ハードボイルドになれる
憧れていたハードボイルド。ハードボイルドが登場する映画も見たし、ハードボイルドが登場する小説も読んだ。そして、憧れた。その結果がこれだ。いろんな意見はあると思うけれど、ハードボイルドの要素をギョッとするとこうなるのだ。満足だ。

ハードボイルドというものがある。固ゆでのゆで卵ではなく、アメリカの古い小説に登場するような探偵の方のハードボイルドだ。これに非常に憧れる。タフでキザな感じ。常に危険と隣り合わせというのが憧れるポイントだ。
ハードボイルドという憧れを叶えたい。しかし、そう簡単になれるものではないので、せめて自宅ではハードボイルドになりたいと思う。さらに写真の中だけ。それならハードボイルドになれると思うのだ。
ハードボイルドはどこにでもあるような静かな住宅街には住まない。家と家の間に小さな畑があるような、夕方になると夕焼け小焼けが流れるような住宅街にハードボイルドは生息していないのだ。
ハードボイルドが好むのは、繁華街だ。そして、住んでいるのは雑居ビル。窓にカーテンはなく、夜になると犯罪都市なので頻繁にパトカーが走り、パトランプの赤い光が部屋の中に入ってくる。ネオンの光も当然部屋の中を照らすだろう。
ハードボイルドの住む街は眠らない。バーの常連のジェシーは最近何かのトラブルに巻き込まれたのか顔を見せない。部屋に繋がる細い階段では、斜向かいに住むウェバーが誰かに追われているようで階段を駆け下りて行った。それを横目に部屋に戻るとガラスからパトランプの赤い光が俺を照らす。
そんな世界に憧れるのだけれど、私の家の周りはそんなことが全然ない。静かな住宅街だ。平和。とてもいいことなのだけれど、ハードボイルドに憧れるお年頃なのでそういう要素が少し欲しいのだ。
上記の私の写真を見て欲しい。ハードボイルドには全然見えないと思う。普通の自宅で撮った写真だ。ハードボイルドが欲しいのに、普通の30代男性の写真なのだ。私が求めるのは普通の30代ハードボイルド。そこでハードボイルドにしてみた。
お分かりだろうか、パトランプが私を照らしている。私の格好も若干変わっている。サングラスに革ジャン。ハードボイルドとは、サングラスと革ジャンなのだ。それにパトランプということになる。
これで十分にハードボイルドになったけれど、若干足りていない部分がある。そう、眠らない街要素。ネオンだ。ネオンの要素だ。それを足すことで自宅にいながら完璧なるハードボイルドになるのだ。
ハードボイルドが溢れているのがわかる。溢れすぎてハードボイルドを超えた何かとすら言えるかもしれない。ただそれくらいがちょうどいいハードボイルドなのだ。ハードボイルドにハードボイルドが過ぎるという考えはないのだ。
もちろん引っ越したわけではない。自宅に、正確に言えば、写真に写る範囲にだけハードボイルドを作り出したのだ。この写真だけを見た人は思うだろう、なんてハードボイルドなところに住んでいるハードボイルドな人なのだろう、と。でも、作り物なのだ。
一枚だけ写真を撮れればいいわけではない。常にハードボイルドでありたい。たとえば、ティータイム。お茶を飲む時間もハードボイルドでありたい。むしろ落ち着く時間であるティータイムこそ、ハードボイルドにする必要があるのだ。
もちろん私は先述の通り、普通の住宅街の普通の家に住んでいるので、普通のティータイムとなると写真のようになってしまう。全くハードボイルドではない。のどかな時間すぎる。これではダメなのだ。ハードボイルドにしなければ。
まずマグカップではない。スキットルだ。飲むものも紅茶ではない。ウイスキーだ。ただ私はお酒に強くないので、ほろよい的なものが入っている。しかし、立派なお酒だ。何度見てもハードボイルド。ネオンを足すとハードボイルドが如実になる。
もちろん窓の外は全く持ってネオンもなければ、パトランプもない。静かな、とても静かな住宅街だ。しかし、パトランプとキラキラの光が出るやつで、眠らない街に住むハードボイルド。カッコいいではないか。
ハードボイルドとはつま先から頭のてっぺんまでハードボイルドである。たとえば、あなたがハードボイルドの体を指先で押すとする。それはどこでもいい。なぜならあなたの指先が触れたところはもれなくハードボイルドだからだ。10回押せば10回はハードボイルドだし、もしかすると13回ハードボイルドな可能性すらある。
寝る時もそうだ。ハードボイルドでなければならない。上記はいつもの私の眠る様子だけれど、ハードボイルドとは程遠い。程遠すぎて逆にハードボイルドとすら言える。ただそれはハードボイルド上級者の考え方。もっとわかりやすくハードボイルドでなければならない。
ハードボイルドがすぎて胸焼けしそうだ。パトランプに照らされながら、ヘルメットを被って眠る。眠る時はやはり隙が生まれる。隙は危険だ。その隙を埋めるために必要になるのが、ヘルメットなのだ、フルフェイスの。それがハードボイルドなのだ。
これにネオンを足せば完璧なるハードボイルドが完成する。パトランプだけで、ハードボイルド過ぎて胸焼けしそうなのに、ネオンを足したらどうなるの。ハードボイルドが加速することに恐怖すら感じる。
逆に平常心。ハードボイルドが過ぎに過ぎ、逆に平常心。ハードボイルドが過ぎて我々のハードボイルドという枠を飛び越えているのだ。ただ冷静に比べれば、どれだけハードボイルドなのかがわかる。
だって、ヘルメットしているのに、さらにサングラスなのだ。夜なのに。眩しいんだろうね、ネオンとパトランプが。だからサングラスは24時間外さないのだ。本当の私の家は、めちゃくちゃ静かな住宅街で、そもそもめちゃくちゃカーテン閉めているから、ネオンやパトランプがあったとしても関係ないんだけどね。
憧れていたハードボイルド。ハードボイルドが登場する映画も見たし、ハードボイルドが登場する小説も読んだ。そして、憧れた。その結果がこれだ。いろんな意見はあると思うけれど、ハードボイルドの要素をギョッとするとこうなるのだ。満足だ。
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