2本の柱の意味は?
さて、盾の両脇にある2本の柱についてです。
この柱は「ヘラクレスの柱」と呼ばれており、ジブラルタル海峡を表しています。
なので、柱の足元をよく見てみると、水に浸かっています。
ヘラクレスの柱は、ジブラルタル海峡のジブラルタル側とアフリカ側にそれぞれある山を柱に模して表現した古い地名です。
なぜヘラクレスなのか。それは、ジブラルタル海峡は、ギリシャ神話でヘラクレスが山を真っ二つに割ったためにできたという伝説があるためです。
柱に書いてある「PLVS VLTRA(Plus Ultra・プルス・ウルトラ)」はラテン語で「さらに彼方へ」という意味です。
ちなみに、この文字「プルス・ウルトラ」ですが、綴の文字が「PL“V”S “V”LTRA」と、UっぽいところがVになっています。これはラテン語の文字に昔はUがなく、Vと書いていた名残りです。
このプルス・ウルトラのモットーは、スペイン国王カルロス1世のモットーです。
もともと、ヘラクレスが山を割って海峡を作った(という伝説のあるローマ時代の)ころは、ここ(ジブラルタル海峡あたり)が地の果てだと思われていました。
そのため、ヘラクレスの柱には、船乗りや探検家がこれより先に進まないように「ノン・プルス・ウルトラ(この先は無い)」という警告が刻まれていたといわれます。
しかし、カルロス1世の時代は、大西洋のさらに向こう側にアメリカ大陸が“発見”された大航海時代でした。
そんなわけで、当時はノン・プルス・ウルトラではなく、まさにプルス・ウルトラという時代の雰囲気があったわけです。
なお、プルスウルトラの話を高校生の息子にしたところ『僕のヒーローアカデミア』で出てきたから知ってると言われ、僕がヒーローアカデミアをよく知らないことが露呈しました。
さらに余談ですが、プルス・ウルトラのプルスは、ラテン語で「より多くの」「さらに」という意味の言葉で、英語のプラスの語源です。ウルトラはラテン語で「向こう側に」「彼方へ」という意味の言葉で、そのまま英語の「ウルトラ」の語源です。
『ウルトラマン』や『ウルトラクイズ』をラテン語の意味を踏まえて考えると、なかなか味わい深いネーミングではないでしょうか。
王冠の形が違う
真ん中に大きい王冠、両サイドの柱の上に小さい王冠がのっています。大きい王冠と右側の王冠は同じ形に見えますが、左の小さい王冠は形がちょっと違います。
これは、左側の小さい王冠が「オーストリア帝冠」で、真ん中と右の小さい王冠が「スペイン王冠」を表しています。
これはつまり、左側の王冠はハプスブルグ家を表しており、真ん中と右側の王冠はブルボン家を表しているわけです。
1700年、スペイン・ハプスブルク朝は跡継ぎがないまま国王が亡くなりました。
そこに、ブルボン家のフランス国王だったルイ14世が、孫をスペイン王の継承者として送り込んだため、スペイン王の継承権を巡って戦争が起きます。スペイン継承戦争です。
その後いろいろありましたが、ルイ14世の孫がスペイン王となって、スペイン王室はハプスブルグ家からブルボン家へ移ります。
ところが、フランスのブルボン家は、スペイン継承戦争から約80年後、フランス革命によって滅亡します。そのため、ブルボン家の家系はスペイン王室に残ることになったわけです。
スペインの現国王・フェリペ6世の名前をすべて書き出すと、フェリペ・フアン・パブロ・アルフォンソ・デ・トードス・ロス・サントス・デ・ボルボン・イ・グレシアとなりますが、ブルボン家なので名前に「ボルボン」と入っています。
スペインの国旗の紋章を読み解くと、スペインの国の成り立ちがざっくりとわかるのがおもしろいところです。
以上、スペインの国旗をよーく観察してみた結果でした。