ポップコーン男はチャン・グンソクに負ける
自分の部屋が汚かったので、祖母の家で撮影したのだが、背景が工作を食ってしまった。
私の暗さはポップコーンの明かるさに勝り、チャン・グンソクの明かるさは私とポップコーンを消滅させる。複雑なじゃんけんみたいだな。
物を作るのが好きだと、日常生活で見かける動くものの仕掛けが気になってしまう。ビートたけしのスポーツ大将のカール君人形を見ると、「足の動きをどう連動させているのか」と機構を妄想したり、トリビアの泉の”へぇ〜ボタン”は、「自分で作るとしたらどうするか」と考えたりするのだ。
映画館で上映前に「NO MORE 映画泥棒」という映像が流れる。見たことがない人に向けて説明をしよう。なんでも、映画館で上映されているものをビデオカメラで録画してインターネットにアップロードする人や、その違法にアップロードされたものを見る人がいるらしいのだ。許せないよね。映画泥棒は、それらの行為の違法性の周知やその啓発を促す映像となっている。
登場人物は全員頭が無機物になっており、映画館で盗撮をする「カメラ男」は、人間であれば頭がある部分がビデオカメラだ。そのカメラ男を捕まえる「パトランプ男」は、頭がパトランプになっている。頭が無機物なことに多少の違和感を感じるかもしれないが、これはフィクションなので、一回その違和感を飲み込んでほしい。
CMの内容としては、映画館で映画を見ているビデオカメラ男が両手で自分の頭であるビデオカメラのレンズの側面を触り、それを見たパトランプ男が、ビデオカメラ男を捕まえるというストーリーだ。
こうして活字にすると、彼は頭がビデオカメラとして生まれてきてしまっただけで、盗撮はしていないかもしれないなと思い始めた。ただ映画を見ていただけかもしれない。しかし、瓜田に履を納れず、李下に冠を正さずである。悲しい運命だ。
ちなみに、最近のCMでは、カメラ男が家で映画を違法ダウンロードして逮捕されていた。これは頭のカメラ関係なく、ただただ犯罪だ。
その他のキャラクターとして「ポップコーン男」と「ジュース男」が出てくるのだが、私はこのポップコーン男の大ファンだ。
ポップコーン男は、カメラ男が映画館で盗撮しているのを見つけて怒るときやジュース男が横で違法行為をしてパトランプ男が逮捕するときなど、興奮する局面で頭からポップコーンを吹き出す癖がある。そのポップコーンの吹き出し方の愛らしさに胸キュンをした。
「あのポップコーンの吹き出す仕組みはどうなっているんだろう」と、考え出したら止まらない。寝ても覚めても、ポップコーン男のことを考えている自分がいた。
どんな吹き出し方をしているのか思い出せない人は、映画館に行ってきてください。
すみません。検索したら、公式に動画がアップされていました。
改めてみたらカメラ男のカメラについている赤いランプが点灯していたので、確実に盗撮していることが分かった。カメラ男はほんとうに悪いやつだ。
いつからか、映画のついでにポップコーン男を見ているのではなく、ポップコーン男を見るために映画館に行くようになった。そして、寝ても覚めてもポップコーン男について考えていると、だんだん「こうすれば吹き出せるのではないか」という仕組みが見えてきたので、作ってみようと思う。作れば、銀幕の中のポップコーン男を手に入れることができるはずだ。
限りある人生の時間をこんなことに費やしていいのかという気持ちにもなるが、とにかく形にしたい。なぜなら、私は暇だからだ。
工作用紙4枚を重ね合わせて長方体を作る。
ポップコーンヘッドは、とりあえずこれで完成として、ポップコーンが吹き出す仕組みを試していこう。
モーターの先に羽のようなものをつけ、容器の真ん中に入れることで、羽に当たったポップコーンたちが縦横無尽に飛び散るはずだ。
モーターの先に羽のようなものをつけ、容器の真ん中に入れることで、羽に当たったポップコーンたちが縦横無尽に飛び散るはずだ。
横に高速に振ったらいい感じに飛び散るのではないかと思った。
サーボモーター という角度が指定できるモーターを使って、左右に振ってみる。
結果:
吹き出すというか、こぼれるに近いものになってしまった。
これは、理想とかけ離れすぎている。ポップコーン男は、こんな吹き出し方はしません。
容器の真ん中に穴をあけて、そこから棒を差し、押し出すのはどうだろうか。
結果:
いい感じに吹き出すが、何回かやってみたところ、成功確率が50パーセントほどだった。
あと、今は手で操作しているが、これをモーターなどで動かすとしたら、往復運動をする機構を作らなきゃいけなくて、それはかなりめんどくさい。
私は暇だしポップコーン男のことは好きだけれど、めんどうなことはなるべくやりたくない。そんな頑なな意志がある。他の方法を考えたい。
こうなったら頼れるものは、風力だ。ブロアーを使って、風の勢いで容器に入ったポップコーンを飛び散らせたい。
結果:
ポップコーンはびくともしなかった。
ポップコーンヘッドからブロアーまでのストロークにチューブを渡してみると、その間に風の威力が弱まってしまい、ポップコーンを浮かすことさえできなかった。
このままでは、めんどくさそうな機構を作らなくてはいけなくなってしまう……。それだけは、絶対にイヤだ……。
瞬間的に大量の空気を送ったら、もしかしたら成功するかもしれない。そう思い、空気入れを使うことにした。浮き輪とかビニールプールに使う足で踏むタイプの空気入れだ。
結果:
私の読み通り、すごくいい感じにポップコーンを飛ばすことができた。さすが私だ。これをさきほど作ったポップコーンヘッドに入れ込み、ついにポップコーンを飛ばそうと思う。
ついにポップコーン男が……。
できた!
本来のものよりも頭が大きい気がするが、私の顔が小さすぎるということにしておいてもいいでしょうか。
みてください。青空にポップコーンの白がよく似合うでしょう。
上手に吹き出すのに少しだけコツがいるが、慣れれば大したことではない。
銀幕の中で夢見ていた愛らしい吹き出し方ができたけれど、本家と比べるとどこか違う。なんというか、虚しさがまとわりついていないだろうか。
私は、日曜日の昼にザ・ノンフィクションを見ることだけが人生の楽しみな暗い人間だから、その暗さがポップコーンの明るさを飲み込んでしまったのかもしれない。闇が明に勝るときもある。
自分の部屋が汚かったので、祖母の家で撮影したのだが、背景が工作を食ってしまった。
私の暗さはポップコーンの明かるさに勝り、チャン・グンソクの明かるさは私とポップコーンを消滅させる。複雑なじゃんけんみたいだな。
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