けやすくしている」ではなく、「結果的に割けやすくなっちゃってる」ってことですか……!?

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大野さんによれば「繊維が縦に入っているイメージ」だという。竹みたいに縦に繊維が並んでいるから、引っ張ってもビクともしないのに、幅方向に力を加えると割けやすい。そうなんだ!

じゃぁスズランテープはどんな製法で作られているかというと、その名を「インフレーション成形法」という。

インフレーション成形法では、溶かした樹脂を押し出して、空気を吹き込み、筒状に膨らませる。筒状になった樹脂を2つに折って巻き取ると、テープができるという段取りだ。

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一般的なインフレーション成形法のイメージ。樹脂を筒状に膨らませて、ペタンとつぶして二つ折りにし、最後に巻き取る。

こうすると、樹脂を「縦に引っ張って作る」ことになるため、繊維が縦に揃うようになるのだそう。おしぼりの袋なんかも同じ製法で作られているんですって。

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インフレーション成形法で作られた証拠に、スズランテープは長~い筒状になっている(大野さんが頑張って先端を開いてくれました)

スズランテープが筒状になっているなんて全然知らなかった。先端をパカッと開いた姿はまるで花弁のようである。

はっ。スズランテープの「スズラン」って、ひょっとしてここから取ったんですか……?

長井さん いえいえ(笑)。札幌の工場で生産がスタートしたので、当時の経営陣が札幌市の花である「スズラン」と名付けたと聞いています。その後も、サフランやマリヤン、ローズなど、商品名を「花の名前シリーズ」で付けられたようですね。

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ちなみに「マリヤン」は今でも結束資材のラインナップに存在しています。機械で自動的に縛るのがマリヤンで、人が手で縛るのがスズランという住み分け。

ところで、呼び名についてずっと気になっていたことがある。

僕は宮城県出身なのだけど、これを「スズランテープ」と呼ぶのは上京してから知ったのだ。なんならそれまで「ビニール紐」みたいにふんわり呼んでいた気がする。

長井さん 私もなんですよ。福島県出身なんですが、当時はスズランテープとは呼んでいなくて。こういうものを「スズランテープ」と呼ぶかどうかは、地域で差があるみたいなんですよね。

一方、東京都町田市出身の橋田さんは「昔からスズランテープって呼んでいた」という。うちの子どもたちも「スズランテープ」で定着してる。やっぱり地域差ってあるのかな……?

これはちょっと読者の皆さんのお力をお借りしなくてはならない。

「このテープをなんと呼んでいましたか?」

というわけで、取材後にデイリーポータルZのTwitterで、こんなアンケートを採ったのだった。

ほんの数日で760件近くも回答が集まった。すごい。皆さまご協力ありがとうございます。

まずは「このテープをなんと呼んでいましたか?」という質問から。

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「スズランテープ」が圧倒!

84.5%が「スズランテープ」「すずらんテープ」と回答。次いで「ビニール紐」「ビニールテープ」が9.0%という結果に(ちなみに「タフロープ」は積水成形工業の製品)

こうしてみると、地域毎に呼び名が異なるわけではなく、ただ単に「スズランテープという名前を知っていたか否か」ということになりそう。

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「その他」の少数意見はこんな感じ。「そもそも呼んだことがない」「なんとなくこう呼んでる」という人もいた。「しれひも」は謎ですね……。

では「スズランテープと呼んでいる人」と、「スズランテープ以外の名前で呼んでいる人」で、地域に差はあるのだろうか? 出身地を聞いた結果と合わせてみると……。

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「スズランテープと呼んでいる人」と「スズランテープ以外の名前で呼んでいる人」の地域分布

「スズランテープと呼んでいる人」の割合は東京と神奈川が多く、3位が北海道。さすが「スズラン」の由来の地である。

「スズランテープ以外の名前で呼んでいる人」は1位が愛知県。2位が静岡県で、合わせると「以外の名前で呼ぶ人」全体の約3割に及ぶ。中部地方で若干知名度に難があるのだろうか……?

ちなみに、東北地方は「スズランテープと呼んでいる人」のほうが優勢であった。僕と長井さんのほうがレアケースだったのかも……?

そもそも各都道府県の回答数がバラバラなので、あくまで参考程度のデータだけど、まとめてみると差があって面白いですね。

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いただいたコメントのほんの一部。全部紹介しきれなくてごめんなさい!

スズランテープへのコメントもたくさんいただきました。運動会や体育祭の思い出、静電気と戦った苦労、保育士さんからの感謝などなど……。発売から60年の重みを感じます。

⏩ 次ページに続きます

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