特集 2019年4月26日

光れ! 蚊取り線香フィギュア

蚊取り線香をフィギュア化して、発光させる取り組みです

ぐるぐると渦を巻いた蚊取り線香。ユニークでどこか懐かしさのある、一度見たら忘れられない、おなじみのビジュアルである。

さて突然だが、「蚊取り線香の形状にアクリルを切り出し、さらに発光させたら格好よくなるのでは?」――そんな野生の勘がはたらいたので、作ってみることにした。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

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渦巻きの魅力

私が物心ついた頃、家ではマット式(ベープマット)の電気蚊取器が使われていた。その後、ほどなくして液体式が登場。今でもメインは液体式を使用している。

なので、昔ながらの「蚊取り線香」を焚いた記憶って、実はほとんどない。それなのに、あの独特のビジュアルだけはしっかりと脳裏に焼き付いている。蚊取り線香と聞けば誰もが思い浮かべる、例の「渦巻き」である。

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改めて観察してみると、すごく格好いいのだ。金鳥スタンドのスタイリッシュさも相まって、ただ置くだけで絵になってしまう
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買ってきてすぐの状態がニコイチになっているのも美しい

発売当初は棒状だった蚊取り線香。もっと長く使えて、しかも折れにくい形状はないか。そんな探求のすえに考案されたのが、この渦巻き型といわれている。

それにしてもシンボリックである。こんな強烈なビジュアルを持った工業製品はめったにお目にかかれない。机の上に置いて、ずっと眺めていたい……そう思うのは自然の摂理だろう。

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蚊取り線香をフィギュア化した

蚊取り線香の見た目はかっこいい。でも残念ながら、いまの私には普段づかいする用事がなかった。

このような場合の解決策を現代人は持っている。そう、「フィギュア化」である。
 

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2年前の夏に「蚊取り線香フィギュア」を作った。透明アクリルを加工し、それをスタンドに乗せてある。ただそれだけだ

ただそれだけなのに、偶然にも本物にはない方向の魅力が引き出されてしまった。らせんの部分に光が回り、きらびやかな雰囲気をまとった蚊取り線香。これはいい。しかもフィギュア(と言い張る)なので、部屋に飾っていても違和感がない。

なんなら、一緒に旅に出ることだってできる。
 

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温泉旅館に持って行ったところ、さすがの馴染み具合だった
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静かに佇む渦巻きを見ていると、不思議と穏やかな気持ちになれる。和み系である

こんな写真ばかり撮っていたところ、見た人からいろいろと感想をもらった。

「これって先っぽが光らないんですか?」
「蚊取り線香なのに光らないなんて!」
「光るんだったら欲しい」

みんな光らせたがりだ。でもたしかに、蚊取り線香なのに火が付かないのは片手落ちだなあ、と感じていた。

現状が「静」の状態だとすると、火のついた蚊取り線香は「動」である。落ち着いた雰囲気も素敵だが、本来なら一番生き生きとしているはずの瞬間も見てみたい。

とはいえ、渦巻きの先っぽだけを光らせるのは意外と難易度が高く、二の足を踏んでいた。しかし、このところ急に暖かくなってきたせいもあり、冬の間は忘れていた「蚊取り線香熱」が高まってきた。開発せねば。開発しよう。

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光る! 蚊取り線香フィギュア

光らせるためには電源が必要となるが、先端部には部品を詰められるだけのスペースは全くない。なので、渦巻きをグルグルーッと回り回って、中心部から電源供給する構造が必要だ。

どうやったかのは後で説明するとして……まずは完成した蚊取り線香フィギュアを披露したい。
 

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こちらが「光る」蚊取り線香フィギュア。昔の扇風機みたいな、ちんまりしたボディをイメージしてみた。電源を入れると、
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光る!
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蚊取り線香が、
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光る!
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先端にフルカラーLEDを搭載し、赤以外の発光も可能にした。もはや何が何だか分からないが、とにかくサイバーである。これが未来である
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各部の機能を説明しよう
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つまみをひねると、色がシームレスに変化する。色変更ボタンと組み合わせて、発光色の調整が可能だ
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ゆらぎボタンを押すと、ローソクのようなゆらぎが発生。見ていると落ち着く……かと思ったけど、不安な気持ちにしかならなかった
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最後のボタンはグラデーション。色がめまぐるしく変わる、別名「ゲーミング蚊取り線香」。新ジャンルの誕生である

こいつが構想どおりに完成するかどうかは、次に紹介する「渦巻き回路基板」の成功にかかっていた。

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アクリルの下に、渦の中心から先端に向かって電気を通すための基板が敷いてある

順を追って説明しよう。

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渦巻き回路基板の制作

先端に付けたLEDを光らせるためには、渦巻きの中心から出発し、ぐるーっと渦状に回って、先っぽまで電気を通す必要がある。
 

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イメージとしてはこんな感じ(あくまでイメージです)

まず思いつくのは、(まさに上の図のように)渦巻き状にワイヤを這わせる方法だ。しかしどう考えても見た目が不格好である。蚊取り線香の持つスマートさは、何がなんでも固持しなければならない。

いろいろ考えた末、渦巻き状になった回路基板をアクリルの下に敷くのが良い、という結論に。そのためにはどうするか。
 

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まずは基板を設計する。作業してみると、その渦の長さが実感できる。直線に伸ばすと75cmにもなるので、つまり配線の長さも75cmだ

回路基板の設計ツールはお絵かきソフトではないので、こんな妙な配線をするようには作られていない。渦の長さにくじけそうになりながらも、戦うこと数時間。なんとか設計を終え、そのまま中国の基板製造業者に発注した。

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そして待つこと約10日。中国の深センから、海を越えて得体の知れない基板が届いた

実はこれを発注したあと、業者の方から「こんな奇妙な基板は作れないよ!」というメールが届いた。あー、やっぱり無理だったか……そう思いながら読み進めてみると、「でも何ヶ所かに『タブ』を付けたら上手くいくよ。それでいい?」との提案があった。

「上手くいくなら全然OKだよ。楽しみにしてるね!」と軽快に返信をしたところ、でき上がってきたのがこの基板なのである。

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じゃーん。タブというのは、橋渡しになっている部分のことだった。ギザギザしてるのが配線で、中心部から先端まで、ぐるっと一続きになっている
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表から見ると、もう完全に蚊取り線香である。このタブをニッパーで切り落とすと、
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ああ、蚊取り線香だ……。「光る蚊取り線香フィギュア」が上手くいくと確信した瞬間であった
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先端の光る部分には、シート状フルカラーLEDを実装する
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裏面にハンダ付けして固定
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ベース部分から電気を通す配線は、正面から目立たないようスタンドの裏に隠れるよう固定した
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ベースの制作

電源とLED制御用のマイコンが入ったベース部分。イメージしたのは昔の扇風機……なのだけど、伝わるだろうか。つまみ(ダイヤル)と縦長のスイッチが並んでいて、ちんまりとしてかわいいのだ。
 

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脳内イメージを元に3Dモデルを作成し、
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それを3Dプリンタで出力する
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塗装したあとパーツを埋め込み、
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同じく3Dプリンタで作ったつまみとボタンを装着。ああ、想像以上にかわいらしい……
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底面にはモバイルバッテリと、LEDの発光制御用マイコンをセットした。これで完成である
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蚊取り線香の火入れ

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まずは透明アクリルを乗せる前の、回路基板だけの姿から。もうこの時点で、想像以上に蚊取り線香である
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つまみを回して、いざ火入れ(LED点灯)。火がともった瞬間、部屋がパーッと明るくなった。高温の鉄みたいな色になっているが、これは蚊取り線香である
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ぼんやりとしたLEDの明かりを見ていると、「ああ、良いものができあがったなあ」と、いつにない満足感が得られた
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しかしこれだけでは終わらない。アクリルを基板の上に乗せると……
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……ポワーン……
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……ポワーン……

かくして、「光る蚊取り線香フィギュア」は完成したのであった。

外で使ってみる

蚊取り線香フィギュアを持って、夜の河原に繰り出した。
 

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手には怪しく光る蚊取り線香。蚊を落とす効果は全くないが、「来れるもんなら来てみろよ、蚊!」という謎の自信に満ちてくる
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蚊取り線香はついにここまで進化した。闇に映える、その灯り
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草むらに置いてみたところ、夜しか発見できない重要アイテムみたいなった
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ゼルダの伝説で見たことがある
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冒頭で「火のついた蚊取り線香は『動』」と言ったが、あれは間違いだ。街の灯りと共に、夜の静けさに溶けていく……
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蛍雪の功はもう古い。令和の時代は、蚊取り線香で明かりを採る
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ずっと見ていると、当初感じていたサイバー感は薄れ、だんだんと「風流」に思えてきた。長い夜は更けていく

よもぎや松を焚き、その煙で蚊を追いやっていたのは遠い昔。やがて人類が発明せし、蚊を落とすための道具・蚊取り線香。そして長く使え、しかも折れにくい構造として考案された、ぐるぐる渦巻く螺旋の構造。その美しさに魅せられて、現代のテクノロジーで発光させてみたのが「光る蚊取り線香フィギュア」である。

思えば遠くへ来たもんだ。


渦の巻き方

余談だが、蚊取り線香メーカーの「金鳥」と「アース」では、渦の巻く向きが逆になっている。

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両方買って確かめてみたら本当だった。光る蚊取り線香フィギュアは、金鳥方式の左巻きである
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最後に、プロトンビームを放つ寸前みたいになった蚊遣り豚をどうぞ

お知らせ

趣味でモノづくりをしているメイカーたちが集い、その一風変わった研究成果を展示するイベントをやります。
会場は京都市内の町家。アットホームな展示会なので、京都旅行のついでにフラッとお越し下さい! 入場無料です。

また会期中、新開発の「ワンボタンキーボード」を作るワークショップも開催。こちらは予約受付中です。

『趣味TECH祭(京都)』
2019/5/4(土)11:00-19:00
2019/5/5(日)10:00-18:00
場所:COMMUNITY LAB N5.5
京都市下京区和泉町529(地下鉄五条駅から徒歩2分)

詳細ページ

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