渦の巻き方
余談だが、蚊取り線香メーカーの「金鳥」と「アース」では、渦の巻く向きが逆になっている。


ぐるぐると渦を巻いた蚊取り線香。ユニークでどこか懐かしさのある、一度見たら忘れられない、おなじみのビジュアルである。
さて突然だが、「蚊取り線香の形状にアクリルを切り出し、さらに発光させたら格好よくなるのでは?」――そんな野生の勘がはたらいたので、作ってみることにした。
私が物心ついた頃、家ではマット式(ベープマット)の電気蚊取器が使われていた。その後、ほどなくして液体式が登場。今でもメインは液体式を使用している。
なので、昔ながらの「蚊取り線香」を焚いた記憶って、実はほとんどない。それなのに、あの独特のビジュアルだけはしっかりと脳裏に焼き付いている。蚊取り線香と聞けば誰もが思い浮かべる、例の「渦巻き」である。
発売当初は棒状だった蚊取り線香。もっと長く使えて、しかも折れにくい形状はないか。そんな探求のすえに考案されたのが、この渦巻き型といわれている。
それにしてもシンボリックである。こんな強烈なビジュアルを持った工業製品はめったにお目にかかれない。机の上に置いて、ずっと眺めていたい……そう思うのは自然の摂理だろう。
蚊取り線香の見た目はかっこいい。でも残念ながら、いまの私には普段づかいする用事がなかった。
このような場合の解決策を現代人は持っている。そう、「フィギュア化」である。
ただそれだけなのに、偶然にも本物にはない方向の魅力が引き出されてしまった。らせんの部分に光が回り、きらびやかな雰囲気をまとった蚊取り線香。これはいい。しかもフィギュア(と言い張る)なので、部屋に飾っていても違和感がない。
なんなら、一緒に旅に出ることだってできる。
こんな写真ばかり撮っていたところ、見た人からいろいろと感想をもらった。
「これって先っぽが光らないんですか?」
「蚊取り線香なのに光らないなんて!」
「光るんだったら欲しい」
みんな光らせたがりだ。でもたしかに、蚊取り線香なのに火が付かないのは片手落ちだなあ、と感じていた。
現状が「静」の状態だとすると、火のついた蚊取り線香は「動」である。落ち着いた雰囲気も素敵だが、本来なら一番生き生きとしているはずの瞬間も見てみたい。
とはいえ、渦巻きの先っぽだけを光らせるのは意外と難易度が高く、二の足を踏んでいた。しかし、このところ急に暖かくなってきたせいもあり、冬の間は忘れていた「蚊取り線香熱」が高まってきた。開発せねば。開発しよう。
光らせるためには電源が必要となるが、先端部には部品を詰められるだけのスペースは全くない。なので、渦巻きをグルグルーッと回り回って、中心部から電源供給する構造が必要だ。
どうやったかのは後で説明するとして……まずは完成した蚊取り線香フィギュアを披露したい。
こいつが構想どおりに完成するかどうかは、次に紹介する「渦巻き回路基板」の成功にかかっていた。
順を追って説明しよう。
先端に付けたLEDを光らせるためには、渦巻きの中心から出発し、ぐるーっと渦状に回って、先っぽまで電気を通す必要がある。
まず思いつくのは、(まさに上の図のように)渦巻き状にワイヤを這わせる方法だ。しかしどう考えても見た目が不格好である。蚊取り線香の持つスマートさは、何がなんでも固持しなければならない。
いろいろ考えた末、渦巻き状になった回路基板をアクリルの下に敷くのが良い、という結論に。そのためにはどうするか。
回路基板の設計ツールはお絵かきソフトではないので、こんな妙な配線をするようには作られていない。渦の長さにくじけそうになりながらも、戦うこと数時間。なんとか設計を終え、そのまま中国の基板製造業者に発注した。
実はこれを発注したあと、業者の方から「こんな奇妙な基板は作れないよ!」というメールが届いた。あー、やっぱり無理だったか……そう思いながら読み進めてみると、「でも何ヶ所かに『タブ』を付けたら上手くいくよ。それでいい?」との提案があった。
「上手くいくなら全然OKだよ。楽しみにしてるね!」と軽快に返信をしたところ、でき上がってきたのがこの基板なのである。
電源とLED制御用のマイコンが入ったベース部分。イメージしたのは昔の扇風機……なのだけど、伝わるだろうか。つまみ(ダイヤル)と縦長のスイッチが並んでいて、ちんまりとしてかわいいのだ。
かくして、「光る蚊取り線香フィギュア」は完成したのであった。
蚊取り線香フィギュアを持って、夜の河原に繰り出した。
よもぎや松を焚き、その煙で蚊を追いやっていたのは遠い昔。やがて人類が発明せし、蚊を落とすための道具・蚊取り線香。そして長く使え、しかも折れにくい構造として考案された、ぐるぐる渦巻く螺旋の構造。その美しさに魅せられて、現代のテクノロジーで発光させてみたのが「光る蚊取り線香フィギュア」である。
思えば遠くへ来たもんだ。
余談だが、蚊取り線香メーカーの「金鳥」と「アース」では、渦の巻く向きが逆になっている。
趣味でモノづくりをしているメイカーたちが集い、その一風変わった研究成果を展示するイベントをやります。
会場は京都市内の町家。アットホームな展示会なので、京都旅行のついでにフラッとお越し下さい! 入場無料です。
また会期中、新開発の「ワンボタンキーボード」を作るワークショップも開催。こちらは予約受付中です。
『趣味TECH祭(京都)』
2019/5/4(土)11:00-19:00
2019/5/5(日)10:00-18:00
場所:COMMUNITY LAB N5.5
京都市下京区和泉町529(地下鉄五条駅から徒歩2分)
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