今回紹介したものは、どれも外を歩くと一般的にみられるものである。
園芸品種の中には、もっと鮮やかな「秋色」に変化するものもあるそうだ。
自分でも育ててみようかな。

紫陽花は息の長い花である。
花びらに見える部分は実は萼(ガク)なので、桜のように自然と散っていかない。
それゆえ枯れ際の変化が面白い。ただ茶色く枯れていくだけでなく、赤く変色する、薄緑に退色するなど様々である。
紫陽花の生きざまについて学びつつ、その枯れ際を“ヴィンテージ紫陽花”と名付けて楽しみたいのだ。
植物のことって意外と知らないことが多い。
紫陽花もそうだ。園芸好きな人には常識でも、門外漢には初めて知ることばかりで楽しい。
例えば、一般的な紫陽花の基本種(園芸品種などの元になるオリジナル)は、次のどちらだろうか?
これ、実は右なのだそうだ。
種の名前もガクアジサイといい、日本に自生する野生種(ガクアジサイ、ヤマアジサイ、エゾアジサイなど)のうちの一つである。
そのガクアジサイのレアな突然変異種が、左の「アジサイ(ホンアジサイ)」である。
江戸時代にはもう「アジサイ」という一般名称で呼ばれていた最もポピュラーな手まり型は、元はといえばガクアジサイの変異種が人間の手によって広まったものなのだそうだ。
たいへん意外だったが、それも次の知識を得ると納得できる。
派手な装飾花を目印に虫たちをおびき寄せ、本物の花の絨毯にダイブさせるのが紫陽花の生殖戦略なのだという。
だから、装飾だらけになってしまった手まり型のアジサイは、生殖という意味ではあきらかに大損な状態である(人間は挿し木で育てるから関係ないが)。
人間にもファッションに目覚めすぎて、モテを離れあらぬ方向へと突き進んでいく人は一定数いるが、そんな感じだろうか。
最もフツーな紫陽花と思っていたけど、見る目が変わってしまった。
また、これもそこそこ有名な話だが、紫陽花は土壌の酸度により花の色が変化する。
紫陽花の色素であるアントシアニンと、土壌から吸収したアルミニウム(酸性で水に溶けだし根から吸収できるようになる)が結合することで色が変化するのだ。
おおむねアルカリ性→赤、中性→紫、酸性→青という風に変化するらしいが、実際はこれに品種の遺伝的特徴などの複合要素が合わさって決まるそうだ。
また、紫陽花はたった一日経つだけでも色が変化すると言われている。いろいろと忙しい花だ。
紫陽花は色も形も変異しやすい変幻自在の花だそうだ。
そこに目をつけて品種改良に手をつけたのがヨーロッパ人。
江戸時代に中国を経由して日本の紫陽花がヨーロッパへ入り、さまざまな園芸品種が作られた。それが日本へ逆輸入され西洋紫陽花(ハイドランジア)として親しまれるようになる。
2010年出版の『アジサイ百科』には2000近くの品種が載っており(!)、今も新しい品種がつくられている。
それゆえ、紫陽花の「ヴィンテージ化」もさまざまなタイプを楽しむことができるのだ。
ちなみに、園芸の世界では花が枯れずに色変化していく紫陽花を「秋色紫陽花」というのだが、今回あえて「ヴィンテージ紫陽花」と勝手に名づけたのは、枯れ方も含めて鑑賞したいからだ。
6月下旬から7月にかけて、紫陽花の花は役割を終えて、少しずつ老いていく。
残っていればそこに栄養をとられてしまう。だから用済みとなった花びらは散っていくのだ。
しかし紫陽花はガクが花のように発達したため、用済みになったあとも散らずに鎮座することになる。
ではどうするかというと、色素を分解するなどして、細胞を生理的に変化させることで栄養供給の負担を減らしているらしい。それが色の変化の理由なのだそうだ。
さて、ここからはそんな紫陽花のエイジングの妙を、撮りためた写真の中から厳選して紹介していきたい。
カシワバアジサイは日本の紫陽花に比べても息の長い花だ。
最初は混じりけのない綺麗な白なのだが…
この変わりようである。
剪定しなければ、これだけ大きな花房が朽ち果てずに残っているのだ。これぞまさにヴィンテージ紫陽花である(1年だけど)。
咲きはじめはカシワバアジサイと同じく綺麗な白なのだが…
赤味が入らないため、歳をとっても爽やかさがある。
ここからは普通の紫陽花である。
紫陽花の中には、老いるにつれて強く赤みがかるものもある。
このタイプは儚さよりも崩れゆく危うさのようなものが感じられてドキッとする。
こちらの紫陽花の咲き始めはもっと青かったのだが、7/4の段階で紫になり、その紫も退色していった。
本来の色→薄緑→赤と変化していくものもあるそうだが、赤が出ずにしおれていくものも多い。
自分が花びらではなくガクだったことに気付いたのだろうか。美に執着せず、あるがままを受け入れている感じがする。
色変化する前に、薄い青を残したまま枯れていくパターンもある。水分不足だとこうなるのだろうか。
紫陽花の色は日に日に変化していくことがよくわかる。ほんとに飽きさせない花だ。
個人的なイチオシは間違えて乾燥機にかけてしまったかのようなこのウズアジサイである。
花自体も縮んでいくため、シワが締まった感じになりかっこいい。
一面のピンクから2ヶ月、この変わり様は壮観である。とはいえ、これだけ枯れた花が大量に残っている光景は都市部では意外と見られない。
紫陽花は花芽(翌年花になる枝の芽)をつけるのが7月〜8月頃と早く、咲き終えた花から順次剪定していかないと翌年の花の数が減ってしまうらしい。だから枯れ始めるとすぐバッサリいかれることが多い。
長く色変化を楽しむ秋色紫陽花は、来年の花を犠牲にして楽しむものだそうだ。
逆にエイジングできずに枯れるのは直射日光や強風、水分不足などが原因といわれている。
ガクだから残りやすいといっても、1年も経つとさすがに朽ち果てているものだ。
だが、人知れず生えている紫陽花に注目してみると、たまにこうして古い花が残っているものがある。1歳なのにこの枯れ感。古老っぽさが漂う。
シーズンが終わると剪定されて急に存在感をなくす紫陽花。
こうした生き残りを除いて、その枯れ際を楽しめるのもあと一か月程度だ。
今年も紫陽花の有終の美を目に焼き付けておきたいものだ。
今回紹介したものは、どれも外を歩くと一般的にみられるものである。
園芸品種の中には、もっと鮮やかな「秋色」に変化するものもあるそうだ。
自分でも育ててみようかな。
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