特集 2023年11月2日

火災報知機の「強く押す」はどれくらい強く押す?押したらどうなる?

強く押しますよ……?

「強く押す」を強く押したことがない人生である。

火災報知機の真ん中に小さく書いてある「強く押す」だ。これまで、たまたま強く押す機会がなかったけども、人生何が起きるかわからない。いつかあれを強く押す日が来るかもしれない。

それにしても、あのボタンはどれくらい「強く」押すのだろう。そして、押したら何がどうなってしまうのだろう。その日のために知っておいたほうがいいのではないか。

というわけで、強く押してきました。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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強い気持ち、強い押し

訪れたのは能美防災株式会社。本社1階にあるショールームでお話を伺った。

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ご対応いただいた、能美防災株式会社 広報室室長の関口さん(右)と、同じく広報室の飯島さん(左)
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こちらがショールームの一部。防災センターもあります。
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ショールームの中にある消火栓、あまりに溶け込みすぎていて「これ本物ですか……?」と聞いてしまいました(デモ用でした)

能美防災が創立したのは大正5年(1916年)のこと。防災業界のリーディングカンパニーである。

そんな歴史ある企業に「強く押させてください」なんて丸腰でお願いするのは恐れ多いのでは……と思ったら、関口さんと飯島さんはニコニコしながら「どうぞどうぞ、押してください」と言う。

い、いいんですか……?

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「強く押す」を……
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強く押しちゃいますよ……?
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けたたましいベルの音にアワアワしているところ。

「強く押す」のボタン、最初に指を触れたときは「あれ?」と思った。ちょっと力を入れてもピクリとも動かないのだ。

飯島さん 「強く押す」は、だいたい2kg(20ニュートン)以上の力で押せるようになっています。人がぶつかったときなどに作動しないよう、簡単には押せないつくりになっているんです。

「強めに押す」じゃなくて「強く押す」なのだ。本当に強さがいる。

壁に指をめり込ませるくらいのつもりで、指先が白くなるくらい力を込めないと動かない。醤油のペットボトルをつぶして捨てるときくらいの指の力がいる。

そして、強く押す際は「本当に自分が押してもいいのか?」「全然押せないけど本当にこれボタンなのか?」といった迷いも捨てなくてはならない。

有事の際は、強い気持ちと強い力で押しこもう。

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左の機械に「003」という数字が出ている。これは?

関口さん 先ほどボタンを押していただいたものが「発信機」で、発信機からの信号を受けるのが左の「受信機」です。今は「003回線の発信機が押されたよ」という表示になってるんですね。

さらに受信機には、防災戸や排煙口、非常放送などの機器が接続でき、火災のときは自動的に起動できるようになっている。

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受信機に接続される機器たち。
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もっと高スペックな受信機になると、自動で消防への通報も可能。電話回線を使って通報が行われ、非常電話で話すこともできる。

なるほどこれは安心だ~、と胸をなで下ろしていたら、何もしていないのに再びけたたましくベルが鳴った……!

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ギャッ! こわい! 飯島さん止めてください!
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火災報知機と目覚まし時計の共通点

びっくりして2mmくらい飛び上がってしまった。

PCの挙動がおかしくなったとき「何もしてないのに」という人に限って実際は何かしている。でも今回は本当に何もしてない。

さっきベルを止めてもらったのに、なんでもう一回鳴ったんですか? 天の怒り……?

関口さん いえいえ(笑)。音を止めるボタンを押しても、一定時間経つと再びベルが鳴るようになっているんですよ。これは「地区音響の再鳴動」といって、消防法で定められている動作です。大事な警報なので、ボタンひとつでは止まらないようにしてるんですね。

目覚まし時計のスヌーズと同じである。目立つボタンを押しても完全には止まらないのだ。

そういえば学校やマンションで火災報知機が鳴ったとき、ベルが止まって一安心したら、また鳴り出してびっくりすることがある。あれってスヌーズだったのか!

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ベルをちゃんと止めるには、受信機の操作カバーをパカッと開けてシステムを復旧させないといけない。こういう手間が必要なのも目覚まし時計のスヌーズと一緒。
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ちなみに、発信機の方もフタをパカッと開けてリセット手続きが必要。これをやらないと押しっぱなし状態になって、また警報が鳴っちゃう。

それにしてもこの発信機、だいぶシュッとしてかっこいい。昔は「強く押す」のところがガラス製で、押すと割れる仕組みでしたよね?

飯島さん そうでしたね。その後プラスチック製に変わりましたが、押すと割れる仕様だったので、押されたら交換しないといけませんでした。今は押しても割れず、「強く押す」部分をスイッチとして押し込めるようになっています。

関口さん ちなみにこの発信機、グッドデザイン賞の金賞を取ったんです。金賞ってなかなか取れないみたいなんですよ(笑)

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その名を「リング型表示灯付発信機」といいます。(画像提供:能美防災)

火災報知機のイメージって、赤いランプと「強く押す」が縦に並んでいるじゃないですか。

一方こちらの製品は、リング状の赤ランプの中に「強く押す」がある。ランプ&発信機の一体型なのである。確かにこれならフラットで、見た目もスッキリ。

でも開発にあたり、ひとつ問題があった。

従来の赤いランプは壁から出っ張っている。これは夜間や停電時でも横からランプを確認できるようにするためで、消防法にも基準があるのだ。フラットにするとそうもいかない。どうしよう。

関口さん 検討の結果、横からでもランプを確認できるように、発信機の部分を凹ませました。これなら発光部に角度がつくので、消防法の基準も満たせるんですよ。

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確かに凹んでいるし、横から見ても光っているのが分かる……!

出っ張りを凹ませるという逆転の発想である。こういう工夫が聞けるから取材ってやめられないですね……。

⏩ 次ページに続きます

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