特集 2023年8月8日

スズランテープを作る会社に「なぜスズラン?」を聞きにいったら60年目の新展開を迎えていた

手芸に使われていることを最近知った

さて、ここまでスズランテープを「ポンポンを作るもの」として言及してきたのだけど、もうひとつ注目したい用途がある。手芸だ。

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Instagramで「#スズランテープ」を検索すると、おしゃれなバッグがざくざく出てくるんですよ。

手芸の世界で、スズランテープのかぎ針編みがめちゃくちゃ流行っているのだ。

YouTubeには「スズランテープで編む簡単バッグ」的な動画がたくさんあるし、メルカリには完成したバッグが売られていたりする。

これってタキロンシーアイが仕掛けたんですか?と聞いてみると、お二人は「私たちも最近知ったんです」という。そうなんですか!?

大野さん 最近アグリ事業部でインスタを開設したんですよ。開設にあたって、事前に下調べのために「スズランテープ」で検索したら、たくさんバッグが出てきて……。

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長井さん「我々はアグリ事業部なので、手芸はノーマークだったんです」 大野さん「こういう需要もあるのか!って気付きましたよね」

これは大変だ……!ということで、アグリ事業部のインスタでもスズランテープのバッグを載せることにした。

大野さん 社内で「作れる人いませんか」と呼びかけて、手芸を趣味にされている方に作ってもらっています。あと、一般ユーザーさんの作品をリポストで紹介していますね。

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社内の手芸クラスタにお願いして作ってもらったバッグやコースター。カラフル。

毛糸と違って、スズランテープは固さかあるから形がしっかり保てるし、水や汚れに強いので海やプールにも持っていける。カラーバリエーションも豊富だ。夏の編み物にぴったりじゃないですか。

長井さん 本当にすごいですよね。ただ、最近はお客様から「固くて編みにくい」「手が痛い」というご意見をいただくこともあるんですよ。そう言われてましても、ちょっと……。

「そんなこと言われても」である。もともと編むために作られたものではないし、柔らかくしたら今度は農家の人が困っちゃうだろう。

とはいえ、せっかく手芸に使われているのだから、このチャンスをなんとかしたい。

そこでタキロンシーアイが仕掛けたのが、「新色“くすみカラー”の発売」だった。

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めちゃくちゃ弱腰で新色を発売

スズランテープの新色「くすみカラー」は、スズランテープ発売60周年を記念して2022年9月に発売されたもの。こちらになります。

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左から、「ソラマメ」「イチジク」「アケビ」「レンコン」の4色。アグリ事業部のことを知ってもらうため、色の名前は四季の農作物からとった。

僕はおじさんなのでよく知らなかったのだけど、ここ数年こうした彩度が低めの「くすみカラー」が流行ってるんですってね。高校生の娘に「くすみカラーのスズランテープあるらしいよ」って教えたら「マジで!」って言ってました。買いそう。

タキロンシーアイにとっても、「くすみカラー」はこれまでないタイプの色味。色が決まるまでは紆余曲折あったそう。

大野さん 「くすみ系のこういう色で」とサンプルを作ってもらうんですけど、戻ってくると色が濃いんですよ。「くすんでないです」と3、4回やりとりして。「ピンクならもうあるじゃん」みたいな意見もあったりなかったり……。

色の名前をつけたのも大野さんだ。オリジナリティを出すために「手芸店に行って、かぶってないない名前を探した」そう。

社内からは「この色がアケビ?よくわからない」という声もあったけど、「ご意見は頂戴しました」と知らん顔で押し切った。

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「イチジク」と「アケビ」でつくったバッグ。かわいい!

こうして満を持して「くすみカラー」が出来たのだけど……。今度はどれくらい作ったらいいのか全然わからない。

なぜなら、今までずっと「農業資材」や「文具」として扱ってきたから。

長井さん 手芸は本業じゃないので、売れ行きの予測がつかないし、そもそも手芸店向けの販売ルートもなくて。余ったらどうしようってビクビクしながら、工場にも「一番小さいロットで……」って頼んでましたね。

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「もう本当に恐る恐る作って」「インスタで『新色が出ます』って告知したのを、誰か気付いて……って祈りながら」。めちゃくちゃ弱気じゃないですか! 大丈夫ですって!

こうして世に出た「くすみカラー」は、手芸ファンたちに口コミで広がり、ネット通販でじわじわ売れ、半年かけて最初のロットが完売。それでも注文は続き、一時期は「入荷次第発送」の状態になるほどだった(今は在庫が十分あるそう!)

大野さん 「店舗で買いたい」という声もたくさんいただくんです。こちらとしても店頭に置きたいのですが、どうしても流通任せになる部分もあり……。

長井さん 正直、まだ戸惑いのほうが大きいんですよね。

大野さん 「売りたいけどどうしよう」「ほしいと言われてるけどどうしよう」という感じで(笑)

長井さん みなさんのご期待に応えられるよう、いろいろ模索していければと思います。

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とりあえずこの記事が「くすみカラー」の認知度アップに貢献できますように……!

60年目のメディアデビュー

取材後「こういう取材って過去にありました?」と聞いてみると、「ないんです。60年目のメディアデビューですよ」と長井さんは笑う。

そういえばスズランテープの写真を撮っているとき、大野さんは「スズランテープが日の目を見ている~!」と嬉しがっていた。

確かに、ちょっと裏方的な目立たない存在かもしれない。でもアンケートにはすぐに反応があったし、各地からスズランテープの思い出が届いた。

たくさんの人の記憶のなかで、スズランテープのポンポンが揺れている。それはとても素敵なことだなぁと思うのだった。

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カタログでも手芸用途をアピールされていました。カラフル。


取材協力:タキロンシーアイ株式会社

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