本サイトでイギリス料理といえば、べつやくれいさんが書いた「イギリスでまずい料理を食べたい」という記事が人気だ。
イギリス旅行中にあえて「まずい」とされる料理を探すという企画だが、結果は「味つけに失敗するとまずい」「なるほど」「ふつうにおいしい」というピースフルなものだった。
イギリス料理は実際にはまずくないのだ。
ならば、イギリスにおいしい料理を食べにいきたい…という企画を安易に考えてみたが、このご時世何年先になるかわからない。
じゃあイギリスのクックパッド的なレシピサイトの人気レシピをつくれば、本場の美味しいイギリス料理が食べられるんじゃないか…と思い調べる。
(BBC Good Foodは紙媒体としては1989年からやっている英国最大のフードメディアブランドだそうだ。)
レビューが多い順にソートしてみると、1位がLemon drizzle cake(レモンドリズルケーキ)など焼き菓子系ばかりだ。さすがアフタヌーンティーの本場と思いながら、ここから料理系を探すと…
甘くない伝統料理はヨークシャープディング(揚げシュークリームの皮みたいなもの)とコテージパイだけである。
まあ、日本人も味噌汁や肉じゃがのレシピをわざわざ見ないかな…とも思うので、ここでわざわざ人気のイギリス料理レシピは本当に美味しいものだろう。
ヨークシャープディングはたこ焼き器のデカい版みたいなのが必要だそうなので、今回はコテージパイから作っていこう。
「史上最高のコテージパイ」をつくる
あり合わせ料理でもありつつ、子供にも大人気だというコテージパイ。日本でいえばハンバーグ的な位置づけだろうか。
BBCのレシピには786件レビューがついており、平均評価は☆5。「史上最高のコテージパイ」などと絶賛されている。
材料はBBCレシピの1/5でだいたい2人分くらい。元のレシピは牛ひき肉1.25kg、ジャガイモ1.8kg…なんて出てきてビックリしたが、大きなオーブンのある伝統的な大家族って感じがしてよい。
早速つくっていくが、これは料理中から美味しそうな気配しかしなかった。
塩コショウはしない(セルフでする?)のがイギリス流なんだろうか。
ビーフストックとは牛の出汁(家庭ではコンソメみたいに固形を溶かすことが多い)のこと。スープストックトーキョーってスープ倉庫的な意味だと思ってた…。
べつやくさんの記事に出てくるマッシュポテトはもそもそして味がなかったそうなので、BBCレシピ流のアレンジなのだろう。
ここでは日本のスーパーで手に入るレッドチェダーを使ったが、本当は熟成期間の長いストロングチェダーを使うのでさらに濃厚なはずだ。
調理時間は2時間。シンプルだけど時間をかけて焼く・煮込むのがイギリス料理の特徴みたいだ。
まったりしてる。意外なほどやさしい塩加減で、その分ぎっちりと詰まった旨味が強く感じられる。
チェダーチーズとタイム・ローリエが濃厚さの中でアクセントになり、味を2ランクぐらい上げてる気がする(逆にこれらがないとやや地味な味付けになると思う)。
わんぱくな子供からじいさんばあさんまで、誰もが好きになる角のとれた味。一口目から見知らぬ家族の輪に入っていけそうな安定感がある。
チェダーチーズ、牛ひき肉、ポテト…よく考えるとマックと同じ組み合わせである。
さすがイギリス、遠い先祖の面影があるのかもしれない。
イギリスでは定番の組み合わせ、にんじんとコリアンダー(パクチー)のスープ
珍しい組み合わせに感じるが、イギリスの食堂の定番メニューで、日本でいえばお吸い物に三つ葉くらい間違いのない組み合わせだそうだ。
(コリアンダーはパクチーの別名。日本だと種子を乾燥させたものはコリアンダー、葉や茎はパクチーと呼ぶことが多いそうだ)
BBCレシピでも557件のレビューがついており、他はインドやチリ系のスパイススープが多い中、素朴な家庭の味として健闘している。
材料はシンプルで健康的。BBCの紹介には、“Everyone loves this super healthy soup”(みんな大好き超健康スープ)と書いてある。
種子の方は青臭さは皆無で、むしろフルーティで香ばしい匂いがする。別人だ。
このレシピ、調味料は完全にストック任せだ。人気レシピにしてはおおざっぱである。
逆にいえば、にんじんの甘味とコリアンダーの組み合わせが肝なのだろう。
入れる前に味見をして、味の方向性をつかんでから最小限入れる。
こんなに優しい味のスープがあるのか、と思った。
にんじんのまったりとした甘味にコリアンダーのフルーティな香ばしさが溶けこんで、お互いを引き立てている。伝統料理というのは、ベストマッチ中のベストマッチなのだ。
パクチーはそんなに好きじゃなかったけど、これは病気の時でも食べれる味。
アジア料理のイケイケパクチーとは異なり、万人向けで攻守のバランスがよい。
イギリスの田舎町に旅したときに、ほっとできるメニューを見つけたって感じだ。
BBCのレシピ自体にはないが、レシピ動画の方は生クリームを入れたり胡椒をかけたりわりと自由だったので試してみる。よりポタージュらしくなってこれはこれで美味しい。
コテージパイの方もそうだったが、まったりと煮込んで濃厚なところを香草でピリッと引き上げるのがイギリス料理のバランスなのかもしれない。
BBCで最も作られたレシピ、伝統・王道のレモンドリズルケーキ
失礼ながらBBC Good Foodで一番作られたレシピ(2516レビュー)にしては地味…と思ったりもしたのだが、レモンドリズルケーキはアフタヌーンティーの定番で、イギリスの国民的なお菓子だそうだ。
上白糖のないイギリスではキャスターシュガーという粒の細かいグラニュー糖をお菓子に使う。探したら日本でも極微粒グラニュー糖という名で売っていた。
お菓子作りに疎いのでどれだけ味に影響するかわからないが、できるだけレシピ通りに作りたい。
ホットケーキミックスでも大丈夫だが、イギリスではセルフライジングフラワーというベーキングパウダー入りの小麦粉を売っているらしいので自作する。
小麦粉100gに対してベーキングパウダー小さじ1でOKだそうだ。
これ、舐めると暴力的な甘酸っぱさで脳にくるおいしさ。
本当はアイシングといって、砂糖が白く表面をコーティングするようになるらしいのだが、レモンを絞り過ぎたのかならなかった。
一切れに15gくらいバターが入っているため(うちの普段のトーストはバター5gだ)、しっとりして柔らかい。珈琲よりも熱い紅茶にベストマッチな味だ。
レモン皮の心地よい苦味と、レモンシロップのしっかりとした甘酸っぱさのおかげで、濃厚だけどしつこくは感じない。
三種類とも同じ意味合いのことを言っている気がする。
イギリス料理は美味しいと自信を持って言える
あくまで三種類の料理だけだが、イギリスで人気のイギリス料理レシピははっきりと美味しかった。昔は知らないが、今作られているイギリス料理は美味しいのだ。
日本料理だって、貧しかった昔の味と今の味ではけっこう変わっていると思う。
昔と変わらぬ味を維持するために味を変えていく飲食店もあるくらいだから、料理は進化するものだ。
美味しい各国料理が食べたければ、今現在その国で人気のレシピを参考にするとよい。
なんだか当たり前のことを言っているような気がするが。