特集 2019年1月7日

靖国神社の鳥居の予備だった石が今もある島、北木島へ

巨大な採石場跡。下で手を振っている米粒みたいなのは僕。

人に出身地があるように、石にも出身地がある。

有名人の出身地を訪ねるように、石の出身地を訪ねてみるというのはどうだろう。

1984年生まれ岡山のど田舎在住。技術的な事を探求するのが趣味。お皿を作って売っていたりもする。思い付いた事はやってみないと気がすまない性格。(動画インタビュー)

前の記事:巨大な岩を素手で動かす「ゆるぎ岩」の話

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国内最大級の石製鳥居

2ヶ月ほど前、僕は靖国神社へ来ていた。ここ靖国神社には、石で作られたものとしては国内最大級の鳥居があるという。

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九段下駅から靖国神社へ。写真の鳥居も大きいが石製じゃないのでさらに奥に進む。
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境内を程なく歩くと、大村益次郎の像が現れる。

大村益次郎は幕末に活躍し日本陸軍の礎を築いた人物である。そのためここに銅像が建てられている。NHK大河ドラマの西郷どんでの活躍も記憶に新しい。

大村益次郎の像の台座は白っぽい石で出来ている。

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そして大村益次郎の横に視点を移すと、やはり白っぽい石で出来た大鳥居がある。

これこそが石で出来た鳥居としては国内最大級の大きさの鳥居なのだそう。

国内最大級といわれているが、外国に鳥居があるとも思えないので、世界最大級ではないだろうか。

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鳥居に近づいて見てみると、ごま塩みたいな見た目。まごう事なき花崗岩だと分かる。
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さきほどの大村益次郎の台座の石と、この大鳥居は瀬戸内海に浮かぶ岡山県の北木島から運ばれてきたものらしい。

北木島から来た石は、この鳥居と大村益次郎の他にもある。

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日本銀行本館(1階部分)や、日本橋(東京)などにも使われている。

そんな遠い所からはるばる石を運んだ北木島とはいったいどんな所だろう。行ってみる事にした。

石の島・北木島へ

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北木島があるのは岡山県の南西の笠岡市だ。

笠岡市沖には笠岡諸島と呼ばれる大小の島々があるが、北木島はその中でも最も大きな島である。

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最寄駅は笠岡駅。岡山県の端っこに位置していて1駅先は広島県だ。
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笠岡市は生きた化石と呼ばれるカブトガニの産卵地としても有名。

町のいたるところでカブトガニを推している。このカブトガニも北木島の石っぽいな。書いてないけど。

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北木島行きのフェリーが出る港は笠岡駅からそんなに遠くない。徒歩での移動が十分可能だ。
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港に着くと程なくしてフェリーが到着した。

ちなみに港に券売所や券売機はなく、船内で運賃を払うシステムのようだ。

船体はなかなか味がある…というか、年季がはいっている。

乗り降りする人に観光客っぽい人はいない。瀬戸内の島々でも、近年は瀬戸内国際芸術祭があるので観光客が増えている島もあるが、そんな感じは一切無い。地元の人の足という感じだ。

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乗船するとフェリーが出航した。

巨大な構造物がゆっくりと動き出す様子はビルが動いている様だ。

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途中、小さな島の上にミニチュアの五重塔が乗っている。誰がどうやって作ったのだろう。

船旅というのも結構いいものだ。

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ちなみに、手すりの向こうはすぐ海。

瀬戸内海といえども広大で、もし手を滑らせて海にスマホを落っことしたらもう拾うことはできない。

数百年、あるいは数千年の単位で見つからなくなるだろう。海に落ちた僕のスマホを見つけるのは人類の次の文明になるかもしれない。

甲板が寒く手の感覚が鈍くなり、本当にスマホを落としそうだったので客室に入ることにする。

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客室はこんな感じ。

客室に入るドアには「自動」と書かれていたが、かなり以前から手動になっているようだった。

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客室にはカレンダーが異常に多く掲げられ(1個前の写真にも)、どことなく実家っぽさがただよう。

「自動」と書かれた手動ドアを開くまでずっと待っていたり、写真をパシャパシャ撮っていたりしたものだから、観光客だと思われて声をかけられる。

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パンフレットとか地図とかをもらった。おすすめの観光地も教えてもらった。

この旅行中、島の人たちは凄く親切でよく声を掛けられた。

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眼前に北木島が見えてくる。視界に収まらないくらいにでかい。

フェリーの上から、つまり「海から陸」を見るという事は僕にはあまりない。

現代においては「陸から海」を見る機会のほうが圧倒的に多いと思う。しかし交通手段が発達する前の昔の人は、船を使って物を運ぶほうが効率的だった。昔の人は今より「海から陸」を見ていたはずだ。

そんなことを想像しながら、昔の人の気持ちになって海から北木島を見てみると、海に近い場所に切り立った山があり、石材の切り出しにはとても都合が良い地形だと分かる。

そしてそういった場所は漏れなく削られている。

北木島へ到着

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フェリーの汽笛が鳴り、北木島に到着したことを告げる。特にアナウンスとかは無い。

 

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フェリーが島に到着すると車と人と荷物が島中に散って行く。

ちなみに、このフェリーに乗っていた乗客は、この後、店にいたり、スクーターや軽トラックで通り過ぎたり、その辺で作業していたりして、島中あちこちで出会うことになる。

「あれ?また見たことある人だ」となる感じは、手塚治虫漫画みたいだ。

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北木島では、いたるところに切り出された石が積まれている。

花崗岩は切り出されたものは灰色だが、風化するとベージュ色になっていく。山の木々から覗く崖は風化した花崗岩だ。

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そして島の散策を始める。島には島ならではの独特の雰囲気がある。

北木島のように船でしか行けない島には、言葉にする事は難しい島全体が1つの塊みたいな雰囲気がある。島の一体感の様なものだろうけど、すごく良い。

かつては採石で賑わった北木島だが、今は外国の安い石材に押され、どこかのんびりとした空気が流れる。

運命が分かれた石

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フェリーが着いた港をぐるっと回りこむと、こういった小屋がある。
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小屋の横にある石に注目して頂きたい。

実はこの石、靖国神社の鳥居の予備として切り出されたものなのだそう。

片や綺麗に加工され、華々しく靖国神社で屹立する石がある一方、使われなかった方は脚立や鉄管が乗ってこの有様である。

石に運命があるとすれば、なかなか過酷な現実だ。

レンタサイクルで散策

せっかく北木島に来たので回ってみることにした。

僕は「島=小さい」という思い込みがあり、過去それによって何度も大変な目にあっている。

北木島も小さいイメージがあったが、調べてみると周囲はおよそ20キロだそう。とてもじゃないが徒歩で回るのは無理がある。

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レンタサイクルを借りた。島はアップダウンがあるので電動アシストは必須だ。

自転車が濡れているのは、降水確率0パーセントだったのに小雨が降り始めたからだ。

冷静になるとテンションが下がりそうなので、作詞作曲自分の即興「松の木の歌」を歌って自転車を漕ぐ。なぜなら松の木が目に留まったからだ。

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ふと木々に切れ目を見つけた。

草をかき分け入ってみる。

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両手を広げたくらいの幅で崖に切れ込みがあり、奥が広くなっている。

恐らくかつての採石の跡だ。

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周囲の崖は結構な高さがある。
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広くなった空間の中央には水が溜まっている。

雨で湿度が高くなったのも合わさり、ジュラシックパーク感がすごい。恐竜が出てきそうな雰囲気ある。

こういう採石の跡が北木島にはあちこちにあるようだ。

北木の桂林

地元の人から一押しの観光地として教えてもらったのが、北木の桂林である。

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ロープが張ってあり、入ってはダメな感じだ。が、地元の人から「勝手に入れば良い」といっていただいたのだ。ラッキーだ。
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もう使われなくなったであろう加工場の横を抜けると急に視界が開ける。

水を湛えた湖が姿を現し、切り立った崖が湖の周囲を囲んでいる。北木の桂林の名前通り、水を湛えていていかにも桂林という感じだ(桂林に行ったことはないが)。

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崖の頂上も仰ぎ見る様な高さ。かなり高い。ビルだと何階建てくらいだろう。
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真ん中で佇んでいる僕と比較すればその大きさと迫力が分かると思う。

その場に立つとさらにすごい迫力である。これは一見の価値があると思う。

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そして左手側を見るとずーっと湖が広がっていて、かつて使われていたであろう機械も残されている。

雨水が溜まっているので見えないが、水の下には何十メートルの深さの石を切り出した穴があるそうだ。想像するだけで恐ろしい。

廃墟の退廃感もありつつ、崖と池が独特の景観を形作っている。他ではなかなか見られない光景。こういうのが好きな人には堪らないと思う。

北木島、観光地っぽさはないけど面白い

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島のいたるところに石のオブジェがあったりする。
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帰りのフェリーから。

石の出身地をほぼノープランで訪れたが、多くの石を送り出した名残をたくさん見つける事ができた。

それにとにかく北木島の地元の人が親切だった。

その人たちが口を揃えて「何も無い」と言っていたが、その観光地然としてない、そこに生きる人々の生活を垣間見られるところが、ちょっと変わった旅の見所だと思う。


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北木島で食べた笠岡ラーメンがめちゃくちゃ美味しかった。

笠岡ラーメンはかしわ(年をとって卵を産まなくなった老鶏の肉)が入っているのが特徴だ。

かしわは若い鶏とはまた違った美味しさがあって、かしわの方が好きという人も多い。コリコリとした食感で、噛めば噛むほど味が出る。

スープは鶏がら醤油であっさりとしていた。

左のごはんはラーメンのスープを入れてお茶漬けの様にして食べる。

掛け値なしにめちゃくちゃ美味い。

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