明治15年に始まった三角測量はこの相模野基線のような基線を全国15箇所に設けて三角網を日本中に広げ、大正2年には一応の完成を見た。基線の測定には50日から100日の日数と20名ほどの人員を要したという。なんと濃密な5kmだろうか。
先人の偉大な仕事に経緯を払いながら、私は座間の銘菓を食うのである。

相模野基線は歩いたが今回の散歩はこれがゴールではない。ここから実家の裏山、鳶尾山を目指さねばならない。ルートを見ると川を越えて山に登るのでちょっとした冒険だし、電車やバスでしょっちゅう帰っている実家を目指して歩くのは正直どうかと思うところもあるがやらねばならない。
相模野基線南端から鳶尾山へ、その道のり約13km、まじか。
なるべく三角形でというコンセプトなので自由気ままに歩くかというとそうでもなく、脇道にそれずまっすぐ厚木方面を目指す。
相模野基線では平坦だったが、厚木市に近づくにつれだんだん起伏豊かになってくる。
なんせ長距離なので疲れるのだが、町を歩くのに飽きたなと思った頃に山道に入り、山はもういいと思うと住宅地や畑に入る、と小気味よく地形を横断してゆくので散歩にはなかなかいい感じのルートではないか。
そんな感じで調子良く歩いていたら膝裏のあたりが激しく痛み、おまけにスマホの充電が残りわずかとなってしまった。
傘は持ったくせにモバイルバッテリーを忘れて来てしまい、もうだめかもとなった時にはちゃんと目の前にミニストップが現れた。
モバイルバッテリーと水分を補給し、体を休めると、頭に「及時雨(きゅうじう)」という言葉が浮かんだ。中国の小説「水滸伝」で王朝に反旗を翻し、梁山泊に立て籠もった英雄たちのボス、宋江(そうこう)の愛称で「欲しい時に雨を降らせてくれる」という義侠心を表したものだ。
ここまで座間は町が欲しい時には町を、山が欲しい時には山を、ミニストップが欲しい時にはミニストップを、私に与えてくれた。
「座間は及時雨だ」
疲れた体を引きずって歩きながら頭の中で何度もこの言葉を繰り返した。座間ありがとう、もしも私が政府に抵抗してレジスタンスを率いる事態になった時には座間に梁山泊を作ろう。
そんなこんなで相模川を越えると厚木市である。
座間と厚木の市境を流れる相模川、実際川を越えたからといってどうということはないのだけれど、幼い頃はこの川が世界で一番大きな川に見えていたし、ちょっと遠出する時にこの川を越えるか越えないかというのは、私の中で冒険心を煽る指標になっていた。
川から山を目指す。これはなかなか大変だと思っていたがやはり大変なことで、低山とはいえ20km近い散歩の最後に持ってくるイベントではないと思った。
ゆるやかな丘陵地に開かれたニュータウンをのぼり、ついに鳶尾山の登山口に着いた。
約1時間ほど山を登り、頂上に着く。見慣れた三角点のある風景だが、三角点が結ぶ線をやってきたと考えると異次元の感慨がある。
なんでこの山の山頂に一等三角点が設置されているのか?見通しがよくて、角度を測定する際に他の三角点から見えやすいからである。
見通しがいいから初日の出を見に人が集まるわけだ。
しかしばかでかいお日様でなく、ターゲットは10km離れた小さな三角点である。実際歩いてみると「いやこれそれにしても遠くない?」と思ってしまう。
当時はソメイヨシノなど植えられていなかっただろうからもっと見通しはよかったし、測量の際には三角点の上に櫓(やぐら)を立てて見やすくしていたという。
今ここで櫓を立てるわけにもいかない のでどうしようかと思ったが鳶尾山にはちょっとした櫓が現代に建てられているのだ。
以前、編集部林さんの探訪企画で紹介した 展望台である。頂上とは座標が異なるが追体験するならここが一番だろう。
次の目的地でありスタート地点でもある下溝の三角点のあたりを探してみた。超望遠カメラや双眼鏡を除きながらランドマークと地図を照合していく。楽しいんだけど地道でとにかく寒い。
そしてやたら特徴のあるタワーが目にとまる。それは相模原麻溝公園の展望塔だった。
地図上ではこれらの向こう側に下溝の三角点がある。
昔は建物も少なく、お互い櫓のような目標物を建てればわからんこともなかっただろうが、しかし大変だったろうなあすごいなあという印象しかない。しかもこの三角形は初めに形成した小さいやつなので、更に広がって大きくなった一等三角網となると約45kmも向こうの三角点を見なければならないのだ。
こんなことをしていたら日も暮れてきたし、何より足が痛くてちぎれそうだったので実家に泊まり翌日、鳶尾山山頂から下溝村一等三角点を目指して歩く。だいぶ冗長になるので詳細は省くが、また川を越え、坂を登り、しとしと歩いた末に鳶尾山の展望台から見つけた麻溝公園の塔が目の前に現れた時は、その場にいた誰とも共有できない親近感がこみ上げて泣きそうになった。
今回の一等三角点紀行のGPSログ。これを眺めてニヤニヤする日々。ばかだな。
明治15年に始まった三角測量はこの相模野基線のような基線を全国15箇所に設けて三角網を日本中に広げ、大正2年には一応の完成を見た。基線の測定には50日から100日の日数と20名ほどの人員を要したという。なんと濃密な5kmだろうか。
先人の偉大な仕事に経緯を払いながら、私は座間の銘菓を食うのである。
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