特集 2021年6月23日

ヴィンテージ紫陽花(アジサイ)の季節がやってきた!

紫陽花は息の長い花である。

花びらに見える部分は実は萼(ガク)なので、桜のように自然と散っていかない。

それゆえ枯れ際の変化が面白い。ただ茶色く枯れていくだけでなく、赤く変色する、薄緑に退色するなど様々である。

紫陽花の生きざまについて学びつつ、その枯れ際を“ヴィンテージ紫陽花”と名付けて楽しみたいのだ。

平成元年生まれ。令和から原始まで、古いものと新しいものが好き。

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知れば知るほどユニークな花、紫陽花の生きざま

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三鷹市野川公園にて(2020/6/27撮影)

植物のことって意外と知らないことが多い。

紫陽花もそうだ。園芸好きな人には常識でも、門外漢には初めて知ることばかりで楽しい。

例えば、一般的な紫陽花の基本種(園芸品種などの元になるオリジナル)は、次のどちらだろうか?

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左が「手まり型」、右が「ガク型」と呼ばれている

これ、実は右なのだそうだ。

種の名前もガクアジサイといい、日本に自生する野生種(ガクアジサイ、ヤマアジサイ、エゾアジサイなど)のうちの一つである。

そのガクアジサイのレアな突然変異種が、左の「アジサイ(ホンアジサイ)」である。

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紫陽花といえばやはりこんなイメージだろう

江戸時代にはもう「アジサイ」という一般名称で呼ばれていた最もポピュラーな手まり型は、元はといえばガクアジサイの変異種が人間の手によって広まったものなのだそうだ。

たいへん意外だったが、それも次の知識を得ると納得できる。

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ガクアジサイの額縁部分は花の土台である萼(ガク)の発達した装飾花で、内側の細かいのが本物の花だ

派手な装飾花を目印に虫たちをおびき寄せ、本物の花の絨毯にダイブさせるのが紫陽花の生殖戦略なのだという。

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左の本物の花は雄しべ・雌しべがそろう「両性花」で受粉可能。右は装飾花についている「中性花」で雌しべが退化し受粉できない

だから、装飾だらけになってしまった手まり型のアジサイは、生殖という意味ではあきらかに大損な状態である(人間は挿し木で育てるから関係ないが)。

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本物の花は裏に隠れている

人間にもファッションに目覚めすぎて、モテを離れあらぬ方向へと突き進んでいく人は一定数いるが、そんな感じだろうか。

最もフツーな紫陽花と思っていたけど、見る目が変わってしまった。

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手まり型の大きな株のうち、ひとつだけガク型に先祖帰りしているものを見つけた

また、これもそこそこ有名な話だが、紫陽花は土壌の酸度により花の色が変化する。

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同じ株の中でも、花によって色が変化することも珍しくない

紫陽花の色素であるアントシアニンと、土壌から吸収したアルミニウム(酸性で水に溶けだし根から吸収できるようになる)が結合することで色が変化するのだ。

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ヨーロッパでは弱アルカリ性土壌が多いため、紫陽花はピンクや赤い花として親しまれている

おおむねアルカリ性→赤、中性→紫、酸性→青という風に変化するらしいが、実際はこれに品種の遺伝的特徴などの複合要素が合わさって決まるそうだ。

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弱酸性~酸性土壌の多い日本では、鎌倉の「明月院ブルー」などに代表されるように、澄んだ青のイメージが強い

また、紫陽花はたった一日経つだけでも色が変化すると言われている。いろいろと忙しい花だ。

 

そんな紫陽花には2000近くも品種がある!

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装飾花がキュッと縮まる「ウズアジサイ」はガクアジサイ系の変異種だが、ところどころ元に戻っている部分もある

紫陽花は色も形も変異しやすい変幻自在の花だそうだ。

そこに目をつけて品種改良に手をつけたのがヨーロッパ人。

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派手な赤紫が目を引く「ハワイアングレープ」

江戸時代に中国を経由して日本の紫陽花がヨーロッパへ入り、さまざまな園芸品種が作られた。それが日本へ逆輸入され西洋紫陽花(ハイドランジア)として親しまれるようになる。

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八重咲きに縁のみが赤くなる「ひな祭り」

2010年出版の『アジサイ百科』には2000近くの品種が載っており(!)、今も新しい品種がつくられている。

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ガクが立派でバランスの良い「アリラン」)

それゆえ、紫陽花の「ヴィンテージ化」もさまざまなタイプを楽しむことができるのだ。

ちなみに、園芸の世界では花が枯れずに色変化していく紫陽花を「秋色紫陽花」というのだが、今回あえて「ヴィンテージ紫陽花」と勝手に名づけたのは、枯れ方も含めて鑑賞したいからだ。

 

現代人のように老後が長い紫陽花

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直射日光を浴びすぎると老化は早まる

6月下旬から7月にかけて、紫陽花の花は役割を終えて、少しずつ老いていく。

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比較用に撮ったツツジのガク。花びらは役割を終えたのち効率よく散ることができるが、ガクは残ってしまうものだ

残っていればそこに栄養をとられてしまう。だから用済みとなった花びらは散っていくのだ。

しかし紫陽花はガクが花のように発達したため、用済みになったあとも散らずに鎮座することになる。

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ピークを過ぎると青系の色は退色していき、赤系へと変化するものが多い(2020/7/24)

ではどうするかというと、色素を分解するなどして、細胞を生理的に変化させることで栄養供給の負担を減らしているらしい。それが色の変化の理由なのだそうだ。

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傷が原因か、色変化を待たずに部分的に枯れていくパターンもある。ダメージジーンズみたいでこれはこれでカッコいい

さて、ここからはそんな紫陽花のエイジングの妙を、撮りためた写真の中から厳選して紹介していきたい。

 

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カシワバアジサイは色気あるグラデーションカラーが美しい

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北米原産で、ロケット型に育つ大きな花が人気のカシワバアジサイ

カシワバアジサイは日本の紫陽花に比べても息の長い花だ。

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咲き始めの白(2020/6/7)

最初は混じりけのない綺麗な白なのだが…

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次第にえんじ色~黄緑のグラデーションカラーへと変化していく(2020/7/24)

この変わりようである。

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すこし危うさを感じるセクシーな色使いだ
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変わりはじめの控えめなピンクもかわいい(2021/6/11)
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右下の赤茶色が1年もののヴィンテージ紫陽花(2021/6/13)

剪定しなければ、これだけ大きな花房が朽ち果てずに残っているのだ。これぞまさにヴィンテージ紫陽花である(1年だけど)。

 

もう一つの北米原産種、アナベルはシンプルに緑へかえっていく

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こちらも白く可憐な花が人気のアナベル(2021/6/13)

咲きはじめはカシワバアジサイと同じく綺麗な白なのだが…

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透明感のある黄緑色に変化していく(2020/7/12)

赤味が入らないため、歳をとっても爽やかさがある。

 

崩れゆく危うさの赤

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比較的綺麗に赤く色づいたもの(2020/7/24)

ここからは普通の紫陽花である。

紫陽花の中には、老いるにつれて強く赤みがかるものもある。

このタイプは儚さよりも崩れゆく危うさのようなものが感じられてドキッとする。

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2020/7/4から2020/7/24への色の変化。青系の色が分解されていくことがわかる

こちらの紫陽花の咲き始めはもっと青かったのだが、7/4の段階で紫になり、その紫も退色していった。

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ものによってはもう少しマダラで不健康そうなパターンもある(2020/7/24)
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体調が悪そうで助けてあげたくなるガクアジサイ
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綺麗に色づくものもある(2020/7/24)
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新宿の片隅で冬まで残っていたもの。年老いたヴィジュアル系バンドを連想する(2020/12/7)

 

余生は静かに過ごしたそうな薄緑系

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ガク型でも、赤くならずに退色するものもある(2020/7/12)

本来の色→薄緑→赤と変化していくものもあるそうだが、赤が出ずにしおれていくものも多い。

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本来の色がピンク系だからといって赤くなるわけではない(2020/7/12)

自分が花びらではなくガクだったことに気付いたのだろうか。美に執着せず、あるがままを受け入れている感じがする。

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ちょっと単色野菜っぽさもある(2020/7/12)
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どっちつかずなやつもいる(2020/7/12)
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なんにしろ地味な最期である(2020/7/12)

 

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枯れ始めのバランス感の妙

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今回のベスト・ジーニスト紫陽花。80年代のジーンズみたいだ(2020/6/29)

色変化する前に、薄い青を残したまま枯れていくパターンもある。水分不足だとこうなるのだろうか。

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左側の方がエイジングが進んで紫が抜けているもの(2021/6/20)

紫陽花の色は日に日に変化していくことがよくわかる。ほんとに飽きさせない花だ。

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薄ピンク、薄紫、枯れのバランスがすばらしい(2020/6/20)

 

性格俳優のような味のある皺、ウズアジサイ

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まだまだ咲き頃のウズアジサイ(2020/7/20)

個人的なイチオシは間違えて乾燥機にかけてしまったかのようなこのウズアジサイである。

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色の変わり方、水分の抜けた感じが渋い(2020/7/20)
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寄ってみても味のあるシワである(2020/7/5)

花自体も縮んでいくため、シワが締まった感じになりかっこいい。

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夕日を浴びてたたずむ姿も絵になる(2020/7/5)
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花茎の暗い紫も色気がある(2020/7/20)

 

実はレア、潔く枯れゆくものたち

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冒頭で紹介した野川公園のその後(2020/8/31)

一面のピンクから2ヶ月、この変わり様は壮観である。とはいえ、これだけ枯れた花が大量に残っている光景は都市部では意外と見られない。

紫陽花は花芽(翌年花になる枝の芽)をつけるのが7月〜8月頃と早く、咲き終えた花から順次剪定していかないと翌年の花の数が減ってしまうらしい。だから枯れ始めるとすぐバッサリいかれることが多い。

長く色変化を楽しむ秋色紫陽花は、来年の花を犠牲にして楽しむものだそうだ。

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7月に一足早く余生を終えたものもあった(2020/7/24)

逆にエイジングできずに枯れるのは直射日光や強風、水分不足などが原因といわれている。

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花芽まで切られてしまうと、翌年咲く花はなくなる

 

締めは古老感ある1年~2年物のヴィンテージ紫陽花

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よくぞ残っててくれた…と嬉しくなる1年ものの花(2020/7/4)

ガクだから残りやすいといっても、1年も経つとさすがに朽ち果てているものだ。

だが、人知れず生えている紫陽花に注目してみると、たまにこうして古い花が残っているものがある。1歳なのにこの枯れ感。古老っぽさが漂う。

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いくら朽ち果てていても、次世代は先代を避けるように咲くしかないのが辛いところだ(2021/6/20)
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この骨っぷり。よもや2年ものだったとしたら嬉しい(2021/6/20)

シーズンが終わると剪定されて急に存在感をなくす紫陽花。

こうした生き残りを除いて、その枯れ際を楽しめるのもあと一か月程度だ。

今年も紫陽花の有終の美を目に焼き付けておきたいものだ。


 

今回紹介したものは、どれも外を歩くと一般的にみられるものである。

園芸品種の中には、もっと鮮やかな「秋色」に変化するものもあるそうだ。

自分でも育ててみようかな。

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つぼみはつぼみで小さなカボチャみたいなかわいさがある

 

 
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