ストツーのキャラは出身国のイメージと合ってるのか?
まず改めて、ストツーの説明を載せておきたい。
100円玉を握りしめて、チュッパチャップスのようなレバーとボタンをガチャガチャ回して叩いて、放課後や週末のゲームセンターを賑やかす。もっとも私は、プレイする友人の後ろから眺め、前述の春麗(チュンリー)の長いスリットから覗けるおみ足に夢やら何やらふくらませている子どもでしたが。
その春麗がチャイナドレス風の服を着ているなど、中国を象徴する見た目であるように、ストリートファイターはとくに初期のシリーズにおいて、アメリカ、ロシア、ブラジル……と、各キャラクターは出身国をイメージした見た目をしています。でも、ですよ。あれってほんとに合ってるの?
ひときわぶっとんだ存在が、ダルシムです。インド出身の僧侶という設定の彼は、ゴム人間のごとく手足が伸び、ヨガッという掛け声とともに火を吹き、ヨガッという掛け声とともに瞬間移動します。
女性を中心に人気のヨガブームに対して、同世代の友人が「ダルシムがちらついてどうしても笑ってしまう」と話していましたが、彼のように脳内辞書からヨガ=ダルシムの構図が消えない人も多いでしょう。また、ブラジルの国旗を背負いつつも完全に野生児のブランカも気になります。彼らに比べると大人しく見えるほかのキャラクターもどうなんだろう?
各キャラの出身国の人たちに印象を聞いてみた
そこで今回、初期の登場人物たちの出身国のひとびとに、「彼らをその国らしい人物だと思うか」「どう感じるか」といった質問をぶつけてみました。はい、回答者にもカプコンさんにも余計なお世話ということは言うまでもありません。好奇心に免じてお許しください! なお、シャドルー四天王のひとり、バイソンさんはマイク・タイソンまんまなので除外。日本のキャラも外しております。
『春麗』についてどう思う? 『中国人』に聞いてみた
まずはお馴染み、戦うインターポールの刑事こと『春麗』さんから。なぜか中央アフリカ共和国で発行された切手のデザインになったという輝かしい海外での実績(?)があります。服装や髪型など、いかにも中国っぽさはありますが……さて! 中国人の友人に聞きました。
■中国人から見た春麗まとめ
・体格と髪の色以外は中国らしい、とくに服装の上半身。
・ただしスカートは短すぎ
・中国男子の間では有名人
日本の格闘ゲームの知名度も高い中国、なんと春麗は「(30代の)中国男子ならみんな知っている」という声も。ただ、モバイルゲーム展開もされているSNKのKOF(King Of Fighters)シリーズが現役バリバリの人気を博していることに対し、アーケード機の印象が強いストツー(ストリートファイター)は古いというイメージがあるそうです。
『ガイル』についてどう思う? 『アメリカ人』に聞いてみた
アメリカで製作された映画版ストリートファイターでは主人公扱いだった『ガイル』さん。しかし、あいにく作中ではあの特徴的な逆立った金髪は丸められていました。ダメなの? あの髪型はハリウッド的にダメなの?? そんなガイルのイメージを、アメリカ人のAndrewさんに聞きました。
■アメリカ人から見たガイルまとめ
・完全に80年代の軍人
・アメリカらしいと言われると、アメリカらしい。
・描かれ方についてはなんとも思わない、もはや一周回って期待している。
期待とは! 懐の深いコメントをいただきました。80年代といえば、ベトナム戦争を中心とした戦争映画が多く公開されていた時代。そのイメージがそのままガイルを生んだのかもしれません。元ネタは自国発信と考えると、その分だけギャップは少ない!? ちなみに、トサカ金髪の元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険』3部に登場するポルナレフだそうですよ。おどれぇた。名前はスタッフの記憶違いで仇敵のガイルになったんだとか。
『ザンギエフ』についてどう思う? 『ロシア人』に聞いてみた
赤きサイクロンこと『ザンギエフ』さん。プロレス的なダイナミックな投げ技が得意です。こちらは、ロシア情報サイトの『おそロシ庵』を運営されているちばユウタさんに聞いてもらいました。
■ロシア人から見たザンギエフまとめ
・ロシア要素は皆無
・どちらかといえばアメリカのプロレスラーのステレオタイプ
・ザンギエフという名前はロシア南西部のコーカサス地方に多い
ほとんど全否定でした。毛の色で判断するっておもしろいですね。確かにナチュラルな金髪の人を指して日本人らしい? と聞かれると、逆になぜそんな質問が飛び出したのかとビックリする。また、ザンギエフの出身はコーカサス地方(かもしれない)という思わぬ収穫が。
『バルログ』についてどう思う? 『スペイン人』に聞いてみた
シャドルー四天王のひとり、『バルログ』さん。こちらは、海外ZINEでも執筆されているアルゼンチン在住の奥川さんに、スペイン人の友人がいらっしゃったので聞いてもらいました。
■スペイン人から見たバルログまとめ
・服装と動きが闘牛士を思わせるという点でスペインらしい
・ほかのキャラより圧倒的にハンサムに描かれているのでうれしい。
・ただし、スペイン人にあんなにクールでナルシストな人はいないと思う。
春麗に並ぶ賛同! あの小刻みなステップが闘牛士を真似ていたとは、プレイしていた私自身も予想していなかった。本場にだけ伝わる程度の製作者のこだわりってすごいな。しかし、まさかの性格面でNG。クールでナルシストな性格は、ラテン系で陽気なイメージのスペイン人とは真逆か。
『サガット』についてどう思う? 『タイ人』に聞いてみた
ムエタイの帝王、『サガット』さん。幻の……と聞いたことはありませんが、ストツーの前作、ストワンのラスボスでもあります。さて、彼をどう思う? タイ人のBootaさんに聞きました。
■タイ人から見たサガットまとめ
・服装についてはムエタイ選手という意味でタイっぽい
・しかし、なにより顔と体格が厳つい。まるで白人。
・タイ人のムエタイ選手は細マッチョである
Bootaさんいわく全体的にはタイ人っぽくないということでしたが、個人的には、服装だけならこれまでの中でもトップクラスのタイっぽさという気がします。これはムエタイの知名度が高いがゆえの功績とも言えるでしょう。が、実際の選手は細マッチョが主流だそうで、ましてやほかの人物に比べても大きな体格のサガットは、ことさら現実とのギャップが開いてしまうとのこと。
さぁ、5人のキャラクターのイメージを調査してきましたが、本命はここから! 日本人の素人目(?)から見ても、「これは絶対違うだろ」というキャラクターに迫っていきます。では、一気にいきましょう! 『ブランカ』さんについてブラジル人のFernandoさんに! そして、『ダルシム』さんについてインド人のIshanさんに聞きましたーー!! 出身国の彼らはいかに答えるのでしょうか。
『ブランカ』についてどう思う? 『ブラジル人』に聞いてみた
■ブラジル人が見たブランカまとめ
・ブラジル人はバケモノかと思われてるのかと思った
・ブラジルならカポエイラだろう
・百歩譲ってボクサーキャラのバイソンだ
・族的な服装ならまだいいが、そもそも裸じゃないか。ハルクじゃないか超人じゃないか。
ブラジル→アマゾン→ジャングル→野生児という流れなんでしょうね。Fernandoさんいわく、「アマゾンならレオパルド(ヒョウ)でしょ!?」だそうです。え、そうなんだ。思えば当時、猿や狼に育てられた子どもの話をテレビなどでよく見た気がします。もしかしたらそういう時事ネタも影響しているのかも。
余談ですが、Fernandoさんは大学に上がった頃に「エドワルド本田」さんという日系人の友達ができてとても感動したそうです。エドモンド本田と二文字違い! 惜しい。なお、ブランカのモデルはジミー大西さんで、設定上の本名も「ジミー」だそうです。
では、最後にいよいよ、あの人です……!
『ダルシム』についてどう思う? 『インド人』に聞いてみた
■インド人が見たダルシムまとめ
・見た目はけっこうインドの僧侶っぽい
・しかし彼らの手足は伸びないし火を吹いたりテレポーテーションもしない
・頭蓋骨も首に巻かない。虎の皮などを被っていた僧侶もいたので彼らが元ネタかも。
・行動はファンタジー、一周回って誰も自分たちインド人をイメージしているとは思わない。
意外とブランカほどのギャップは感じられなかったダルシム、服装などの共通点で理解を示してくれました。が、人間離れしている点はひとつひとつ丁寧に否定していただきました。「かけ離れすぎていて誰も自分たちのこととは思わないだろう」という言葉には、懐の深さを感じます。
結論、ダルシムはファンタジーすぎて笑われた。
見た目は僧侶っぽくてそのままOK、行動はファンタジーの域なのでインド人的には平気。これってよく考えると奇跡のバランスですよね。そういえばインドでは子どもの頃に、「自分も迷惑をかけるのだから人の迷惑も許せ」と教えられると聞いたことがあります。どこまで本当か分かりませんが、これが事実ならそういう考えが顕れているのかもしれません(関係ないかもしれません)。
今回検証した各キャラクター、イメージの近さとコメントを早見表にしてみました。
重視する観点も、服装、体格、髪の色、性格と国によってさまざまでした。格闘ゲームのキャラクターなので筋骨隆々は当然ですが、中国(春麗)とタイ(サガット)から「出身国らしくない」という点はアジア圏のひとびとならではの見方なのかもしれません。このあたりを掘り下げても、また新たな発見がありそうです。今回は各国ひとりの方に聞いた場合がほとんど、同じ国でも人によっては違う答えになるでしょうが、ひとつの結果としてご紹介させていただきました。
また、当時、流行っていた映画や時事ネタの影響を感じられたキャラクターも。ステレオタイプばかりでなく、当時だからこそのイメージが形になっているという意味では、ストツーを含むゲームや、また映画などのキャラクターはとても興味深い資料だと言えるのかもしれません。
フィクションはフィクションとして楽しみたい
最後に。怒られるかなーと思わなくもなかったのですが、みなさんフィクションはフィクションとして割り切っていると感じました。誇張していることは制作側だって百も承知! シリアスに構えることなく、お互いつっこみ合えるくらいがいいかもしれませんね。(限度はあるだろうけど)
イラスト提供:くれは