サクラマスが飛ぶ
サクラマスがあんなに飛んでいるのを見たことはなかった。ありがたみが皆無になるほど飛んでいるのだ。さらに食べると美味しかった。スーパーで普通に変えるのが嬉しい。私が住む東京・狛江のスーパーには売っていなので、旅先で行くスーパーの楽しさを再確認することもできた。
サクラマスという魚がいる。渓流の女王と呼ばれる「ヤマメ」の降海型をサクラマスと言い、ヤマメは20センチほどだけれど、サクラマスは大きいものでは70センチほどの大きさになる。
北海道の清里町に「さくらの滝」というものがあり、6月から8月の時期は、産卵のために海より戻って来たサクラマスが上流を目指し、滝を登っている。しかも、バンバンに登っているのだ。ぜひ見に行きたいと思う。
ヤマメと言われると、淡水魚のイメージがある。実際に渓流に住む魚で、渓流の女王とも言われるパーマークの美しい魚だ。ただ全てのヤマメが渓流で一生を終えるわけではない。一部は海へと向かうのだ。
海から戻って来たヤマメは「サクラマス」と名前が変わり、大きさも40センチ以上、大きいものでは70センチほどになるそうだ。渓流のヤマメは20センチ、大きくても30センチほどなので、海から戻ったヤマメ(サクラマス)は倍以上のサイズになるわけだ。
渓流で10センチほどのサイズになったヤマメが海に向い、40センチ以上になり戻ってくる。ロマンを感じる。ヤマメと比べるとサクラマスはめちゃくちゃ強そうなのだ。サイズも違うし。しかし、海に向かう時は、弱い個体が海に向かう。武者修行みたいなことかもしれない。
そんなサクラマスが海から渓流に戻ってくるのが今の時期。北海道の清里町にある「さくらの滝」では、サクラマスがさらなる上流を目指し、滝を登るためにバンバンに飛んでいると聞いた。そんなはずないでしょ、と私は思っていた。
スーパーにサクラマスが並んでいることはあまりないし、幻の高級魚と言われていたりもする。古くは富山の名物「ますのすし」はサクラマスが使われていたけれど、近年は輸入物のトラウトやサーモンが使われている。つまりサクラマスがバンバンに飛んでいるはずがないのだ。
バンバンだった。とてもバンバンだった。バンバンにサクラマスが飛んでいた。なかなか飛ばないね、という時間はなく、間髪なく、次々にサクラマスが滝を登るために飛んでいた。感動だった。だって、バンバンなんだもん。
さくらの滝は水深が3メートルほどあり、滝の部分は2メートル以上という感じ。水量も多く人間ならば水圧で潰れそうなほど、水が落ちている。そんな滝に向いサクラマスがバンバン飛んでいて、最初は感動したけれど、飛びすぎて飽きるほどだった。
3000匹ほどが海から戻って来て、300匹くらいがこの滝を超えて行くそうだ。成功率は10%。かなり低い。横幅が広い滝ではあるが、ジャンプに成功するのは1箇所しかないらしく、ほとんどが失敗に終わることになる。
1匹のサクラマスが1回しかジャンプをしないのではなく、失敗して、休憩して、また飛んで、失敗して、休憩して、また飛んでを繰り返す。そのためにバンバンに飛んでいるサクラマスを見ることができるわけだ。
富山県ではサクラマスの養殖に成功している。庄川の伏流水で稚魚を育て、ある程度のサイズになると富山湾の海水に24時間をかけて順応させる。産卵の時期は日の出日の入りなどを照明を使い人工的に再現したりもしているそうだ。
6月から8月の間しか見ることができないこの光景ではあるが、私が行った日は誰も飛ばない時間は5秒もなかった。山手線の本数よりも多い数が飛んでいるのだ。こんなに何かが飛んでいるのを見たことがなかった。
せっかくなのでサクラマスを食べたいと思い、海に出かけた。北海道では基本的に川で釣るのは禁止らしく、海で釣るしかない。ということで、釣竿を持って海に出かけたのだ。富山藩の殿様にも献上された魚なのだ。食べてみたいに決まっているのだ。
ちなみにヤマメみたいな魚は割と海に向かう。アマゴは海に向かうと「サツキマス」となり、「ニジマス」は「スチールヘッド」となる。アメマスは海に向かっても、名前は「アメマス」のままだけど、どれも海に出ると大きくなる。
釣れるのかどうかわからないが、私が行った日も船ではサクラマスが釣れているようだった。船酔いするので陸から釣っているが、釣れて欲しい。意気込みだけはある。
サクラマスを手に入れた。北海道のスーパーに行ったら普通に売っていた。グラム88円なので、肉で考えると高くはない。やはり普通のヤマメと比べると、比べるまでもなくだけど大きい。サイズだけではなく、顔も海に行くと変わるようだ。
サクラマスを焼いて食べようと思う。ヤマメは何度も食べたことがあるけれど、サクラマスはほぼ食べた記憶がない。スーパーで買えるのでハードルは高くないと言えるし、7月の頭までスシローでも食べられたらしい。
身の色はサーモンなどと同じくオレンジ色だった。綺麗なオレンジだ。ちなみにヤマメの身の色は白だ。そもそもヤマメは白身魚。それが海に行くことで食性が渓流とは異なり、オレンジ色、いや桜色になるということだ。
アルミホイルに包んで焼いた。熱効率がいいかな、と思って包んだのだ。味を楽しみたいので、味付けは塩胡椒だけのシンプルなものを採用した。塩だけでもいい気がしたのだけれど、塩胡椒しか手持ちがなかったのだ。
焼くと桜色と呼ぶにふさわしい色になった。臭みは処理の仕方などで変わるので、一概には言えないけれど、臭みはない。つまり美味しいということだ。
鮭に近いように思えるが、深みがあると言うのか、いい意味で癖がないと言えばいいのか、何を食べても美味しいと思う幸せな舌を持っているので、説得力はないけれど、抜群に美味しい。焼き魚だから口の中でとろけるみたいなことはないけれど、一噛みごとに美味しさが広がる。
サクラマスがあんなに飛んでいるのを見たことはなかった。ありがたみが皆無になるほど飛んでいるのだ。さらに食べると美味しかった。スーパーで普通に変えるのが嬉しい。私が住む東京・狛江のスーパーには売っていなので、旅先で行くスーパーの楽しさを再確認することもできた。
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