帰宅して子供に成田空港で買ったお土産を渡した。
「ありがとう!成田空港で何してきたの?」と尋ねる我が子。(俺、何してきたんだろう?)。なにも言葉が出てこなかった。
カミラを待ちながら書類をチェックしている唐沢さん。何だろうか?
メキシコ人の名前は“名前①+名前②+父親の姓+母親の姓”という構造が多いこと、ホームステイは予定の共有が曖昧だとトラブルになるケースが多いこと、日本語を学びたいカミラの為になるべく日本語で会話しようとしていること、など語ってくれる唐沢さん。
聞けばなんと事前に国会図書館で色々と資料に当たってきたらしい。この勤勉さこそ唐沢さんの真骨頂。カミラが機内で体調を崩していた場合の想定までしている。
なぜここまで綿密な準備を重ねてきたのか?私はピンときた。「もしかして、唐沢さん自身の台湾留学がコロナで思い通りにいかなかったことも関係してますか?」。
やっぱりそうか。あ、今日の緑色のシャツもメキシコのアボカドをイメージしたおもてなし?
物凄く真面目で尊敬できる部分と一切理解できない部分が同居しているので、まったく話が通じない相手よりも脳みそを使う。「伝統的な数寄屋造りの建物に入ってみたら、中はとしまえんのアフリカ館だった」というような酩酊感がある。
カミラが搭乗している便は、予定より20分ほど遅れているとアナウンスがあった。それにしてもだいぶ時間は過ぎているのだが、それらしき人が到着口から出てくる様子がないらしい。
正直私も(この企画、どうなったら終わりなんだろう)と、唐沢さんとは別の不安を抱き始めていたその時。
「石井さん、スミマセン!」
唐沢さんが突然叫んだ。
「本当はさっき携帯チェックした時に気付いてたんですけど、石井さんに悪過ぎて黙ってやり過ごそうとしちゃいました。でもやっぱり正直に言います。カミラ、来ません!」
なんと唐沢さん、時差を考慮していなかったのか、一日間違えてカミラの搭乗便を設定してしまっていたのだ。
唐沢さん!いやさ、むぎこよ、一日違いとかじゃなくて、カミラは来ないのよ!落ち込むってなんなのさ?
思わぬ形ではあったが企画がエンディングを迎えたので、私はむしろホッとした。
明らかにテンションが下がってしまった唐沢さん。せっかくだから飛行機だけでも見ていこうと展望台に行ってみる。
ちょうどエアカナダ便が離陸体勢に入っていた。「石井さん、帰国の時もバンクーバー経由なら、カミラはあれに乗るはずです!」。唐沢さんに言われて私は慌ててシャッターを切る。
「石井さん、夕陽が綺麗です!」。またもや慌ててシャッターを切る私。
腹が減ったので飯を食っていくことになったが、「ここのタイ料理屋、フードコートなのに本場と同じく自分で調味料をカスタマイズできるコーナーがあって良いです!」と嬉しそうな唐沢さん。
私は思わず「念のための確認なんですが、まだカミラのこと頭にありますか?」と聞いてしまった。唐沢さんは「当たり前じゃないですか!」と強く頷いた。それなら良かった。良かったのか?
別れ際もまだ「カミラは明日到着予定なんで!」と言い残していった唐沢さんの未来に幸あれ!
帰宅して子供に成田空港で買ったお土産を渡した。
「ありがとう!成田空港で何してきたの?」と尋ねる我が子。(俺、何してきたんだろう?)。なにも言葉が出てこなかった。
ここから
会員特典コンテンツです
この先は「デイリーポータルZをはげます会」会員向けの有料コンテンツです。会員になるとごらんいただけます。
<もどる | ▽デイリーポータルZトップへ | |
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |