輪ゴムは「金太郎アメ方式」で作られている
“あの輪ゴム”、オーバンドを作っているのは、大阪市西成区に本社を構える株式会社共和。創業は大正12年(1923年)。つまり、今年で100周年である。
取材を申し込むと快く応じていただき、編集部林さん&橋田さんと大阪に飛んだ。
展示スペースには、それはそれはたくさんのオーバンドが並んでいた。
こんなに太いものが!とか、こんなに大きな袋で!とか、いちいち驚いてしまう。見たことがあるもののほうが少ないくらいだ。
太さや長さが違う輪ゴムが73種類。小学校なら2クラス分の個性が揃っている。みんな違ってみんないい。
いやしかし、どうしてこんなにたくさん種類があるのか。それにはまず、輪ゴムがどうやって作られているのかを知る必要があった。
池田さん 輪ゴムがどうやって作られているのか、案外ご存じない方が多いんです。実は輪ゴムは、チューブ状に押し出されたゴムを切断して作っているんですね。
てっきりクッキーを作るときみたいに、大きなゴムのシートから輪っかを打ち出しているのかと思っていた。違うのだ。現実は金太郎アメみたいな感じなのである。
クッキー方式だと輪っかを打ち出した“余り”が出ちゃう。でも、金太郎アメ方式ならゴムが無駄にならないし、太さも自由に調節できる。
池田さん ただ、大きなチューブになるほど設備が大型化するので、やはり限界があります。そこで、一番大きいものを折径480ミリとして、そこから大きさを刻んでいるんです。
輪ゴムのサイズには「折径」と「切幅」の2つがあり、「折径」は輪ゴムをペタッと平らに折ったときの長さ、「切幅」は輪ゴムの幅のことをいうそう。
つまり「折径480ミリ」は、だいたい円周960ミリくらいということ。両手の親指と人差し指で輪っかを作ると、だいたい折径180ミリ~200ミリくらいなので、480ミリって結構大きい。
チューブの大きさには限界があるけど、金太郎アメ方式なら切幅はいくらでも好きな大きさにできる。1m幅だってやろうと思えばできるだろう。
でもそれは輪ゴムではなくもはやチューブなので、切幅も限界をしっかり決めてある。
池田さん 1つの径に対して、4パターンの幅を用意しています。折径×切幅で73種類になるわけです。小さいサイズの製品は1つの幅しか用意していないので、4の倍数にはなっていませんが。
ちなみに我々がよく見るサイズは、#16(折径60ミリ、幅1.1ミリ)。池田さん曰く「スーパーのお惣菜売り場でコロッケのパックを留めるのに使われるのが#16」だそう。
そうだった、コロナ禍になる前は、自分でコロッケを選んでパックに詰めていたっけ……。
あ、そういえば、お惣菜売り場に置く輪ゴムって色がついていましたよね。そのままだと、コロッケに混ざったら分からなくなっちゃうからって。
池田さん そうですね。食品には青はないので、異物混入の検出には青い輪ゴムがよく使われています。企業のコーポレートカラーに合わせることも多いですね。ただ、青は食欲を減退させるという懸念から、赤を使われる企業もいらっしゃいます。
お惣菜売り場に置く輪ゴムひとつにも、ここまで理由があるのだ。73種類の輪ゴムにも、ひとつひとつストーリーがあるのだろう。
アスパラが輪ゴムで止められている理由
創業100年という長い歴史の中で、徐々にラインナップが増えていったというオーバンド。
ラインナップが増えるということは、「デッカいのがほしい」「小さいのを作って」というニーズがあったはずである。何に使われているんだろう。
池田さん 大きなものは工業用途が多いですね。ドラム缶同士がぶつかって破損するのを防ぐために、ドラム缶に巻いて保護したりとか。自動車メーカーがエンジンを組み上げる工程で、部材を留めるために使われることも。
廣瀬さん リンゴ農家の方が「玉まわし」に使われると聞きました。リンゴは日が当たるところが赤くなるので、満遍なく日光が当たるように、リンゴの実を1個1個反転させて、輪ゴムで留めているそうなんです。
板高さん テーマパークでジェットコースターに乗るとき、クロックスみたいなサンダルを履いていると、足に固定するために紫のバンドを渡されるんですよ。あれもうちの製品ですね。
ドラム缶、リンゴ、テーマパークである。バリエーションの豊富さがすごい。
思い返してみても、薬局で薬を留めていたり、カニのハサミを留めていたりするのも輪ゴムだ。輪ゴムを使わない業界なんて無いのではないか。
「お客様の声から生まれた製品ってなにかありますか?」と聞いてみたところ、池田さんが「聞いた話ですが」と、アスパラを結束する輪ゴムについて話してくれた。
アスパラ! 確かに輪ゴムで留めている印象ありますね。
池田さん アスパラは収穫直後から、徐々に茎がやせていくそうなんです。なのでテープで留めると、時間とともに緩くなってしまう。輪ゴムなら細くなっても締まっていくので、アスパラは輪ゴムで留めていると聞いたことがあります。
野菜シリーズでいうと、大葉も小さな輪ゴムで留められている。実はあの輪ゴムも「大葉用」なのだそう。
池田さん 小さいだけでなく、若干薄く作られています。作業者の方が作業しやすいように、わざわざ薄くしているんですね。作業をされる方は1日にたくさんの大葉を巻きますから、大きい輪ゴムを何度も巻くより、小さく薄い輪ゴムを数回巻いたほうが、作業が楽になるんです。
野菜用の輪ゴムは、産地のリクエストを受けてカスタマイズしているのだそう。留めるものや作業者の好みから、大きさや固さがそれぞれ異なるのだとか。
通常サイズが73種類あるのも、ユーザーが「少ない回数&少ない力」を求めた果てに「この長さと太さ」に落ち着いた結果もあるだろう。多品種なのは作業の効率化のためでもあるのだ。
なるほどな~と感心していると、池田さんが「あとはこれですね」と商品を取り出した。
池田さん 書籍関連の商社の方からお声がけいただいて、共同開発したものです。それまではビニール紐を使っていて、縛ったり切ったりが大変だったんですね。ビニール紐は切ったら捨てるだけですが、SVELTEは回収して再利用できることが評価されて、大きく広がっていきました。
確かに一時期からコンビニでもよく見かけるようになりましたよね……と思ったら、発売は15年以上前なのだそう。もうそんなに!
「SVELTE」、留めている姿を見ると複雑に見えるけど、実は大きく太い輪ゴムを打ち抜いて作られたシンプル構造。なので、箱でもタブレットでも固定できるのだ。
ひょっとして「SVELTE(スヴェルト)」って「滑らないベルト」とかけた商品名なんですか、というのを聞き忘れたことに今気がつきました。
パッケージは70年間変わってない
僕らが普段使っているアメ色の輪ゴムは、共和の創業者である西島廣蔵氏が開発したものが原点なのだという。熱加硫方式により、世界で初めて透明で伸びのよい輪ゴムの開発に成功したのが1917年のこと。
じゃぁそれまでどうだったのかというと、西島氏は自転車のタイヤチューブを輪切りにしたものを使っていたそう。
お札を束ねるために必要としていたらしいが、タイヤチューブはやっぱり黒くて固くて使いにくい。この経験が、そこから新しい輪ゴムの開発へとつながった。
つまり輪ゴムの作り方は、100年以上前からチューブを裁断する「金太郎アメ方式」だったのだ。
池田さん 太平洋戦争が起きたときは、物資統制令の適用を受けてゴムバンドの製造が禁止されたそうです。大阪空襲もありましたが、本社工場は奇跡的に戦火をまぬがれました。工場では屑ゴムをかき集めてタイヤチューブなどを作り、やりくりして乗り越えたと聞いています。
当初「ゴムバンド」として発売した輪ゴムは、1951年に「オーバンド」と名称を一新。そのときのパッケージがこれである。
パッケージデザインは「日本モダンデザインの父」と呼ばれ、昭和の関西で活躍したデザイナー・今竹七郎氏。
メンソレータムの少女や、関西電力や南海ホークスのロゴも今竹氏のデザインだ。大御所である。
池田さん 基本的なデザインに関しては今竹さんに敬意を表して、誕生から一度も変わっていません。このデザインが我々の事業を大きくしてくれたと考えていますので。
僕らが“あの輪ゴム”と認識しているのも、今竹さんのデザインがずっと生きているからだ。70年変わらないものを残せるって、すごいことだろう。
ちなみにオーバンドのパッケージは、2013年にグッドデザイン賞を受賞している。遅すぎるくらい。
そしてこのデザインの完成度&知名度の高さは、さまざまなノベルティでも証明されているのだった。
池田さん 今竹さんのデザインの良さから、いろいろなオファーをいただけていると実感してます。デザインを変えようという話はまったく無いですね。社内でも「触ったらダメ」って言われています(笑)