特集 2019年3月7日

ロープウェイで石灰石が空を渡る最後の光景

茨城県の日立市に、石灰石を運ぶためのロープウェイがあるという。日本では唯一残っているもので、しかも近い将来には廃止になってしまうそうだ。

おっ地味な話だなと思うかもしれない。しかし見ればわかる。実物は、いつまでも見ていられるかっこいい機械だったのだ。


この話を教えてくれたのは、その方面に詳しい知人だ。

前に書いた「地面に書かれた謎の記号から地下が見える」という記事に登場して、地面に書かれた UUU とか Ex3 とかの意味を教えてくれた人たち。

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今回いっしょに行くのは一番左の磯部さんと、一番右のえぬさん

記事の後も親交は続き、たまに数人で出かけては、いろいろと教えてもらうというありがたい体験をしていた。そしてこのときは日立まで車で行こうといって誘ってもらった。

日立まで車で行く

土曜日の朝7時。迎えに来てくれた磯部さんの車に乗せてもらい、3人で東京から日立まで向かう。

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早朝から首都高を車で走るのはそれ自体楽しい。道順について相談する二人の後ろで、あまり役には立たないとは知りつつ、せめて地図を見たりしていた。

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そして数時間で日立市についた。目的地は山の中だ。あらかじめ印刷した地図を見ながら、二人がロープウェイの位置のアタリをつけている。

しばらくして「ここですね。」と言って車を降りる。その場所での光景がこう。

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すでになにか普通じゃないものが写っているのに気がつきますか? 最初に現場でそれに気づいたときの感動を共有したいので、まずは動画を見てみてください。

 

これ。

これこそが今回の目的のロープウェイだ。はじめて見たときはあまりのことに「ほわー」となってしまった。なんで山の中のあんな高いところをカゴみたいなものが飛んでるの?と。

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今までみたことがあるどのロープウェイとも違う。確かにロープウェイなんだけど、それにしちゃ誰も乗ってないし、小さい。

それになんかちょっと顔みたいじゃないか。

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若干「ハクション大魔王」みたいになっている。こんなのが右へ左へと絶え間なく飛んでいくのだ。ぽけーっと見てしまう気持ちも分かるんじゃないか。

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すごい高いところを飛んでる

形が面白いし、しずかに右へ左へと移動していく姿が不思議だ。滑車がくるくると回りながら、まるで自分の意思で左右に動いていくように見える。そしてあまりにも静かだ。そういう、モノとしての不思議さをただただ眺めてしまう。

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一通り眺めてから場所を移動すると、「日立セメント株式会社 大平田鉱山」と書かれた看板があった。あれは不思議なハクション大魔王ではなく、リアルな事業のためにセメントの材料を運ぶカゴだったんだということに気づく。

石灰石を運んでいる

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周りを見渡すと、現実が明らかになる。まず遠くに、石灰石が山のように積んであるのが見える。

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石灰石は、ベルトコンベアでサイロのようなところまで運ばれてくる。そして画面の右下にカゴがあるのが見えるだろうか。

 

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これだ。いまは空になっている。

カゴはこのまま左側に進み、サイロに沿って半周する。その途中で、ベルトコンベアで運ばれてきた石灰石がカゴに注ぎ込まれる。重さは1トン以上にもなるそうだ。

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そして再び右側の山へ戻っていくときには、カゴに石灰石が満載になるのだ。ということはすれ違うカゴどうしには格差があるということになる。

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仕事を終えて帰ってきたカゴは全員カラッポであり、これから仕事をするカゴは全員満載なのだ。

考えてみればスキーのリフトも同じだ。下りはぜんぶ空、上りだけが満載になっている。そう考えると、ロープウェイなのに左右で重さのバランスが極端に違って大変そうだなと思う。

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全景を眺める二人

石灰石の山からサイロまではベルトコンベアだった。しかしここからは険しい山と谷が続くのでベルトコンベアでは運べず、ロープウェイに乗り換えるということなのだろう。

ぼくたちもロープウェイの行く先を追ってみることにした。

ロープウェイの行方を追う

 

上の地図で、赤く書いた線が石灰石のロープウェイだ。左下から右上まで運ぶ。ほぼ山の中なのが分かると思う。なので、ロープウェイを追う行程もだいぶ登山ぽかった。

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こんな山道を歩いては、

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はるかに浮かぶカゴを眺める。

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すぐ近くから眺められる場所では、器械の質感とかっこよさにしびれる。

 

地面に見慣れない影が落ちる。

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カゴは海に溶けながら進み、

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山を渡り、

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最終的にこの「荷卸所」という施設にやってきて終点となる。

施設の中がどうなっているかは残念ながら見えない。でも、ガコーン!という大きな音がして、そのあと空になったカゴが帰っていくのは分かる。なにかうまい機械的な仕掛けでカゴが反転して、なかの石灰石を落としていくんだろう。

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たぶんこのツメが、上か下かにガチャンと押されるとカゴがひっくり返るのに違いない。ただ、いくら想像しても仕組みが分からなかった。

空を飛んでいるときのカゴはあまりにも静かだ。なのに石灰石を受け取ったり下ろしたりする場所では、ガッコーン! プッシュー! という衝撃音や空気音が響く。

それがいかにも「機械」的でかっこいいのだ。大きくて重い鉄でできた部品が、潤滑油でキラキラ光りながら、機構のとおりに整然と働く。石灰石なんて人間には重くてぜったい運べないのに、人間が考えた仕組みのとおりに機械によって運ばれていく。

これが作られたのは80年以上前だそうだ。もしもぼくが日立に住む当時の少年だったら、機械ってかっこいい、自分も技術者になる、と思っただろう。

そこから先はベルトコンベアになる

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荷卸所から先、石灰石は半円状の蓋がされたベルトコンベアに乗って、街の中を進んでいく。

どこまで? セメント工場までだ。

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向こうに見える工場までもう少し。

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この「ザウス」みたいな廊下を登り、奥にある石灰石の貯蔵庫に入ればひとまずの終点だ。

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セメント工場のプラントに夕日があたる。朝7時に東京を出て、終点にたどり着いたときには夕方になっていた。

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ここまでの経路を模式的に眺めるとこんなふうだ。山で切り出した石灰石を街にある工場まで運ぶために、山の中に鉄塔を立て、ロープウェイを引き、ベルトコンベアで運ぶ。ただそれだけのために、このすべてがある。

それはもちろん、理解はできる。工場まで原料を運ぶんだから、そのために道が必要だ。だけど、その行程のディテールが圧倒的なのだ。

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こんなにかっこいいものは、ただじっと見ているしかない。実際、三人ともただただこれらを眺め、ひたすら写真を撮るという時間がずいぶん続いた。山登りの最中もけっこう無言だったので、そうじて無言だったかもしれない。

これを操業する日立セメントという会社は、一般的なセメントの生産からは撤退するという。なのでこのロープウェイも近い将来には止まってしまうと見込まれている。

ここ以外の同様のロープウェイは、いずれもずいぶん前に廃止になっている。いまでは各地の山奥で、朽ちた鉄塔などの廃線跡が見られるそうだ。ここもそんなふうになるんだろうか。

それまで全然知らなかったくせになんだという感じだけど、動いているうちに見られてよかったと思う。


茨城には日立があった

ぼくは茨城出身だ。かつて出した「茨城のおきて」という本では、茨城は好感度も毎年最下位だし納豆もいうほど食べてないと自虐的に書いた。
 
けど間違っていた。日立はすごい。ここにはスペクタクルがある。機械のかっこよさを再認識するなら日立だと思った。
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