大量の部分ツイートを投稿する人物
まずはこちらのツイートを見ていただきたい。
「せいかつりずむ」という言葉には「いかつり」という言葉が含まれている。こういうのを部分ツイートという。「だからどうした」と思うかもしれない。しかし、部分ツイートを大量に浴びていると、次第に面白くなってくる。そして、奥が深いことにも気づかされる。
部分ツイートを大量に投稿している森川真さんに話を聞いた。
――「お客様同士のトラブルの魔道士の虎の部分」が大好きです。
森川:ありがとうございます。電車のアナウンスを聞いて思いつきました。
ほかにも森川さんのお気に入りの部分ツイートを教えてもらった。
――「皿うどんSサイズのloudnessの部分」とかすごいですね。
森川:リンガーハットの近くで思いつきました。
部分ツイートのコツ
私も部分ツイートをたくさんひらめいて気持ちよくなりたい。しかし、いざやってみるとこれがなかなか難しい。ここは達人にコツを聞く千載一遇のチャンスだ。
――部分ツイートのコツってありますか?
森川:コツらしいコツはないような……。ダジャレが好きな人であれば自然に思いつくものだと思います。中毒性があり、勝手に探してしまう感じですね。商品のパッケージ、看板、ニュース、SNSの他の人の投稿に刺激されることが多いです。
――なかなか見つからないこともあります。
森川:初めての方におすすめしているのは「○○の寿司の部分」。簡単に見つけられて、面白さが生まれやすいです。フォロワーの人達と「○○の寿司の部分」を100個見つける活動をしたことがあります。
――実際にやってみると、せっかくいい部分ツイートを思いついても、検索してみると既出のことも多いです。
森川:かつては私も気にしていましたが、最近は気にしなくなりました。結局はダジャレなので、思いついたら言えばいいんじゃないでしょうか。
――なるほど。自分が楽しむためのツイートですもんね。
森川:ただ、先にツイートした人にリスペクトを払いたくなるときもあって、既出のツイートをリツイートすることもあります。でも基本は「既出でも気にせず言ったらいいんじゃないか」という考えです。
―― ありがとうございます。心理的ハードルが一気に下がりました。
森川:あとは、思いついたらすぐにツイートするかメモを取るかしたほうがいいです。すぐに忘れてしまうので。
良い部分ツイートとは
ここからは少し上級な話。「これはっ!」と心を動かされる部分ツイートとはどのようなものだろうか。
――「どういう部分ツイートが良いとされているか」を知りたいです。
森川:価値観は人それぞれなので明確な基準は無いのですが、やっぱり複数の単語をまたいだ中に別の単語が隠れているのを期待する人は多いですね。例えば、「たらこスパゲッティのコスパの部分」。
森川:間違えて「たらこスパゲッティのたらこの部分」と投稿してしまったことがあり、自分でも動揺しました。
――(笑) たしかに、そのままだと面白味が少ないですね。
森川:はい。「2時間飲み放題の菅野美穂の部分」の面白さは「2時間」「飲み」「放題」の3単語をまたいだ中に全く別の言葉が見つかるというアクロバットさにあると思います。
――ほかの観点として、「意味の乖離」や「意味の類似」もあるかと思います。
森川:そうそう。「意味の類似」で言うと、「オートクチュールの特注の部分」がそうですね。
――すごい!ここまでは無理にしても、このように全体と部分の関係性に思いをはせるのは良い鑑賞法ですよね。森川さんの名刺にある「人生経験のイケイケの部分」も「人生はイケイケであれ」というメッセージ性があって好きです。
森川:部分ツイートによって人生の中にイケイケな雰囲気が出てくるのは面白いですよね。
森川:また、複雑なものだけが良いというわけではなく、しみじみとよい部分ツイートというのもあります。「小ライスの将来の部分」。
――これは……良すぎる……。
森川:小ライスというつつましい存在の中に、「将来」がある。
――わびさびですね。しかも「全体に占める部分の割合」が大きいというテクニカルな面も。
森川:「す」を削っただけという巧さですね。たまに行き過ぎて、全体=部分になることもあります。「青梅線の王目線の部分」とか。果たしてこれは部分ツイートなのか?という議論があります。
――これはもうダジャレですね……。
部分ツイートの歴史と森川さん
――部分ツイートはいつ始まったのでしょうか?
森川:2010年ごろにはすでに「○○の中には○○がある」のような気付きをツイートする人が何人かいたと記憶しています。そして2012年に「2時間飲み放題」の中に「菅野美穂」を発見したツイートが話題になりました。
部分ツイートの原型だ。
――確かにこれはすごい発見ですね。
森川:はい。しかし「ある言葉のなかに別の言葉を見つける」という言葉遊び自体はTwitterに限らず古くからあったであろうと推測しています。
――森川さんが部分ツイートをするようになったのはいつからですか?
森川:私自身は2021年に始めました。
――意外と最近なんですね。
森川:そうなんです。
森川:これが私の初めての部分ツイートです。
――けっこうシンプルですね。
森川:はい。その次の日に「インスタライブのタライの部分」と投稿しています。そこから堰を切ったようにどんどん投稿するようになりました。以来、ほとんど毎日やるようになっています。そんな中、2022年4月に私の部分ツイートが大きく拡散されました。
森川:これがきっかけで「部分ツイートをやっている人」として多くの人に認識してもらえるようになりました。
――継続は力なりですね。最近、部分ツイートの普及が加速しているようにも感じます。
森川:最近、インフルエンサーが部分ツイートに言及したこともあり、部分ツイート界隈が盛り上がってきています。ここ1~2か月ぐらいの話です。
――漫画にも部分ツイートが登場してましたね。
森川:はい。Twitterで話題になった、みやさんの「友達だった人」という作品ですね。部分ツイートが趣味の主人公が出てきます。
森川:作者のみやさんから「部分ツイートの森川真さんまで届いたらいいなと漠然と思っていました」と言ってもらえて、とてもうれしかったです。