

IKEAでうちの子どもたちにソフトクリームを買った。
カウンターで2つのソフトクリームを受け取り、両手に持った。両手がソフトクリームでふさがった。
あれ、これ、なにもできないぞ。
この無力さを他の人とも共有したい。冬の代々木公園で両手にソフトクリームを持ち、不安と向き合った。
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君は両手にソフトクリームを持ったことがあるか
冒頭のIKEAでの様子を収めた写真がこちらである。

家具や雑貨でおなじみのIKEAだが、1階には軽食コーナーがあり、ホットドッグやソフトクリームが売られている。しかも安い。ソフトクリームなんか1個50円だ。どうなってるんだ。
その50円のソフトクリーム2個で、この表情である。
なにを今さらだと思うだろう。だけど考えてみてほしい。スマホも見られないし、トイレにも行けない。一旦脇に置くこともできない。ボールとか飛んできてもかわせない。脇腹をくすぐられたらアウトだ。丸腰だ。
考えれば考えるほど、どんどん不安になってきた。みんなにもわかってほしい。人を集めよう。



「冬はソフトクリームを売ってません」と言われる可能性もあったのでホッとした。あとで聞いたら編集担当の古賀さんがわざわざ電話で問い合わせてくださっていたとのこと。恐縮です。

役者はそろった。さっそく買ってきますね!と意気揚々と売店に入り、ソフトクリームを2個注文したのだけど、早くもトラップに引っかかった。

両手にソフトクリームを持つと引き戸が開けられない。ついでに買ったサッカーボールが虚しく揺れる。どうしよう。誰か!

当たり前に享受していた自由が、いとも簡単に奪われる瞬間を目の当たりにした。簡単に言うとビックリした。もう不安は始まっている。
森を1人でさまよう
両手にソフトクリームを持つとしよう。よほどの食いしん坊でない限り、2つのうち1つは自分以外の誰かのソフトクリームだろう。食べたりせずにキープしておかねばなるまい。
しかし、自分の周りから誰もいなくなったら?
いつ来るか分からぬ相手を待ち続け、溶けゆくソフトクリームにおびえながら、1人でたたずむ。その姿は、本人のみならず見ている者にも不安をもたらすのではないか。



遠くの遊歩道ではなんらかの集団がランニングをしている。こちらは歩くのもおぼつかない。足元で小枝が乾いた音を立てて割れる。冬の針葉樹林は曇天のわずかな光をさえぎり、周囲を薄暗くする。




誰にも渡せないソフトクリームを持っている。
行動が制限され、手元にはタイムリミット(溶け)が迫る。心細さの針がいてつく寒さとシンクロする。
ここまで心象風景みたいな写真になるとは思わなかった。冬の代々木公園すごい。

















立ったり座ったりは意外と平気

両手がソフトクリームでふさがれていると、身体能力も落ちるだろう。激しい動きは制限されるし、身体のバランスも取りづらくなる。
たとえば立ったり座ったりするのも大変じゃないか……と思い、ベンチに腰を下ろしてそのまま立つ、をやってみた。


「階段の上り下り」だとまた違うんでしょうけど、この辺って全然階段が見当たらないですね……





尻ポケットに入れていたスマホが鳴り出した。やばい。どうしたらいいんだこれは。出たほうがいいだろうな。いけるか? いけるのか?




120%の「立て込んでます!」が出た。
両手にソフトクリームを持っていても、なんとかスマホの着信に出ることはできる。ただ、ソフトクリームが気になって会話は頭に入ってこない。大事な商談にはオススメしない。

3人同時に両手で持ってみよう

ソフトクリームを両手に持つ不安については分かってもらえた。では今度は、複数人で両手に持ってみてはどうだろう。同じシチュエーションにいる仲間がいたら心強くなれるのではないか。



2個でも不安なのに同時に4個である。しかもちょっとグラグラするし、油断するとひっくり返りそうだ。1個400円×4=1600円だ。責任に押しつぶされそう。早く取って! と語気も荒くなる。


3人並んでみるとそんなに不安は感じない。
みんなそれぞれ相手がいるんだろうな、という感じがする。そういえば3人とも既婚者で子どももいる。3家族が揃ったピクニックなのかな?
だが、「森にはこの3人しかいない」ということにすると状況が一変する。



みんな両手がふさがっているので、ソフトクリームを渡すことができない。
状況をわかりあう仲間が増えても、事態が解決するわけじゃなかった。それぞれが並行世界に存在するため、互いの姿が見えていない可能性すらある。パニックは増すばかりだ。

身体を動かしてみよう
3人がバラバラに行動するから状況が変わらないのではないか。では一致団結して行動を起こしてみたら活路が開けるかもしれない。
とはいえ、両手がふさがった状態でできることも限られている。下半身の動きが中心になるだろう。「だるまさんが転んだ」ならどうか。





意外とできる。そして楽しい。
両手がふさがっているぶん、腰を落として歩くので「転んだ!」で止まりやすいのだ。すり足の文化である。









だるまさんが転んだも、障害物競走みたいでしたよ。おたまにピンポン球乗せて走るやつみたいな感じ。



これってひょっとして……不安な気持ちのときに身体を動かすといいっていう……。


まさか、これだけやって結論が「身体を動かそう」ってこと!?









結論:身体を動かそう
両手にソフトクリームの不安を検証するはずが、「身体を動かすと気がまぎれる」という思わぬ着地をみせた。遊んでたつもりなのに真理にたどりついた感がある。少年探偵団が学校の七不思議を調べていたら殺人事件を解決してしまったみたいな感じだ。
それにしても、冬の針葉樹林のせいで大げさな写真が何枚も撮れて、すっかり遊んでしまった。撮影担当の古賀さんは1時間で500枚も撮っていた。我々のフォトジェニックさも証明されたと言っていいだろう。

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