特集 2023年10月27日

ロードサイド店舗の看板工事は考えることが多すぎる

(画像提供:伊藤忠エネクス)

ガソリンスタンドには背の高い看板が立っている。

高さは10メートルか、それ以上。天に伸びた支柱の先には、会社のロゴマークがついている。ガソリンがピンチのとき、遠くから「スタンドだ!」と見つけたときのありがたさといったらない。

それにしてもあの看板、冷静に考えるととても大きい。そして細長い。立てるのって大変なんじゃないだろうか。

どれだけ大変なのか、実際に作っている会社に聞いてきました。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

前の記事:プールでグルグル回り続ける「あのタイマー」を作った会社

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看板の高さを「19.9メートル」にする理由

訪れたのは朝日エティック株式会社。1954年に大阪で看板製造・工事を請け負う会社として創業し、現在は全国19事業所&5工場を展開。ベトナムにも拠点を持つ総合建設企業である。

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お話を伺った朝日エティック株式会社 マーケティング部の服部さん(左)と、企画デザイン室の須藤さん(右)

もちろん看板工事も引き続き手がけており、大型看板をはじめ年間制作数は5000基以上にのぼるという。

「もともとガソリンスタンドの看板から始まった会社なんですよ」と須藤さんは言う。あなたの家の近くのガソリンスタンドも、朝日エティックさんが看板を作っている可能性が大いにある。

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ガソリンスタンドの看板、こういうやつです。(画像提供:伊藤忠エネクス)

これだけデッカい看板である。もちろん勝手にホイホイ立てるわけにはいかない。

大型看板の設計や設置には、各自治体が定めた屋外広告物条例によってさまざまな制限がある。代表的なものは「高さ」。

須藤さん たとえば埼玉県は「高さ10メートルまで」と決められています。でも東北地方の一部では制限がなかったりするんです。制限の内容は県や市町村ごとに異なりますし、条例が変わることも多いので、弊社では「申請課」という部署が規制確認を一手に引き受けています。

僕は宮城県出身なのだけど、確かに郊外にあるパチンコ屋は「天候を変える気かな?」というくらいデカい看板を立てていた記憶がある。

あれは無制限が生み出したモンスターだったのか……。

須藤さん とはいえ、だいたい高さ20メートルだと思いますよ。20メートルを越えると避雷針を付けないといけないんです。なので、設計時に19.9メートルに押さえることも多いですね(笑)。

以前、自動車運搬船を取材したときも、いろんな制限を回避するために船の全長を199.98メートルに押さえていると聞いた。こういう話あちこちにあるんですね。

そして「面積」や「彩度」も、屋外広告物条例による制限がある。当サイトでも、山田窓さんが軽井沢や鎌倉、京都の看板を比較していた。

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「軽井沢、京都、鎌倉…“景観規制チェーン店”はみんなちがっておもしろい」より。景観規制によるを追求した力作!ぜひご覧ください。

須藤さん やはり京都は厳しいですね。普通はスペックや図面を提示してOKをもらうんですが、京都府の一部では色相・明度・彩度を測る機械で現地の看板を実測することも稀にあるんですよ。色見本を使って設計しても、塗装の具合で変わってしまうこともあるので大変……と聞いたことがあります。

元は真っ赤な色でも、制限に合わせて彩度を下げると茶色くなってしまったりする。

だったら最初から茶色でデザインしなきゃ……みたいなことを、全国展開するチェーン店は地域ごとにやっているわけだ。気が遠くなる……!

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ちなみに先ほどの山田窓さんの記事によると、軽井沢のセブンイレブンは茶色一択。いさぎよい(※こちらは朝日エティックさんが手がけたものではありません)
いったん広告です

大型看板は「建築」扱いになる

屋外広告物法以外にも、守らないといけない法律はまだまだある。

高さ4mを越える看板は、建築基準法が適用されるのだ。あれはもはや「建築」なのである。

須藤さん 必要な書類を揃えて、工作物確認申請にOKが出ないと着工はできません。立体図や平面図をはじめ、風圧や地震があっても問題ないことを構造計算書にまとめないといけないんですよ。

他にも、ガソリンスタンドの看板は設置場所によっては消防法の関係で難燃材や不燃材を使わないといけないし、ビルの看板のように道路の上空にはみ出るものは道路法で申請が義務づけられている。

設置場所によって守る法律も変わってくるのだ。

須藤さん ロードサイドの看板だと、LEDのモニターで動画を流す看板を禁止している自治体も多いですね。脇見運転を誘発して事故に繋がりかねないと。静止画が切り替わるくらいなら大丈夫とか、制限の内容もいろいろなのですが。

「静止画を切り替えるならオッケーだし」と毎秒24枚の静止画を切り替えようとする人もいるかもしれないが、それはもう動画である。そういう屁理屈はよくないのでやめよう。

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時にはホワイトボードも使って説明していただきました。ありがとうございます。

それにしても「建築」クラスともなると、工場で作ってから現地に運ぶのも大変である。やっぱりどこかで分割しないと、あれって運べませんよね……?

須藤さん そうですね。道路交通法では、一般道は基本的に地上から高さ3.8メートルまでしか運べません。なので、分割したものを現地で組み立てて完成させます。パーツを設計するときは、トラックの床の高さも考えて寸法を決めないといけないんですよ。

でも新幹線を道路で運んでたりするのテレビで見たことありますけど……と思ったら、確かに届け出をして指定の道路を走れば、もう少し高いのも運べるらしい。

ただ、朝日エティックは全国が対象なので、そうもいかない場所も多いとのこと。山間部のガソリンスタンドとかありますもんね。

そして分割しなければいけないのは支柱もそう。そもそも、材料である鉄の柱自体が最長12メートルまでしか売られていないんですって。

須藤さん 15メートルクラスの支柱になると、やはり途中で分割する設計にして、現地で溶接することになります。つなぎ目は表面をきれいに削って、その上から塗装をするので、まず見た目では分かりません。……私たちは分かりますけど。

やっぱり街を歩いていると、看板が気になったりするんですか?

服部さん 「何のLED使ってるんだろう?」とか「配線どうやってるんだ?」とか見ちゃいます。職業病ですよね。

須藤さん 車で走っていても、「おっ」と思ったら駐めて見に行きますよ(笑)。看板の下までいって、基礎や支柱を確かめたり……。他社と比べて価格差が出たときに「こちらはこういう作りなので」と説明しないといけないので、必要な情報収集でもあるんですよね。

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須藤さん「こうやって看板の下からスマホをつっこんで写真を撮ったりとか……。怪しいですよね(笑)」

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