手芸に使われていることを最近知った
さて、ここまでスズランテープを「ポンポンを作るもの」として言及してきたのだけど、もうひとつ注目したい用途がある。手芸だ。
手芸の世界で、スズランテープのかぎ針編みがめちゃくちゃ流行っているのだ。
YouTubeには「スズランテープで編む簡単バッグ」的な動画がたくさんあるし、メルカリには完成したバッグが売られていたりする。
これってタキロンシーアイが仕掛けたんですか?と聞いてみると、お二人は「私たちも最近知ったんです」という。そうなんですか!?
大野さん 最近アグリ事業部でインスタを開設したんですよ。開設にあたって、事前に下調べのために「スズランテープ」で検索したら、たくさんバッグが出てきて……。
これは大変だ……!ということで、アグリ事業部のインスタでもスズランテープのバッグを載せることにした。
大野さん 社内で「作れる人いませんか」と呼びかけて、手芸を趣味にされている方に作ってもらっています。あと、一般ユーザーさんの作品をリポストで紹介していますね。
毛糸と違って、スズランテープは固さかあるから形がしっかり保てるし、水や汚れに強いので海やプールにも持っていける。カラーバリエーションも豊富だ。夏の編み物にぴったりじゃないですか。
長井さん 本当にすごいですよね。ただ、最近はお客様から「固くて編みにくい」「手が痛い」というご意見をいただくこともあるんですよ。そう言われてましても、ちょっと……。
「そんなこと言われても」である。もともと編むために作られたものではないし、柔らかくしたら今度は農家の人が困っちゃうだろう。
とはいえ、せっかく手芸に使われているのだから、このチャンスをなんとかしたい。
そこでタキロンシーアイが仕掛けたのが、「新色“くすみカラー”の発売」だった。
めちゃくちゃ弱腰で新色を発売
スズランテープの新色「くすみカラー」は、スズランテープ発売60周年を記念して2022年9月に発売されたもの。こちらになります。
僕はおじさんなのでよく知らなかったのだけど、ここ数年こうした彩度が低めの「くすみカラー」が流行ってるんですってね。高校生の娘に「くすみカラーのスズランテープあるらしいよ」って教えたら「マジで!」って言ってました。買いそう。
タキロンシーアイにとっても、「くすみカラー」はこれまでないタイプの色味。色が決まるまでは紆余曲折あったそう。
大野さん 「くすみ系のこういう色で」とサンプルを作ってもらうんですけど、戻ってくると色が濃いんですよ。「くすんでないです」と3、4回やりとりして。「ピンクならもうあるじゃん」みたいな意見もあったりなかったり……。
色の名前をつけたのも大野さんだ。オリジナリティを出すために「手芸店に行って、かぶってないない名前を探した」そう。
社内からは「この色がアケビ?よくわからない」という声もあったけど、「ご意見は頂戴しました」と知らん顔で押し切った。
こうして満を持して「くすみカラー」が出来たのだけど……。今度はどれくらい作ったらいいのか全然わからない。
なぜなら、今までずっと「農業資材」や「文具」として扱ってきたから。
長井さん 手芸は本業じゃないので、売れ行きの予測がつかないし、そもそも手芸店向けの販売ルートもなくて。余ったらどうしようってビクビクしながら、工場にも「一番小さいロットで……」って頼んでましたね。
こうして世に出た「くすみカラー」は、手芸ファンたちに口コミで広がり、ネット通販でじわじわ売れ、半年かけて最初のロットが完売。それでも注文は続き、一時期は「入荷次第発送」の状態になるほどだった(今は在庫が十分あるそう!)
大野さん 「店舗で買いたい」という声もたくさんいただくんです。こちらとしても店頭に置きたいのですが、どうしても流通任せになる部分もあり……。
長井さん 正直、まだ戸惑いのほうが大きいんですよね。
大野さん 「売りたいけどどうしよう」「ほしいと言われてるけどどうしよう」という感じで(笑)
長井さん みなさんのご期待に応えられるよう、いろいろ模索していければと思います。
60年目のメディアデビュー
取材後「こういう取材って過去にありました?」と聞いてみると、「ないんです。60年目のメディアデビューですよ」と長井さんは笑う。
そういえばスズランテープの写真を撮っているとき、大野さんは「スズランテープが日の目を見ている~!」と嬉しがっていた。
確かに、ちょっと裏方的な目立たない存在かもしれない。でもアンケートにはすぐに反応があったし、各地からスズランテープの思い出が届いた。
たくさんの人の記憶のなかで、スズランテープのポンポンが揺れている。それはとても素敵なことだなぁと思うのだった。
取材協力:タキロンシーアイ株式会社