出掛ける理由は「この道がどこに繋がっているのか」でも「ゆるぎ岩をゆらす」でも何でも良いが、普段、絶対に行かないような場所に行くのは楽しかった。
この4つ以外にもゆるぎ岩はあるみたいなのでまた折をを見て行ってみよう。
「この道はどこへ繋がっているのだろう」
子供の頃に疑問に思い、誰しも近所で小さな冒険したことがあるはずだ。
僕も例外ではなく、大人になってからも同じように道がどこに続いているのかと行ってみるのが好きだ。
「ゆるぎ岩」が何なのかさっぱり分からなかったがその言葉には見覚えがあった。以前違う場所でも見たことがあった。
気になったので調べてみると「ゆるぎ岩」とは、巨大な岩が絶妙なバランスで、かつ少ない接点で支えられている事により、少しの力でシーソーの様に動かすことができる岩のことだそう。
性質上、花崗岩が風化の過程でできる事が多いので、花崗岩が多く分布する西日本では所々にあるらしい。
気にした事はなかったが、そんなものがあるのかと居ても立っても居られなくなり出掛けることにした。
岡山県赤磐市のゆるぎ岩
さて、最初に「ゆるぎ岩」という言葉を見た岡山県赤磐市のゆるぎ岩へ向かうとしよう。かなり昔の話なので記憶が曖昧だが、インターネットで改めて場所を調べて向かう。
しかしこの日は素晴らしい快晴だ。気温も暑くも寒くもない。カーオーディオからはゴキゲンなナンバーを流れてきて、最高のドライブ日和だ。
ここまでは車で来ることが出来るが、ここからは徒歩で向かう。
当然の事だが観光地という雰囲気ではないし、僕以外に観光客はいない。風化した花崗岩を見に来る人はあまりいないようだ。
さきほどカーオーディオで最後に聴いていたゴキゲンなナンバーが脳内リピートされ、思わず口ずさみそうになる。
もし歌っているところを誰かに見られると恥かしいので、歌わない様に気をつける。
後ろに民家があるが、ツタが絡んでいるし、生活の気配がないので廃墟かも。
ただ廃墟にしか見えない家からも人が出てくる事があるので、やっぱり歌うのは止めたほうが良い。
散歩くらいのイメージでいたのだが、もはや登山に近い。ヒィヒィ。
ここにも人の気配はなく、ものすごく静かなので急に心細くなってきた。
矢印が目的地を指し示すが、足場もなく、人が歩くことなんかこれっぽっちも配慮されていない。岩をよじ登ったり降りたりしながら進む。
石の上に別の石が斜めに乗っかっている。思った以上に不安定な感じだ。形は石を踏んでいる足の様にもみえる。
しめ縄が張ってあり、信仰の対象となった岩、磐座(いわくら)というやつだと分かる。
神聖なものっぽいので触るのを躊躇するが、ゆるぎ岩と銘打っているので大丈夫だろう。
ちなみに、写真だとあまり大きく見えないかもしれないが、
バランスが絶妙すぎて、動かしたら落ちてくるんじゃないかという恐怖もある。人気のない山奥で、こんな巨石に潰されたら即ち、死、である。
それに、どこがどう動くのかもちょっとよく分からない。当然上になっている方の岩が動くと想像できるが逆もあり得る。
うんとこしょ。うわっ、うわ、動く動く!
結構ズームしているのはヒキで撮影するといまいち動いているのが分かりにくかったからだ。
正解は「上になっていた足形の石のかかと部分を持ち上げると動く」だった。
普通人間の力ではビクともしなさそうなサイズの岩が、ゴワンゴワンと動くさまは感動に似た楽しさだ。力持ちになった気分になる。
あと最初、押し過ぎたら落っこちるんじゃないかと心配していたが、押してみると全然そんなことはない。自分の力を過信しすぎだ。
という事は、上の岩と下の岩は元々1つの岩で風化の過程で分かれたのかもしれない。
目的を果たすと、心細さがだんだん大きくなり、急いで山を降りた。
兵庫県加西市にあるゆるぎ岩
ゆるぎ岩がある兵庫県加西市は兵庫県の大体真ん中あたりだ。
こちらも絶好の行楽日和だ。こんな天気が良い日になぜ岩を動かしに行くんだろう。もっと楽しい場所は他にたくさん有る気がする。
門が開いているのは、僕が開けたわけじゃなく来た時にはすでに開いていた。
開いてはいるが、この柵は立入禁止という意味じゃなかろうか?せっかくここまで来たのに無駄足だったかも知れない。
この柵はどうやら害獣避けらしい。入っても良さそうなのでこのまま進む。最近は本当にどこでも害獣の被害に悩まされているようだ。
気のせいか、柵の向こうは空気が違うようだ。柵の手前までが人間の世界だとしたら、柵のこちら側は山と獣達の世界という感じ。しんっと静まり返っている。
ここでもカーオーディオからは音楽が流れているが、山の静けさに吸い取られていくようだ。
さきほどの門が開いていたのは誰か山に入っているからかもしれない。しかし他に人がいそうな雰囲気はない。そんな中、自動車をゆっくり進める。
なにこの不思議な風景。
あ、もしかして水門の上の部分だけ出ているのか。
そして島にも誰もいないようだ。
これ以上は車では行けそうにないので車を停め、ここからは徒歩で行く。
写真には写らないが蚊がたくさん集まってくる。何日ぶりかの獲物に歓喜して襲ってきているようだ。手を叩けば一度に二匹くらい取れそう。
500メートルとは言え過酷だ。
そして左側にはゆるぎ岩の看板。間違いねえ、こいつがゆるぎ岩か。
しめ縄についた紙垂が金属で出来ている。紙だとすぐボロボロになるだろうし、ここまで紙垂を取替えに来るのは大変だろう。合理的だ。
それに縦タイプのゆるぎ岩か。こっち側に倒れてきたら即ち、死である。(これさっきも言ったな。)
冒頭でゆるぎ岩は花崗岩が多いと言ったが、看板には生物岩と書かれていた。花崗岩がマグマから出来ているのに対し、生物岩は古代の生物が堆積したものだ。
押してみる。
万が一、こっちに倒れてくると怖いので徐々に力を込めてゆく。
…
…
…ぐぎぎぎ。
…ぜんっぜん動かない。
手の平がまっ赤になるほど押したが動く気配が微塵もない。
本当に動くのか?と、この場でスマホで検索してみたが、小学生らしき子供たちが僕と同じ場所を押して揺らしている動画が出てきた。
どうなっているんだ…。
要約すると、「悪人は押しても動かないから改心しなさいね」と仙人が諭したのだそう。
そんなバカな。押す位置とか押す角度の問題じゃないかと、色々角度や場所を買えて押したが、僕ではまったく動かなかった。
2つ目にして早くも動かない。この企画失敗じゃないだろうかと心配になってきた。我こそはという方、ぜひ押しに来てほしい。
…しかし、自動車もなかった昔、仙人の言う事を素直に聞いて、こんな山奥まで岩を押しに来る悪人はすでにめっちゃ良いヤツなのでは…??
広島県福山市のゆるぎ岩
今度は悪人とか善人とか条件なしで動いて欲しい。
ゆるぎ岩の案内板が坂の下を指し示している。
ここにも人がいないな。…なんて思っていると散歩中のご年配の夫婦っぽい人たちが歩いてきた。人がいないのが普通だと思っていたので、別に悪い事してないのに焦ってしまった。
そのご年配夫婦は近づいてくる事なく向こうへ行ってしまった。
あれ?このゆるぎ岩は神格化されていない。
神格化されていないと精神的にもすごく押しやすい。
では、押してみる。
よいしょーー。
小ぶりなので巨大な岩が動くような感動は薄いが、そのぶん動きも大きい。長い距離を歩く必要もないので手軽なゆるぎ岩と言える。
押し終わり、帰ろうかとさきほどの坂道に差し掛かる。
香川県宇多津町のゆるぎ岩
最後に向かうは香川県宇多津町のゆるぎ岩だ。
大小の島が点在する瀬戸内海を、ずーっと向こうにある四国まで巨大な人工物である瀬戸大橋が貫いている。
香川県のゆるぎ岩はその瀬戸大橋を四国へ渡ってすぐの場所にある。
事前の調査では山の上にありそうだったが、車で山に登れそうな雰囲気だ。
進めば進むほどどんどん道幅が狭くなっていく。このままだと身動きが取れなくなるんじゃないかという不安がよぎる。
地方在住者は自動車移動が基本だが、ナビは時として車が挟まるんじゃないかと思うような狭い道にいざない、僕らを苦しめるのだ。
ここの岩もやはり神格化されているらしく、お地蔵様が大量に乗っている。ゆるぎ岩はやはり信仰の対象になりやすいようだ。
ゆるぎ岩じゃないやつを間違って動かそうとすると罰が当たりそう。
これだ。間違いない。大きさは申し分なく、横向きに安定しているので命の危険もなさそうだ。
早速、動かしてみる。
片手で動かすのはちょっと厳しいけど両手なら簡単に動く。
動きも大きく、軽い力で動くので、これが今までの中でのベストゆるぎ岩と言っても良いのではないだろうか。
巨岩は不動という概念が覆された
ここまで4つのゆるぎ岩を巡ってみたが、岩というのはどっしりとしていて、動かない存在だという思い込みがあった。
その点、ゆるぎ岩は絶妙なバランスによってグラグラ動く。
ゆるぎ岩を動かすのは、ちょっと楽しいし、ちょっと嬉しい。
4つ中3つが神格化されているのは、この奇跡に神秘性を見い出す人が多いからだと思う。