特集 2019年10月29日

家庭用印刷機「プリントゴッコ」の思い出エピソードを集めてみた

使ってみたら久しぶり過ぎて記憶があやふや

「プリントゴッコに似てるというシルクスクリーン印刷を初体験する」という記事をちょっと前に書いた。

「シルクスクリーン印刷」がテーマの記事だったが、昔みんなが年賀状印刷に使ってた家庭用印刷機「プリントゴッコ」に思いを馳せすぎ、持て余してしまった。

なので今回はその思いを消化すべく、色んな人から集めた思い出エピソードをどさっと紹介しよう。そしてものすごく久々に「プリントゴッコ」本体にも触れてみた。

島根県生まれ。毛糸を自在に操れる人になりたい。地元に戻ったり上京したりを繰り返してるため、一体どこにいるのか分からないと言われることが多い。プログラマーっぽい仕事が本業。(動画インタビュー

前の記事:プリントゴッコに似てるというシルクスクリーン印刷を初体験してみた

> 個人サイト それにつけてもおやつはきのこ

今回は「プリントゴッコ」の話をしよう

「シルクスクリーン印刷」と「プリントゴッコ」はどちらも細かい穴が空いたスクリーンの上にインクを乗せて印刷する仕組みだ。

まず「シルクスクリーン印刷」というのはこういうもの。

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スクリーンの上にインクを置いて、ヘラを手前に引くと
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プリントされる!

そして「プリントゴッコ」というのは家庭用印刷機だ。みんなに当たり前に通じる気でいたが、広く使われてたのって今から20年は前で、どうも知らないヤング世代が増えてきてるので説明が必要らしい。(ガーン!)

年末が近づくとテレビでは「プリントゴッコ」のCMがバンバン流れ、機械自体は家電量販店だけじゃなくその辺の文具屋にも売られていたし、備品なんかはスーパーマーケットにも売られていたし、年が明けると「プリントゴッコ」で刷られた年賀状がたくさん届いたものだ。

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「プリントゴッコ」は、年賀状を印刷するために持ってる人が多かった(古賀さんの過去記事から写真拝借)

前回「プリントゴッコに似てるというシルクスクリーン印刷を初体験する」記事を書いた。私は「シルクスクリーン印刷」は初めてだったが、「プリントゴッコ」には馴染みがある。

なので、「プリントゴッコ」のノウハウを「シルクスクリーン印刷」に使えないか!? と、事前にTwitter(個人アカウント@skrimk0218)でこんな募集をしていた。

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そしたら、当時使いこなしてた人たちから続々と使いこなし方に関する思い出話が届いた。

前回の記事内では紹介できなかったが、せっかくなので「プリントゴッコ」にポイントを当てることにしたのが今回の記事だ。

いろんな人のハウツーや思い出話

「プリントゴッコ」は、インクの乗せ方によって印刷の出方もかなり違う。

インクの量や置き方によって色の出方も変わるので、自分が気に入ったやり方を習得して極めていくような感覚がある。

Twitterでもらったコメントの中に、そんなテクに関するものが多くあったので、ここでいくつか紹介しよう。

【簡単にできる「マーブル」や「ドット」】

二色のインクを割り箸で大まかに混ぜて偶然性のあるマーブル印刷をしてました。ホラー調する際に使いました。黒と金が好きでした。ゴージャスなポスター感が出ます。
隣同士の色が重ならないように版分けをして、多色刷りをしたり、マーブル模様になるようにさらっと色を混ぜたりしてました。
マスターの上に直接数色並べて絞り出し、箸などでザックリまぜて刷っていました。
点でインクをのせたり、大きめドットでのせたあとぐるっと混ぜてマーブルにしたりしていました。
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混ざり方がきれいだと嬉しいマーブル

「マーブル」は定番テクで、届いた年賀状がマーブルだらけだったという人もいた。確かによく見た記憶はある。

混ぜなければ「ドット」柄。配置やバランスを考慮しながら色を乗せるのは、結構緊張する。

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意外とこんなに上手く出来ない(プリントゴッコ付属マニュアルより)

【ちょっと難しい?「グラデーション」】

レインボーカラーを愛用していました。 版のうえに虹と同じ配列でインクをのせていきます。 グラデーションと違い境目をはっきりまっすぐ出したいので、インクとインクの間は少しあけてのせます。 こうするとインクが押されたときに色の境目がグニャッてなりにくかったです。
グラデーション摺りを多用していました! オーソドックスな暖色系→淡色(幅は細め)→寒色といった組み合わせが好きでした

この方法はやったことがないのだが、違う色のインクを混ぜ合わせて少しずつ違う色を作って、濃淡を表現する感じなんだろう。細かい作業だな……と感心してしまう。

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コツを掴むまで時間がかかりそう(プリントゴッコ付属マニュアルより)

【エンボス加工もできる】

黒(もしくは余りまくったインク)をプリントしたあとにエンボスのパウダー(メタリック系)をふりかけてインクの上にだけ残るようにはたき落として、最後に印刷面の裏側からアイロンをかけて完成!
金パウダー、銀パウダーを使って、なんちゃって箔押しを楽しんでましたね~。プリントゴッコ専用インクに反応するので、黒線画を印刷して乾かしたあと、付けたい色部分をベタ塗りした版を重ねていきます。明るい色→暗い重い色の順番ならまあそんなに失敗しません。最後に箔押しして仕上げてました。

全然やったことがなかったエンボス加工というのは、こういう立体的に膨らんだようなやつ。インクとパウダーが反応してこんなプクプクになるのか……不思議。

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プクプクしてる(これはうちにあったエンボス加工サンプル)

 【うっすら見える柄】

シルバーやピンクなど淡い色で先に楽譜とか英字新聞とかのコピーを地柄として刷っておいてから、上に文字や絵柄を重ね刷りするのがカッコいい気がして多用していました。
当時高校生で、好きな漫画の1ページを淡い色2色くらいで格子っぽく混ぜて背景にして、メインのイラストを黒で上から捺す2版刷りやってました。お金がなかったのでそれが限界でしたが余裕あれば3~4版重ねたかったのを覚えてます。

薄めに背景をプリントして、その上からメインをプリントする手法だ。それはそうと、背景に英字新聞ってあの時代っぽさあるなぁ。 

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1刷目は背景、2刷目がメイン(プリントゴッコ付属マニュアルより)

次は背景の柄をはじめに刷るのではなく、ちょっと違うやり方。

インク自体を混色せずに、版下原稿にスクリーントーンを用いることで、印刷物上の多色刷りで色の濃淡表現してました……。水色のベタ刷りの上に、濃い青のグラデーションのスクリントーン原稿重ねて、波に陰影つけたりとか。浮世絵の技法に近いですね。

「ベタ刷りの上に」ってことは、メインをまず印刷して、上からうっすらと影を付ける手法。難しそうというか、もう芸術の域では。

【そんな使い方も……!?】

昔コスプレをしていた頃、今ほどコスプレ用品も生地も種類がなくて、金田◯少年の事◯簿(90年代のドラマ版)の制服(男子用のズボン)のチェック模様をプリントゴッコで布にプリントして衣装作ってました。
一回にプリントできるのはハガキサイズなので、ひたすらペタペタ… チェックもただの白いラインじゃなくて、白、黄色、紺の3色だったので色替え3版 それぞれプリント→乾かす→2版プリント→乾かす…(×縦横)が必要だったので手間がかかりましたが、本物そっくりの仕上がりになりました。
当時は今ほどコスプレ人口もいませんでしたが、長くコスプレやっている方からも、流石にプリゴで布の模様から作る奴は初めて見た、と言われました。

そ、そんな用途が! しかもズボンって! かなりの根気だ。すごい。ハガキに刷るときと同じインクだったらしいが、たくさん汗をかいたらどうなるんだろう……。

【テクを高度に使いこなした版画作品】

テクニックのみならず、アート作品まで送られてきた。「プリントゴッコ」ってこんな世界もあったのか……!

トレスで色ごとの版を作って多色刷り版画みたいなのを作っていました。18年壁に掛けていましたが紙は退色しちゃったけどインクの色はまだ結構残っています。(@reina_hさん)
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「プリントゴッコ」ってこんな表現できたのか……! これで8刷ぐらいらしい(@reina_hさん作)

つぎはプリントゴッコで版画制作をしてた方。どんな活動なのか詳しく聞いてみると、こんな返事が返ってきた。

当時新孔版画展という、アートなコンクールもプリントゴッコでやっていました。その第3回の協会賞、手作りの絵はがきコンクールというプリントゴッコのコンクールは3回、金賞を頂きました。(泉明美さん
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「プリントゴッコ」で製作した版画作品(泉明美さん作)

「プリントゴッコ」が販売終了になってしまった今、こんな手法の作品づくりを始める敷居はぐっと上がってしまったのでは。そう思うと残念だ。

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【テクニック以外のあれこれ】

次はテクニックや作品そのものではなく、エピソードを紹介。

版を分けずに一枚に無理やりインクを多色置いたら、妙な混ざりかたをしました…。
多色刷をしたいのに版が足りなくて、色が混ざらないようにする細いスポンジでちまちまブロッキングして必死で刷りあげてました。

こういうのは自分にも身に覚えがある。「プリントゴッコ」は1回版を作るごとに消耗品の豆電球2つを消費するので、ケチって1刷で済まそうとする。けど色は多く使いたいし……と思って、無理矢理一度に色を詰め込むのだ。「なんとか上手くいくんじゃないか!?」と試しては失敗してた覚えがある。

あとはこんなエピソード。

同窓会の返信葉書を300枚ほど印刷したとき、うっかり自分の部屋に並べていたらスペースがなくなって身動きが取れなくなりました。意外に乾くのに時間がかかります。まず「版」が300枚も保たないということが、やってるうちにわかりました。

そうだったのか。版がダメになるレベルの枚数も刷ったことなかったから、何枚ぐらいが限度なのか考えたこともなかったな……。

そしてこんなのも。

当時小学生だったので大した使い方はしていませんでしたが、ピカッとした後の電球をマラカスにして遊んでいました。

あの焦げ臭さが残る電球で遊んだことはなかった……! ある一定の年齢以上になると、思いつかない使い方だなぁ。

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使用後の電球はほんのり焦げたような匂いがする

【当時、実演販売をしてた人から聞いた話】

「プリントゴッコ」の実演販売の経験がある知人に話を聞けた。

そもそもプリントゴッコって、年末以外にも買う人いたのか聞いてみたところ、

  • 「暑中見舞いにも使えますよー」とか言ってたけど、売れるのはまず年末だった。
  • 消耗品は年中、店頭に置いてたけど、実演とかするのも年末。

やっぱりほとんどの人にとって「年賀状を作るためのマシーン」だったことが分かる。

年賀状という年にたった一度のために機械がものすごく売れてたなんて、近年では考えられないことじゃないか……!?

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こんなに「一年おきに使う」という想定で書かれてていいものなのだろうか

ついでに、

  • 実演ってお客さんに見せるようにやるから、通常の使い方と向きが反対になる(通常は自分の方にフタを押すけど、実演ではお客さんのほうに押す)。だから、自宅で使うときも逆向きのほうがしっくりきた。

とも言っていた。

誰に見せる訳じゃなくても、そうなるものなのか。慣れってすごい。

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プリントゴッコで遊ぼう

色んな人から届いたコメントを読んでるうちに、「プリントゴッコ」で遊んでみたくなった。

私は98年頃まではこれで年賀状を作ってたんだっけ……。ということは、生まれた子が成人してるレベルで久々じゃないか! ヒー、時の流れ!

久しぶりすぎて使い方も忘れており、作業の進み方も結果もグダグダだ。敢えて最初に言っておこう……。この先の展開、グダグダですよ、グダグダ。

まず本体をどうやって入手手段したかというと、持ってる人が身近にいたので譲ってもらえることになった。

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わー、プリントゴッコがきたぞ! 持ってきてくれたよしださん。販売終了した数年後の2011年頃に売れ残ってたやつを買ったらしい

そしてもうひとり、友人のタナゴさん。タナゴさんは、以前パチスロのパネルデザインを「シルクスクリーン印刷」でやっていた。

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シルクスクリーン印刷されたパチスロのパネル。今持ってるのはタナゴさん作ではなく、コレクションのひとつらしいが
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これはタナゴさんが仕事で作ったもの
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スロットのあのまわる部分か! これが一番多くて17刷らしい

「シルクスクリーン印刷」でこんなのを作ってた人に「プリントゴッコ」で遊んでもらったらどんなものができるんだろう!? という見てみたさから、誘ってみた。

今回プリントゴッコで印刷する用の版も、夜なべしてたくさん作ってきてくれた。

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3Dメガネをかけると飛び出したり飛び出さなかったりするらしい。たのしみ!

原稿・製版づくりをしよう

まずは原稿づくり。やり方は2通りある。

  • カーボン(炭素)入りの筆記用具で手描きする
  • 白黒コピーして原稿を作る

カラーコピーはダメと書いてあったので、あくまで白黒コピーだ。

私のほうはというと、今回もTシャツに絵柄をプリントしまくろうともくろんでいる。

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今回もファラオの絵柄を持ってきた

プリントゴッコに原稿をセットして、電球をセットして……


「ピカッッッ」と光った!! 21年ぶりの「ピカッッッ」!!!

さて、どうなったかというと……、あら???

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くっついて取れない!!

え、なんで?? もしかして、コピーが濃かった……? セットの仕方が悪かった?

原稿の黒色部分の濃度を変えたり、セットの仕方を見直してもう一度……

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ピカッッッ!!

更に原稿の濃度を薄くしよう……。やばい。どんどん電球が消費される……。

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ピカッッッ!!

もっと上手くいく方法もあるのかもしれないが、一度試すたびに電球2つが消費される。失敗の回数がこんなに限られてるので、色んな方法で試してみることができない……!

元の原稿をすごく薄めにコピーしたら、ちょっとはマシになったが、まだフィルターには引っ付く。

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コピーするときに濃度を薄くして……(なぜか顎の部分だけ薄くならないが……なぜ……)
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くっつき具合がマシにはなった

フィルタにちょっと残っていた紙は濡らして剥がした。このぐらいなら、もしかして製版したマスターとして使えるかもしれない。

インクを乗せて……

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わかりやすく柄がハッキリ出るように、濃いめの色を1色のみにしよう。ちなみにこれはTシャツ用インク
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Tシャツに、ええい……!!!

印刷してみると、出てはくれた。実際にはちょっと出は悪いけど、これはこれでアリじゃないか。

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乾いた後、上からアイロンを当てれば完成。見てるうちに、このぼんやり加減もいい気がしてきた!
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そもそも機械の不具合の可能性は?

本来こんなに失敗するものじゃないはずなのだが、どうすれば上手くいくか……と試行錯誤してるうちに、すっかり電球の残りがなくなってきた。

一度も想定したように進んでいないということは、機械側の問題なのかどうかを念のため確認しておきたい。

データをコピーするのではなく、昔やったことがある方法で一度試してみよう。手描きで原稿を作ってみる。

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専用ペンで絵を描く

この原稿を使って製版したら、すんなり上手くいった。やっぱ機械に問題があるんじゃなく、原稿の問題だったか……。

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こうなるのが正解。紙なんか一切くっつかない

ここからはサクサク進む。そうそう、このぐらいのスムーズさを想定してたのだ。

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インクを乗せて……
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インクが乗ったフィルターをセット。印刷するものを置いて……
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ペタン……!
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できた……!!(経年でインクが分離してて、にじんでるところはあるが)

えっ、いいじゃないか。ペタンペタンと押すごとにこんな風にプリントした袋が増えていくなんて楽しい!

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ニヤニヤ眺める……

思い通りにいかず、原稿を用意してきてもらったタナゴさんには申し訳ないし、どんなものができるのか楽しみだったのにすごく残念だ。

しかしこんなに失敗したということは、もしかしたら最近のコピー機は、プリントゴッコ用の原稿づくりには向いてないのかもしれない。あくまで憶測だが。

思うようにいかなかったのは残念だが、「このやり方だとうまくいきづらい」と分かっただけでも意義のある新発見だ……!! と思うことにしよう。


もっとTシャツ作りたくなった

これならペタンペタンと簡単にプリントできるから、同じ絵柄のTシャツをどんどん量産できる! と思いついたが、そもそも「プリントゴッコ」でやる必要あるのだろうか? という疑問が生じてきた。そう、世の中にはそれ用のキットもあるのだ。

知ってる人なら当然知ってるようなものに、遠回りして辿り着いたような気がしている。

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