ザワークラウトジュースとの出会い
いつか、ベルギー人の友人が嘆いていた。
「風邪っぽくて病院に行ったんだけど、薬もくれず「お茶でも飲んで寝てなさい」って言われた!」
彼の言う通り、ドイツではよっぽどのことでない限り自然派治療法を選ぶ傾向にある。私はあまり病気をすることがないので経験がないが、何度もそのような話を耳にしたことがある。

ドイツでは、軽い症状であれば食べ物やお茶など自然の物を使って病気を直すことが、多くの人にとって普通であるようだ。私の周りの人も、しょうがハチミツ湯やハーブティー、鼻うがいなど、自分に合った自然の治療法や予防法をそれぞれ持っているようだ。

そんな文化のおかげか、ドイツのスーパーは自然派健康食品で溢れかえっている。普通のスーパーでも、健康のためのハーブティーや、免疫を上げるサプリメントなどがごっそりある。
そんな健康食品のオンパレードに慣れてしまい、特に関心を持つこともなく長年ドイツで暮らしてきた。が、ついこの間、興味をそそるあるものを見つけてしまった。
買い物中、ぼんやりジュースの棚を眺めていたのだが……
りんごやにんじんジュースなどと一緒にしれっと……
ザワークラウトジュース。
ザワークラウトは、ドイツや東欧料理の付け合わせとして登場するキャベツの漬物だ。
漬物ジュース。これは飲んでみるしかないだろう。
ザワークラウトジュースは肉が欲しくなる
ドイツでは肉料理の付け合わせとして食べられるザワークラウト。「ザワー」は酸っぱい。「クラウト」はキャベツの意。文字通り「酸っぱいキャベツ」である。日本語では酢キャベツと訳されることもあるが、本来はキャベツを塩のみで漬け、発酵させた食べ物だ。
こんな感じで肉の付け合わせとして付いてくる。温めて食べることもあるが、漬物のように冷たくてもおいしい。
今回買ったザワークラウトジュースは、ザワークラウトを作る過程で出た汁である。これをジュースと呼んでいいのか。
ジュースって何だっけ。思わず「ジュース」を検索してしまった。(Wikipedia「ジュース」より)
ウィキペディアによるとジュースは「果物や野菜の汁」だそう。
なんか腑に落ちないが、ジュースの定義には一応当てはまるようだ。とにかく、飲んでみよう。
750ml入りで400円ぐらいだった。乳酸菌の効果で腸の働きを活発にしてくれるので、便秘などに良いらしい。
一人だと心許ないので、友人の山田さんに付き合ってもらう。
山田さんは料理が上手なので味覚が鋭い。と勝手に信じる。
ザワークラウトジュースを注ぐと、漬物のすっぱい匂いがしてきた。
白く濁った液体は、お世辞にもおいしそうとは言えない色だ。
味はと言うと……
しょっぱい!
ほりべ「これは……漬物の汁だね。」
山田「あー、匂いも味もザワークラウトそのまんまだね。腸にいいかもだけど、塩分が心配。」
ほりべ「ザワークラウトが好きだから飲めるけど、沢山飲みたいものじゃないかな……」
山田「ザワークラウトって豚肉料理に付いてくるイメージが強いから、ベーコンとか一緒に入れたくなる。」
ほりべ「確かに!肉が欲しくなる。」
肉が欲しくなるジュースって、前代未聞なのでは無いだろうか。

ジュースとはかけ離れた飲み物だが、まずくはない。これで体調がめちゃくちゃ良くなると言われたら、毎日飲めると思う。多分。
味 ★★★☆☆
健康に良さそう ★★★★☆
毎日飲めるか ★★★★☆
他のジュースもどんどん試していこう。
赤カブジュースは飲みすぎると次の日が怖い
次は生の赤カブを絞ったジュースだ。赤カブは、ロシア料理のボルシチなどに使われる野菜である。
ドイツで売ってるものはこのように外は紫色で、中は鮮やかな赤色。
種類によっては紅白のうずまき模様だったり。めでたい感じがする。
赤カブジュースは血圧を下げる効果があるそうだ。
ザワークラウトに比べたら、断然ジュースに適しているルックスだ。期待しながら飲んでみる。
あ、赤カブだ。
山田「あ、うん。赤カブそのまんまだね。匂いがきついかな。」
ほりべ「意外とサラサラしてて、甘い。勝手な想像だけど、鉄分が入ってそうな味がする。」
山田「カブ臭がちょっときつい。でも頑張れば飲める範囲だね。」
味 ★★★☆☆
健康に良さそう ★★★★☆
毎日飲めるか ★★★★☆
クセがあるが、赤カブが嫌いでなければ飲める味。ザワークラウトジュース同様、すごくおいしいわけではないが、匂いも味も想像通りで意外と飲めるものだった。

根セロリジュースは意外とうまい
次に、個人的に一番心配である根セロリジュースを飲んでみる。
普通のセロリジュースは店にも売っていたのだが、こちらはネットで買った根セロリジュース。
根セロリはドイツに来て初めて出会った野菜なのだが、普通のセロリと違って根っこの方を食べる種類だ。ドイツ人に「セロリ」と言うと根セロリを先に連想する人が結構多いぐらい、定番の野菜である。
スーパーに置いてある様子。カリウムやビタミンが豊富だそう。
ドイツでは根セロリはクリームスープやマッシュドポテトに入れたりする。私はセロリ全般が好きではないので良く覚えていないが、味は確か普通のセロリより青臭さが少なめでマイルドだったと思う。山田さんもセロリ全般が苦手なので、二人して飲みきれるかどうかが心配だ。
恐る恐る注ぐ。もうセロリの香りがする。
味は絶対違うけど桃ジュースの色だ!
意を決して飲んでみる。
あ!おいしい!
絶対まずいと思って飲んだおかげか、今日初めて「おいしい」という言葉が出た。全く期待しなかった分、驚かされた。
山田「セロリの匂いはするけど、味は野菜ジュースと似た味がする。野菜ジュースってみんなセロリ入ってるのかも。」
ほりべ「少し塩が足してあるからしょっぱくて飲みやすいのかな。汁オンリーじゃないから反則かもしれないけど、意外と飲める。」
山田「赤カブみたいに後味が残らないし、スッとする。」
根セロリジュースがこんなにヒットするとは思いもよらなかった。期待をしないことは良いことである。
味 ★★★★☆
健康に良さそう ★★★★☆
毎日飲めるか ★★★★☆
今日の最高得点だ。根セロリジュースはまずくない。

キャベツジュースはタイヤの匂い
次はザワークラウトの元となるキャベツを絞っただけのもの、キャベツジュースを試してみる。
おしゃれなビンに入っているけど、中身はキャベツ。
強烈なキャベツの匂いで笑いが止まらない。
「キャベツの甘くて臭い匂いがすごい。あと、タイヤの匂いがする。」
仕方なく、タイヤの匂いがするキャベツジュースを飲んだ。
ほりべ「あ、お好み焼きの味がした。」
山田「これ、ジュースじゃないね。」
ほりべ「食べ物味の飲み物だ。」
山田「ガリガリ君のお好み焼き味を作るときに使えそうな液体。」
ほりべ「サラサラしてて飲んでる時はいいけど、後味が最悪だ……。」
山田「キャベツが永遠と続く。」
ほりべ「ゲップもキャベツ臭い……」
味 ★☆☆☆☆
健康に良さそう ★★★☆☆
毎日飲めるか ★☆☆☆☆
キャベツジュースは胃腸の調子を整えたり抗酸化物質などが入っていたり、とても体にいいらしい。でももう一生飲みたくない。

じゃがいもジュースを飲むと震える
そして最後は生のじゃがいもを絞った汁、じゃがいもジュースを飲んでみた。
キャベツジュースを同じメーカー。おしゃれだけど、イモだ。
ウィスキーのボトルと並べても違和感がないくらい、色は全くウィスキー。
じゃがいもジュースは胸焼けなどに良いらしい。肌にも良いらしく、日焼けした肌に直接つけると良いとも書いてあった。
匂いを嗅いでみると、じゃがいものもさっとした香りがした。
山田「イモの向こうに、お茶の匂いがする。」
ほりべ「確かに!なんか香ばしい匂い。」
山田「韃靼そば茶だ!」
いいところに夫が来たので、彼にも匂いを嗅いでもらった。
夫「ジメジメした物置とポテトチップスが混ざった匂いがする……」

飲んでみると、匂いと味のギャップに驚いた。
ほりべ「塩は入ってないのに薄じょっぱい。そしてえぐい。」
山田「じゃがいもの悪いところを凝縮したような味。じゃがいもの芽の付近の味がする。」
ほりべ「透き通った液体なのに、もっさり感がすごい。液体化したイモそのものだ。」
じゃがいもという最高においしいものを、こんなにもまずくする方法があったとは。鳥肌が立った。
味 ☆☆☆☆☆
健康に良さそう ★★☆☆☆
毎日飲めるか ☆☆☆☆☆
もう一生飲みたくない液体、トップ3に入るまずさであった。
飲み手に媚びないジュースたち
つい最近までジュースはおいしいものだと信じて生きてきたが、完全に常識が覆された。
世の中の野菜ジュースは飲みやすさを追求しているものが多いと思うが、今回のジュースたちは飲み手に全く媚びることなく、野菜のありのままの姿を液体化したワイルドなものだった。

一つ残念だったのは、これらのジュースを実際に常飲している人を見つけることができなかったことだ。もし周りにいたら、ぜひ教えて欲しい。
そして山田さんは、変なジュースを飲まされすぎたのかお腹がゴロゴロして寝付けなかったそう。野菜ジュースも飲み過ぎはよくないようだ。(山田さんごめん。)