それでも隠しきれない書道っぽさ
ボールの直径が40倍あるので、本当はペン軸も40倍にしたかった(製造ができないので断念)。
そうなると、見た目はパフォーマンス用の大筆書道みたいになるだろう。……それはそれで面白そうだな。
平成の終わりに、今はなき「マウスのボール」について思いを馳せていた。
あのコロコロしていて、適度な重量と摩擦を持ったボール。もはや使うことはないだろうが、ただ捨ててしまうのも惜しい。何かに使えないだろうか。
ボールといえば……ボールペン? そうだ、ボールペンを作ろう。
ケーブル端子がUSBではなくPS/2なのも懐かしいが、裏返すとさらに当時の記憶がよみがえってくる。
久しぶりにマウスのボールを手に取ってみると、質感がかなり良いことに気付いた。
机の上でスリップせず転がる必要があるため、表面にはほどよい摩擦がある。でもスーパーボールみたいな軽快さはなく、中までずっしりと身が詰まっていて固くて重い。他ではなかなか味わえない感触だ。
こんなに良いボールを、ただ捨ててしまうなんて勿体ない気がした。マウスのボールは「マウスのボール」としか言いようがなく、つまりボール式マウスを機能させるために存在していた専用ボールである。他に代わるものがない。
とはいえ、もうPS/2端子の付いたPCも持っていない。となると、ボールを何かに転用できないだろうか。ボール……ボールといえば……ボールペン?
この連想ゲームみたいな思いつきから、マウスのボールを使ったボールペンの製作が始まった。
まずは本家ボールペンを観察してみる。ご存じの通り先端にボールが付いているものの、あまりに小さいので普段はほとんど意識することがない。
理屈では分かっちゃいるけど、にわかに信じられないレベルの細かさである。極細ペンになると、直径は0.55ミリ未満だという(JIS規格)。
消耗品として何気に使っているボールペン。でもその実は、精密加工技術のかたまりだ。それなのに、今やなんと100円以下で買えてしまう。おそろしい世の中である。
調べてみると、一般的なマウスのボールはほとんどが22ミリらしい。ボール式マウスを使わなくなって久しい2019年に、初めて知るボールの知識。まだ捨てずに持っているという方は、ぜひ直径を測っていただきたい。
ところで、マウスのボールって“コア”っぽい雰囲気がある。「シューティングゲームだったら、絶対にここが弱点だな」……なんてことを思いながら、マウス本体からボールを取り出した。
コアを抜かれたマウスは、魂が抜けたようにゴロンと机に横たわっていた。
さて、そんなマウスのボールを使ってボールペンを作っていこう。
なんだ、めちゃくちゃ簡単にできてしまったなぁ。そんな風に感じたら、まず間違いなく死亡フラグである。気を付けよう。
こういう工作って、一回目で上手くいくことはまずない。この場合、ボールとペン先の隙間(クリアランス)が小さすぎたのが問題だった。
ただ3Dプリンタの精度もそれほど高くないため、CADソフトで設計したサイズからさらにゼロコンマ数ミリはズレが生じる。ある程度目星を付けたら、あとは実際に印刷して確かめていくしかない。
作業をやっていると、ボールペンのペン先がいかに高精度かを思い知らされる。当サイトでも以前、松本圭司さんが『ペットボトルすげぇ』という記事を書かれているが、本当にそうなのだ。ペットボトルもすげぇし、ボールペンもすげぇのである。世の工業製品はみんなすごい。
……それでは気を取り直して、ボールペンで字を書いてみよう。
あ、意外と普通に書ける。マウスのボールで字は書ける!
作っておいてなんだが、ここまでちゃんと書けるとは思わなかった。
マウスのボールが現役だったころ、3Dプリンタはまだ一般的ではなかった。なので、同じように「マウスのボール」から「ボールペン」を連想したとしても、素人がこんな風には作れなかったわけだ。
そう考えると、時空を超えた工作であるといえる。昔の技術と、新しい技術の融合。その先にあったのがマウスボールペンなのである。
マウスのボールが直径22ミリ、つまり極細ボールペンの40倍もあるので、それに比例して文字も極太である。そのせいか、どことなく書道っぽさが隠しきれない。
それならば。味わいが似ているかと思って、街でよく見かけるあの看板を書いてみた。
以上、マウスのボールを使ったボールペンの製作……だったのだが、こんな風にボールとたわむれていると、だんだんボール式マウスが愛おしくなってきた。
目の前には、魂を抜かれたように横たわるマウス本体がある。
……仕方がない。
ボールの直径が40倍あるので、本当はペン軸も40倍にしたかった(製造ができないので断念)。
そうなると、見た目はパフォーマンス用の大筆書道みたいになるだろう。……それはそれで面白そうだな。
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