特集 2021年11月9日

「長い箸使って地獄と極楽で食事する話」実際にやってみる

地獄。

『長い箸を使って地獄と極楽で食事する話』を中学生の頃に聞いた。仏教の有名な説話らしい。

あの説話に対して「箸を短く持てばいいじゃん」という無粋なことをずっと考えていた。無粋ではあるが気になるのでやってみた。

1987年東京出身。会社員。ハンバーグやカレーやチキンライスなどが好物なので、舌が子供すぎやしないかと心配になるときがある。だがコーヒーはブラックでも飲める。動画インタビュー

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『三尺三寸箸』への無粋な疑問

『三尺三寸箸』という仏教説話がある。中学校の時の先生が話してくれて、印象に残ってずっと覚えていた。ざっくり説明するとこんな話だ。

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ある人が地獄と極楽に見学に行くことになった。地獄の食事は豪華なのだけど箸が三尺三寸(1メートルくらい)もあって、自分の口に食べ物を持っていけない。食べられないので皆痩せているし、苛立っており争いが絶えない。
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極楽にも豪華な食事と長い箸がある。地獄と違うのは、箸で食べ物をつまんだら向かいの人に食べさせてあげるところ。環境が同じでも助け合うことで素晴らしい世界になる、という話。

中学校の時に一回だけ聞いたこの話をずっと覚えていたのは「箸を短く持てばいいじゃん」という極めて無粋で野暮な疑問が頭の中でこだましていたからである。

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嫌な中学生だ。大人になってから苦労するタイプ。

いや、そういうことではないのだ。助け合うことの大切さを説きたいのであって、箸をどう持つかっていうのは大事じゃないんだ。自分の口に届かないものが皆の口には届くって素敵なことじゃないか。

そう自分に言い聞かせようとするが、頭の中で真顔の自分が「箸をさあ、短く持てばいいじゃん」とうるさい。しかし1メートルの箸って短く持ってうまく扱えるものなのだろうか。

三尺三寸の箸を作る

気になったので実際にやってみることにした。まず三尺三寸、1メートルほどの箸を作る。

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ホームセンターで箸っぽい角材を買ってきた。

長さが910ミリで、少しだけ足りない。先端に普通の箸を取り付けることにする。1メートルに届くし、先が実際の箸になるので使いやすくなると思う。

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角材はリューターで穴を開けて、箸はカッターで細く削った。
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接着剤を付けて、箸をぐりぐりねじ込んでいったらしっかりしたものになった。

この箸でものを食べてみよう。

まず、地獄をやってみる

地獄の住人はつまんだものを自分の口に持っていこうとするが届かなくて苛立つらしい。やってみよう。

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箸を持って地獄(撮影のために借りた会議室)に来た。
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地獄のロールパン。
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食べるぞ…!
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口に届きそうで届かない。あともう30センチくらいなのだ。香りは分かるけど口には届かないもどかしい距離。これが地獄である。1回目だったので楽しかったが、これが毎食続いたら気が狂うだろう。

この箸を三尺三寸と設定した人はすごい。一番苛立つ長さにするために実際にやってみたんだろう。バラエティ番組の罰ゲームをADさんで検証するように。

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こうしてみたけど持ち上がらないし、持ち上がったところで口には届かないだろう。
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ほとんどの時間こうしていた。食べたいし食べられそうなのに食べられない。

極楽もやってみる

なるほど、地獄は確かに辛い。極楽はどうだろうか。

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食べさせる相手としてパネルを作ってきた。
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うん。
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これが極楽。

不気味な絵面なのは食べさせる相手がパネルだからだと思うのだが、それにしても長い箸で人にものを食べさせるというのは変な感じがした。「あーん」としてあげる様なあの親密さが、1メートルという距離によってすっかり無くなってしまっている。

猛獣にエサをあげる時長い棒の先に肉を付けるけど、あんな気持ちだった。近づいちゃいけない相手にものを食べさせている。

しかしそれでも食べられるというのは幸せなことである。近づけなくとも共に生きてはいける。パネルは森で、私はタタラ場で暮らそう。

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共に生きよう。
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ここから先は野暮だがやる

さあ、ここからである。中学校の先生のありがたい話を曲解して、箸を短く持つ。

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できた。あっさりできてしまった。

胸がキュっとなる。地獄の人々、極楽の人々、そしてこの説話を現代まで語り継いだ人々の「そういうことじゃないんだよ」という声が僕の胸をキュっとさせる。地獄でも極楽でもないここはどこなんだ。ここが本当の地獄なんじゃないか。

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無いはずの無数の視線を感じながら、食べれちゃったパンを食べる。味を感じない。地獄。
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長い箸が横の人にぶつかると結局争いになるのではないかと思い、自分の肩幅の範囲内だけで食べる。食べられた。食べられたら極楽か。いや違う。野暮なんだ。

地獄でも極楽でもない野暮の世界。ここはどこなんだ。どう死んだらここに来るんだ。

困惑しながらむしゃむしゃと食べていると、皆本当はこうしたいけどできない事情があったんじゃないかという気がしてきた。持っていい場所以外を持つと電気が流れるとか。

そこで、ここからは箸の持ち手(箸頭というらしい)を持ちながら食べる方法を考えてみる。

箸頭を持ったって食べられる

再び箸頭を持つ。食べ物をつまんで途方に暮れる。

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ロールパンを何個も食べることになったら大変なのでマシュマロに変えた。

マシュマロだし空中に放って口でキャッチすれば、とか思うのだが、手でもうまくいくか分からないことを箸でやらない方がいい。

突然、撮影をしてくれていた編集部の藤原さんが「箸の真ん中でつまんだらどうですか?」と提案してくれた。

…そうか。そうですよね。

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食べられるはずのないマシュマロが口の中に入ってきて甘い香りを広げる。体じゅうの力が抜けて「えへっへ…、ふぇっ…」と変な笑い声が出た。

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すごくおもしろい。

持つ場所やつまむ場所をずらすだけで食べられるのだ。

この説話の大事なところは助け合うことでそこは極楽になるということで、長い箸でものが食べられたからといってその価値は少しも損なわれたりはしないのだが、まあそれはそれとして、長い箸というのはやりようによって結構使えるしなんかおもしろい。

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他にも、箸の持ってる方でつまんで、
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こうしたら食べられた。これも笑った。
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なんならもう、空いた方の手で箸先を口元に引き寄せたら食べられた。
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箸を持った手だけだと腕の関節をこんなにピーンとはできないのだが、空いた手で補助したらできた。

心苦しいが結論を出そう。

三尺三寸の箸は、結構食べられる。

助け合いの素晴らしさは変わらない

繰り返すが、こんなことで助け合いの素晴らしさが損なわれることは決して無い。説話を聞いた僕の「箸を短く持てばいいじゃん」という気持ちに落とし所が見つかったということだ。

そう、短く持てば食べられる。なんなら空いた手で補助するだけでも食べられる。それはもういいから、散々やったから、話を正面から聞きなさい。


野暮には際限がない

どうやって食べればいいか考えている時「手で食べればいいんですよ」と一番やっちゃいけないアイデアが出て、実際に長い箸を握りながら手でパンを食べた。

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現時点での野暮という地獄の底。
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