特集 2021年5月12日

英国有名レシピサイトの人気レシピなら、イギリス料理も美味しいのか

おいしいイギリス料理が食べたい。

できればはっきりとおいしいイギリス料理が食べたい。

使い古されすぎて、もはやジョークなんだか本気なんだかわからなくなっている「イギリス料理=まずい」というステレオタイプを打破したい。

そんな一方的な思いで、イギリス本国のレシピサイトの人気伝統料理レシピを作ってみた。

平成元年生まれ。令和から原始まで、古いものと新しいものが好き。

前の記事:素麺を麦茶で食べるとすがすがしい

> 個人サイト 畳の夢

本サイトでイギリス料理といえば、べつやくれいさんが書いた「イギリスでまずい料理を食べたい」という記事が人気だ。

イギリス旅行中にあえて「まずい」とされる料理を探すという企画だが、結果は「味つけに失敗するとまずい」「なるほど」「ふつうにおいしい」というピースフルなものだった。

イギリス料理は実際にはまずくないのだ。

ならば、イギリスにおいしい料理を食べにいきたい…という企画を安易に考えてみたが、このご時世何年先になるかわからない。

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イギリス版Googleでrecipeと検索すると真っ先にでてくるBBC Good Food

じゃあイギリスのクックパッド的なレシピサイトの人気レシピをつくれば、本場の美味しいイギリス料理が食べられるんじゃないか…と思い調べる。

(BBC Good Foodは紙媒体としては1989年からやっている英国最大のフードメディアブランドだそうだ。)

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イギリスの人気レシピ=イギリス料理というわけでもないため、一応こんなルールを作ってみた

レビューが多い順にソートしてみると、1位がLemon drizzle cake(レモンドリズルケーキ)など焼き菓子系ばかりだ。さすがアフタヌーンティーの本場と思いながら、ここから料理系を探すと…

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インド系と中南米系が強い

甘くない伝統料理はヨークシャープディング(揚げシュークリームの皮みたいなもの)とコテージパイだけである。

まあ、日本人も味噌汁や肉じゃがのレシピをわざわざ見ないかな…とも思うので、ここでわざわざ人気のイギリス料理レシピは本当に美味しいものだろう。

ヨークシャープディングはたこ焼き器のデカい版みたいなのが必要だそうなので、今回はコテージパイから作っていこう。

「史上最高のコテージパイ」をつくる

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マッシュポテトの下に牛挽肉をしいてオーブンで焼き上げるコテージパイは、パイと言いながらパイ生地を使わない家庭の味

あり合わせ料理でもありつつ、子供にも大人気だというコテージパイ。日本でいえばハンバーグ的な位置づけだろうか。

BBCのレシピには786件レビューがついており、平均評価は☆5。「史上最高のコテージパイ」などと絶賛されている。

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セロリとニンニクのストロングな香りが食欲をそそる

材料はBBCレシピの1/5でだいたい2人分くらい。元のレシピは牛ひき肉1.25kg、ジャガイモ1.8kg…なんて出てきてビックリしたが、大きなオーブンのある伝統的な大家族って感じがしてよい。

早速つくっていくが、これは料理中から美味しそうな気配しかしなかった。

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まずは味付けせずに牛ひき肉を炒め、火が通ったらいったんおろす
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次に野菜を味付けせずに20分炒める。だんだんセロリの刺激的な香りがやわらぎ、飴色玉ねぎの香ばしさにうつり変わっていく
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さらににんにく、トマトピューレ、小麦粉を入れて炒める

塩コショウはしない(セルフでする?)のがイギリス流なんだろうか。

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味付けには赤ワイン、ウスターソース、ビーフストックを入れる

ビーフストックとは牛の出汁(家庭ではコンソメみたいに固形を溶かすことが多い)のこと。スープストックトーキョーってスープ倉庫的な意味だと思ってた…。

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牛ストックは売っておらず、今回は同じく牛の出汁であるフォンドボーで代用した
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タイム、ローリエを入れてあとは汁気が飛ぶまで煮込むだけ
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ビーフとワインと香草のめちゃくちゃ良い香りがする!この時点で勝った気になる
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煮詰めている間にマッシュポテト作りも行う。イギリス料理は時間がかかるしけっこう忙しい
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こねていくうちにチェダーチーズが溶けだして、なめらかで濃厚な香りがしてくる

べつやくさんの記事に出てくるマッシュポテトはもそもそして味がなかったそうなので、BBCレシピ流のアレンジなのだろう。

ここでは日本のスーパーで手に入るレッドチェダーを使ったが、本当は熟成期間の長いストロングチェダーを使うのでさらに濃厚なはずだ。

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両方できたら深皿に敷き詰め、
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残りのチェダーチーズを載せてオーブン(トースター)で20分以上焼く
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こんがりと良い色になったら出来上がり!

調理時間は2時間。シンプルだけど時間をかけて焼く・煮込むのがイギリス料理の特徴みたいだ。

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掘りおこすワクワク感がある
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食欲をそそる濃厚な香りにたいして、味の方はどうか

まったりしてる。意外なほどやさしい塩加減で、その分ぎっちりと詰まった旨味が強く感じられる。

チェダーチーズとタイム・ローリエが濃厚さの中でアクセントになり、味を2ランクぐらい上げてる気がする(逆にこれらがないとやや地味な味付けになると思う)。

わんぱくな子供からじいさんばあさんまで、誰もが好きになる角のとれた味。一口目から見知らぬ家族の輪に入っていけそうな安定感がある。

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表面のこんがりした部分ももちろん美味しい

チェダーチーズ、牛ひき肉、ポテト…よく考えるとマックと同じ組み合わせである。

さすがイギリス、遠い先祖の面影があるのかもしれない。

 

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イギリスでは定番の組み合わせ、にんじんとコリアンダー(パクチー)のスープ

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はたして合うんだろうか

珍しい組み合わせに感じるが、イギリスの食堂の定番メニューで、日本でいえばお吸い物に三つ葉くらい間違いのない組み合わせだそうだ。

(コリアンダーはパクチーの別名。日本だと種子を乾燥させたものはコリアンダー、葉や茎はパクチーと呼ぶことが多いそうだ)

BBCレシピでも557件のレビューがついており、他はインドやチリ系のスパイススープが多い中、素朴な家庭の味として健闘している。

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本当は煮込んだ後にフードプロセッサーでポタージュ状にするが、持っていないため先にすりおろした

材料はシンプルで健康的。BBCの紹介には、“Everyone loves this super healthy soup”(みんな大好き超健康スープ)と書いてある。

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最初コリアンダー(種子)を乾燥パクチーと読み間違えて作ってしまったが、ぜんぜん別物だった

 種子の方は青臭さは皆無で、むしろフルーティで香ばしい匂いがする。別人だ。

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作り方もシンプル。野菜とコリアンダーを炒めて
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チキンストックもしくは野菜ストックを入れて煮込むだけ

このレシピ、調味料は完全にストック任せだ。人気レシピにしてはおおざっぱである。

逆にいえば、にんじんの甘味とコリアンダーの組み合わせが肝なのだろう。

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日本で手に入る近いものといえば…これになるだろうな

入れる前に味見をして、味の方向性をつかんでから最小限入れる。

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最後に生パクチーを上からのせて完成
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まずは生パクチーをよけて食べてみる

こんなに優しい味のスープがあるのか、と思った。

にんじんのまったりとした甘味にコリアンダーのフルーティな香ばしさが溶けこんで、お互いを引き立てている。伝統料理というのは、ベストマッチ中のベストマッチなのだ。

パクチーはそんなに好きじゃなかったけど、これは病気の時でも食べれる味。

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生パクチーをのせて食べても、青臭さがまったりと毛布につつまれるイメージ

アジア料理のイケイケパクチーとは異なり、万人向けで攻守のバランスがよい。

イギリスの田舎町に旅したときに、ほっとできるメニューを見つけたって感じだ。

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料理用の生クリームもいれてみた

BBCのレシピ自体にはないが、レシピ動画の方は生クリームを入れたり胡椒をかけたりわりと自由だったので試してみる。よりポタージュらしくなってこれはこれで美味しい。

コテージパイの方もそうだったが、まったりと煮込んで濃厚なところを香草でピリッと引き上げるのがイギリス料理のバランスなのかもしれない。

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BBCで最も作られたレシピ、伝統・王道のレモンドリズルケーキ

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ドリズルとは霧雨の意味で、ここでは甘いレモンシロップをかけることを指すそうだ

失礼ながらBBC Good Foodで一番作られたレシピ(2516レビュー)にしては地味…と思ったりもしたのだが、レモンドリズルケーキはアフタヌーンティーの定番で、イギリスの国民的なお菓子だそうだ。

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バター、小麦粉、砂糖が同量なところがポイント

上白糖のないイギリスではキャスターシュガーという粒の細かいグラニュー糖をお菓子に使う。探したら日本でも極微粒グラニュー糖という名で売っていた。

お菓子作りに疎いのでどれだけ味に影響するかわからないが、できるだけレシピ通りに作りたい。

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1本分でバター110g。甘いものってこわい
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電子レンジの解凍(200W)で2分温めると頑張ってこねた感を演出できる
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砂糖、卵の順にいれてかきまぜる
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レトロなパッケージがかわいいベーキングパウダー。飾りたい

ホットケーキミックスでも大丈夫だが、イギリスではセルフライジングフラワーというベーキングパウダー入りの小麦粉を売っているらしいので自作する。

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中身も乾燥剤風でよい

小麦粉100gに対してベーキングパウダー小さじ1でOKだそうだ。

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セルフライジングフラワーと刻んだレモンの皮を入れてかき混ぜれば生地は完成
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裸にむかれたレモンが不憫で情がわく。あとでつぶされる運命だけど
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ここまでくればあとは焼くだけ。表面が焦げやすいのでオーブントースターだと300Wで40分くらい焼いた
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入れすぎるとセルフライジングしてこうなる
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焼いてる間にレモンシロップをつくる。レモン1個に砂糖60gぐらい

これ、舐めると暴力的な甘酸っぱさで脳にくるおいしさ。

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焼けたら表面にたっぷりと塗って冷めるのを待つ

本当はアイシングといって、砂糖が白く表面をコーティングするようになるらしいのだが、レモンを絞り過ぎたのかならなかった。

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翌朝、さめてしっとりとしたケーキを切って食べる
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バターたっぷりのカステラって感じの食感。間違いなく美味しい

一切れに15gくらいバターが入っているため(うちの普段のトーストはバター5gだ)、しっとりして柔らかい。珈琲よりも熱い紅茶にベストマッチな味だ。

レモン皮の心地よい苦味と、レモンシロップのしっかりとした甘酸っぱさのおかげで、濃厚だけどしつこくは感じない。

三種類とも同じ意味合いのことを言っている気がする。

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ペロリと三切れでバター45g…。
 

イギリス料理は美味しいと自信を持って言える

あくまで三種類の料理だけだが、イギリスで人気のイギリス料理レシピははっきりと美味しかった。昔は知らないが、今作られているイギリス料理は美味しいのだ。

日本料理だって、貧しかった昔の味と今の味ではけっこう変わっていると思う。

昔と変わらぬ味を維持するために味を変えていく飲食店もあるくらいだから、料理は進化するものだ。

美味しい各国料理が食べたければ、今現在その国で人気のレシピを参考にするとよい。

なんだか当たり前のことを言っているような気がするが。

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