正直言って、でかける前までは秩父とコンニャクだけでレポートが書けるとは思わず、秩父の郷土料理のレポートも合わせてお届けする予定であった。
まさか自分の中にこんなにも秩父について語りたい欲があるとは。そしてこんなにも語りどころのあるコンニャクがあるとは。
秩父、マジあなどれません。上に書いた郷土料理も興味深いものばかりでして(つみっこ、おっきりこみ、ねじ、つとっこ、等のグッとくるネーミングの郷土料理が秩父にはあるのだ)、秩父再訪の日も近い。
デイリーポータルZは秩父の謎に注目し続けます。

食べ物とは思えないルックス、言い表しがたい食感、カロリーほぼゼロという不思議、原料は芋という意外。
コンニャクに興味がある。食品のなかでもずば抜けて地味ながら、大好きだし気になる。
西秩父にコンニャクの味噌おでんが200円で食べ放題という農協の直売店があるそうだ。両神コンニャク専門店、またの名をコンニャク村。
コンニャクを求め秩父へ。山間に霧立ちこむるある日、ひっそりと旅に出ました。
※2005年10月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。内容は取材当時のものです。
秩父には元々縁がある。実家が西武秩父線の沿線なのだ。
西武秩父線は、池袋から飯能にたどり着く西武池袋線を引き継いでざくざく秩父の山奥へわけ入る路線。
ただ、実家は秩父まで行かない手前が最寄り駅のため、“秩父に縁がある”といっても、せいぜい西武秩父駅周辺までが守備範囲だ。
そこから先となると秩父は秩父でも未知の秩父というイメージ。
今回の目的のコンニャク店があるのは秩父地方の西の方、両神村というところ。西武秩父駅から秩父鉄道に乗り換え、その終点からさらにバスに乗って行く。
圧倒的に未知だ。電車もバスも1時間に1本、下手すると2時間に1本という世界。
下手によそ者が紛れ込むと火傷するって土地柄だと覚悟せねばならない。何しろ両神村だ。その村名、ほとんど横溝正史じゃないか。何があるか予測できない感あふれる。
乗り継ぎをビビって、とにかく朝早く出てきた。西武秩父駅に到着すると、まずは秩父鉄道に乗り換えるために歩いて5分ほどの御花畑駅へ向かう。
おはなばたけ。すてきな駅名だが何だかちょっとあの世っぽい名前だなと思ってしまった。空は薄曇りである。
よろめきながらも予定通り両神村へと近づく間、もう少し秩父の話をさせてください。
わらじカツやロケット祭りでデイリーポータルZ(主にウェブマスター)も注目してやまない秩父であるが、私も以前から、正確には高校のころから“秩父には何かある”と感じていた。
私は飯能というところにある高校へ通っており、同級生には秩父から来ている山奥組(本当にそう呼ばれていた)と所沢から来ている都会組がいた。
不思議だったのは、秩父から来る山奥組の同級生たちが、都会組よりもグッとあか抜けていたということだ。
流行りたてのルーズソックスをいち早く履いてきたのも、パーマやヘアカラーをしていたのも、学祭を仕切るのも、みんな秩父の子たちだった。中にはテクノDJもいた。
今回旅している間も、すれ違う若者たちはみんなスタイリッシュだった。御花畑駅で電車を降りてきた高校生は髪型はバッチリきまっててiPod持ってた。原宿か。
秩父にはどんな情報網があるというのか。秩父の電気屋にはターンテーブル売ってんのか。
ミステリーゾーン、それが秩父、なのである。
話題はどんどんコンニャクから遠のいておりますが、大丈夫。旅はすすみ、私は徐々に両神コンニャク専門店へと近づきつつありますよ!
続いてやってきた村営バスに乗る。ここまでの乗り継ぎ時刻は事前にしっかり調べてあってスムーズだ。
「あの、コンニャク村に行きたいんですがどこで降りればいいですか」
聞くと、運転手さんは行き先表示板を手動でクルクル巻き上げながら「あら、そこは通らないねえ」という。がーん。調べてあった路線とは微妙に違うところにあるというのだ。
仕方がないので最寄り駅で降ろしてもらい、そこから歩くことに。運転手さんは、途中に神怡舘(しんいかん)という中国は山西省を紹介する展示館があってこれがすごいから寄るといいと教えてくれた。埼玉県は山西省と友好県省関係なんだそうだ。へー。
で、歩きがてら勧めのまま寄り道してみることに。すごかった。
なんだこら。この建物が、山あいの細い道を抜けたところに突然現れるのだ。誰を驚かそうとしての建立か。私をか。
上の写真、入り口付近に顔ハメがあるのがおわかりだろうか。その隣に人がいるので縮尺の目安にしていただきたい。ただただ、でかいのだ。
中には多数展示物があるらしいのだが、これ以上コンニャク意外の情報でページを埋めるのもどうかと思うので、先へ行きましょうか。
それにしても驚いた。コンニャク食べる前からお腹いっぱいになりそうだ。
おっかなびっくりで歩き続けること20分。ぶわっとコンニャクの匂いがして、あれ、コンニャクに匂いなんてあったっけ、でもこの匂いは確かにコンニャクだよな、と思ったらもうそこらじゅう“コンニャク”の文字だらけの風景が広がった。
今まで町中にまるっきりコンニャク的なアプローチがなかったのが嘘のように、ものすごい勢いであふれ出すコンニャク。
「5月29日はコンニャクの日です!」
「ダイエットは健康食品、コンニャクで!」とかそこら中でコンニャクがアピールされている。いいぞ!
それではいよいよ、コンニャク村入場です(ケーキ入刀です、の抑揚で)。
がらがらサッシの戸を開けて入ると、中はふわっと温かかった。そして目の前にあふれるコンニャク、である。もうそこらじゅう、コンニャク。売店にはコンニャク以外のものがほとんど売られていない。これほどまでに「専門店」だとは。
はっきりいって、うろたえた。どこから見ていいのか分からない。すべてがコンニャクなのだ。このコンニャクとこのコンニャクに違いは何ですか? 聞けども聞けどもらちがあかないほどの種類。
どうしていいかわからず、10畳ほどの店内をぐるぐる10分ぐらい歩き回った。落ち着け、落ち着いてくれ。自分。
「はーい、コンニャク湯葉の追加分ね!」
私が行ったのはお昼前。まだ続々と裏の工場から作り立てのコンニャクが運ばれつつあった。元気のいい店員さんがどしどしケースで持ってくる。というか、ちょっと待て、コンニャク湯葉って何だ。
そう、場内はただのコンニャクだけでなくアクロバティックなコンニャクも盛りだくさんであった。とにかくその興奮をズラズラお届けします!
これだけじゃない。この日は残念ながらなかったものの、コンニャク入りコロッケ、コンニャク豆腐、木炭入りコンニャク、椎茸入りコンニャクなどなどなどなど、数え上げればきりがないほどの商品を扱っているという。
そして、そうだ。今日の目的はみそおでん食べ放題なのだった。見ているばかりじゃなく、食べないと、コンニャク!
「すみません、食べ放題やりたいんですが…」
「……うまい」
店の方が専用らしい鍋からヌッと取り出し、これまた年期の入った壷からお玉で味噌をかけて渡してくれたコンニャクは、相当でかかった。8cm×14cmぐらい。普通にスーパーで売っているパックのコンニャクまるまる1枚に横から割った割り箸を突き刺したような男らしい1品。
これがやたらにウマいのだ。なんでだろう。私はコンニャク好きであるが、美味しいコンニャクと美味しくないコンニャクの差はそんなにない思っていた。ずば抜けて美味しいコンニャクなんて存在しないと思っていたのだ。
それがどうでしょうこの美味しさ。味噌も美味しいが、何しろコンニャク自体がすごい。プリプリというよりも、サクサク、コリコリしている。はっ! そうか、コンニャクの原料は芋なんだ。コンニャクを食べながら芋を感じたのは初めてだ。
1枚でお腹いっぱいになってしまったが、これなら3枚はイケそうだ。
なのに、である。なぜか取材当時の私は1枚で「ごちそうさまでしたー」とトレイを返却してしまったのである。
今となっては本当に不思議だ。どうやら、店内に客一人、お店の方も一人(帳簿つけ中)という雰囲気に押されてしまったらしい。自分にこんな乙女な一面があるとは。ああ、ただただ悔しい!
その穴を埋めるようにコンニャクグッズを買いまくり(コンニャクラーメン、コンニャク梅漬、桑こん茶、コンニャク手作りキット、粒こん、そして食べ放題にも使われているレギュラーコンニャク以上6品を買い込んだ)、コンニャク村を後にしたのだった。
帰りのバスの中でも、ずっとコンニャクのことを考えていた。
悔しい思いは西武秩父駅に戻るまでずっと続いた。と、電車を待つ時間、駅前のお土産屋さん街を歩いているときに気になるメニューが。
そばコンニャク 420円。なんだそれ。
コンニャクそばだったら、先ほどのコンニャク村でも見かけたし、以前食べたこともある。
コンニャク粉を巧みに使ってそばを再現したもので、コンニャクというよりもむしろそばという食感で美味しかった。
一方こちらのそばコンニャクは、秩父そばを扱う店にあった。コンニャク屋さんが作ったそばがコンニャクそばなら、そばコンニャクはそば屋が作ったコンニャク、ということか。ああ、もう何がなにやら。
とにかく、先ほどの無念をはらす意味も込め食べてみた。
店員の方の説明によると「さしみコンニャクみたいな感じです」という。あ、なるほど。そば状のコンニャクってことか。
ツルツルしていてツユもさっぱりしていて美味しかった。よくダイエット食品でコンニャク麺というのを見るが、断然こっちの方が美味しい。
秩父のコンニャクは相当ハイレベルだということが分かった今回。大変だけどわざわざ食べにいく価値本気でありです。コンニャクにこんな底力があるとは……。いや、本当、参りました。
正直言って、でかける前までは秩父とコンニャクだけでレポートが書けるとは思わず、秩父の郷土料理のレポートも合わせてお届けする予定であった。
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