田んぼのレンゲ
今まで幾度となく見てきた馴染みの田んぼにレンゲが咲くなんて知らなかった。一時期は祖父母と一緒に暮らしていたので、知らないのは不思議なのだ。不思議である。


きれいだと思った。
花は色があるからえらい。茶色と緑色ばかりの自然の風景にパッと現れる刺激的な色、それが花。
今でこそスマホが何千万色・何億色と簡単に表示しくさるけれども、大昔は赤とか黄色とかを表現するメディアって花しかなかったんじゃないか。だから人類は花を愛でてきたのです。僕はそう信じています。

冒頭でレンゲが勝手に生えてくるという話を書いたが、元は種を撒いていたらしい。
そもそも、米の収穫が終わった田にレンゲの種を巻き、春に育ったレンゲの根や葉を土にすき込むことで土を肥やす農法があるのだ。そのサイクルを長年繰り返すなかで、いつからか地中に埋まった種がひとりでに育つようになったのだという。
レンゲは牛の餌にもしていたそうで、そんな話を聞くとおとぎ話のように思えるけれども、今を生きている人間の実体験なのだからおもしろい。



レンゲの蜜を吸う
それじゃあレンゲの蜜を吸おう。親指ほどの小さな花だから少しだけコツがいる。




かなり細やかな作業が要求されるが、一輪にいくつも花びらがついているので慣れてしまえばスナック感覚でポイポイいけるだろう。
さて、肝心の味の方はどうだろうか。匂いについて言えば、花畑全体で嗅ぐとはちみつのような匂いがしないでもないが、単体だと香りはあんまりしない。
味がしない


これがもう、びっくりするくらい味がしなかった。
子供の頃に吸ったツツジの蜜はもうはっきり分かるくらい甘かったけどなあ。花びらが小さいからかな。せめて不味くあってほしいもんだがね。
まったくの無味無臭で困る……あっ!!!!

そういえば、直前の昼ご飯にめちゃくちゃ味の濃いものを食べたんだった。付属の調味料もドバドバかけて。そりゃ舌も麻痺してなんにも感じないよ。
うがいをしてもう1回吸ってみることにした。

味も香りもしなかった。でもなんかフルーツの匂いがする気が……あっ!!!!

うがいをしたら唇が濡れて気持ち悪くなったからリップクリームを塗ったのだ。見事にその香料の匂いしかしないのである。いやはや、天然のものは製品に太刀打ちできませんな。
「昔はなんもなかったき蜜吸うこったい」と祖父は言っていたけれども、その「なんもなかった」とはガパオライスとリップクリームのことだったのかもしれない。
レンゲの花びらと比べてこれらは圧倒的に刺激が強い。日々こんなものに晒されていたら感覚がにぶるよ。
甘い蜜の吸い方が分かってきた

ここまで来ると慣れたもので、甘い蜜を吸うためのノウハウが確立してきた。
まず、あごをしゃくれさせて口を横に開き、舌先と唇の内側を離すことが肝要である。こうして舌先で花びらを迎えると、舌が余計な部分に触れていないぶん味に集中できるのだ。舌先に花びらが乗ったら前歯と舌で優しく挟み、花びらがちぎれない程度の力で蜜を吸うのである。
すると……

ほんのちょっとだけ甘さがわかった!砂糖の甘さとはまた別の甘さというか、漢方のような自然な甘さが微かにある。
食レポの定番ゼリフに「口の中で甘さが広がりますね」なんてのがあるけれども、蜜の甘さは可笑しいほど口の中で広がらない。舌先1ドット分だけが甘さを感じて静かに興奮している。味覚がバグったみたいでおもしろい。
味を知る前は吸い放題でハッピーじゃん!と思ったけど、実際はそんなにたくさん吸いたくならない。味を感じ取るのに集中を要するからかなり疲れるのだ。なのでもう吸いません。
花びらまるごとはうまい
あ、それならいっそ、花びら丸ごと食べてみるのもいいんじゃないかな。


勢いあまって花びらを丸ごと噛んで食べてみたら、シャキシャキいってカイワレ大根みたいな食感と味で美味しかった。でも茎ごと食べたら苦い思いをした。苦かった。
そうだな、花びらだけ集めてまとめて茹でたら箸休めの一品くらいになるんじゃないかな。せっかくだからそれもやっとこう。うまかったら特許だ。