煙はどうやって感知するのか?
火災を知らせるのは人が押す発信機だけではない。天井には熱感知器と煙感知器もある。
先ほどのデモ機の上の方にもちゃんと設置されている。
熱感知器には2つの種類がある。
ひとつは、内部の空気が熱で膨らむことでスイッチを押す「差動式スポット型感知器」。もうひとつは、バイメタル※によって一定の温度になると感知される「定温式スポット型感知器」だ。
※熱膨張率の異なる2枚以上の金属板を貼り合わせたもの。温度が変化すると湾曲し、センサーの役割を果たす。コタツの温度調節などに使われる。
バイメタルの説明をする関口さんと、それを理解する僕。
熱で空気が膨らんだり、金属が曲がったりするのは分かる。理科でやったし。
でも煙感知器ってどういう仕組みなんだろう。あんなフワフワしたもの、どうやって機械で感知するんですか?
飯島さん 「光電式」といいまして、感知器の中にはLEDの光を出す部分(発光部)と、光を受ける部分(受光部)があるんです。普段は受光部に光が届かない構造になっているんですが、煙が入ると煙の粒子が光を乱反射して、受光部に光が入るんですね。それを検出して警報が鳴るようになっています。
煙感知器の内部。通常時は発光部からの光は届かないが、煙が発生すると光が粒子で乱反射して受光部に届く(画像提供:能美防災)
発光部と受光部がある空間は、外からの光を遮断するが、煙を含んだ空気は入り込める「ラビリンス構造」の壁で囲まれているという。
ラビリンスを抜けた煙が、感知器の内部で光に出会うとき、厄災を告げる鐘が轟くのだ。カッコよく書いてしまった。
また一方で「光が届かなくなったら警報が鳴る」という、逆パターンの煙感知器もある。それがこちら。
「光電式分離型」と呼ばれる煙感知器で……
部屋の反対側で同じ装置が向き合っている。
飯島さん こちらは発光部と受光部で、機器が分かれています。発光部から一定間隔で赤外光を出して、受光部で受信しているんですね。煙が発生すると光がさえぎられるので、これを検出して警報が鳴ります。
体育館のような大空間で、広域に発生する煙を検出するのに、こうした光電式分離型の煙感知器を置くのだそうだ。空間によって必要な機器も異なるんですね。
立ち話もなんですので座ってお話を伺います。
さらに能美防災には、通常の1万倍の感度を持つ煙センサーもあるという。
そんな繊細なセンサー、どこに設置するのかいうとクリーンルームである。
関口さん クリーンルームは頻繁に換気を行っていて、1時間あたり100回くらい部屋の空気が入れ替わるんですね。しかも、ホコリをまき散らさないよう、上から下に空気を流しています。下向きかつ換気で薄くなった煙を捉えないといけないので、こうした高感度のセンサーが必要なんです。
データセンターなどのサーバールームも、コンピューターを冷やすため換気回数が多く、こうした煙センサーが必要なのだそう。大事な備えだ。
「消防法に準拠しない設備」とは?
建築の技術が進化したり、産業が発展して新しい施設ができたりすれば、それに併せて防災の仕組みも考えないといけない。創業から100年以上も経つとなれば、その進化も計り知れないだろう。
そもそも能美防災の原点は、関東大震災までさかのぼる。
関東大震災では地震はもとより、火災で多くの人が亡くなった。創業者がその惨状を目の当たりにしたことが、火災予防の研究に打ち込むきっかけになったという。
創業者の自叙伝には「ひそかに義憤を感ずると同時に直ちに火事の研究に乗り出すことを決心した」と書かれている。
本社ロビーには創業者である能美輝一氏の銅像がある。
ショールームには、100年分ある能美防災の年表が。「令和元年までしかないので、そろそろ作り変えないといけないんですよ」
昭和8年には、日本で初めて国宝に自動火災報知機を設置。昭和11年には皇居(奥宮殿全域)にも自動火災報知機を設置した。
……と、この調子で歴史を振り返ると大変なことになるので割愛させてもらうのだけど、今では一般の住宅やビルのみならず、文化財やドーム球場、火力発電所など、幅広い施設に能美防災の防災システムが導入されている。
そのなかには「消防法に準拠しない設備」もあるという。
え、消防法って絶対守らなきゃいけないものでは……と思ったら、消防法で定められた設備に加え、より安全を考慮して自主設置する設備なのだとか。
関口さん 先ほどお話しした、クリーンルームの煙センサーもまさにそうですね。プラントなどの特殊環境では「60メートル先にある火皿(33センチメートル角)の炎を検出する」といった設備もあります。お客様のご要望に合わせて、当社独自の設備を提案させていただくケースも多いですね。
「消防法に準拠しない設備は、厳密には『自動火災報知設備』という定義ではないんです。ですが、今回は消防法以外のものも幅広く報知設備としてお話させていただいています」
あの「ミスト」も能美防災が作っている
さて、ここまでさまざまな防災設備を見せてもらっていただいたのだけど……。事前に能美防災のホームページを見てすごく気になっていたことがある。
夏場の屋外で、ミストを噴出している装置があるじゃないですか。近づくとふわっと涼しくなるアレ。酷暑のオアシス。
能美防災は、アレも手がけてらっしゃると聞いたんですが……?
関口さん はい。デビューは2005年の「愛・地球博」なんですよ。大学や企業と共同開発して、参考展示という形で設置していました。最近は環境問題への意識の高まりもあって、徐々に売上も伸びてきましたね。
商品名は「ドライミスト」。この夏お世話になった方もたくさんいるのでは……!(写真提供:能美防災)
愛・地球博でテストをしている様子。このときの名称は「なごミスト」だった(写真提供:能美防災)
防災設備を手がける会社が、なぜミストを噴出しているのか……?
薄々お気づきの方もいるだろう。そう、「ドライミスト」はスプリンクラーのノウハウを集約して作られているのである。
スプリンクラー、ショールームでも見せていただいていました。
ノズルから非常に細かい粒子を噴き出すことで、人に当たっても濡れないし、化粧も落ちないのだとか。
関口さん うちのドライミストは、止めたときにしずくが一滴も落ちないのも特徴のひとつなんです。嫌ですよね? 上からしずくがポタポタ落ちてくるのは。これもスプリンクラーのプロが設計していますから、ご安心ください(笑)
誤報ではなく「非火災報」
火災報知機が鳴ったのに特に火事でも何でもなかったとき、僕らはつい「誤報」と言ってしまいがちである。
でも、もしイタズラで「強く押す」が押されたり、BBQの煙に煙感知器が反応したりしてたら、防災システムは正しく動作したことになる。
防災業界では、これを「誤報」とは呼ばないのだとか。
関口さん「そういうとき、我々は『非火災報』って言うんです。ちゃんと動くべくして動いたけど、火災じゃなかったわけなので。これはちょっと、お伝えしておきたくて」
もちろん機器の故障による誤報もゼロではない。ゼロではないけど、ちゃんと仕事してるのに「誤り」って言われるのは、やっぱり納得いかないですもんね。
「ちゃんと書いておきますね!」「よろしくお願いします(笑)」
取材協力:能美防災株式会社