「走破タイム」も同時に競う
この旅のルールは
・箱根駅伝の中継所のある駅で駅弁を買って食べる(1区ごとに1つ購入)
・駅弁の食材を一つの弁当箱に詰めていき、最終的にできあがったものを「箱根駅弁」として食す
とする。
ついでに(電車で進む)走破タイムも競ってみよう。1日に間髪入れず5食も駅弁を食べるのはなかなかハードだが、それを乗り越えて2019年箱根駅伝の優勝タイム超えにチャレンジだ。そのために、
・「次の中継所へ到達し、弁当を購入した時点」でたすき渡しが成立したものとし、1区間ごとの走破タイムを計測する
(1区のみスタート地点から計測、10区のみゴール地点に到達するまでを計測)
こんなルールも定めた。
【スタート】1区 大手町→鶴見
いよいよ出発である。箱根駅伝のスタート地点といえば、ここ読売新聞社前だ。
実は最寄りとなる大手町駅には、駅弁がない。そのため事前に周辺駅の代表格である「東京駅」へ事前に行って駅弁をセレクトしてきた。
そして深川めし(900円)を携えてきたわけだ。ここには「箱根駅伝スタートライン」なるプレートがあり、いざ熱戦ならぬ熱食の火ぶたが切られる。
スタート! まずはこの深川めしを近くの神田橋公園でいただく。東京あたりだと、列車内で食べるのはむずかしいからだ。
アサリ、ワケギ、油揚げ、海苔と和風なものばかりが並ぶ、江戸前弁当だ。磯の香りが凝縮された風味が存分に味わえる。900円出した甲斐があった。
それでは、第1区の走者である深川めしを弁当箱に詰めていこう。深川めしと、東京料理の象徴でもある玉子焼きを入れた。
なにせ10区で10弁当分の料理がこの1箱に入るので、少量ずつ詰めていく。
なお弁当箱は保冷剤入りのクーラーバッグに入れてなるべく鮮度をキープする。
2区 鶴見→戸塚
先を急ごう。東京駅に戻って京浜東北線で向かうのは、横浜市にある鶴見駅である。
箱根駅伝で1区と2区をつなぐ鶴見中継所。そこにもほど近い鶴見駅には改札を降りてすぐの場所に、横浜を象徴する崎陽軒がある。
ここで購入したのが、大ベストセラー・シウマイ弁当(860円)だ。東海道の旅のおともはやっぱりコレ、絶対ハズさない伝統の逸品である。
ちなみに東京版と横浜版があり、かけひもで結わいてあるのが横浜工場で作られたしるしだ。
ここでたすき渡し。しかし先頭からは14分以上遅れてしまった。今年の箱根駅伝でブレーキになった大東文化大学よりもはるか後ろのビリである。
気を取り直して、不朽の名作を食べよう。
これだ! 俵型の飯、5個も入っているシウマイ、玉子焼き、かまぼこ、サイコロ型のタケノコ……絶対に損はさせないラインナップである。
本当は電車の中で食べたいところではあるが、あいにく都内にほど近い鶴見駅あたりの車内では、まだまだ弁当を広げにくい。黙ってホームで食べる。
うまい! 崎陽軒のシウマイの味わいは母のような安心感だ。
ここではメイン食材のシウマイと、特徴的なサイコロ型のタケノコを「箱根駅弁」の箱の中に入れる。
3区 戸塚→平塚
第3区の中継所、戸塚駅に到着した。ここで駅弁を売っているのも、やはり崎陽軒である。
我らが栄光の駅弁大学は、ここで早くも45分以上もの差を付けられた。そんな絶望の涙でぬれるたすきを受け取ったのは横濱ピラフ選手(660円)である。
この崎陽軒、シウマイ弁当以外にも実はいろいろ弁当があり、その中でもちょっと安めの商品だ。
やや小さめの弁当箱には面積の3分の2にピラフがのっており、子どもが好きそうな具材も乗っている。
今回も電車に乗っては食べられない。「駅弁ってこういうものだったっけ」と思いながらも、気を取り直してホームのベンチで食べた。
ウマい。この日は真冬で弁当も冷えていたが、ごはんに味がついていることでおいしく感じられる。
さらにシウマイに使うしょうゆを余らせて、ピラフの味変用に少しかけるのもオツだ。中盤以降のちょっと味に飽きてきたときに使うと効果的である。
4区 平塚→小田原
続いては平塚駅である。横浜市エリアから、一気に湘南エリアまでやってきた。
鶴見・戸塚と崎陽軒の弁当が続いたが、この平塚駅には「大船軒」の駅弁店がある。
この大船軒の古くからの名物といえば大船軒サンドウイッチ(530円)だ。
明治32年(1899年)に日本初のサンドウイッチ駅弁として発売され、以来120年愛され続けている。
当時、サンドウイッチは高級レストランで出されるもので、庶民の手の届くものではなかったが、そんな折に駅弁で発売されたため、大盛況で売り切れ続出だったという。
ようやく電車の中で食べられる
乗車する車両の対面式シートが空いていた。ようやく電車内で駅弁が食べられそうだ。
すんなりパクパクと食べられる、素朴なサンドウイッチ。
特に好きになったのは、チーズだけのチーズサンドだ。これは当たり。バターにも似た風味が味にパンチを加えている。
530円の駅弁というとせいぜい助六寿司やおにぎり弁当ぐらいだが、サンドウィッチもまた楽しい。
5区 小田原→箱根
小田原に到着した。一気に観光地としての空気を帯びてくる。
箱根湯本までは、箱根登山線というローカル鉄道に乗り換える必要がある。その前に駅弁を買っていこう。
ここで見つけたのは箱根立田弁当(719円)である。ラインアップの中では量の割に安く、竜田揚げがおいしそうなのでチョイスした。
ここで往路最後のたすきリレーが行われたが、実は4区走者の大船軒サンドウイッチ選手が36分29秒(従来の記録は1時間54秒)というとんでもない激走を見せ、順位を超ダントツのビリから21位まで押し上げたのである。
箱根登山線は観光地を走るローカル線だが、対面式のシートもなく駅弁は食べにくい雰囲気。
かといって小田原駅のホームにいる間に食べるのもきつい。朝の早い時間からすでに4食食べているので、さすがにおなかいっぱいだ。
少しでもこのおなかを空かせるため、食べるのは箱根湯本駅へ行ってからにした。
5区の箱根で食べる、激ウマ弁当
箱根湯本駅のベンチはカップルたちが占拠していて食べづらいので、やってきたのは箱根湯本駅すぐそばの早川の河原だ。
この竜田揚げはウマかった。重すぎないのにクセになるイイ味。しかも大きなサイズで、これだけでも価値がある。
往路の記録タイムは5時間43分11秒。必死に追い上げたものの、22位という思い切り下位に甘んじた。
箱根駅伝ファンの方から言わせると「なんでゴール地点の芦ノ湖に行ってないんだよ」とおっしゃるかもしれないが、なにぶんこの旅は予算が少ない。バスで往復2360円かかってしまうのは痛手なのだ。
というわけで今日はこのまま、箱根湯本に泊まる。外国人バックパッカーたちが英語で盛り上がる中で疎外感を感じながら過ごして、そのまま寝た。
ちなみに「箱根駅弁」は鮮度を落とさないために、ここで冷凍していく。
6区 箱根→小田原
翌日朝、復路(6~10区)のスタートである。箱根へと向かってきた往路とは逆に、今度は東京に戻っていくルートだ。
本来は芦ノ湖からスタートになるが、前述の通り予算の関係上、箱根湯本からのスタートになる。
海老天むすび(570円)を購入した。予算の関係である。
と、電車に乗る前に箱根湯本駅構内のベンチで食べていこう。
おいしい。カラッと良い感じで揚がっている海老天とおにぎりのコンビはなかなかだ。ただなにせ一個一個が小さいので、あっさり食べ終わってしまった。
7区 小田原→平塚
全く観光をせず、箱根を後にした筆者。再びやってきたのは小田原駅構内の駅弁販売コーナーである。
ここで購入したのが、小田原名物「鯛めし(830円)」。明治40年(1907年)に生まれた伝統の味だ。これまた車内では食べづらい状況だったので、次の中継所である平塚駅のホームまで行って食べることにした。
朝のさわやかな空気に包まれながら、鯛めしをいただこう。
それにしても、ごはんの上にのった「鯛おぼろ」がとても甘い。こんな甘いごはんは生まれてはじめて食べた。甘いものがとても喜ばれた貧しい時代の食べもの(?)なのかもしれない。
食べはじめはいいが、食べ続けると、「ちょっと甘すぎるな……」と正直思う。しかしわさび漬けをごはんに付けて食べていくと、辛さで味がひきしまった。
鯛めしとちくわを入れるとこんな感じ。もう隙間が少なくなってきた。ここからは弁当の中身の様子は最後まで見せないようにしよう。
8区 平塚→戸塚
平塚まで戻り、往路と同じ大船軒へ向かう。前から目をつけていたアレを買うためだ。
東海道を代表する弁当の一つ、「鯵の押寿し」である。魚はいたみやすいため、往路ではなく復路で買おうと思っていたのだ。
通常は8カンで980円するが、この3カンバージョンは3カンでわずか380円。予算がないこの旅では即決で購入した。
ちなみに7区の鯛めし選手は42分21秒というありえないほどの快走を見せ、順位を12位まで押し上げた。名門明治大学と早稲田大学の間まで来たぞ。
ここから、平塚駅から戸塚駅をめざす8区区間へ。電車の対面式シートに運良く空きがあったので、車窓を見ながら寿司タイム。
口に含むと、実に「小粋」という言葉が似合うさっぱり味。昔の時代ではすごいごちそうだったんだろうなぁ、という感慨とともにいただく。
9区 戸塚→鶴見
戸塚駅へ到着。ここからまた崎陽軒区間が続く。往路と同じお店で、別のメニューを頼む。
横濱ピラフの姉妹食(?)横濱チャーハンをいただく
頼んだのは横濱チャーハン(660円)である。3区で頼んだ横濱ピラフと姉妹品のような関係だ。
ちなみにその横濱チャーハン選手にたすきを渡した8区の鯵の押寿し選手。「31分43秒」という、今回のゲームバランスをゆるがすほどのものすごいスピード。たちまちトップに立ってしまった。
食べると……ウマい、期待通りの味。駅弁でチャーハンが食べられることは貴重だし、660円という手頃な価格がとてもイイ。
【ゴール】10区 鶴見→大手町
そして鶴見駅へ到着。最後に注文するのは、崎陽軒・いなり寿司(520円)である。ただのいなり寿司と思うなかれ、これは神奈川県の崎陽軒限定の弁当なのだ。
そして京浜東北線で一気に東京駅へ。駅近くの丸の内オアゾのベンチで、最後の駅弁を食べた。
極めてふつうの、いなり寿司の味。おなかいっぱいではあったが、旅最後の駅弁だと思うとなんだか名残惜しく、おいしくいただけた。
とうとうゴールした。タイムはなんと10時間22分52秒。東海大学が今年マークした箱根駅伝記録の10時間52分9秒を約30分上回る、歴史的記録が生まれた。駅伝大学の快走は箱根路へ永遠に刻まれた。
区間新と区間ビリを乱発
ここで食べた駅弁と、タイムをおさらいしよう。
往路こそ区間最下位2連発の出遅れがひびき、22位に沈んだ駅弁大学であるが、復路は信じられないほどの区間新を3連発という、ゲームバランスをおかしくするほどの怒濤の猛追。
あっという間に先頭の東海大学を捉え、最後は独走での優勝を飾った。
いよいよ姿を現す「箱根駅弁」
そのあと「箱根駅弁」は、すぐ冷凍庫で保存。翌日いよいよ、1~10区までの弁当の料理たちを集めた、究極の弁当「箱根駅弁」を食べることにした。
何やら感慨無量である。2日間かけた甲斐があった。しばらくしげしげと眺める。
レンジで解凍したため、まだホカホカの状態。そしていろんな香りがごった煮状態になってなかなか複雑な匂いだ。が、イヤな感じではないし、これが1~10区まで行って食べて集めた証拠、と思うとなんだか良い気持ちになってきた。
ちなみにこの弁当箱は崎陽軒の幕の内弁当の箱を洗ったもの。これも予算の関係である。
これが「箱根駅弁」の味
さあいただこう。ここまで妙にがんばったので、なんだか最初に箸を入れるのがちょっと緊張した。
最初に箸をつけてからも、次に何を食べようか迷ってしまう。さすが沿線の駅弁オールスターズ、その華やかさがうれしかった。
正直……いくら冷凍したといえど、ちょっと鮮度や状態が落ちている。部分的に硬くなった具材などもあり、味は「最強の駅弁」とはほど遠いものだったが、まあでも、おいしい。とにかく楽しく味わえたから、満足だ。
長い長い、駅弁の旅が終わった。
オススメの駅弁はこれだ
筆者のフェイバリットを挙げてもみんな興味ないだろうが、10個食べた中でオススメの駅弁を挙げてみる。
1位:5区 小田原駅 立田弁当(719円)
なんといっても立田揚げのおいしさが際立っている。おなかがふくれる料理なのにこの値段もうれしい
2位:9区 戸塚駅 横濱チャーハン(660円)
しっかり味のついたごはんは冷めてもおいしい。崎陽軒名物のシウマイもちょっと食べられるし、節約派にはシウマイ弁当よりこちらかも
3位:1区 東京駅 深川めし(900円)
東京伝統の味を気軽に味わえる。アサリの味が江戸前の海を感じさせてくれるのがGood。しかも満足感はあるのに、528kcal。
次点:6区 箱根湯本駅 海老天むすび(570円)
ちょっと小腹が空いたときにサクッと味わえる。海老とおむすびのまとまりとサイズ感が秀逸。
あったかい食べもののありがたみがわかった
撮影したのは真冬だったが、冷めてもおいしい駅弁のすごさがわかった。だが正直3日間駅弁ばかり食べ続けると、たまには温かいものが食べたくなるのがやはり人情だ。翌日、カツ丼をおごっていただいたときにはいたく感動した。
やっぱり駅弁は列車の車窓で、たまに食べるのがベストだと学習した。でもそのために費やした駅弁代の6629円はムダではなかった。ホントに楽しかった。
(ちなみにこの記事を出すほんの2時間前、同じDPZライターのいまいずみさんが今回の企画に近いツイートをしていたのを見つけて恐れ入る。みんな同じようなことを考えるものだと再認識。)