はじめに
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はげます会のメルマガだけで読める、ライター近況を聞くコーナー『さいきんどう?』で聞いた、ライター月餅さんの小話を公開します。
わんぱくボーイの思慮(月餅)
アウトドア系アクティビティは虫が本格的に出る前にしたほうがいいらしい。
そんな話を小耳に挟み、会社のメンバーでキャンプに行ってきた。
この春小学生になったばかりのせいやくん(仮名)は、隣の部署のAさんの息子だ。彼がまた、「やんちゃ」という言葉じゃ片付けられないほどのわんぱくボーイであった。
キャンプ場に来て早々、隣のテントスペースに入り、よそ様の犬を平気で抱きかかえる。浜辺に連れて行けば、服のまま海に入って泥んこになる。
小学生の頃、幼馴染のわんぱくガール翔子ちゃんは自己紹介に「特技:怒られること」と書いていた。せいやもこのタイプだ。
Aさんの「せいや!」と叱る声を1日のうち30回は聞いたし、日の落ちないうちにみんなも遠慮なくせいやを叱るようになった。
せいやを叱るとき、効果的なワードがある。
「鬼呼ぶよ」だ。
これは親御さんのいうことを聞かない子どもたちを鬼が叱ってくれる「鬼から電話」というアプリのことである。せいやはこのアプリの鬼を恐れている。鬼滅の刃は大好きなのに。
「鬼呼ぶよ」と言うと、せいやは泣き喚くでも、謝るでもなく、ただ一言「なんでよ……」と呟きしょんぼりとする。
さらに釘を刺す必要があるときは「赤鬼にする?青鬼にする?」と迫る。これで10分くらいはおとなしくなる。
そんなせいやにも、鬼に頼らずとも、自発的に大人のいうことを聞くときがあった。
夜、みんなでバーベキューをしていると、せいやが「パパは?パパは?」と不安そうな顔でAさんの姿を探していた。
Aさんはちょうどトイレで不在にしていたので、「帰ってきたら教えるね」と伝えた。せいやは残念そうな顔をしてどこかにいってしまった。
しばらく経ってからAさんを見かけたので、せいやが探していたことを言うと、もう話してきたという。
先ほどのせいやの顔が深刻そうだったので、なんだったか聞くと、Aさんはニヤニヤしながら教えてくれた。
「テントの中で懐中電灯をつけていいかってさ」
テントの中で懐中電灯をつける。小学1年生の男の子にとっては、他人の犬を触ることより、服のまま海に飛び込むことより、このことこそ、許可を得る必要があるのだ。なんて世界なんだろう。度肝を抜かれた。
私はこういう、子供の報連相の粒度がめちゃくちゃなところが本当に大好き。
せいやよ、このまま何にも汚れずに我が道を行ってくれ。そしていつまでも鬼のアプリを怖がってくれ。楽しい小学校生活を送ってね。
ちなみに愛犬・与太郎は子供が苦手なのでせいやに2分で飽きられていました。
終わってふたたび解説です
やんちゃな小学1年生も夜のテントの暗さは怖いみたいで、かわいいですね。月餅さんの愛犬与太郎くんも、安定のかわいさです。
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