少し緊張した
山本屋本店は名古屋に行くとよく訪れていた。味噌煮込みうどんが美味しいからだ。しかし、味噌抜きの存在は知らなかった。メニューにないので注文時に少し緊張した。ただ食べてみると美味しかった。今後はたまに頼んでみたいと思う。毎回は頼まないかな、やはり名古屋に行くと「味噌」を食べたくなるから。

参考文献
「たべもの起源事典」岡田哲 東京堂出版 2003
味噌煮込みうどんというものがある。愛知県名古屋地方を代表する麺料理で、八丁味噌を使い土鍋でうどんを煮込んだものだ。八丁味噌の甘みがクセになる古くから愛されてきた郷土料理だ。
そんな味噌煮込みうどんではあるけれど、「味噌抜き」という味噌煮込みうどんの注文があると聞いた。しかも味噌煮込みうどんの専門店で「味噌抜き」ができるのだ。それは頼んでみなければと思う。
それを抜いたらダメだろう、というものがある。「きつねうどん」から「きつね」を抜けばそれはもうただのかけうどんになるし、誰かの財布からお金を抜いたら、犯罪になる。抜いたらダメなものが世の中にはあるのだ。
名古屋には「味噌煮込みうどん」という郷土料理がある。1907年に山本屋本店の初代がこの地域の家庭料理に手を加えて大須観音の近くで売り出したところ、評判になったそうだ。
寒い時期に食べる味噌煮込みうどんは格別に感じる。うどんをお湯で茹でるのではなく、最初から味噌の入った出汁で煮込むので、麺に出汁がよく馴染む。また味が濃い。辛いとかではなく、濃いのだ。それが味噌煮込みうどんの素晴らしい点だ。濃いは正義なのだ。
しかし、知人から「味噌煮込みうどんの味噌抜きがある」と聞いた。思い切ったメニューだと感動した。一番抜いてはダメだと思うものが抜かれている。ぜひ食べたいと思い先にも書いた山本屋本店を訪れたわけだ。
山本屋本店を訪れたのはまだ開店する前だったけれど、多くの人がすでに並んでいた。人気のお店なのだ。みんな味噌煮込みうどんが食べたいのだ。私も並んだ。ただ私は味噌煮込みうどんを食べない。味噌を抜くのだ。
山本屋本店のWebサイトの会社概要を見る。そこには「味噌煮込うどん専門店です」とあった。ただメニューや看板を見ると味噌煮込うどんとは書いていない。
味噌煮込うどん専門店ではあるけれど、煮込みうどん専門店でもあるのだ。だったら味噌煮込みうどんの味噌抜きもありな気がしてくる。店内に入り早速メニューを見た。
メニューを見ると実に美味しそうな味噌煮込みうどんのラインナップだった。しかし、どこにも味噌抜きは書かれていない。私も知人に聞いただけなので、これ騙されたやつかな、と思いながら店員さんに「味噌煮込みうどんの味噌抜きってできますか?」と尋ねた。
店員さんは「できますよ」と当たり前のように教えてくれた。できるのだ。私は騙されてはいなかったのだ。疑ってしまった知人に謝りたい。ごめん。「すまし煮込みうどん」ということになるそうだ。もちろん頼んだ。
テーブルに「味噌煮込みうどん味噌抜き」が運ばれてきた。当たり前だけれど、味噌が抜かれている。出汁の色が見るからに異なる。澄んでいるのだ。味噌煮込みうどんでは微塵も澄んでいるなんて思わなかったから、違いがよくわかる。
味としては醤油味ということになると思う。麺の硬さなどは味噌煮込みうどんのままなので、食べているとパニックになる。麺のあの特徴的な硬さは味噌煮込みとセットだと思い込んでいるためだ。
味噌も醤油もどちらも大豆から作られるものなので、宇宙規模の広い視野で見ればもはや同じと言っても問題ない。味噌煮込みうどんの味噌抜きがあっても問題ないのだ。
味はもちろん美味しい。味噌煮込みの時のような濃さはなくなるけれど、その分、いくらでも食べられるような味わいになる。飽きの来ない幸せな味わいなのだ。濃さは正義ではあるけれど、いくらでも食べられるもまた正義なのだ。
ちなみに土鍋の蓋に湯気抜きの穴がないのも特徴の一つだ。これは麺を蓋に入れて冷ましながら食べるため。味噌はトロみがあるので冷えにくい。いつまでも熱い。そこでこのような工夫がなされているのだ。「味噌抜き」は比べれば早く冷える気がしたけどね。
山本屋本店は名古屋に行くとよく訪れていた。味噌煮込みうどんが美味しいからだ。しかし、味噌抜きの存在は知らなかった。メニューにないので注文時に少し緊張した。ただ食べてみると美味しかった。今後はたまに頼んでみたいと思う。毎回は頼まないかな、やはり名古屋に行くと「味噌」を食べたくなるから。
参考文献
「たべもの起源事典」岡田哲 東京堂出版 2003
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