特集 2021年2月25日

寒中水浴は楽しい

2020年11月、パンデミック発生以来ドイツ国内で2度目となる大規模なロックダウンが始まった。デパート、美容院、ホームセンター、フィットネスジム、サウナなど、大半の施設や小売店が閉まり、次々に新しいルールが導入された。

私が住むベルリンは本来、週末は72時間営業しっぱなしのクラブや、閉店時間の無い飲み屋などで溢れる娯楽天国である。そんなベルリンも、今は静まり返っている。

そんな娯楽が消えたベルリンで残された楽しみと言えば散歩やジョギングなど、外で1人で行えるスポーツである。

そんな中、友人の誘いで始めた新しい「楽しみ」がある。寒中水浴だ。

※編集部よりおしらせ
読んで、やってみたい! と思った方への注意を最後に記載しています。読みながらすぐに寒中へ飛び込まぬようお願いします!

1986年東京生まれ。ベルリン在住のイラストレーター兼日英翻訳者。サウジアラビアに住んでいたことがある。好きなものは米と言語。

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サウナの代わりに始めた寒中水浴

私はサウナが好きだ。スロバキア出身の友人バシカは1年ほど一緒に暮らした元ルームメイトなのだが、彼女も大のサウナ好きでよく一緒にサウナに行く。貴重なサウナ仲間である。

ロックダウンが始まる直前に、夫とバシカと3人で湖の辺りにあるサウナに行った。

3人用の小さなサウナ小屋が一つあり、サウナを出て直接湖に入ることができるという、ベルリン市内ではなかなか無いタイプのサウナだった。

カンカンに熱いサウナを出て、火照った体でひんやりした湖に入るのは開放的で最高だった。

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だがロックダウンが始まればサウナを含む多くの施設の営業が禁止されるため、当分の間サウナにいけなくなる。

これから数か月間は入れないであろうサウナを惜しんでいると、バシカが言った。

「サウナの代わりに寒中水浴を始めてみない?」

寒中水浴?水に入るの?冬なのに?

なんでもスロバキアに住む友人が寒中水浴を始めたらしく、精神の安定やストレス解消にいいらしいので自分もやってみたいと思ったそうだ。

それにしてもサウナの代わりに寒中水浴というロジックが理解できなかったが、夫があまりに乗り気だったので「ノー」というタイミングを逃し、あれよあれよと約束が交わされてしまった。

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気づけばもう4か月近く続けていた

ノリで始めた寒中水浴だが、今ではこんな感じで続けている。

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私たちが毎週通っている場所はプロッツェンゼー湖と言って、去年の11月に閉鎖されたテーゲル空港からも遠くない場所にある湖だ。

湖の周りは公園になっているのだが、湖にアクセスしやすくなっているテラス状の場所がお気に入りスポットだ。

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反対岸は砂浜になっていて、夏は有料水浴場として使われる
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階段を降りると湖が見渡せる。私たちが10月に入ったサウナも反対岸にあるが、今はエリア全体入れなくなっている

何回か通ううちに冷たさにもあっさりと慣れ、要領もよくなっていった。

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出た時に地面が冷たいので、足の踏み場用タオルを持っていくといいことにも気づいた。ヨガマットとかキャンプで使うような銀マットがあったらもっといいと思う。

また、最初の頃は水温がそこまで低くなかったので軽く泳ぐことができたのだが、水温が下がってくるとともに手足が冷えるようになったので、今では手は入れずに水に浸かるだけになった。

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足も、靴下を履いて入ると少しマシなことが分かった。少しずつ賢くなって、なかなか快適な寒中水浴ライフを送れるようになってきた。

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寒中水浴は楽しい

誘われた時は1回でやめるつもりだったが、気がついたらもう4か月近く続けていた。

だって寒中水浴、めちゃめちゃ楽しいのだ。

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11月には想像できなかった余裕の寒中スマイル

家族や友人からは頭がおかしくなったのではと思われているが、始めるまでは私もそっち側の人間だった。そもそも冬に冷たい水に入るなんて、サバイバル本能に反しているじゃないか。

でもなぜか楽しいのだ。自分でもうまく説明できないのだが、私が楽しいと思うポイントをまとめてみた。


(1)人も少なく、静かなので落ち着く

ベルリンには公園が多く、都心から少し離れるだけで静かな場所に出ることができる。冬の湖は特に人も少なく静かで、数分間遠くを見ながらボーッとしていると心がとても落ち着くのだ。

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ただただボーッとしたり、カモを見たりしてる

(2)入っている間、幸せな気分になる瞬間がある

水に入っている時、サウナの後に水風呂に入った時と似た幸福感を感じることがある。

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入った直後は水が冷たく感じるのだが、1分ぐらいすると不思議と体が慣れてくる。それから数分間は冷たさが逆に心地よくなり、出た後も頭がすごくスッキリする。サウナでいう「ととのう」状態に近い感じがする。

またジョギングしている時、走ることが猛烈に楽しくなる「ランナーズハイ」という感覚があるが、それにも似ていると思う。


(3)非日常的な行動が気分転換になる

刺激のない近頃、ちょっと非日常的な雰囲気を味わえるのも楽しみの一つである。特に、初めて氷の張った湖に入ったときはめちゃくちゃ興奮した。

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表情は興奮というより恐怖

1月のこの日の気温は-6度。水温は1度ほどだったと思う。寒い日が続いていたので2センチぐらいの厚さの氷が張っていて、入るために氷を割らなくてはいけなかった。

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すでに誰かが氷を割った形跡があった

数か月続けているが、毎回色々な変化があってとても面白い。そして慣れてきたとは言え、毎回入るたびにドキドキするので、いつも新鮮な気分を味わえるのだ。

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そして上がった後、自分はなんてクレイジーなことをしてしまったのだ!と思うのも楽しい。

(4)意外な中毒性

そして最も驚いたのが、自分が寒中水浴にハマったと言うこと。平日にふと「湖に入りたい」と思うようになったのである。

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普段は家大好きなインドア派な私が、こんなアウトドアなことを始めるとは想像もつかなかった。

寒中水浴の健康上のメリットについては色々な説があるようが、ベルリンの寒くて暗い冬や自粛生活のストレスも、寒中水浴のおかげで少し軽減された気がする。

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実はめちゃくちゃ流行っていた

そして寒中水浴を始めてもう一つ驚いたことがある。今、世界中で寒中水浴ブームが起こっているということだ。

ある土曜日の朝、いつもと違う時間帯に公園へ向かうとそこにはすでに15人ぐらいの人が寒中水浴をしていた。

実は土曜日の朝はベルリンの「Ice Dippers」という寒中水浴コミュニティが集まる時間帯だったのだ。初めての人でも安全に寒中水浴を行えるよう、指導もしてくれるらしい。(最初からこういうグループに入ればよかった。)

流行りに気づいてからは、ドイツやアメリカのメディアなどで寒中水浴に関する記事をよく目にするようになった。もともと、寒中水浴を行う人は年々増えていたようだが、ロックダウンなどがきっかけで人気がぐんと上がったようだ。

そんなことも知らずに通っていた場所は、もともと寒中水浴愛好家の溜まり場だったのだ。それもそのはず、毎週どんな時間帯に行っても必ず誰かいるのだ。

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滞在時間は短いが、ひっきりなしに人がくる

みんなただ黙々と入り、上がり、帰っていく。寒中水浴大会でよくある気合いを入れるための声かけや、冷たさに叫ぶ人もほとんどいなく、とても静かなことが印象的だ。

私が見る限り、寒中水浴をしている人達はこんなタイプがいる。

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寒中水浴というと乾布摩擦のようにおじいちゃんがやっているイメージがあったが、来ている人はほとんど20代〜30代の若者である。

入る前はウォームアップなど集中している人が多く、しかも上がったらすぐ帰ってしまうので話しかけるタイミングが難しいのだが、私たちと同じようにロックダウンがきっかけで、最近始めた人が多かった。

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他にはヴィム・ホフというオランダ人の呼吸法に興味を持って始めた人も数人いた。ヴィム・ホフは短パンでエベレストを登ったり、氷水に2時間近く入ってた記録をもつ超人(別名アイスマン)なのだが、彼の呼吸法が流行っているらしい。

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他にもベルリンは湖にアクセスが良い上、屋外で距離を保ちながらできるのでコロナでも比較的安全というのも魅力的なポイントなようだ。

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寒中水浴スポットにはよくギャラリーができる

流行っているとはいえ、氷の張った湖に入るのはどう考えても奇妙な行為だ。びっくりした顔で見ていく通行人や、興味を持って話しかけてくる人もいる。そんな人たちと話したり、驚いた表情を見たりするのも一つの楽しみだ。

寒中水浴は、色々と楽しい冬の娯楽なのである。


このように毎週楽しんでいる寒中水浴だが、そろそろサウナが恋しくなってきた。だがロックダウンの解除はまだまだ先になりそうなので、サウナが再開するまでは寒中水浴を続けると思う。

今はまだ水が冷たいのでつかるだけだが、水温が上がって泳げるようになるのを楽しみにしている。

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この間は白鳥が近づいてきてちょっと怖かった

注意:寒中水浴は楽しいですが、始める場合は無理の無い範囲で2人以上で行いましょう。本来は秋頃から少しずつ水温に慣れていくのが理想的です。あと、氷の下に潜ったりするのは危険なので絶対にやめましょう! 日本では立ち入り禁止の水場が多いようです。立ち入りの可否、可能であっても安否を事前に十分確認してください!

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