カセットコンロたき火は心の強さを試される
たき火は準備とか後片付けを考えるとつい足が遠のいてしまうのだが、その点、さっと持ってきてカチッと火をつけるだけのカセットコンロは手間いらずでたき火を民主化してくれた。
ただ、味の部分を完全に捨て去っているので、これでいいかどうかは心の問題だと思う。
たき火に憧れがある。
ゆらゆら揺れる炎を眺めながら友と語らうなんて最高じゃないか。
とはいえ初心者にはちょっとハードルが高いのも事実。今回はかんたんにできる方法を探りました。
大人になってよかったことの一つは火が使えるようになったことだろう。
たとえばたき火がしたくなったとき、子ども同士だと「火遊びなんて!」と叱られるところだが、大人ならそんなことはない。
つまりルールを守ってたき火ができるということは、大人として社会から認められたということなのだ。
かくいう僕も、一時期たき火に憧れてグッズを買いそろえたことがある。具体的にはこの取材のあとにたき火職人に感化され、下のたき火台を買ったのが始まり。
大人だし道具もある、つまりたき火をやれる環境は揃っているわけだ。だったらやればいいと思うだろう。それがなかなかそうもいかない。
たき火はバーベキューと違って用意するものが少ないのでやる気になればいつでもできるはずなのだが、それでもやはり面倒なものは面倒なのだ。実のところ最後にやったのがいつだったか思い出せないほどである。
今日はひさしぶりにたき火台を持って海辺までやってきた。
やっぱりたき火はいい。風のない週末の午後なんかに外で火を眺めるのは最高に気持ちがいい。
よく一緒にたき火をしていた近所の友だちにも「手ぶらでおいでよ」と声をかけてみたのだけれど、いま思えば椅子くらいあるとさらによかったと思う。
本多さん「このたき火台いいよね。設置も後片付けも楽だし」
肉を焼いたり酒を飲んだりするわけでもなく、単に火を眺める。これぞ純粋なたき火である。パチパチと音を立てて燃える木を眺めているとそれだけで満ち足りた気持ちになるのだ。
温まってきたところで小型のたき火台に替えてみた。
本多さん「二人で囲むにはちょっと小さいけど、一人でお湯沸かしてコーヒー飲むくらいならこれでもいいかもね」
実際以前はこれを使ってちょくちょく一人でたき火をしていた。個人的にはディズニーランドに行ったのと同じくらい満たされると思う。
たき火を囲んで、本多さんとは子どもの受験の話や互いの仕事の話など、結論の出ない話をだらだらとした。LINEではしない話である。とりとめのない話ができるのもたき火の良さといえよう。
さあここでいよいよ三つ目の選択肢の登場である。
ここからが本題。カセットコンロである。
僕は常々、外で火を眺めることがたき火の本質だと思っているのだが、ということはつまりこれでいいんじゃないかと思うのだ。これでよければたき火へのハードルがぐっと下がるだろう。
普段食卓に乗せられるカセットコンロを外で見ると、休日のお父さんが私服で歩いているのをたまたま見かけたみたいな違和感があった。
さてカセットコンロたき火である。
考えてみてほしい、たき火をするにはまず燃やす木を探すところから始めなければならない。キャンプ場ならいざ知らず、そのへんでたき火をしようとすると、この木集めにわりと時間がかかるのだ。
ところがカセットコンロならこの手間がいっさいない。なぜなら燃料はすでに本体にセットされているのだから。
さらに、たき火初心者の一番の懸念点である着火だ。
本格的にキャンプをしている人がマッチすら使わずに、火打石みたいな道具で薪に着火しているのを見たことがある。かっこよかった。しかしカセットコンロならばそれすら使わない。
ノブをひねるとカチカチカチ、シュゴーという景気のいい音と共に火が付く。これで完成である。たき火までの最短記録を大きく更新だ。
一つやってみてわかったことだが、燃焼効率のいいカセットコンロの炎は、昼間の屋外ではまったく見えないのだ。
本多さん「ゴーっていってるけど火が見えないね」
ーー点いてるはずなんだけどな。ほら、手をかざすとほんのり暖かいですよ。
本多さん「ほんとだ!点いてた」
外で火を眺めるのがたき火、と言っておきながら火が見えないのは少し残念だが、もう少し日が暮れてくるときっときれいな青い火が見えるに違いない。目に見えるものだけが世界ではないのだ。
ーーどうですか、これでよくないですか。
本多さん「うん、まあ暖かいは暖かいよね。でもなー」
ーーなんですか。
本多さん「心が暖まらない気がするのはなぜだろうね」
ーーそれは主観的な部分なので個人のがんばりでどうにかなると思いますよ。
本多さん「あと、なんのためのたき火か、ってところに話が戻る気がする」
やはり薪に比べて面白味がないのは否めないが、暖をとる、という意味ではカセットコンロの安定的で工業的な炎には有無を言わさぬ強さがあった。心なしか会話も、明日の天気は?みたいな実務的なものになっていった。
カセットコンロたき火には利点がまだある。
僕らがやりたいのはバーベキューではなくたき火なので、ちょっと本筋とは外れるかもしれないが、火を囲むとちょっとしたつまみが食べたくなることがあるだろう。
そんなときにもカセットコンロは便利だ。
さすがキッチンで積んできた経験が光る。むしろフライパンを乗せて完成といった雰囲気すらある。
カセットコンロは家で使う場合、鍋ややかんを乗せて調理用具として使うことが多いだろう。
しかしあえてうわものを取り払ってみると、そこには純粋な意味での火が点っていることに気づく。これは広義のたき火である。気が済んだらすぐに火を消して帰れるのもいい。灰すら出ない。
たき火は準備とか後片付けを考えるとつい足が遠のいてしまうのだが、その点、さっと持ってきてカチッと火をつけるだけのカセットコンロは手間いらずでたき火を民主化してくれた。
ただ、味の部分を完全に捨て去っているので、これでいいかどうかは心の問題だと思う。
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