消えゆく多様性が、まだかすかに生きている
チェーンが解散したり、ブランドが一本化されたり……そんな激しい変化がつきもののコンビニ業界の中で、消えたはずの存在。
現代が急速に失いつつある多様性が、まだかろうじて生きていた。その姿を少しでも長く見たい方は、ぜひお金を落としてほしい。
そして今回とてもお世話になった参考文献が、日経MJ(流通新聞)だ。貴重なマイナーコンビニ情報を、ありがとうございました。
日本のコンビニは3大チェーンばかりになった。セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン。だいたいこの3つだ。
かつては多くのコンビニがあった。規模の小さいチェーンやご当地チェーンなどが日々の生活を支えていた。
しかし大手の拡大路線で吸収合併や廃業が相次ぎ、多くは姿を消した。しかしチェーン母体が解散しながらも、いまだに元の看板をつけてがんばるコンビニたちがある。
さらには大手チェーンに属しながらも、今はもうめったに見られないブランドをつけた貴重な店もある。
コンビニ統廃合の歴史を追うなど、マイナーなコンビニについ肩入れしてしまう僕は、それらを訪ね歩く旅にでかけた。
まずは1978年に誕生したヤマザキデイリーストアーへ。既存店のほとんどがデイリーヤマザキに変わる中で貴重な店舗だ。
ヤマザキデイリーストアーは生鮮品なども多く扱う、コンビニとしては異色のお店だった。一時期は2000店を突破した、日本を代表するチェーンだった。
「しめじ幕の内」などのロングセラーの人気弁当があり、一部店舗で冷凍パン生地を各店で焼き上げるサービスも実現。
円高が話題になったころには、1本68円のアメリカ産缶コーラを販売するなど、食品ならおまかせのお店だ。
当時のロイヤリティーは売上高の2.5%+固定費と安く、コンビニオーナーからも大人気だったという(おかげで同じ山崎製パンがやっていたサンエブリーはチェーンの店舗数が少なかった)。
ちなみに山崎製パンがスポンサーだった長野オリンピックではスタッフの食事もヤマザキデイリーストアーの弁当だった。
入ってみよう。中は六畳一間ぐらいのスペースで、かわいいお店だった。
話を聞くと、40年ほど前からある店らしい。当時からあった数少ないお店の中で、限られた店舗を転換しなかった店だけが、現在デイリーストアーとして残っているそう。
デイリーヤマザキに変わらなかったのは、お店のサイズが小さいこともあったようで、店のスペース上ホットスナック類は置いていない。
うれしいのが見切り商品を取り扱っていることで、半額のうどんを買った。もう数少ないヤマザキデイリーストアーで買ったものと思うと、なんだかうれしい。
次に来たのはショップアンドライフ。1985年に誕生したチェーンで、ロイヤリティーが安く、オーナーさんへのケアを大切にしていた。
オーナーが急病になったり家族旅行に行ったりする際に本部がスタッフを派遣してお店を守るシステムがあったほか、新しい加盟店を紹介すると旅行に行けるキャンペーンがあった。
さらにコンビニチェーンとしては異例すぎる「おもしろグッズの週替り販売」を行っており、吸い込むとアヒルの声になる「ダックスボイス」や、マッチに似せた小型電卓などがレジ周りで販売されていた。
「人の和」を大切にしていたチェーン店だったが、本部は消滅。その看板をいまだ残しているのはJR市川駅(千葉)にほど近いお店である。駅から北にしばし歩くと、それは住宅街のど真ん中に現れる。
全日食チェーンのプレートがあるため、現在はその傘下に入って仕入れなどを行っているようだ。
なんでも揃っているので、周辺住民としては絶対ありつづけてほしいであろう店。アイスケースとカゴには、ショップアンドライフの名前とロゴが描かれ、名残が残っていた。
焼きそばはヤマザキのクールデリカ、おにぎりは新潟のまるこう食品である。
お店のレンジで温めてもらったが、駅のホームで食べるころもまだ温かさが残っているのがうれしい。
値札に店名が書いてあるのもそのまま。当時に思いを馳せる。
ちなみに市川駅界隈はとにかくデイリーヤマザキなど、山崎製パン関連のコンビニが多かった。なぜかと言うと創業地だったからだ。市川駅を見下ろす格好でそびえ立っている。
デイリーヤマザキも大手3社に押され気味のため、貴重な風景である。これを数十年後も見ていたい。
次は1983年に生まれたタイムリーワンだ。もともとの本社は栃木県の足利市にあった。社長は「三井、三菱、住友といったずっと続くような事業を始めて残したい」と思っていた。その「ずっと続く事業を」という夢はかなわなかったが、夢のかけらがまだ埼玉県の久喜市にある。
タイムリーワンは全店が飲食店免許を持ち、カウンター内を厨房にしてフランクフルトやカレーライス、コーヒーフロートなどの軽食を提供するお店だった。料理好きの経営者なら、メニューは自由に広げて結構だった(日経流通新聞 1989年1月31日)。
各店には8~15席の飲食コーナーがあったという。
ちなみに東京・渋谷にも画期的な「配達専門の店舗」がマンションの一室にあり、カタログ注文で購入することができた。
そんな革新的チェーンだったタイムリーワンは南栗橋駅から300円のレンタサイクルを飛ばし、5分ほどで到着する場所でひそかに残っていた。
この「おにぎり~」の看板。往年のドライブインを彷彿とさせて、ずっと見ていたくなる。
年数が経過した建物にしか醸し出せない風格を醸し出している。ドイツ国旗にも似た模様で彩られたこのお店、もはや存在感しかない。
今日はお休みで窓にすだれがかかっており中は覗けないが、その様子を伺える貴重な画像がTwitterにあるので、見て欲しい。
栗橋 タイムリーワン。訪問時は営業していなかったが、店内には商品が並んでおり現役らしい。入店には勇気が要りそうだ。有名ネズミとアヒルのパネルが複数掲げられていた。#マイナーコンビニ #ローカルコンビニ pic.twitter.com/wEKCbdfy6W
— JP-Super (@jp_super) August 5, 2018
通りがかりの方に話を聞くと、2018年から奥さんの事情でお店を閉めることが多いらしい。
もともとはコンビニ的な品物をひととおり置いていたが、チェーンが解散してからはパンやお菓子などが中心の品揃えだとか。
最後にお店が開いているのを見たのは1ヶ月前だそうだ。次はいつ開くかはわからない。
最後に行くのはマイショップだ。1969 年に大阪府豊中市で開業した日本のコンビニの草分け的存在のひとつで、日本初のコンビニと見る向きもある。
昔は大きなチェーンで、1980年にKマートとコンビニ部門で提携した際にはその数が1160店ほどにも達し、セブン-イレブンを抜いて業界最大の勢力だった。
1971年に日本初のエリアフランチャイズ制をはじめたとも言われ、とにかくコンビニ史を語る上では欠かせないお店なのだ。
遠くから見たときには「ひょっとしてお休み?」と思ったが、そばに寄ると入り口に「営業中」を示すのれんがある。勇気を出して入ろう。
「マイショップ まつだ」は日持ちのする商品が中心のホッとするような品揃えと雰囲気。それでいて店のつくりは、バリバリのコンビニ時代の面影がある。
もともとはコンビニらしくお弁当なども置いていたが、本部がなくなったいまは独自の仕入れを行っている。
奥の待合室のような場所では、テレビで野球の巨人戦を流していた。昔こういう場所ってもっとあったよなぁ。
お店は常連さんが多い模様だ。ご年配の男性たちがお酒など6000円ほどのまとめ買いをしていった。それでいて一見さんでも抵抗なくいられる雰囲気。
ここで日本初のコンビニチェーンを守る、松田さんにお話を伺った。
マイショップは自由度の高いチェーンであり、本部の仕入れとともに、もともと付き合いのあった供給先からの商品も仕入れることができた。今でも当時の仕入れ先を一部使っている。
若い人はこぞって大手チェーンに行くが、年配方のお客さんは好んで使ってくれる。
しかしお店の稼ぎだけではやっていけず、いまは各地に置く自動販売機のベンダー事業がメインだ。
大手コンビニではできない、独自の商品ラインアップは売りのひとつ。
たとえばペット用品。ペットの飼い主にとって、ペットグッズはふとしたときに「あ、ない!」となるもので、コンビニとは思えない品揃えが重宝されている。
ちなみにお店の前は現在マンションが建っているが、かつては工場があった。そのため軍手のセットや糸など、当時の客層がわかる商品が残っている。
現在は地元のご年配たちが集まる憩いの場。買った飲食物をその場で食べることもOKだ。子育てや家族との関係に悩んでいる母親もおしゃべりしにやってくる。
「人は愚痴をこぼすことも必要だから」と語る松田さんに、僕は首がもげるばかりに首をタテに振って同意した。
ちなみに松田さんは捨て犬猫たちを飼っており、お客さんが触れ合うこともできる。3本足になってしまった猫もいる。そのため、まだまだこのお店でエサ代を稼ぐ必要があるのだ。
コンビニとしての名残を残す店内に、個人商店の雰囲気と自由度が合わさった、ちょっと不思議で楽しい雰囲気。
ぜひ「日本初のコンビニチェーンのいま」を見たい方は足を運んで欲しい。お店にお金を落とすと、それが犬猫ちゃんたちのごはんになる。
チェーンが解散したり、ブランドが一本化されたり……そんな激しい変化がつきもののコンビニ業界の中で、消えたはずの存在。
現代が急速に失いつつある多様性が、まだかろうじて生きていた。その姿を少しでも長く見たい方は、ぜひお金を落としてほしい。
そして今回とてもお世話になった参考文献が、日経MJ(流通新聞)だ。貴重なマイナーコンビニ情報を、ありがとうございました。
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