日曜たのしさ一万尺 2023年12月6日

ゴルディアスの結び目、再生核ヒルベルト空間、 プラグマティッシェ・ザンクツィオン… 今日から使える賢そう&かっこいい用語集

なんとか定理、なんとかのパラドックス、なんとか理論、なんとかの法則…。
この世には、口にしただけで賢くなった気がする言葉があります。そんな言葉を募集したところ、耳から血が出るくらいの投稿が集まりました。

ぜんぶ紹介すると読者のみなさんも耳から血が出てしまいますので、ここでは厳選してご紹介します。

 

インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

前の記事:一生読める本~「世界の音楽大図鑑」

> 個人サイト nomoonwalk

投稿をたくさんいただき、かっこよさにもいろんな種類があることがわかってきました。まずはオーソドックスにかっこいいカタカナ語から。

※同じ用語の投稿を複数の方にいただいた場合、投稿者名は掲載したコメントの投稿者名を記載しております。

プラグマティッシェ・ザンクツィオン

神聖ローマ皇帝カール6世により発布された詔書で、これによりハプスブルク家最後の君主マリア・テレジアがハプスブルク家を相続しました。語感もかっこいいですが、マリア・テレジアの継承に異を唱えるプロイセン王フリードリヒ2世によるオーストリア継承戦争、七年戦争につながる18世紀西欧史で重要な用語です。(ぐらさん さん)

Pragmatica_Sanc.jpg
Wikipedia「国事詔書」より(パブリックドメイン)

ドイツ語だそうですが、もうドイツ語で言われるとなんでもかっこいいんですよね。「ティッシェ」のところとかたまりません、ティッシュと一字違いにもかかわらず。

 

レイシオ・デシデンダイ
「判決文のうち、今後もルールとして通用する部分」のことです現在は宗教儀式等でしか使われないラテン語にして、ダ行の音で3回もたたみかける必殺技っぽさ。反対概念は「オビタ・ディクタム」(obiter dictum)と呼ばれ、これも中々かっこいいのですが、判例解釈を議論するときに「ここはオビタではなくレイシオじゃないかな」とか口にすると、気恥ずかしくてもうたまらんです。(PAMPY さん)

ラテン語でしかも法学用語。コメントにも必殺技っぽいとありますが、叫びながら大剣を振り下ろしたくなる語感です。

続いて技っぽいのをもう一つ。

BHI(ブレイン・ハート・インフュージョン)

細菌培養に使う寒天培地です。なんかプリキュアの必殺技っぽくないですか?!

プリキュアA「ブレイン!」
プリキュアB「ハートッ!!」
AB「インフュージョンッ!!」
で凄いビームで敵が消滅するやつです。(焼きナス さん)

Agarplates.jpg
Wikipedia「寒天培地」よりイメージ(ただしBHIではない別種のもの)(パブリックドメイン)

パーフェクトな解説をいただきました。もうこちらから言うことはありません。新シリーズ「コロニーシャーレ☆プリキュア」、ご期待ください。

いったん広告です

つづいて日本語が入ってくるワード。

ゴルディアスの結び目

手に負えないような難問を誰も思いつかなかった大胆な方法で解決してしまうこと。アレクサンダー大王の故事ってだけでかっこいいのにさらに内容もかっこいいです(hiro さん)

Wikipediaより「ゴルディアスの結び目を断ち切るアレクサンドロス大王」作:Jean-Simon Berthélemy (1743–1811)(パブリックドメイン)

「この結び目を解くことができたものこそ王になるであろう」という予言に対して、剣で結び目を切って解いたという故事。

「(カタカナ語)の(日本語)」パターンではカタカナ部がいかつくて日本語部分に柔らかい言葉が来るとカッコ良さが増す気がします。その点「結び目」はほんとうに絶妙。

 

ナビエ=ストークス方程式の解の存在と滑らかさ

ナビエ=ストークス方程式は、特定の条件下において、(固体でない)液体や気体などの流体がどのような動きをとるかについて解く運動方程式。任意の初期条件から始め時間が進行しても方程式を満たす一意な解が存在し続けるかどうか、またその解がどの程度滑らか(連続的に存在する)かどうかという問題は未解決であり、ミレニアム懸賞問題として知られている。(匿名希望)

すごい。もはや映画のタイトルみたい。

解説を読んでもなお意味が分からなかったのですが、要はナビエ=ストークスという重要な方程式があるがその性質が不明である、ということを指すようです。Wikipediaにも項目があり、最初にこの問題の解にたどり着くと$1,000,000もらえるとのこと!

 

再生核ヒルベルト空間
機械学習(AI)まわりで時々出てくる数学の言葉です。内積が再生性をもつヒルベルト空間のことを言うそうです。
『インデペンデンス・デイ』など宇宙戦争映画や『R-TYPE』などのシューティングゲームの終盤に出てきそうな、敵の本拠地の深層部にあるコア(核)が守られている空間をイメージします。再生核とある通り、コアを守るバリアーを破壊しても次々とそれが再生してしまい、敵が倒せない絶望感を彷彿とさせます。(サイバー味噌 さん)
再生核ヒルベルト空間の図を意味はわかりませんが貼ります。なぜならかっこいいので(Wikipedia「再生核ヒルベルト空間」より。パブリックドメイン)

僕はどちらかというとRPGで、ヒルベルトという幻獣の核を再生して倒せなくしてしまう魔法空間を想像しました。いずれにしろゲーマーの心を熱くするワードです。

 

貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)

民俗学用語かもです。Wikipediaによると「若い神や英雄が他郷をさまよいながら試練を克服した結果、尊い存在となるとする説話の一類型」だそうです。ヤマトタケルノミコトとかですね。(平良そわか さん)

これもう完全に語感が鬼滅の刃なんですよ。「水の呼吸 拾ノ型、貴種流離譚」。放つと同時に旅に出て何十年後かに英雄になる技。技のタイムスパンが長い。 

いったん広告です

続いて、身近なワードだけど冷静に考えてみたらかっこいいのでは!?というパターン。 

ビシソワーズ

じゃがいもの冷製スープ。
急(ビシッ!)と緩(ソワ〜ズ)を兼ね備えた必殺技っぽさ。(おはぎ さん)

ビシソワーズ(photo by BocaDorada

あー言われてみれば!!

ですが、だんだん「賢そう&かっこいい用語」から「必殺技っぽい言葉」に趣旨が変わってきてる気がします。いいのか。

 

ディナマネイタ、ニューマレイタ

算数で出てくる「分母と分子」を英語にしただけ。日本語のイメージとの乖離が大き過ぎて、インパクトが大変大きい。(キスケ さん)

これは用語というより英語なのでちょっと反則っぽいですが、でも身近な概念がこんなにかっこいいとは、という驚きが確かにあります。

 

i18n, l10n, m17n

インターナショナライゼーション、ローカリゼーション、マルチリンガライゼーションと読みます。日本語の難読漢字みたいでこれが読めるとかっこいいです。それぞれだいたいソフトウェアを色んな国で使えるように国際化するという意味です。
「略さなきゃ面倒でやってらんないくらい俺この言葉をよく使っちゃうようなイケてる仕事してるんだよね」というオーラを全開にしたい時に使います。予測変換で出せばさほど面倒ではないので大半がアピールでしかありません。(モノ太郎 さん)

難しい概念ではないですが表記がかっこいいというパターン。この数字は語呂合わせかな…?と思いきや英語表記した時の文字数なんだそうです。そんなのありなんだ。s13a(sonnnanoarinanda)。

 

火獣目、雷獣目
ともに数千万年前の南アメリカに生息していた哺乳類の仲間です。
火獣目は化石が火山灰層から見つかったので、雷獣目は命名者が雷のごとく咆哮する姿を想像したのでこの名前が付きました。火獣に雷獣というファンタジーなネーミングが最高です。ちなみに上野の国立科学博物館には雷獣目のアストラポテリウムの頭骨が展示されていますが、木刀みたいな牙が生えてて超かっこいいです。(とろイワシ さん)
Wikipedia「火獣目」より( (C) Stanton F. Fink)

また幻獣っぽいの出ました。氷獣目、闇獣目とかシリーズ化してほしい。

ちなみに火獣目、フェニックスやイフリートみたいな全身燃えてる姿を想像しましたが、カバ寄りでした。むしろ全然水中に入っとる。

いったん広告です

どんどんいきましょう。 

超超ジュラルミン

アルミ合金の一種で、ジュラルミンよりも強度が強い超ジュラルミンよりも強度が強いため超ジュラルミンと名付けられました。(まおん さん)

英語だとどうなってるんだろうと思って検索してみたら、extra super duraluminでした。「超超」と重ねた日本語の方が、理屈を超えた強さを感じます。

 

マンハッタン距離

数学の2点間の距離の一種。通常は2点間を直線で結び、その長さを距離としますが、マンハッタン距離は南北方向と東西方向のみにジグザグ移動した時の移動距離のことです。 ニューヨークの中心部マンハッタンのような碁盤目状の都市で移動すると、この距離を歩くことになります(uunfo さん)

Wikipedia「マンハッタン距離」より、マンハッタン距離の例(画像 by Bogdan)

さっき「結び目」がいいよねと言いましたが、「距離」もなかなかです。こういうフッと日常的なワードが出てくるのが逆にいい。

 

ライデンフロスト現象

熱したホットプレートに水をかけると水滴がスルスル移動してすぐに蒸発しないアレです。高温の固体にそれよりかなり低い沸点の液体が滴下された際、瞬間的に蒸発した蒸気が液体を押し上げて熱伝導を阻害する現象を言います。ライデンやフロストのかっこいい語感と、それに反して高温でよく見られる現象というギャップが厨二心をくすぐられます。(みずのもと さん)

熱いところで起きる現象なのに「フロスト」って冷たそうな名前がついているところにグッときました。

 

不動の動者

地球中心説において宇宙を規則正しく動かしている根源とされる存在で、すなわち神とかそういうビッグ存在を指す言葉です。「不動」に「動者」という正反対かつ仰々しくない言葉を並べるシンプルな"強さ"、渋いですよね。(おせんべい さん)

Wikipedia「不動の動者」より「ラファエロ・サンティのPrimer motor」(パブリックドメイン)

言ってみれば、神の二つ名ということでしょうか。いま自分で言った「神の二つ名」という言葉がまためちゃくちゃかっこよくてワッと思ってしまいました。かっこいい言葉の無限連鎖が始まる…。


いかがでしたか、新しい必殺技集……じゃなくてかっこいい専門用語集。今回もそろそろかっこよさが致死量に達しそうですのでこの辺で。次回があるかどうかはまだ観測されていないので不定のシュレディンガーの猫ですが、それでもいいよという方はぜひご投稿ください。

【投稿募集】
ひきつづき、みなさまのお気に入りのかっこいい言葉も募集しております!→賢そう&かっこいい用語 投稿フォーム

かっこいい用語集のバックナンバー

▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ