特集 2019年3月12日

ここから先は俺の駅!「駅境」をさがす

駅と駅の境目、「駅境(えきざかい)」を探します。

地下鉄を降りて、地下道を通り、また別の地下鉄の駅に乗り換えることがある。

地下道を歩いていたら、いつのまにか違う駅になっている。さっきまでいた駅はいつ終わったんだ?

グラデーションでゆっくり違う駅に変わるわけじゃないだろう。「ここまでが俺の駅!」「こっからあたしの駅!」と分かれているはずだ。駅の境目「駅境」を探った。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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「ここから先は俺の駅」宣言

新宿駅から新宿三丁目に向かっていたときのことだ。

一日の平均乗降客数が350万人を越え、ギネス記録にもなっている新宿駅。巨大なターミナルは地下にまで延び、ひとつ隣の新宿三丁目駅まで地下道でつながっている。

で、その地下道の途中にこんなところがあった。

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「ここから先は新宿三丁目駅」

バーン!と宣言されているのだ。「ここから先は」と。よく見ると床のタイルも違う。

ぼんやり歩いてたらいつのまにか新宿三丁目駅になるなぁと思っていた。でもそんなことはなく、ちゃんとした境目があるのだ。

県と県の境目が「県境」なら、駅と駅の境目は「駅境(えきざかい)」である。気になる。これは他の駅にもあるに違いない。

そして、デイリーポータルZで境界と言えばこの人を呼ばねばなるまい。

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ライターの西村まさゆきさんである。境界好きが高じて『ふしぎな県境』(中公新書)という本まで出した。

僕と西村さんは路線図好きとして活動しており、イベント「路線図ナイト」や共著『たのしい路線図』(グラフィック社)など、共に過ごす時間も多かった。

だからだろうか。ここにきて、ついに僕まで境界が気になるようになってしまった。分かりやすく影響を受けている。西村さんが変な壺とか集め始めたらどうしよう。影響受けるのかな。

さて、今回の調査は都内の地下鉄で行った。事前に「地下道でつながっている地下鉄の駅」を調べてみるとこんな感じになった。

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漏れがあったら優しく教えてくださいね

「駅境」が明確にわかるように、「同じ駅名だけど鉄道会社が複数ある」というケースは除いている(JRも地下鉄も私鉄もある渋谷とか)。

こうして挙げてみると、山手線の東側、東京近辺のほうが駅同士を地下でつなげているなぁという印象である。西側は新宿が気を吐いているが、先に挙げた渋谷や飯田橋、表参道、池袋など、複数の路線を同じ駅名でまとめているのが目立った。

NEWDAYSとacureがあったらそこはJR

まず見ていただきたいのは「馬喰町(JR)-馬喰横山(都営地下鉄)-東日本橋(都営地下鉄)」だ。3つの駅が「U」の字を書くように地下でつながっている。

最初にこの調査をしようと考えたとき「答え合わせをどうしよう」という懸念があった。県境を調べるのとは違い、敷地の境界は地図に載ってない。それこそ登記簿とか見ないとわからない。

まぁとりあえず境界っぽいものがあったら「ここを境界とする!」ということにしましょうかね、とボンヤリした意志でスタートした。そしたら馬喰横山駅の案内板にバッチリ正解が描いてあった。

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オレンジの部分が馬喰横山駅。境界が丸わかりだ!
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「完全にここじゃないですか!」「行ってみましょう!」
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というわけで、3駅の真ん中にある馬喰横山駅(都営地下鉄)をスタートして、西にある馬喰町駅(JR)に向かいます。さっきの地図だとオレンジゾーンの左端です。
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ギャラリーコーナーが閑散としていて「俺たちの絵を貼ったらダメだろうか」「うちの子どもの絵でもいい」と検討したりした。
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地下駅によくある、なんかわからないけど空いているスペース。同行した編集の古賀さんが「土地が死んでいる」「あたしに商売をやらせろ」「東南アジアだったらギュウギュウに埋まるぞ」と鼻息を荒くする。
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あ!ここじゃないですか!?

床のタイルの色が変わった。そして何より、前方に見えるのはJRのコンビニ「NEWDAYS」と、JRに自販機「acure(アキュア)」だ。ということは、あっちはJRのシマに違いない。

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こういうことですね(たぶん)
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天井に設置されたサインも、あちら(都営)とこちら(JR)ではデザインが異なる。

都営とJRそれぞれで内装が違うので、境目がわかりやすい。事前に「このタイルで揃えましょう」と打合せたりしないのだろうか。ゲームだったら「ここからちょっと強い敵が出るぞ」と身構えるわかりやすさだ。

では、同じ都営地下鉄同士である、馬喰横山駅と東日本橋駅はどうか。来た道を引き返してみよう。

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馬喰横山駅と東日本橋駅はともに都営地下鉄の駅なのだが、場所が離れているため、乗換のためには一旦改札を出て連絡通路を歩かないといけない。かなり人通りが多い。
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境目と思われる地点にあったのが、このでっかい扉!(右)。閉めたら通路がバーン!とふさがっちゃう。
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さっきの地図で言うとこの辺り。ここが馬喰横山駅と東日本橋駅の「駅境」。

なんだこの扉は、敵からの侵入を防ぐのか、駅同士で戦争でもあったのか。

……と思ったら、これは「防水扉」らしい。敵ではなく水の浸入を防ぐものだった。

この防水扉、付近を流れる河川の改修や、下水処理能力の向上のおかげもあり、現在は使われていないとのこと。両駅の開業日は馬喰横山駅が1978年、東日本橋駅が1962年。周囲の状況もいろいろ変わっただろう。駅に歴史ありである。

ここから都営の言い分になってるぞ

次に見るのは「上野広小路(東京メトロ)-上野御徒町(都営地下鉄)-仲御徒町(東京メトロ)」だ。今度は「H」の字につながっている。

この3駅のなかでは、真ん中に横たわる都営大江戸線の上野御徒町駅が一番新しい。開業に伴い、両端にある上野広小路駅(東京メトロ銀座線)と仲御徒町(東京メトロ日比谷線)の接続が開始されたそうだ。2駅を結ぶ仲人みたいなものである。

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「H」の字の右端、仲御徒町駅(東京メトロ日比谷線)からスタート。西へ向かう。改札を抜けたこの辺はまだ東京メトロゾーン。
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連絡通路に続く階段とエスカレーターがある。この先に上野御徒町駅(都営)があるのだが、早くも様子がおかしい。
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階段に貼ってある貼り紙がこれ。

「都営大江戸線にご乗車になれません」「上野御徒町駅のきっぷ売り場でご購入ください」……これは都営地下鉄の言い分では? という話になった。

「俺のとこに来るのに、そっちのきっぷ買ってこないでよ!」ということだろう。俺=都営地下鉄だ。

都営地下鉄の貼り紙が貼ってあるということは……と、足元を見てみる。

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よく見ると、階段に入る直前で床のタイルが変わってる!こういうことか!
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階段を降り、東西地下通路を歩く。床のタイルは階段に入る直前のものと同じ。壁には都営地下鉄のPRが。
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さらに進むと、都営地下鉄が運営する売店「Mercie(メルシー)」があった。自販機にも「Mercie」の文字がある。完全に都営地下鉄ゾーンに入ったことを確信。

これはもう都営のゾーンにいるだろう。まるで脱出ゲームのように、ヒントが道ばたに散りばめられている。

手元に正解を持ち合わせていないものの、タイルや掲示物、設置物などから「この空間は誰のものか」を推測するのが楽しい。

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上野御徒町駅(都営地下鉄大江戸線)の改札を通ってさらに地下道を西へ
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上野広小路駅(東京メトロ銀座線)にたどり着く直前で、再び床のタイルが変わった。ここから東京メトロだ。
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ドラマの相関図か、という感じの注意書きもあった。×ばっかりだ。君たち仲悪いんか。

溶け合う2つの駅

はっきりそれと分かる境界を見てきたが、どうしてもよくわからないところもある。「新御茶ノ水(東京メトロ)-小川町(都営地下鉄)-淡路町(東京メトロ)」がそうだった。

「N」を裏返したように3つの駅がつながっている。真ん中になる小川町駅と、左にある新御茶ノ水駅の「駅境」はわかりやすい。あ、ここでつなげたな、ってのがひと目でわかる。

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「好きです!県境」(こちらの記事を参照)

問題なのはもう一方のつながり、小川町駅と淡路町駅。この2つの駅、改札がめちゃくちゃ近いのだ。

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左に行けば小川町(都営地下鉄新宿線)、右に行けば淡路町(東京メトロ丸ノ内線)のきっぷ売り場だが……
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2つの改札のあいだに境界らしきものが全く見当たらない。
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都営側に見取り図があった。2つの改札が近いだけでなく、都営の改札の後ろには丸ノ内線1番ホームからの連絡階段がある。土地をどう分けているんだ?

この空間では都営地下鉄と東京メトロが溶け合っている。頼みの綱の掲示物や壁タイルからも、ハッキリとした区別がつけられない。困った。

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いかにも境界っぽい壁もあるのだけど……
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ところどころで古さが違う。「リニューアル工事したんでしょうね」と西村さん。内装だけで境界を判断するのは危険、という知見を得た。

なにか手がかりはないかなぁ、と、しばらくキョロキョロしていた。そのとき、古賀さんが動いた!

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「ちょっと!なんすかアレ!」
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「丸ノ内線→」!?

地表付近の目立たないところに「丸ノ内線→」というテプラが貼ってある!

テプラが貼ってあるのは、地表ゆきエレベーターに通じる通路の入口。ということは、ここからエレベーターまでは丸ノ内線(東京メトロ)なのか?

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テプラの位置からちょうどタイルが変わる。そして自販機は都営の「Mercie(メルシー)」じゃない。ということはこういうこと?
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右奥に続く通路を進むと、東京メトロの「防犯カメラ作業中」が貼ってある。確かにこっちは東京メトロっぽい。

地表ゆきエレベーターへ向かう通路にはトイレもあり、他の設備に比べかなり新しい印象だった。他の設備より後に作られたと考えると、タイルなどに境目があるのも納得がいく。

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周囲を洗い直したら、地上へ続く階段付近にもう一つテプラを見つけた。もっと貼ってあるのかもしれない。

後日、業界の人に聞いてみたが、やはりここは管理区分が複雑で、単純に「ここ!」と線を引けるようなものではないらしい。

テプラが貼られているところからすると「内部の人にとっても複雑なのでは」という気がする。作業の目印としてテプラを貼っておきたい、でも内部の話なので、目立つところには貼りたくない。そのジレンマの果てが「足元のテプラ」なのではないだろうか。知ってる人だけがわかる目印である。

最大のボス・大手町へ

いよいよ最後だ。地下でつながっている都内の駅といえばここが真骨頂だろう。大手町駅からの一連の地下道である。

このエリア、大手町駅から東銀座駅まで多くの駅が地下道でつながっている。ざっくりまとめるとこんな感じだ。

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建物内を通り抜けるルートは省いています。間違えていたら優しく教えてくださいね。

なにもそこまで、という接続っぷりだ。改めて東京は怖いなと震える。就活で上京される方は参考にしてください。

調査は東銀座駅からスタートして、西へ向かうことにした。しかし今日一日でだいぶ歩いた。インドア派の我々は常に「疲れたら終わろう」という気持ちでひとつになっている。記事が突然終わったらそういうことだと思ってほしい。

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東銀座駅から日比谷方面へ。なんか天井が低く見えるけど大丈夫か。
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東銀座駅から銀座駅のあいだにある地下道。中央には干支をモチーフにした置物が置いてある。さてこの通路は東銀座駅のものなのか? 銀座駅のものなのか?
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正解は「東京都」でした!
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企画当初は想定していなかった境界線

そうだった。全ての地下道が鉄道事業者のものとは限らないのだ。東銀座駅と銀座駅のあいだには東京都が挟まっている。覚えておこう。試験には出ません。

さらに銀座周辺とあって、商業施設と接続している地下道も多くある。

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東京メトロ銀座駅に接続している銀座三越。床のタイルがパキッと分かれ、境界線に沿ってMITSUKOSHIのディスプレイも配置されている
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GINZA SIXに続く地下道。黒い。おしゃれすぎて吸い込まれそうだ。画像に文字を入れるのもためらう。

銀座駅を越えてさらに西へ進むと、次は日比谷駅につながる地下道がある。ここがめちゃくちゃ長い。

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遠近法を説明するときの図でこんなの見たことある。

これだけ長いとなると、この地下道も東京都のものなのか? それとも千代田区のものなのか? 都か区か気になる……と思ったら……。

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「東京メトロ日比谷駅長」がビラ配りなどを固くお断りしている。

駅長が注意を促しているということは、ここは東京メトロゾーン……! 

公式の駅構内図を確認してみると、確かに地下道まで日比谷駅に含まれているようだ。そんなに細長い駅だとは知らなかった。駅にストロー挿したみたいな形になっちゃってる。

さて、日比谷駅に着いたら次は北上して二重橋前駅だ。

だいぶ足が疲れてきた。こういう仕事こそAIに任せたい。家にモニタを見ながら「ここが境界ですね~」って言うんだ。でもそれたぶん面白くないなぁ。

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いかにも「ここから違います」という風景になった。どうした。高校デビューみたいにまるで顔つきが違うぞ。ちょっと周りを確認してみよう。
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手前には都営三田線日比谷駅からのお知らせがあり……
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向こうには二重橋前駅リニューアルのお知らせがある。なるほど、ここが2つの駅の境界です。

お知らせによると、東京メトロ二重橋前駅は2014年冬から2019年春にかけてリニューアル工事をしているとのこと。新しさが全然違うわけである。

ということは、二重橋前駅をぬけてさらに北、大手町駅に入るところも……

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がっちり変わってました。
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さらに、大手町駅も東京メトロ側はリニューアル工事をしたので、都営と色合いがだいぶ異なる。

こうもはっきり違うと、周辺の情報を手がかりに境界を推理する……という楽しみは減る。その代わり、2つの駅が過ごした時間のギャップを味わえる。

敷地の境目ではなく、時間の境目だ。「地層」と言ってもいいかもしれない。

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2つの歴史が接するところ

今まで見てきた境界にも、開業やリニューアルした当時は「地層」が見えていたところがあったかもしれない。やがて経年劣化により、段々その境目が曖昧になったりもするだろう。「地層」がはっきり見えるということは、変化の過渡期にあるということだ。

過渡期は長く続かない。ということは、この景色は今しかない。こうして記録に残しておく意味もあるなぁと思ったりした。

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でもさすがにここは過渡期にもほどがあると思いました。

境界もおもしろいな

「ここから違う駅じゃない?」と推測するのも面白かったし、新旧の駅が一本の線を境につながっているのも面白かった。やばい、西村さんの境界好きが分かりはじめている。路線図好きのライターを2人抱えているだけでも奇矯なWebメディアなのに、境界好きまでダブってどうするのだ。

かくなるうえは「きょ、境界なんて好きでもなんでもないんだから!」というスタンスでいたほうがいいだろうか。

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上野広小路駅と京成上野駅を結ぶ連絡通路。ピンクと水色のタイルに「お風呂じゃん!」と興奮しました。
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