これがタコの塩辛として正解なのかまったくわからないが、イカの塩辛ほど普及しない理由はこの舌がしっかりと受け止めた。でももう少し臭みを抜ける気もするので、また釣れたら試してみようかな。
イカとタコは似たような生き物、そして同じような食材というイメージだったが、塩辛にすると結構違うね。そりゃそうか。万人向けの味とは決して言えないが、我こそはと思った本気の珍味ファンは試してみてもいいかもね。目の前に握力計でも用意して。

イカのライバルといえばタコ。だが塩辛の材料はイカばかりである。アマエビやカツオの塩辛(酒盗)があっても、タコの塩辛は不思議と存在しないのだ。
いや存在しないは言い過ぎだが(検索したらたくさん出てきた)、イカの塩辛に比べれば相当マイナーな存在だろう。それはなぜなのか。実際に作って確かめたら、舌が納得する味だった。
タコの塩辛は、一体どんな味なのだろうか。
それを試そうと思ったのは、昨年の冬にフグを釣りにいったら、タコがたまたま掛かったからだ。こいつを塩辛にしてみようと思ったのである。
だがその前に私が16年くらい磨き続けている、イカの塩辛のレシピを紹介しておく。
この作り方を踏襲して、タコの塩辛を作るのだ。
肝に塩をドサドサとまぶしてキッチンペーパーで包んで冷蔵庫へ。墨袋はそのまま付けておく。
臭みのない塩辛を作るコツは、イカからしっかりと水分を抜いてから仕込むこと。この水分に生臭さがあるのだ。
上記の手間を掛けることによって、脱水された肝は生チョコのような輝きを放ち、身は刺身で食べられる一夜干しとなる。この2つが合わさるから濃厚でうまい塩辛になるのだ。
はい、塩辛の完成です。
墨袋も皮も入れたので、濃い褐色に仕上がるのが特徴かな。
このねっとり感、どうですか。
食べるときに醤油を一垂らしするともう最高。
しっかりと熟成された身の甘さと弾力。それをコーティングする肝の濃厚なソース。イカそうめんという料理があるが、これはイカパスタなのかもしれない。
って思ったけれど、実に伝わらなそうな感想だ。
もちろん酒に合うが、白飯との相性がまたヤバいんだ。
だが本当にヤバいのは、塩辛チャーハンだったりする。
見た目はちょっと微妙かもしれないが、脂の力で旨味が拡散された塩辛が米の一粒一粒をコーティング。そこに加わるのが歯ごたえと爽やかさを与えるノビルである。
うまい、すごくうまい。イカ、すごいな。
以上、イカを塩辛にすると数日は幸せに暮らせるという話でした。
はて、私は何をしていたんだったかな。
そうだ、タコの塩辛を試すんだった。
タコもイカと同じように、頭(に見える部分)の中に肝が入っているので、帽子(外套膜)をペロンとひっくり返して取り出す。
マダコの肝はスルメイカのそれとかなり似ているので、これが塩辛にならない訳はないだろう。
早くも成功を確信しつつ、塩をたっぷりと効かせて冷蔵庫で寝かす。
イカとタコでは足の数だけでなく、ぬめりの量がかなり違う。タコはかなりぬめりが強く、そこに生臭みがあるのだ。そこで冷凍庫で凍らせて、二日後に解凍した。一度凍らせることで断然ぬめりが取れやすくなるし、身が柔らかくなるのだ。
塩でしっかりと揉んで、皮がキュッキュするまでよく洗う。
イカの場合は皮をつけたまま身(外套膜)を塩辛に使ったが、さてタコはどこが向いているだろうか。やっぱりタコといえば足だろう。いや帽子もうまいけど。
こんなにがんばって洗っておいてなんだが、皮つきだとまだ生臭さそうだ。そこでかつてタコ専門店で食べた生タコの刺身がそうであったように、皮を剥いた白い足だけを使うことにした。
皮を剥くなら、わざわざ凍らせなくてもよかったかなという気もする。
さて二日間塩漬けにした肝はどうなったかというと、想像以上に水が抜けてペチャンコになっていた。さすがタコ、肝までも軟体生物だ。
この染み出た水分からちょっと生臭い香りがするので、せめてもの抵抗として酒で軽く表面を洗っておこうかな。
塩漬けにした肝をカットしてみると、ブラックオパールやアワビの肝を思わせる高級感に溢れた断面だった。
これはもはや小宇宙。イカ以上に濃厚な塩辛が楽しめそうだ。ちょっとまだ生臭いけどね。
イカは肝を酒で伸ばして身と混ぜたが、タコには酒に醤油をプラスして足と合わせてみた。醤油の旨味成分が隠し切れない生臭みを押さえつけてくれると信じて。生姜や味噌に頼らなかったのが、せめてもの強がりである。
あー、不安と期待が交じり合う。
ここから冷蔵庫で二日間寝かせたら、人生初となるタコの塩辛が完成だ。本当に完成しているのかは知らないけど。
見た目は私が作るイカの塩辛とよく似ている。ただ匂いはちょっと違うかな。なんというか野性味が溢れているのだ。
さて一体どんな味なのだろうか。イカがタコになっただけの料理なのに、ここ数年で一番緊張する試食かもしれない。
以下(タコですが)、味の感想をそのまま口に出して、録音して文字に起こしたものです。
「あーー、なんだこれ。濃い。濃厚、濃厚民族。わー、うわー。すごい、タコだ。わー、タコタコタコ、全然イカじゃない。やばい、強いわー、鳥肌ザワザワー。アンモニア臭のないホンオフェ(発酵させたエイの刺身)みたいな力強さ。熟成された新鮮な生臭さの塊、そして結晶。あーー、タコの足って弾力あるからすぐ飲み込めないね。離乳食しか食べたことがないちびっこのような、舌の珍味力ゼロの状態でイカの塩辛を食べたときの衝撃みたいな破壊力。ある意味、童心に返る味。これまで味覚で使ったことのないセンサーが刺激されていく。まだ世の中にこんな味があったのか。生臭さの先がここにある。わー、なんというか現地の味。どこだよ現地って。いやー、すごい。でも好きな人は好きなんだろうな。大人の中の大人の味。塩辛なのにご飯と合わない、日本酒とも合わない。ウォッカとかバーボンを持ってこい。あ、でもだんだん好きなってきたかも。いやでもやっぱ強すぎるわ~」
伝わるだろうか、この衝撃。普段口数の少ない男が、一口食べただけでこのつぶやきだ。ただ生臭いのではなく、なんというか力強いのである。これを噛みながら瓦を割れば、結構な枚数をいける気がする。
あー、びっくりした。
これがタコの塩辛として正解なのかまったくわからないが、イカの塩辛ほど普及しない理由はこの舌がしっかりと受け止めた。でももう少し臭みを抜ける気もするので、また釣れたら試してみようかな。
イカとタコは似たような生き物、そして同じような食材というイメージだったが、塩辛にすると結構違うね。そりゃそうか。万人向けの味とは決して言えないが、我こそはと思った本気の珍味ファンは試してみてもいいかもね。目の前に握力計でも用意して。
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