特集 2019年3月5日

両手にソフトクリームを持って森に入ると不安になる

両手にソフトクリームを持って森に入ると不安になる

IKEAでうちの子どもたちにソフトクリームを買った。

カウンターで2つのソフトクリームを受け取り、両手に持った。両手がソフトクリームでふさがった。

あれ、これ、なにもできないぞ。

この無力さを他の人とも共有したい。冬の代々木公園で両手にソフトクリームを持ち、不安と向き合った。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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君は両手にソフトクリームを持ったことがあるか

冒頭のIKEAでの様子を収めた写真がこちらである。

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なにもできない……

家具や雑貨でおなじみのIKEAだが、1階には軽食コーナーがあり、ホットドッグやソフトクリームが売られている。しかも安い。ソフトクリームなんか1個50円だ。どうなってるんだ。

その50円のソフトクリーム2個で、この表情である。

なにを今さらだと思うだろう。だけど考えてみてほしい。スマホも見られないし、トイレにも行けない。一旦脇に置くこともできない。ボールとか飛んできてもかわせない。脇腹をくすぐられたらアウトだ。丸腰だ。

考えれば考えるほど、どんどん不安になってきた。みんなにもわかってほしい。人を集めよう。

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冬の代々木公園に来ました。曇天だし寒い。絶好の両手ソフトクリーム日よりである(すぐ溶けないから)
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園内にある売店に向かうと……
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いたぞ! ソフトクリームだ!

「冬はソフトクリームを売ってません」と言われる可能性もあったのでホッとした。あとで聞いたら編集担当の古賀さんがわざわざ電話で問い合わせてくださっていたとのこと。恐縮です。

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編集部石川さんとトルーさんにも参加してもらった。

役者はそろった。さっそく買ってきますね!と意気揚々と売店に入り、ソフトクリームを2個注文したのだけど、早くもトラップに引っかかった。

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出られない

両手にソフトクリームを持つと引き戸が開けられない。ついでに買ったサッカーボールが虚しく揺れる。どうしよう。誰か!

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トルーさんに出してもらいました。

当たり前に享受していた自由が、いとも簡単に奪われる瞬間を目の当たりにした。簡単に言うとビックリした。もう不安は始まっている。

森を1人でさまよう

両手にソフトクリームを持つとしよう。よほどの食いしん坊でない限り、2つのうち1つは自分以外の誰かのソフトクリームだろう。食べたりせずにキープしておかねばなるまい。

しかし、自分の周りから誰もいなくなったら?

いつ来るか分からぬ相手を待ち続け、溶けゆくソフトクリームにおびえながら、1人でたたずむ。その姿は、本人のみならず見ている者にも不安をもたらすのではないか。

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というわけで、1人になってみよう
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ちなみソフトクリームはプレミアム的なクオリティのやつで1個400円した。そこそこする。そのプレッシャーも両手に感じる。
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両手はふさがるし周りは寂しげだし、素で「怖いなぁ~怖いなぁ~」と言ってしまう。

遠くの遊歩道ではなんらかの集団がランニングをしている。こちらは歩くのもおぼつかない。足元で小枝が乾いた音を立てて割れる。冬の針葉樹林は曇天のわずかな光をさえぎり、周囲を薄暗くする。

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肝試しもソフトクリームを持ってやったら怖さ倍増だろうな。
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ポツン
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ズームで寄ったらなんだかホラーっぽくなった。主人公が見る夢に出てくる知らない男。このあと寝汗でびっしょりになって目が覚める。
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手ぶれした写真なんて完全にジャパニーズホラー

誰にも渡せないソフトクリームを持っている。

行動が制限され、手元にはタイムリミット(溶け)が迫る。心細さの針がいてつく寒さとシンクロする。

ここまで心象風景みたいな写真になるとは思わなかった。冬の代々木公園すごい。

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石川さんもやってみてくださいよ
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「あぁ……これは……。犬とかじゃれてきたらもう終わりですね」
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「地面がボコボコしてるから転びそうで怖い」
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トルーさん「冷たい……なんか嫌ですね。冷たいものを持つの」
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たたずまいが絵になるトルーさん
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(遊園地の売店でソフトクリームを買ったはずが森に迷い込んでしまった。子どもたちがジェットコースターにはしゃぐ声も、もう聞こえないーー)
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うっかり下から撮ると完全に山の中である。
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遭難だ!都会のど真ん中なのに。
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救助ヘリなんか来たら大変ですよ。救助隊は人命優先だから「早く乗って!」って言うけど、こっちは「でもソフトクリームが!」ってなる。
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この先どうしようという不安と、遭難の戸惑いが呼応してますよね。ドイツの暗い森みたいでダークファンタジー感もあるなぁ。ティムバートンっぽい。
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夢のなかをさまよってるみたいですよ。
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ケーキとか運んでるときも、ものすごい不安じゃないですか。倒したら価値が下がるものを持っているのが。特にソフトクリームは時間が経てば経つほど価値が下がるからどうしようもないですよね。相手も来ないし。
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どうしようもなくなった古賀さん
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手の中で朽ちていくのみですよね。
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ソフトクリームを立てるやつあるじゃないですか。やっぱあれは発明なんだな。
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持たなくていいのもあるし、朽ちていくことに責任を取らなくていい。責任を放棄できるんですね、あれは。
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購入からここまで5分程度。すでに溶けはじめているソフトクリーム。このままでは我々が責任を取らなくてはならない。

 立ったり座ったりは意外と平気

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ベンチを使ってみます。

両手がソフトクリームでふさがれていると、身体能力も落ちるだろう。激しい動きは制限されるし、身体のバランスも取りづらくなる。

たとえば立ったり座ったりするのも大変じゃないか……と思い、ベンチに腰を下ろしてそのまま立つ、をやってみた。

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しかし意外にもあっさり立てる。よく考えたらこれはスクワットだった。そりゃできるか。
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「階段の上り下り」だとまた違うんでしょうけど、この辺って全然階段が見当たらないですね……

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バリアフリーにできてますよね。ソフトクリームを両手に持った人でも暮らせる社会を作ろうとしているのでは。
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ダイバーシティ……!
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多様性を実現すべく、石川さんは「座る」を通り越して「寝る」までいっていた。本人は「垂直に持っていた」と語るが、写真を確認したらかなりの傾きである。
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筆者も「あー、確かに立ったり座ったりはできますね」と、やっているその最中……
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電話が鳴った。

尻ポケットに入れていたスマホが鳴り出した。やばい。どうしたらいいんだこれは。出たほうがいいだろうな。いけるか? いけるのか?

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おぉぉ、Vの字にすればなんとか片手で2個持てるぞ……でも長い時間は無理だ……!
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ちょ、トルーさんじゃん!
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もしもしー?急ぎの仕事をお願いしたいんですけどー
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いま立て込んでるんで!あとで折り返します!

120%の「立て込んでます!」が出た。

両手にソフトクリームを持っていても、なんとかスマホの着信に出ることはできる。ただ、ソフトクリームが気になって会話は頭に入ってこない。大事な商談にはオススメしない。

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あと、無意識のうちに足が変な形に曲がっちゃう。体幹がパニックになってた。

3人同時に両手で持ってみよう

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検証が終わったソフトクリームを美味しくいただいています

ソフトクリームを両手に持つ不安については分かってもらえた。では今度は、複数人で両手に持ってみてはどうだろう。同じシチュエーションにいる仲間がいたら心強くなれるのではないか。

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というわけで、今度は3人×2個=6個のソフトクリームを買う。今度はみんなで手分けした。また売店に閉じ込められるわけにはいかない。
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石川さんが「井上さん、これ持ってみてください」と、ソフトクリームが4つ乗ったトレイを渡してきた。「重心が上にあって不安定なんですよ」と言う
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石川さんの手が離れた瞬間の「あぁ……!」って顔。

2個でも不安なのに同時に4個である。しかもちょっとグラグラするし、油断するとひっくり返りそうだ。1個400円×4=1600円だ。責任に押しつぶされそう。早く取って! と語気も荒くなる。

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こんなRPGのパーティいたらすぐ全滅だろうな。
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ソフトクリームを持って並ぶお父さんたち。

3人並んでみるとそんなに不安は感じない。

みんなそれぞれ相手がいるんだろうな、という感じがする。そういえば3人とも既婚者で子どももいる。3家族が揃ったピクニックなのかな?

だが、「森にはこの3人しかいない」ということにすると状況が一変する。

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キョロキョロしだす大人たち。
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森に迷い込んだ人が3人に増えてしまった。
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遭難の様子をGIFアニメでご覧下さい。

みんな両手がふさがっているので、ソフトクリームを渡すことができない。

状況をわかりあう仲間が増えても、事態が解決するわけじゃなかった。それぞれが並行世界に存在するため、互いの姿が見えていない可能性すらある。パニックは増すばかりだ。

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1本だけ枝振りが異常な木があったので、「あの木のせいで異世界に迷い込んだ」という設定になった。

身体を動かしてみよう

3人がバラバラに行動するから状況が変わらないのではないか。では一致団結して行動を起こしてみたら活路が開けるかもしれない。

とはいえ、両手がふさがった状態でできることも限られている。下半身の動きが中心になるだろう。「だるまさんが転んだ」ならどうか。

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だるまさんが転んだ!
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だるまさんが転んだ!
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だるまさんが転んだ!
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だるまさんが転んだ!
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好戦的だったトルーさんがバランスを崩して動いてしまった。

意外とできる。そして楽しい。

両手がふさがっているぶん、腰を落として歩くので「転んだ!」で止まりやすいのだ。すり足の文化である。

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この調子でサッカーもやってみよう。
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ソフトクリームサッカー世界大会の開幕(世界でここだけしかやってないことは何でも「世界大会」です)
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ボールとソフトクリームは友だち!
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両手にソフトクリームを持ちながら枝を交わしてパスを出す絶妙の身体コントロール!
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しかし遠くまで転がると追いかけるのが大変(走れないから)
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そろそろ限界ですね
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けっこうみんな楽しそうだったよ?
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サッカーだとボールに意識がいくので、不安感は若干減りますね。
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だるまさんが転んだも、障害物競走みたいでしたよ。おたまにピンポン球乗せて走るやつみたいな感じ。

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序盤のほうが不安でしたよね、意識が全て手に向いていて。動くとそうでもなくなる。
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気がまぎれるのかな。 
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これってひょっとして……不安な気持ちのときに身体を動かすといいっていう……。

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ネットでよく言うよね! 筋トレしろとか!
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まさか、これだけやって結論が「身体を動かそう」ってこと!?

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冬こそ外で遊ぼうと(笑)
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家にこもってないで(笑)
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こんなにへっぴり腰なのに「外で遊ぼう」という結論になったことに驚く。
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まぁでも、普通にサッカーをするより楽しかったですよね。ルールが1枚乗っかって、キャッキャする感じになった。
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これもうね、合コンでやってもいいんじゃないですか。街コンの次はソフトクリームコンだ。
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吊り橋効果が半端ないですよ。ドキドキですから。
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あんな動きなのにソフトクリームを一滴もこぼさない! 素敵! 抱いて!
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ソフトクリーム持ちながら抱くことになりますね。
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結局1人あたり2個食べました。寒かったけど、プレミアムなやつだったので濃厚で美味しかったです(このあと家に帰ってからお腹を壊しました)

結論:身体を動かそう

両手にソフトクリームの不安を検証するはずが、「身体を動かすと気がまぎれる」という思わぬ着地をみせた。遊んでたつもりなのに真理にたどりついた感がある。少年探偵団が学校の七不思議を調べていたら殺人事件を解決してしまったみたいな感じだ。

それにしても、冬の針葉樹林のせいで大げさな写真が何枚も撮れて、すっかり遊んでしまった。撮影担当の古賀さんは1時間で500枚も撮っていた。我々のフォトジェニックさも証明されたと言っていいだろう。

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フラフープも用意したけど、そもそも全員できなかったので使いませんでした。

 

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