特集 2024年2月23日

スペイン国旗をよーく観察してみる

スペイン国旗をよーく観察してみました

皆さんは、スペインの国旗をご存知でしょうか?

サッカーの試合やスペイン料理の店先などでよく見かけると思います。

「赤と黄色のやつで、なんかごちゃごちゃした紋章が入ってるやつ」という感じでご記憶の方も多いでしょう。

あの複雑な模様の紋章には一体なにが描かれているのか。じっくり観察してみました。

鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

前の記事:東京都最西端のバス停から東京23区最東端のバス停まで バスだけを乗り継いで行くとどれぐらいかかるのか?

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というわけで、スペイン国旗に描かれている国章をじっくり観察してみます

国旗と市民旗がある

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スペイン国旗こちらです

まず、そもそもの話として、この紋章の入った国旗は「政府機関などが使う旗」であって、一般用は紋章の無い「市民旗」を使うらしいのです。 知らなかった……。

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スペイン市民旗……紋章がなくてもスペインぽさはある

どうも、スペインの憲法では「スペインの国旗は赤、黄、赤の3本の横縞で構成されており、黄色の幅は赤の各2倍」と決まっており、その国旗に国章を入れるルールはまた別の法律で規定されているようで、それが強制されているというわけでもないようです。

たとえば、スポーツの国際試合などで応援する場合は、国を代表しているという意味で紋章入りを使うが、企業が主催する国際会議などでは市民旗を使う……ということらしいのですが、これがどのレベルで遵守されているのか? ちょっとよくわかりません。
実際スペインではどんなふうに運用されているのか、ご存じの方はぜひお知らせください。

なお、現在の国章が規定されたのは1981年で、それ以前は「ヨハネの鷲」がデザインされた国章が入っていました。
1981年といえば40年ほどまえですが、そのころの地図帳を見てみると、確かに今とは違う国旗が載っています。

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フランコ独裁政権時代のスペイン国旗こちらです(帝国書院『小学校社会科地図帳』1961(昭和36)年)

なお、スペイン国旗の地の色、赤色と黄色については、書籍や出典の情報によってまちまちですが、概ね赤色は「祖先の勇気」「外敵と戦った際に流れた血」の色だとし、黄色は「豊かな国土」または「新大陸で得た富」といった感じで紹介されることが多いと思います。
赤色は血の色、黄色は黄金ということでしょうか?

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色の意味。黄金と血の色ということらしい

国旗には4分割された旗、柱、王冠がある

前置きが長くなってしまいました。国章をじっくり観察してみます。

国章部分をどアップで見てみます。

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国章部分をアップにしました

まず気になるのが、真ん中の盾の形をした部分が四分割されており、ライオンや城、模様、クリオネみたいな花、剣っぽいマークがあることがわかります。

その盾の両脇にはリボンが巻き付いた柱がそれぞれ建っており、それぞれ小さい王冠を載せており、そして盾の上にはひときわでかい王冠。そして、リボンになんだか読めそうで読めない文字が書いてあります。
柱の上の王冠もよく見るとデザインがちょっと違っています。

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国章を見て気になったこと

中央の旗のは5つの国を表している

まずは、盾の中に描かれた絵の意味を読み解いていきます。

が、そのまえに、スペインについてお話しておきます。スペインはかつていくつもの王国に分かれていました。

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レコンキスタ(国土回復運動)グラナダ陥落直前のイベリア半島

15世紀よりまえ、イベリア半島にはイスラム教国が支配する地域がありましたが、キリスト教の国が北側からじわじわと勢力を広げ、1492年、イスラム教国をイベリア半島から駆逐しました。これをレコンキスタ(国土回復運動)といいます。

その頃イベリア半島にあった王国のシンボルが、盾に描かれています。

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国の紋章でした
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カスティーリャ王国

なお、さきほどの地図にはレオン王国が入ってませんが、この地図の時期はレオン王国とカスティーリャ王国は、同君連合国家(一人の王様が2つの国を治める)として、カスティーリャ王国となっています。

カスティーリャ王国のあったあたりは、イスラム勢力と戦う際に最前線となったので、城がたくさん築かれました。そこからラテン語の「castellum(カステリウム・城)」から、カスティーリャと呼ばれるようになりました。

ご存知の方も多いと思いますが、お菓子のカステラは、このカスティーリャのポルトガル語読みの「カステーラ」が語源といわれています。

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城がたくさんあるカスティーリャ王国発祥のお菓子なので、カスティーリャと呼ばれるようになったお菓子(Ocdp, CC0, via Wikimedia Commons)
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レオン王国

レオン王国の紋章は、みたままですが、ライオンです。

このライオンは、地名の「レオン」から来ていますが、この地名の由来は動物のライオンとは関係がありません。

ローマ時代に軍隊が駐屯したため、ラテン語の「legio(レージオ、レギオン・軍団)」が訛ってレオンとなり、地名となりました。

レオン(地名)が、レオン(動物)とたまたま同音なので、ライオンを紋章に使い始めたというわけです。熊本県のキャラクターが熊のくまモンなのと、同じです。レオン=くまモンというわけです。

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アラゴン王国

アラゴン王国の縦縞は、今でもよく見かけるという人が多いかもしれません。カタルーニャ州の州旗「サニューラ」として現在も使われています。

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カタルーニャの旗。サニューラ

カタルーニャ州の州都でもある「バルセロナ」をグーグルで検索すると、まずFCバルセロナの情報しか出てきません。が、そのFCバルセロナのエンブレムにもサニューラが使われています。このシンボルはバルセロナ市のシンボルが由来です。

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サッカーファンにはこちらのほうがおなじみかも

この、サニューラの赤の四本線はいったいなにか?

それにはこんな話があります。

その昔、フランス王が配下だった、ギフレ一世毛むくじゃら伯の血を指につけ、金色の盾にツーっとすべらせて四本線を描いたのが由来である……という伝説です。

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クラウディ・ロレンサレ「バルセロナの紋章の由来」

ギフレ一世毛むくじゃら伯は、のちにバルセロナ伯となり、カタルーニャの「建国の父」と呼ばれるようになりました。

「毛むくじゃら」の部分が気になる人も多いと思いますが、足の裏とか普通毛が生えないところにまで毛が生えていたので毛むくじゃら伯と呼ばれていたそうです。

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ナバラ王国の紋章

ナバラ王国の紋章。これは金の鎖とエメラルドです。

一説には、ナバラ国王が、1212年にモーロ人(現在のモロッコあたりの人たち)の王の宿営を囲んでいた鎖を破り、中にあったエメラルドを手に入れた……という伝説に基づいていると言われます。

が、それ以前より「棒と釘を放射状に配置して補強した盾」が存在しており、その実用性が忘れられ、金の鎖とエメラルドのデザインになった……という説もあります。

そのへんはまあ、諸説ありってことでよろしくお願いします。

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この花はグラナダ王国を表す

イベリア半島に最後まで存在したイスラム王朝、ナスル朝グラナダ王国は、1492年カスティーリャ王国とアラゴン王国の連合王国に降伏し、滅亡します。

グラナダというのは町の名前ですが、スペイン語でザクロを意味します。そのため、ザクロの実の絵が描かれているわけです。栃木県の県の木が「トチノキ」みたいな話です。

ちなみに、手榴弾のことを英語でハンドグレネードと言ったりしますが、この「グレネード」は、スペイン語のグラナダ(ザクロの方)から来ているといわれます。

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ザクロの実(Fir0002, GFDL 1.2 <http://www.gnu.org/licenses/old-licenses/fdl-1.2.html>, ウィキメディア・コモンズ経由で)
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ブルボン朝のシンボル、アイリス

なお、盾の真ん中にあるのは、ブルボン王家の紋章、フルール・ド・リス(アイリス、菖蒲)の花です。

これは、現在のスペイン王室がブルボン朝なので、これが入っているというわけです。これについては後ほど詳しく述べます。

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